≪夕陽に舞う鴉≫山桜と、お花見と、ゴーストと


<オープニング>


 のどかな昼下がり。
 結社『夕陽に舞う鴉』の面々は思い思いに時を過ごしている。
 そこに興味を惹く言葉が。
「こちらの写真を見て頂けますか?」
 声の主は、雪姫。
 手には言葉どおり一枚の写真がある。
「なにかな〜」
「何でしょうかっ」
 反応して、凪と、杏梨が歩み寄ったのを皮切りに八人ほどの輪が生まれた。
「どうやら山桜の写真のようだが――」
 レイジがのぞき込んで目を凝らす。
 提示されている以上、何かあるはず、と。
「もしかして、これじゃないかしら?」
 横合いから、那由他が指差した。
 そこにはよく注意しなければ分からないほどの小さな影が写っている。
「もしかして残留思念でしょうか?」
 硝子が視線を投げかければ、雪姫がゆっくりとうなずき、
「はい、大した力があるようには思えませんが、このまま放っておけば大変な事になるでしょう。今のうちに退治しておきませんか?」
 それに、と言って仲間達を見渡す。
「折角ですから、手早く片付けて皆でお花見を楽しむのも良いかと思います♪」
 写真の場所は私有地となっている山の中。
 管理人は居るけれどそちらには、雪姫が話を通してくれている。
 春の麗かな一日を桜の下で過ごすのも悪くない。
「というわけで、皆さんご一緒して下さいませんか?」
 そう言って、雪姫がにっこりと微笑む。
「お花見に参加しないわけがないんだよ〜」
「花見ですか、良いですね」
 凪が楽しげな声を出せば、嵬も楽しげな情景を思い浮かべながらうなずく。
 それは他の能力者達も同様で――瞬く間に参加者は決まった。

「(うちの私有地(シマ)を荒らすような輩、タダで済ますわけには行きませんからね♪)」

 そこにボソッと聞こえてくる声。
 元を探して、そっと視線を向ければ、そこには雪姫の姿が。
「シマ……」
「何か言いましたか?」
「いえいえ」
 思わずつぶやいた那由他が慌てて首を振る。
「とりあえず、行くのなら早い方が良さそうだな。もう準備に取り掛かった方がいいんじゃないか?」
「ええ、そうですね。では、早速始めることにしましょう♪」
 櫻霞が話を逸らすと、雪姫が即答。
 こうして、一同は件の山桜へと足を伸ばす。
 春らしいのどかな陽気が能力者達を迎えていた。

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参加者
桃木・杏梨(ウィッチアリス・b01338)
天城・櫻霞(深淵に微睡む白刃・b22606)
黒崎・雪姫(月下の蒼玉・b43562)
草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)
南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)
柳谷・凪(お気楽アーパー娘・b69015)
御調・嵬(導きの翅・b71892)
烏丸・硝子(寒鴉・b73293)



<リプレイ>

●賑やかな一行
 どこからともなく小鳥のさえずりが聞こえる。
 山は穏やかな陽気に包まれ、春の到来を感じたのか、小さな芽や動物の姿がちらほらと見えた。
 それらを五感で感じながら、能力者達は山を登っていく。
(「誰かと、それもこれほど大勢で花見に行くのは、これが初めてだ。こんな日が来るなんて考えてもみなかった」)
 烏丸・硝子(寒鴉・b73293)がそう思い、柄にもなく少々浮かれている自分を自覚する。
 これも春の陽気のせいだろうか? それとも仲間達と一緒だからか?
「夕陽のみんなとお出かけするのは初めてなので、すっごい楽しみですっ♪」
 そこに同じ時期に入団した、桃木・杏梨(ウィッチアリス・b01338)が笑いかければ、
「ええ、皆さんとのお花見、とても楽しみです♪」
 発起人の、黒崎・雪姫(月下の蒼玉・b43562)がそれに続く。
「私も楽しみだわ。それと、お弁当も頑張って作ってきたの」
 少し遅れて、草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)も加わると、私も私もとそれぞれが準備したものを指差して口元をほころばせる。
 そのまま談笑が始まり、南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)がその姿を目で追った。
(「……年上だけどほおっておけない愛らしい杏梨さん。憧れの姉貴分、雪姫さん。そして那由他は、……何を今更」)
 夢にまで見た三人の美女の競演に、どう接すればいいのか分からない。
 ただ、こうして見ているだけでも幸せな気分だ。
「――誰を狙ってるのかにゃ〜?」
「そりゃ……って、凪?!」
 いつの間にか、柳谷・凪(お気楽アーパー娘・b69015)が近くにいた。
 楽しそうな含みを持って、
「顔がにやけてたから、誰のことを考えてるのかなと思ったんだよ〜」
「そ、そんなわけないだろう。この烈火の剣侠児、戦いのことを考えてだな」
 取り繕うように、レイジが慌てて口元を押さえる。
 実のところは笑みを我慢しようとしてプルプルと震えていたのだが――まあ分かるよね。
「この場に不釣合いなゴーストを一掃しないとな」
 そこに、天城・櫻霞(深淵に微睡む白刃・b22606)が助け舟。
「お花見とお弁当楽しむためにも、まずは残留思念の処理をしなきゃだね。頑張るんだよ〜」
 凪もあまりこだわらずに迎合する。
 いや、むしろ今度は、
「花見の邪魔はさせやしねぇぜ。目の前のクソゴースト共をさっさと殺して楽しくやろぉぜ」
 普段の口調とは違う、御調・嵬(導きの翅・b71892)に興味津々。
「どうしたんだよ? 嵬ちん何か変だよ?」
「ん? いつもと様子が違う? まぁ、気にすんじゃねぇ」
 だが、当の嵬(正しくは二重人格の裏の嵬)は軽く手を振ってそれをいなす。
「団子を持ってきたのだが、食べるか?」
「ああ、じゃあ遠慮なくな」
 櫻霞が彼の好物を差し出すと、嵬は嬉しそうに受け取った。
 興味は惹かれるが、それはまた後で。
 ようやく件の山桜が視界に入ってきたから。

