≪波射瑠挽歌亞≫夏はもう、目の前に
<オープニング>
湿り気を孕んだ空気が、『波射瑠挽歌亞』の面々を包み込んでいる。
茹だるような暑さから逃れようと、河川敷を進む彼らの足取りも、いつになく重かった。
そんな中、誰かがぽつりと零した「バーベキュー」という言葉に、幾つもの反応が返る。
真夏が迫る今の時期だからこそ、蚊が本格的に飛び回り始める前に味わえるお祭り騒ぎ。
夏休みに近づけば近づくほど、何処のバーベキュー場も混雑してしまうだろう。
ならば、そうなる前に――。
山の中、緑や石の色が水底に揺れて映る、緩やかな清流。その傍らに、バーベキュー場はあった。
山道からも離れたバーベキュー場では、あまり人目を気にせず騒げるだろう。
河川敷は広く、釣りはもちろん、駆け回ったり花火をするのにも向く。
バーベキューで焼く魚を調達するも良し、直接水に入って魚を捕まえに行くのも良い。
水葉、食後に食べるスイカや飲み物を冷やしておくのにも適した冷たさだ。
また、時折匂いや賑やかさに惹かれ、野良猫などの動物達も顔を覗かせるらしい。虫も寄ってくるが、気になる人は相応の対策をしておけば充分だ。
当日は雲ひとつ無い晴天。
腹ごしらえの後に水遊びをしても、充分長い明るさを楽しめる。
もちろん、花火や星空を楽しみたいのなら、テントを張ってゆっくり過ごすのも良いだろう。
「「着いたーっ!!」」
到着を報せる声が、いくつも重なった。
右を見ても左を見ても大自然。夏休み前ということもあってか、自分達の他に人気も無く、鳥のさえずりや虫の声が、風に乗ってやってくる。ここへ来るまでが一苦労ではあったが、その甲斐あって山も川も、彼らを快く迎え入れた。
かなーり離れた管理棟から借りてきたバーベキュー用の器具も、持ち寄ったものも、何より「遊ぶぞ」という気合も、ばっちり彼らの手にある。
そう、夏はこれからだが、既に始まっているようなものだ。
川辺へ降りていく彼らの足取りも軽い。
陽は、まだ高みへ昇り始めたばかりなのだから。
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参加者
嵐堂・一矢
(破魔矢・b09232)
狼幻・隼人
(高校生ゴーストチェイサー・b40479)
シェリルーナ・フェンリール
(聖なる光の導師・b61984)
清澄・ソウヒ
(月夜に咲く華・b65426)
諏訪・秋夜
(悪を突く憤怒の槍・b67410)
高風・摩白
(猩猩番長・b67450)
氷上・綜多
(風無き夜の雪影・b67455)
楸・アスナ
(ノンストップストレートガール・b67462)
神居坂・縫
(碧の風炎・b67463)
雪積・桜紅楽
(春を待つ優雪・b67470)
秋稲・和希
(萬代番長・b67521)
白塚・絹
(爆裂暴走娘・b67544)
菅間・ヤロスラーヴァ
(静かなる追跡者・b67571)
九刃・琥鉄
(神喰ライノ刃・b67652)
冴凪・要
(零式・b67983)
黒嶺・銀
(吶喊・b68048)
毛利・凛華
(刹那の斬光・b69156)
島津・小虎
(リトルタイガー・b71466)
紅乃瀬・司
(どんなときでも笑っていよう・b71583)
黒藤・淡毅
(影を抱く黒炎・b71954)
NPC:
神谷・轟
(高校生真ゴーストチェイサー・bn0264)
<リプレイ>
●
良い場所だな。
嵐堂・一矢(破魔矢・b09232)は開口一番に、そう述べた。
広大な大自然を前に、シェリルーナ・フェンリール(聖なる光の導師・b61984)がうっとり息を吐いて。
「山で過ごすのはこう、楽しいで御座るよな」
