<リプレイ>
風雲! 自己アッピール道場なる異空間、激震す! 真四角の眼鏡、モジャ髪とモジャヒゲの講師地縛霊が叫ぶ。 「道場に立ち入るのは何者だ! 名を名乗れィ!」 ただし、と地縛霊は目を赤く光らせた。 「半端な名乗りには罰を与えるぞ! キメ台詞だ、来い!」 「いいでしょう。お聴きなさい」 ドアの蝶番がきしみ、そこからすっと、長い脚をした女性が姿を見せる。都会風のショートカット、装着したアームブレードも、違和感なく収まっている。 「我々は銀誓館の能力者、あなたたちの暴走を阻む者。かく言う私は」 と言って彼女は、剣を頭上に巡らす。鋭利な刃から、焔が赤い尾を曳いた。 「ほとばしる炎・如月皐」 如月・皐(ファイアフォックス・b00939)、色香と強さの同居する美がそこにあった。 「ぬう……見事! して、横にあるは誰か。名乗るが良い!」 しまった、夜代・伊織(孤高の一匹ナマケモノ・b66197)は息を呑んだ。 (「本当はこういうの苦手なんだよね〜。まずいな〜」) どんな名乗りを上げるか考え考えしてここまで来たが、思いつかなかったのだ。入った途端にこの展開とは思ってもみなかった! こうなったら、ためらっている時間はない! 伊織はスカートの裾ひらり、回転させて大音声、 「自己主張と自己主張のぶつかり合う狭間に、己が醜い欲望を満たさんとする者よ、その行いを恥と知れ! 人それを……『外道』と言う!!」 叫ぶと不思議と落ち着いた。イグニッションカードを抜き、ぴたり、敵の眼前に構えて、 「イグニッション! マクシミリアン美少女(?)悪魔男爵伊織ちゃん! 参上です!」 己を解放する。生物上の性別は男だけれど、かく堂々たる美少女ぶりの伊織を、誰が男の子と思おうか! 胸がスッとした。快感、かもしれない。 「食らいやがれです! 飛翔瞬刃符!」 そして伊織はトランプを投げて切るように、呪殺符ともども締めくくったのだ! 「こちらもやりおる!」 これを受けて、一歩後退した地縛霊はふと視線を上げて見た。道場壁際のバルコニー、高台に身を屈める少女を。ティセ・パルミエ(猫ふんじゃった・b34291)を。 「そこのお前もアッピール! カモン!」 カモンと来たか。ならばとティセ、跳ぶ。 「可哀想なゴーストさんのためにカカッっと登場なのです」 軽やかに空中四回転半、音もなく着地して顔を上げ、マジカルロッド、バトンのように素早く回す。その切っ先、猫手がついたぴこぴこ尖端をびしりと向けて、 「ねこのきもちを伝えてあげるのです、このにくきうで!」 頭に猫耳ヒップに猫尻尾、際どいミニスカ&白ニーソで電撃登場! 「登場ポーズはキメが効いているが、名乗れておらんぞ!」 地縛霊に指摘されハッとなり、彼女は慌てて言い添えた。 「はにゃ! ティセ・パルミエ推参っ! パートナーはモーラットのシマちゃんなのです!」 ティセのミスを突いて精神的優位を得たか、再度ヒゲは前進する。 このままじゃ危険だ! 姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)は懸命に自分に言い聞かす。 (「今回の私は別人、別人……」) 深呼吸して三角帽子、被り直し扉の影からダッシュ! 手近な机に飛び乗る! 「悪いことする子は、私の真っ赤な炎でお仕置きしちゃう!」 フワフワピンクの髪なびかせる。華麗にキュート、登場は成功だ。だが次が難しい。ロッドを一転させてキャッチ、指と一緒に……向ける! 成功! 「その名は!」 ヒゲが絶妙のタイミングで問う! 「使い魔ルーの『愛』と書いて攻撃は、どんなカレーより熱々なのね☆ ゴシュジンサマに再会するまで、負けるわけにはいかないのっ♪」 天使の笑顔でウインク、ロッドに結んだリボンも光る。モーラット『イヴ』もルナの肩に乗り、威嚇するような顔(といってもあまり怖くないのだが)をした! 