●手っ取り早くゴースト退治
 大樹は綺麗な桜色に染まっていた。
 見頃より僅かに物足りない気もするが、きっとこのぐらいで満開だろう。
 能力者達はイグニッションを済ませ、雪姫が詠唱銀を持って近づいていく。
「(黒崎家(ウチ)の私有地(シマ)を荒らすなんて、きっちり落とし前を……こほん、こほん……)」
 距離はあったが、肝心な部分はきちんと聞こえてきた。
 他の能力者達が微妙な表情をしている間に、詠唱銀を得て妖獣達が実体化を終える。
 いずれも異形のイタチにモグラ。
 そして、『七人』の能力者とその使役ゴーストは取り囲むように展開。
「面倒だ、さっさと終わらせるぞ……」
 機先を制したのは、櫻霞の魔蝕の霧。
 いや、正しくいうのならば、他の仲間達がそれに合わせたというべきだろう。
「もらった」
 樹上から誰かが降りてくる。
 あらかじめ『樹の上に陣取った』硝子が風を纏って、カマイタチの背後をとり、
「無粋な輩は弾け飛んじゃえ〜」
 前方からは、凪が勢いよく間合いを詰めて急停止。そしてトンと指先で触れる。
 拍子抜けするような光景。
 だが、そこから生まれるものは常軌を逸する。
 事実カマイタチは一瞬にしてずたずたになり、
「非日常もこれまでだ。烏有へ――還れ!」
 そこへ硝子の超高速の蹴りが襲い掛かった。
 他も同様に、能力者達の攻勢が強く。
「今だ杏梨さん! 光と闇が、一つになりて敵を撃つ!」
「名付けて『光と闇の協奏曲(コンチェルト)』なのですよっ!」
 レイジが放つダークハンド、杏梨が放つ光の槍。
 同時に撃ち込まれたそれらをモグラは避けることも出来ず、瞬く間に霧散していく。
「って、技名つけたのはレイジくんだけど……技名は名乗るのはお約束だよね!」
 にぱっと笑った杏梨に、
「ええ、お約束です。打ち合わせをしてたとはいえ、良い叫びでした。杏梨さん」
 レイジが応え、次の目標を視線で教える。
 もっとも数と実力の差は歴然。
「さっさと散れ。花見の邪魔なんだよ、てめぇらは!」
 嵬が飛び掛ってくるモグラを黒影剣で叩き落とす。
 余力もあるので、そのまま黒影剣の連発。もちろん、こちらもそれで昇天。
 残るのはこれでカマイタチのみ。
「草壁さん!」
「はい!」
 そこに後方で二重の魔方陣が展開した。
 雪姫と、那由他の繋いだ手と手の間。二人を挟んで、まるで合わせ鏡のように。
 そして、二人は左右対称にそれぞれの武器を突き出す。同時に魔方陣は前方へ。
「落ちよ怒鎚!」
「神鳴る力よ!」
 生み出された二条の雷光がそれをくぐって、カマイタチを撃ち抜いた。
 一瞬にして黒こげとなり、間を置かずして霧散していく。
「この程度か、流石にこの人数だと生温いな」
 櫻霞が終わったのを見てイグニッションを解除。
 ふと後ろを向くと、那由他の顔が少し引きつっているのが見えた。
 戦いは終わったというのに何があっただろう?
 いぶかしげに見つめていると、未だ手を繋いだままの雪姫も気づいたようだ。
「どうかしましたか、草壁さん?」
「はいっ! なっ何でもありません!」
 明らかに怪しい。
 那由他も言ってから気づいた。でも……言えない。
 カマイタチを仕留めた直後に見た、雪姫の笑顔が……あまりにも怖かったなんて!
「……あっ!」
「ほぅ、綺麗だな……」
 嵬が上を見る。
 戦いの余波を受けたのだろう、無数の桜の花びらがひらひらと舞い降りてきた。
「真木綿にもみせてやりてぇな」
 花びらを散らせた桜には少し悪いが、これぐらいの役得があっても罰は当たるまい。
 能力者達はしばし、その光景に見入っていた。