むず痒そうに呟く毛利・凛華(刹那の斬光・b69156)の横で、清澄・ソウヒ(月夜に咲く華・b65426)が大きく首を縦に振った。
「気合入れてどんどん魚取ろうぜっ!」
いち早く川へ飛び込んで行くのは、狼幻・隼人(高校生ゴーストチェイサー・b40479)と諏訪・秋夜(悪を突く憤怒の槍・b67410)だ。既に水を掻く音が跳ねて、川辺まで転がってくる。
スイカ持ってきたよっ、との楸・アスナ(ノンストップストレートガール・b67462)の呼びかけに、着にアロハシャツといかにも夏を楽しむ格好で、黒嶺・銀(吶喊・b68048)が手を貸した。
「おっしゃー夏だ! 山だ! 遊ぶぜー!」
雄たけびにも似た叫びを轟かせ、冴凪・要(零式・b67983)も準備に入る。
「下ごしらえは……まあ、足りなかったらそっちへ行けばいいか」
人数配分を脳内で計算し、氷上・綜多(風無き夜の雪影・b67455)も荷物をまとめに動く。
力仕事へ取り組む紅乃瀬・司(どんなときでも笑っていよう・b71583)を追うように、島津・小虎(リトルタイガー・b71466)も設営の手伝いを申し出た。
バタバタと駆け回りだした仲間が居る一方。
何処から手をつけて良いのかわからずにいたのは、黒藤・淡毅(影を抱く黒炎・b71954)だ。得意なのは何だ、と神谷・轟に尋ねられた淡毅は、料理や給仕ですね、と困惑しながら答え、料理班へ合流した。
「一枚でも沢山の笑顔を撮るんや!」
異なる次元で、高風・摩白(猩猩番長・b67450)がやる気を溢れさせていた。その手に、しかとカメラを握って。
「食べ盛りの皆さんですから、気合を入れて準備しないと、ですね」
意気揚々と雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・b67470)が唇で笑みを模る。
傍では、秋稲・和希(萬代番長・b67521)が「全ての道は米に通じる」とでも掲げんばかりの真剣さで、ご飯を炊いていた。
「お米さえ美味しければ大丈夫よ」
ある意味とても日本人らしい心か。
「そのチョコ鍋に入れるんだから食べたらだめ!」
隠し味を護るべく、神居坂・縫(碧の風炎・b67463)が腹の虫を鳴かせてやってきた仲間を牽制した。
その頃、魚を取りにきた一行は――。
「釣りするんは初めてやけど、こんだけ人おれば釣れそうやな」
思いのほか人数が足り、白塚・絹(爆裂暴走娘・b67544)が目を輝かせる。
同じ頃、水着で仁王立ちをしていた秋夜は、水を周りへかけ始めて。
「くらえー!」
「うわ、お返しだよっ!」
アスナが早速反撃に出た。
水遊びに明け暮れる仲間を微笑ましそうに眺めていたのは、水着姿の菅間・ヤロスラーヴァ(静かなる追跡者・b67571)だ。パーカーも羽織り、釣りの準備も万端で。
「水着の上にパーカー……」
無意識に口にしてしまった九刃・琥鉄(神喰ライノ刃・b67652)へ、後背から凛華の咳払いがぶつかる。
のんびり釣り糸を垂らすのは、ヤロスラーヴァ、銀、絹と凛華だ。待ちの長さに銀がふむと唸る。
「中々釣れんのォ」
「一匹も釣れんかったりして」
絹がぼそりと漏らした言葉に、洒落にならないとばかりに銀が豪快に笑う。
「皆さんすまいるぷりぃず♪」
カメラを構える摩白の声を合図に、その場にいる者達の視線が集った。
●
最年長。ある意味周りを引っ張っていく立場である一矢だが、案外しっかり者の多い結社ゆえ、別の意味でしっかりする必要があった。
――引率者じゃないが、皆が楽しめるようしっかりと支えんとな。
決意を新たにしつつ、先ずヤロスラーヴァと轟へ「食べる側に回れ」と告げた。
一矢に続いて司も同意すれば、人数分のジュースを配りかけていたヤロスラーヴァは、少し困ったように視線を泳がせ、やがて小さく頷く。