「やりおるな、使い魔ルーとやら!」 やった! ルナは内心拍手だ。 他のゴーストがじわじわ迫りつつあった。ルナの足首を掴もうとした不埒な霊に、漆黒の腕が延びて一撃する! 「『2010年・護ってあげたい人狼部門』第1位! 柿木坂研究所調べで! べ、べつに護ってくれなんて言ってないんだから……! こんな風に人を護ることだってできるし……」 でも、うれしかったな♪ と小さく付け足す。おお、その姿! 舞台中央、左右の手に長剣、構えて立つ少女剣士! 「戦場を駆け抜ける黒い風! 二刀使いの龍殺し(ドラゴンバスター)!!」 ダークハンドの主は無論彼女、その名は、 「柿木坂みる参上!!」 柿木坂・みる(わたしは此処にいる・b63721)に気圧されて、不埒な地縛霊は尻餅ついて天を仰いだ。自軍の不利にもかかわらず、ヒゲ地縛霊は嬉しげに手を打ち鳴らす。 「21世紀の自己アピール『ツンデレ』というやつか! 大いに良し!」 「ならば拙者は、16世紀と21世紀のフュージョンにて参ろう!」 サクッ、ヒゲ男の後頭部に手裏剣が突き立った。 「うぐっ! ……曲者め、名を名乗れィ!」 振り向いたヒゲは手裏剣に触れもしない。アッピールこそが彼の求めるものだから! 「HAHAHA! 天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 宇宙(そら)が呼ぶ! 若者を守れと俺を呼ぶ!」 快活な笑い声と共に、反対側のバルコニーから忍びの者が現れる! 「この刃は未来(あす)が為! 一心不乱の希望の為に!」 空手の型のように、告げながらポーズを決めていく。絶好調だ! 「拙者の名はアンディ・サイゾウ! 悪しきゴーストを倒す為、ここに見参!」 と締めくくるや二本の指揃えて敬礼! アンディ・サイゾウ(白にして霧雨・b52313)の笑顔からこぼれた歯が、白く、白く輝くのであった! 「敵ながら天晴れ! こやつらも憧れておるぞ!」 ヒゲの言う通り、スーツの地縛霊たちはアンディに見とれているではないか。 「うちの新人のアピールも見るがいい!」 ヒゲも対抗したくなったのか、首なしリビングデッドの背をドンと押した。されどリビングデッドは、おろおろと何歩か歩いただけで、コテンと倒れてしまう。 「しっかりするんだ! そのようなアピールでは先が思いやられるぞ!」 これを叱咤する声はヒゲにあらず、シールド装備の小学四年生、萌月・薺(盾の騎士・b65253)その人ではないか! 右腕に盾! 左腕にも盾! 「そこの盾娘、ならば見本を示せィ!」 ヒゲは呼ばわった。 「望むところ!」 得たり! 聞け、薺のアッピールを! 「私は銀狼の騎士団、団員No374の萌月薺!! 前衛に立ち味方を守る盾である! いかなる攻撃だろうと我が愛用の丸盾で防いでくれるわ!」 ぐうん! 名乗りつつ盾をブン回す! その勢いが敵をたじろがせたのは言うまでもない! 「合格である! ……うぬぅ、あまりにアッピールの達人ばかりよな。羨ましくあり褒めたくもある。だがこのままでは我らも敗北は必定、名乗りは弱けれど力はあるはず! 者どもかかれ!」 ヒゲはようやく自分の立場を思い出したか、手下をけしかけ攻めさせる。 だがゴースト団先頭がいきなり、雷弾受けて吹き飛んだ! 「ひっさつ! サンダーボルトはっしゃなのよ!!」 「見事なカウンターよ! 娘、その名を問わん!」 どうしてもヒゲは名乗りを聞きたいらしい。 雷弾発射の余熱でくすぶるロッドを回転、胸のところに静止させて佐藤・瑠衣(天真爛漫な魔法少女・b58487)は、にこりと笑顔を向けた。 「まほーのせかいをすくうため、やってきたのがこのせかい。へいわをまもってこきょうをすくうよ! わるいこはスィート☆シュガーがおしおきなのよ!」 