●まずはお召し上がり下さい
 オレンジのレジャーシートが風を受けながら、ばさりと広がった。
「そっちを引っ張ってくれ」
「了解だよ〜♪」
 レイジと、凪がさっとそれを整えて準備は完了。
「皆のお弁当すっごく美味しそうだよ〜♪ 楽しみ〜♪」
 そして出揃うのは各人が意匠をこらしたお弁当。
 雪姫が用意した三段重ねの重箱の中には、菜の花やおぼろをあしらって、春らしく華やかに仕上げたちらし寿司。メインには鳥の照り焼きや野菜の煮物、卵焼きなどが彩り良く詰められている。
「おおっ」
「すごい」
「ふふふ、少し頑張りましたから♪」
 萎縮させないように早起きして作ったことは秘密。
 そのまま他の面々に促せば、恐る恐ると、杏梨と、硝子がお弁当箱の蓋を開ける。
 中に入っていたのは何とも可愛らしいおぎにりで、
「これは硝子ちゃん発案のキャラクターおにぎりですっ♪ パンダさんは海苔で、ひよこさんは薄焼き卵でご飯を包んで作りました」
 他にも定番の梅・鮭・昆布のおにぎりが多数。
「パンダさんは海苔を切るのが難しくって……あ、でも、ひよこさんは可愛くできたのですっ♪」
 杏梨が作っていたときのことを思い出して、硝子に笑いかける。
 彼女も馴れないことに、はにかんで。
 共に四苦八苦しながらにも、それがすごく楽しかったと共感しあう。
(「不慣れで、滑稽な失敗も重ねたが、力をあわせて形にすることができた。出来は存外に悪くない。しかし、この可愛さ……到底、私が作ったとは思えないな」)
 そして、それが今はとても愛らしいと硝子は思う。
 仲間達が称賛の声を上げてくれるのが素直に嬉しい。
「どれ」
「あ……い、いや、何でもない」
 だから、嵬が手に取ったところで、ついためらいの言葉が出てしまう。
「う〜ん、食べるのちょっともったいない、かなぁ?」
 杏梨も同じだったようで、二人の口元が緩んだ。
「すいません。どうぞ、食べてくださいっ」
「では、遠慮なく」
「わ……美味しい! これ私も作ってみたいわ」
 味の方も確かで、那由他が羨望の眼差しを向ける。
「そういえば、那由他ちんもたくさん持ってきてるけど何が入ってるのかなぁ〜?」
「……作り過ぎちゃった。えへ」
 凪が聞いてきたので、那由他がひとつの目のお弁当を開けると、金平ごぼうだけがざっくざく。
「うーん……我ながら、美しい」
 彼女は見入っているが、他の面々はちょっと言葉を悩み中。
「……あっ、これだけじゃないから。他にもあるのよ」
 その様子に気づいて慌てて取り出したのは、アスパラベーコン巻きや、ミートボール、卵焼き、昆布おにぎりといった定番の品々。
「俺もまあ用意はしてあるがな」
 続けて、嵬も作ってきたサンドウィッチを広げた。
 ハムサンドに、タマゴサンドに、レタスサンドとまたまた食べ物が増えていく。
「どれも美味しそうなんだよ〜♪ 皆お料理できてすごいにゃ〜。ボクも覚えようかなぁ……」
「なら、今度教えましょうか」
 凪の言葉に、雪姫が応えながらみんなにお茶を配っていく。
「ちらし寿司か。少し貰おう。……これも美味いな」
「ありがとうございます」
 舌鼓を打つ嵬に、お礼を言いながら彼の前にもお茶を差し出す。
 和やかな雰囲気の中、楽しい声が響いていく。
「いや不味くない……逆だよ、美味しい。どんどん上手になってる。那由他は凄いよ」
 中には、レイジのように幸せすぎて感極まった者や、
「ちょ、ちょっとレイジくん大げさよ」
 それに慌てる那由他の姿があったりと、話の種も尽きない。
 感想を言い合ったり、談笑したり、桜もほころべば人もほこぶかのように笑顔が満ちている。
(「……結社の仲間とこうして大勢で騒ぐのは初めてだな」)
 どこか眩しそうにそれを眺め、櫻霞が桜の木の根元に座ってバイオリンを静かに構えた。
 音を合わせるために数回鳴らすと、まずは凪が気づいた。
「あれ? 櫻霞ちんの演奏が聞けるのかなぁ?」
 続いた言葉は、疑問というよりも、期待のそれ。
「随分と久しぶりだからな、腕はそう期待するなよ?」
 そう前置きしておいて、もう一度、弦の調子を試すように何度か音を出す。
 一拍の間を置いて、曲が始まった。
 暖かで、それでいて懐かしい。目を閉じれば、里山の風景でも思い出しそうなそんな曲。
 音楽はあまり嗜まない、那由他もまったりとした感じで目を閉じている。
 他も似たような感じで、今この時は戦いを忘れて――。