「どんどん食え……って、俺の分も残しとけっての!」
代わりにと焼きに徹する琥鉄だが、遠慮のえの字も無い超ド級の素直な仲間がいる以上、肉から失っていく結果は目に見えていた。
そうやってなかなか食欲を満たせない面々へは、司がこっそり取り皿へ分けていく。
ひらひらと手を泳がせ、慣れた様子で焼き加減を伝えていくのは淡毅だ。
「こちら牛肉が焼けましたよー」
「よっし、食うぞ!」
「やっぱ肉だろ肉!」
隼人と要、そして秋夜や絹というったあらゆる意味で豪勢なメンバーが、鉄板を我が物にする勇ましさで挑んでいく。
「こういうのっていつもよりおいしいよねっ」
焼きたてを口へ放り込み、はふはふと呼吸を繰り返したアスナが、零れ落ちそうな笑顔で言い切った。
そんな微笑ましい姿でさえ、摩白はバッチリカメラで捉える。
「自然の中で食う飯は美味いな」
「もち、食べてる所もガンガン撮るでー?」
「撮ってばっかだと、喰うものなくならないか?」
銀に聞かれ、それもそうや、と自分の頭を小突いた摩白は、やがて静かに瞳を眇める。
「やって皆オモロいねんもん!」
摩白の笑顔の理由は、そこにあるようだ。
働きすぎて叱られるのを避けるべく、綜多は主に野菜を好まぬ仲間達を観察しながら、静かに箸を進めていた。そしてある程度経ったところで、鋭く言い放つ。
「……肉ばかり食べていないで野菜も食え、特に冴凪と諏訪」
「見事に名指しだな」
「相手は限られてますからね」
殆ど傍観者のような顔をして、轟と桜紅楽が言葉を交わした。
「野菜もちゃんと食べてくださいね」
「そうそう、野菜も食べましょうねー?」
シェリルーナとソウヒが、遠慮なく肉メインの仲間の皿へ、緑黄色の食べ物をごっそり乗せていく。
拒絶の悲鳴が飛び交ったのは、言うまでもない。
「……肉? 食べたい人がどんどん食べればいいんじゃないかしら」
「バランスの問題があるのよ」
野菜と魚を中心とした、スタミナの足りなさそうな小虎へ、和希が言う。
それを聞いてか否か、隼人は箸休めになるし、と魚へ手を伸ばしだした。
「野菜食べなさいよ野菜!」
「食わんでもデカなったんやからええやろっ!」
縫の追撃に、秋夜がうがぁと抵抗を示す。野菜なんか聞こえへん、と足掻く彼の隙を突いたのは絹だ。
「ほな、その野菜もらうで!」
好き嫌いという単語が、絹の辞書には無いのだろうか。猛烈な勢いで狙った獲物を仕留めていく鋭い眼差しに、負けじと食い気が盛んな面々が噛り付いた。
そんな光景を前に、焼き担当の仲間の手元へ食材を補充しながら、桜紅楽が吐息だけで笑う。
「さすがにすごい食べっぷりですね」
「……あ、拙者の分も残して頂ければ」
おろおろする凛華を一瞥し、琥鉄が改めて目の前の状況を考えた。
「食卓はまさにサバイバル?」
答えはもうわかりきっている。
綜多はふと、あまり箸が進んでいない面々へ視線を向け、交代を申し出た。
「ずっと焼いているのも疲れるだろう」
「そうですわ。食べてもらいませんと」
シェリルーナも腰に手を当て、焼く側へ回る。
ローテーションで焼く担当が次々入れ替わっていけば、あっという間に食材も尽きるものだ。
「あっ、スイカもう冷えた頃だよねっ? 食べよ食べよっ」
アスナが思い出したように大声を出す。
「いいデザートになりますね。では、私が切りましょうか」
腕まくりをして淡毅が立ち上がると、歓声と拍手が飛んだ。
●
燃え上がった猛々しさは、まるで命のよう。
腹を満たせば力も復活し、或いは満腹感ゆえにゆったりと、食後のひとときを過ごす。
「これで暑さ倍増だぜ!」
額の汗を拭い、琥鉄が胸を張る。
「凄いですわ」