瑠衣はその真の名(ということにしている)を名乗り胸を張る。 「ス、スィート☆シュガー……貴様がそうだったのか! 初耳ではあるが」 変なところノリのいいヒゲなのだ。このときさらに一本の矢が、飛来してヒゲ男の額をブチ抜いた。ヒゲは床に仰向けに倒れつつも、半身だけ起こして射手を探す。 「何やつ!」 すると窓際のカーテンに、少女のシルエットが浮かび上がる。なんと見事なその髪型よ! お嬢様伝統のヘアスタイル、つまり、 「トレードマークは縦ロール!」 凛乎、気高く声上げてカーテンを薙ぎ払う! 「萌える心で皆を愛し、燃える心で敵を撃つ! 魔法銃士・七星 文 降臨っ!!」 クロスボウを持ったまま、腕をくるくる巡らせて、七星・文(萌えと燃えの道を逝く者・b63675)はポーズを決めた。交差させる腕の角度、完璧! さらに文はカーテンの陰にささやく。 「あ、これはおサキさんの分ですのよ、掲げて登場して下さいまし」 するとそこからそそくさと、サキュバスがフリップボード掲げて出現した。ボードには丁寧な書体で、『文ちゃんの愛で目覚めた正義の心! ゴーストの力でゴーストを討つ! コスプレ従者おサキ 降臨!』と書いてあるのだった! ちなみにおサキはスーツ姿である。 「痛快痛快! かくなれば貴様らを殺して、アッピール道場の師範代に迎え入れてくれるわ!」 変な情熱を燃やしてヒゲ、さらに手下をけしかける。 わあっ、と情けない声上げて、ゴーストたちは散り散りになった。黒燐弾の炸裂に呑まれたのだ。 「まだこれほどの使い手がいようとはな! お前のアッピールを見せてみろ!」 「勿論です!」 扉の向こうから、つややかな黒髪、長身の少女が現れる。ファッションモデルだろうか? 否とよ、彼女はモデルではなくむしろ雀士、 「……私は牌と共にあり。闘牌に生き、そしてまた闘牌に死に行く者。麻雀とはこの世の理を以って、卓の上に現れるもの。そう、卓の上ではあらゆる事が渦巻く混沌の大地……其れを極めし者のみが名乗る事を許される名、それがこの私、四神を統べる者・黄龍!」 高天崎・若菜(真龍を目指す土蜘蛛の大黄龍将・b19366)、ここにあり! 「四神の力集いて……是なる驕れし者、黄泉国(よもつこく)へと導きましょう!」 若菜は天に誓うかのように、赤手をはめた腕を掲げる。いや待て、本当に赤手か? 巨大すぎる棍棒のような? しかもそのボディに『人生、リセットしてみない?』と書かれているような?? 「以上十名!」 伊織がガンナイフ閃かせ、 「HAHAHA! 拙者らの勇姿、胸に抱いて消滅するでゴザル!」 アンディは印を結び、 「じこアピールはだいじだけど、きょうせいはイケナイなのね」 瑠衣がウインクして宣言、ここで全員、前後二列の横並びになって決める! 思い思いなれど、妙に統一感のあるポーズを! 決まった! 中央には皐、彼女が締める。 「この世ならざるもの。お前の居場所はここじゃない」 同時に全員、「ここじゃない!」と声を合わせ復唱するのだ!! 「おお、こんなアッピールを見たかった……」 なんだかヒゲは戦意を喪失している。座り込んで涙まで浮かべているではないか。だが、 「あれみて!」 瑠衣が叫んだ。 「!?!〜!?」 声なき叫び上げて首無しリビングデッドが、果敢に挑みかかってきたのだ。ヒゲの不甲斐なさに怒っているようでもあった。だが奮戦虚しく、 「炎の魔弾なのです〜、絶対外さないのです!」 ティセが火焔の塊で返り討ちにしていた。リビングデッドは火達磨! 消し炭となって亡びた。 「えへへ、燃えました?」 手でピストルを作って銃口の煙を吹き消すポーズ、とことんキュート格好いい今日のティセだ。 されどリビングデッドの特攻は無駄ではなかったはずだ。これで地縛霊たちは奮起したのである。 「火炎弾なら負けぬ!」 ヒゲが教鞭より、三方向炸裂の炎を投げてきた。