●幸せな時間
 風がそよぎ、花びらが舞い落ちる。
 その中を、雪姫が優雅に舞う。
 これでもかなり崩した方だが、普段から培った所作は様式美といってよいレベル。
 見る者はただ感嘆の声を上げ、
「雪姫さん、本当に綺麗だな……」
 レイジが思わず、箸を落とす。
 これから習おうという、杏梨、凪、硝子も見入ってしまっている。
 そうでない者は今もバイオリンを奏でる、櫻霞ぐらいのもの。
「と、こんな感じです。次は一緒にやってみましょうか?」
 手を止めて、雪姫が視線を投げかけると、三人は少し萎縮しながらもうなずく。
 ひとつひとつの動作を繰り返し、それを繋げてひとつのものに。
「はゎっ! ぇえっと、こうですかっ?」
「あぅ〜なんか上手くいかないんだよ〜」
 杏梨と、凪は苦戦中。
 繋げてみると途端に難しくなるもので、動きのおかしなところが自分でもわかる。
 それを必死に直そうとするが、やはりままならなくて。
「あらあら、うふふ♪」
 微笑ましくて、雪姫もつい見入ってしまう。
 唯一その手の才覚に恵まれた、硝子のみが形になっていた。
「(こういうのも、悪くない)」
 取り澄まして内心の照れを隠しながら、周りが気づかない程度に小さく微笑む。
「マトラ、一緒にがんばだよ〜」
「みゃぅ」
 再び、凪が真ケルベロスベビーと踊り始めた。
 ベビーは隣で飛んだり跳ねたりと自分なりに工夫している模様。
「皆さんそれぞれに良いところがあって、素敵な舞だと思いますよ♪」
「難しいけど、すごい楽しいのですっ!」
 たとえ、ぎこちなくても、そうすることが楽しくて。
 見ている方もまた、それが微笑ましい。
 そう、あまりにのどかで、あまりに平和で、まるでうたかたの夢のようで。
「このまま、時が止まってしまえばいいのに……」
 ふと、レイジが見上げれば、一面に広がる桜色。
(「咲き誇る山桜の中で自分の演奏に合わせて仲間が踊る、そんな場面を見る日が来ようとは。今まで大勢で騒ぐことなんて殆どなかったが、こんな日も悪くないかもしれないな……」)
 櫻霞も自分の中に安らぎを感じ、
(「皆、わいわいしてるようだな。楽しそうで何よりだ。しかし、この気持ちよさ、寝ちまうな……」)
 嵬は横になって静かに目を閉じる。
 脳裏に今日は本当に心から落ちつけた、それに楽しめたと浮かび、まどろみの中へと落ちていく。
 そんな仲間達の様子を見て、雪姫はそっと荷物の中からカメラを取り出す。
 今日の日の思い出に。何より良い被写体が今は多そうだ。
 最後には記念写真も悪くない。
 まずは近くにいた那由他へと向けると、
「あっ、撮るんですか? ちょっと待って下さい」
 恐る恐るピースサイン。
 シャッターの音が鳴る。
 合わせて、どこからともなく不器用なホトトギスの鳴き声が聞こえてきた。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/05/18
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