「拙者、やった事がなかったで御座るが……これは」
そして炎の勢いに圧倒され、シェリルーナと凛華がぽかんと口を開けた。
皆で作りあげたキャンプファイヤーは、質素だが団結力の塊でもあった。散る火の粉も、舞う炎も、想いだけは盛大に。暗がりに照らされ、心なしか全てが大人びて映る。
「歌とダンスは得意やぞ、まかしとけ!」
パチンと指を鳴らして秋夜が宣言した。
キャンプファイヤーと言えばフォークダンス。テストに出てもおかしくない程、定着されたイメージだ。
しかし意外にもフォークダンスの経験者は少ないのか、或いは恥ずかしいのか、川辺に動揺が走る。
「戦争の後とか踊るやろ?」
「踊る相手がいない場合も、ありますから」
淡毅が頬を掻く。しかし要のように、拳を握り楽しむ気満々の者も少なくない。
「嬉し恥ずかしのチャンス!」
「それを口にすると、良い機会に恵まれ難くならないか?」
「フラグというやつか」
綜多の呟きに、一矢が頷く。
そろりと、一矢はラジカセの音量を引き上げた。ノイズ交じりに奏でられる音楽が、なんとも修学旅行っぽい。
「ふふ、踊るのは得意ですわ♪」
長い髪を風に遊ばせて、シェリルーナが周りへウインクを投げる。きっかけは案外大事で、誰かが始めると「自分もやってみよう」という意欲が湧くものだ。
シェリルーナが真っ先にくるりと立ち上がったため、仲間達も次々に踊りの輪を紡いでいく。
「踊るの下手なんだけどな……」
どうしたものかと辺りを何度も一瞥し、見よう見まねで踊る司へ摩白がシャッターを切った。
「若干、挙動不審やで!」
楽しげな摩白は、直後自分めがけたシャッター音とフラッシュに気付き、振り返る。そこにはデジカメを構えた轟がいて。
直後、またもやシャッター音が響く。轟と摩白が音の方を見ると、満悦そうに和希が瞳を伏せていた。
「……残して、おきたいの」
「上には上がいるもんだな〜」
一部始終を傍観していた隼人が、おかしそうに肩を震わせる。こういう雰囲気いいですねぇ、とソウヒも笑っていて。
「負けへん! ぎょうさん撮ったる!」
ずっと駆け回っていたというのに、衰えぬ勢いで摩白が仲間達をカメラに収めていった。
「……こういうのもいいわよね」
滾る赤を通して仲間達の光景を眺めていた小虎が、照れを隠すように呟く。
踊りも半ばに差し掛かり、そろりと枝をくべようとしたのはヤロスラーヴァだ。
「菅間さん、今回くらいは、しっかり遊んで頂きますよ?」
代わりに自分が動くとばかりに、桜紅楽が枝を抱えて微笑む。そんな彼女の近くで、今度は綜多が枝を火へ放った。
「雪積も、何だかんだ裏方ばかりしていたしな」
少しでも手伝えば遊ぶ時間も増えるだろうと、綜多は眩しげに次の枝へ手を伸ばす。
踊って歌った後に待っていたのは、余韻を残す花火のひととき。仄かな灯りを、或いは弾けんばかりの光を見つめる、夏の夜らしい時間だ。
「……いつか皆で、打ち上げ花火大会の屋台巡りでもしたいですね」
「美味いと噂の店も多いからな!」
淡毅が口にした願いを聞き、銀を始め数人が相槌を打つ。
屋台巡りか、と顎を撫で考え込んだ轟へ、そっとシェリルーナが線香花火を差し出す。
「轟さんもどうぞ」
「ああ、すまない」
そういえば灯していなかったと思い出し、轟も漸く火花を目の前にする。
疎らに堪能する仲間を見守っていたヤロスラーヴァは、ふと静かな笑みを浮かべ轟へ尋ねる。
「今日は楽しめたか?」
ストレートで曇りの無い質問に、轟は首を縦に振った。
「こいつらと来て楽しめていなかったら、人生の半分ぐらい損だ」
ご尤もと言わんばかりに、ヤロスラーヴァが瞼を伏せる。
戯れる仲間達を羨ましげに見つめるソウヒの近く、凛華が縁側に腰掛けているかのような静かさで二度頷く。