うち二発はルナに集中するも、 「わわわっ、アブナイ!」 帽子の鍔を手で押さえつつ、大きな跳躍でこれを避けていた。 「敵さんの弾とどっちが強いか……勝負!」 アッピール忘れず、ルナは炎でお返しだ。 熱い火焔弾一発を、若菜は肩口に受けてしまう。しかし! 「黄龍は退かない! 挫けない! 倒れない! より高みを目指すまで……前進あるのみ!」 むしろ若菜は前に出る! 「さあ、踊りなさいな!」 文が投じるは緑のスピア、森王の槍だ。破裂する! 「貴方を撃ち抜く可憐な笑顔!」 その声は、みる。駆け出し、雑魚ゴーストの只中に斬り込んでいる。値千金の笑顔を振りまいて、 「君のハートにクリティカルヒット!」 宣言通りの痛烈斬撃! みるは二刀交差させ、ゴーストを十文字に斬り伏せて倒した。 「HAHAHA! 前座に用は無いでゴザル!」 アンディの拳とアッピール、大爆発! 「超忍法! 螺旋爆水掌!」 KABOOM! 雑魚はバルコニーまで吹き飛び、窓を破って外に消えていった。 最前線の薺に次々、霊が攻撃するのだが巧みに盾で防がれている。 「はははっ、効かんなぁそんな攻撃! やる気はあるのかお前達!」 笑いながら薺は倍返しの一撃を浴びせた。ふらついたその相手に、 「別れを告げろ、貴様を取り巻く、全ての物に!」 伊織の射撃が命中しその存在を絶つ。これを追うように、 「炎の翼よ、私に力を。燃えろフェニックスブロウ!」 威勢良く皐が火焔の一刀を下すと、雑魚最後の一体も斃れるのだった。 返す刀を講師に向け、皐は告げた。 「この地に縛られし者よ。今その鎖、解き放つ」 戦いは終盤に突入した。講師の地縛霊は自動回復があるとはいえ、アッピール力で完全に気圧されており、攻撃にも防御にも冴えがない。 「迷ったら前へ。その先に見える場所がきっとある。いつか聞いた言葉を胸にわたしは前に突き進む! ……世界の果てで塵になれ!」 大上段から振り下ろす、みるの一刀はおそるべき威力! 袈裟斬りされ講師は仰け反る、その胸に、 「スィート☆シュガーをこれからもおうえんしてねっ!」 瑠衣の雷撃、 「もう、しつこい人は嫌われるのね!」 ルナの炎が重なり、 「還りなさい、蓬莱の地の先……黄泉国へ!」 さらに鬼気迫る若菜の紅蓮撃だ。再びヒゲは感激で滝のような涙を流していた。 「拙者の技、とくと見るでゴザル!」 アンディの爆水掌、そして、 「奥義! 究極!! 神風ェェキィィィィィィクッッ!!!」 伊織の強力すぎるゴッドウィンドアタックが炸裂、ヒゲ地縛霊は宙に舞う! その姿にサキュバスが組み付いた! これ目がけ…… 「能力者と使役ゴースト、二人の心を今一つに!!」 ターゲットロックオン! 「お受けなさいませ、ワタクシ達の必殺連携技!!」 誰だ! 文だ! 縦ロール髪がぐんぐんそよぐ。 「超大自然爆破!! 魔法銃士ッ、スペシャルッッ!!」 劇画調でブン投げた槍は地縛霊を貫通し、大爆発したのであった! 「さらばだーっ!」 ヒゲは絶叫と共に消滅していた。 さあ、慰霊として宣言しましょう、と皐が呼ばわった。 「ビシっとキメようね!」 ティセが元気に跳ね、 「うむ!」 薺も力強く応じる。 「世界結界は私たちが……」 皐の声に呼応する全員の声。刮目して聞くべし!! 「守る!!!」
なお全員、翌日は喉が痛かったそうだが、それはまた、別の話である。
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参加者:10人
作成日:2010/04/29
得票数:楽しい18
笑える4
怖すぎ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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