「楽しめればいいで御座るよ」
そこで、撮影に励む摩白の傍らを過ぎ、縫がこっそり轟を呼んでいた。線香花火を灯り代わりに、賑やかな皆から少し距離を置く。
神妙な面持ちで縫が告げたのは、今まで溜め込んでいたことだった。思いの深さや重さが、あの戦いを知らない自分は、皆と違うのだと。
「脳天気で、馬鹿みたい」
ちらつきと煙で霞んだ目を擦る。
「俺も、お前のような奴がどんな深い想いを持っているのかを、まだ知らないからな」
居合わせなかった者が、どう生きて、何を感じ、何故この学園へ来たのか。それを『居た』者が最初から理解できる可能性は、低いのかもしれない。それこそ千とも万ともいえる想いだ。
轟は少女の頭を撫でた。それにその明るさは心強い、と。
「写真、一緒に一枚だけいいですか……轟さん?」
勿論だ、と返事が落ちる頃、輪の中では流れ星を求める声が重なっていた。
「流れ星ないかしら?」
「夜空も綺麗だし、ね」
小虎とシェリルーナを始めとする密かな言葉に、男性陣の一部から悲鳴があがる。
「ほら写真写れなくなっちゃうし!?」
「それなら、流れ星の代わりにありったけの花火使うよ!」
要の言葉を遮るように、両手一杯に花火を抱えたアスナの声が響く。
楽しい時間は、まだ終わらない。
●
記念撮影をしようと声が挙がるのは、ほぼ同時だった。
カメラを取り出す者もいれば、立ち位置を早速決める者もいる。そんな中カメラを片手にした轟へ、みんなで撮ろうぜ、と要が念押しも込めて声をかけた。
「こーやって皆で騒ぐのも良いもんだろ〜?」
返答の幅が広くない問いに、轟は迷わず頷いた。
「轟さん、真ん中どうですか?」
手招くソウヒに、轟はサングラスを押し上げ、口角を上げる。
「引率の先生みたいになるだろう」
「それはそれで良い思い出になるかもしれないわよ、轟クン」
持参したカメラを弄りながら、傍らで和希がぽつりと零す。
「……思い思いの位置というのが、私達らしいでしょうか」
くすりと笑い、桜紅楽が言葉を繋げた。しかし背丈の都合だけは無視できず、とりあえずデカいと自覚のある面々は概ね、中列と後列に並んだ。
――普段笑わない人達の笑顔が見れるといいな。
位置も定まり始めた仲間達を一瞥し、司がささやかに願う。彼だけではない。シェリルーナも、幸せを齎す笑顔を求めていて。
すると、まるで彼らの気持ちを察したかのようなタイミングで、秋夜が呼びかける。
「親指立ててにっこり笑顔、やで! ええ見本もおるしな!」
そう促す彼の後ろでは、銀が親指を立てて笑っていた。
漸く、ヤロスラーヴァがタイマーを設定し、列に加わる。後はその時を待つだけだ。
「ひひっ♪」
不敵な笑いを漏らした摩白の腕が、そろりと凛花へ伸びる。不意に肩を押されよろめいた凛花は、咄嗟に琥鉄の腕を掴んで支えにしてしまい。
「のわぁっ!?」
「ちょっ、こっちくん……」
「え! 何!?」
「うわ、押さないでよー!」
ドミノ倒しよろしく、連鎖が連鎖を呼び、列が爽快になだれていく。
カシャッ。
衝撃の事故現場を、カメラはしっかり捉えていた。
そして騒ぎが鎮まる頃には全員、最初の立ち位置から見事にずれていて。
要が噴き出したのをきっかけに、どっと笑いが沸き起こる。
そんな彼らに、思わずといった様子で木々や鳥たちが涼しげにざわめく。
夏はもう、目の前まできていた。
マスター:
鏑木凛
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作成日:2010/07/20
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