<リプレイ>
●さあ、全力で呼び出そう! 「雨ですね。梅雨ですね」 アパートの通路から見える景色は雨模様。 黒木・摩那(深遠なる碧き鏡の剣士・b12406)でなくとも、そうつぶやいてしまいそうなほどに雨。 嫌なほどに梅雨である。 ――がちゃ、がちゃ。 物音の方に視線を向ければ、葛城・摩耶(望む者・b75398)がドアの鍵を開けようと格闘中。「こんな事もあろうかと!」と楽しそうに挑んでいった、だけあって見事な手際だ。 おまけに闇纏いまで完備して言う事なし。 「開きましたっ」 「大したものでござりまするなあ」 ドアを開けて仲間を呼べば、水瀬・夢緒(燐光の織り手・b28982)が声を掛けて中をのぞく。 がらりとして――中は何も無い。 でも、ここが特殊空間の入り口。 能力者達は思い思いに部屋の中に立つと、静かに目をつむる。 ごくりと誰かの喉が鳴った。 「「いっせーのーで」」 「雨男ーっ!」 「雨男ーー!」 「雨男ー!!」 摩耶と、秋月・慎斗(ラブイスラフェルエブリデイ・b48239)と、烏頭森・戦葉(億千万の鉄鎖環・b69296)が叫びながら、互いを指差しトライアングルを描く。 「あなた、雨男!」 「あなたが雨男にございましょう!」 摩那と、夢緒も激しく言い合い、 「雨男って言った人が雨男だよこの雨男!!」 「そこの雨男! 雨男って言わないで下さい! 私は雨女です!!」 無髪・萌芽(有限の雑草・b53356)と、瑠璃丸・鈴芽(セイレーンの小悪魔・b53146)も同様に。 「私も女よ。ねぇ雨男さん。おかげで外はざーざー降り」 上条・鳴海(雪割草・b55099)はやれやれという感じで、やはり仲間を指差す。 もう喧々諤々。 互いに雨男のオンパレード。 「結局誰がやねん!」 とうとう、摩耶が突っ込み! 出来れば地縛霊にやって欲しかったが、動きが無いので仕方ない。 と、思ってしまうのは関西出身者の業というものか。 「それにしても出てこんな」 『………』 「って、いたー!」 いつの間にか、地縛霊は出てきていた。 部屋の隅で縮こまって……この世の終わりみたいな顔で、ぼそぼそと何かを言っている。 「……ええと、あのお」 『……ひぃ』 鈴芽が恐る恐る話しかけたら、びびっているのか地縛霊は更に萎縮。 「あの雨男ってある意味すごい能力ですよね。雨量の少ない地域にいたら重宝されそう……」 ――ぼそぼそ。 「……え、駄目?」 鈴芽の言葉に返事はしたが、何か更にどよーんとした。 「雨男ってそんなに嫌なものかなぁ? 雨には雨の良さってものがあるんだけどな……」 止む得ず、萌芽がフォローに回る。 「まぁ、けど旅行や花見なんかも全て雨……だとしたら凄く不憫かな」 ――どよーん! 「この時期の雨は鬱陶しいものだし、雨男って言われると気分が良いものではないわよね。旅行とかで雨に降られると自分のせいだと思いがちだし」 鳴海がフォローに見せかけて『止め』を入れれば、 『ああ、やっぱり僕は雨男なんだ……。死のう……』 とうとう手を床についてうずくまった。 まずは能力者達の言葉攻めが成功かと思いきや――突如、豪雨が部屋全体を襲う! バケツを引っくり返したようなとか、滝のようなとは、まさにこのこと! (「この、雨男……ウザイ……!? 変なのと運命の糸が繋がってしまった……」) 慎斗はもう嫌悪感で一杯だ。 (「ええい、俺も能力者の一人だ。キッチリ仕事はこなしますとも。……いまから鬱になってきたぜ」) されど、やるしかない。 「やるしかないんだよな?」 けど、一応確認。 「そうみたいですね」 「……はぁ」 溜息は重く、雨は痛いほどに強い。 そして、これから思いっきり鬱な時間が始まるのだ。
●能力者のセリフは叫ぶようにお読みください(必須) 「夢緒は和食なれば滞りなくお料理かないまするが、洋食はいけませぬ! なんとしても、どこかで手順がひとつ、間違いまする! だし巻き卵は作れますのに、オムレツは焦げてしまいまする!」 雨に負けないように、夢緒はほとんど叫んでいた。 ただでさえ、自分の汚点を話さねばならないというのに何という屈辱! 演技でなくとも顔には苦悩が浮かぶ。 「ハンバーガーを買って家に帰って嬉々としてかぶりついたんだけど! そこにはお肉が存在していなかったんだ! ……味は強いて挙げるならピクルス味、文字通り苦い思い出になったよ! ……ハハ」 萌芽も同様。 叫んでいるうちに目には雨以外のものが薄っすらと混じってきやがった。コン、チクショウ! 「旅行先で食べ物を買ったんだけど、机と壁の間に放置してしまったわ! 数年単位で! 開ける勇気が無かったから捨てたわ! ……賞味期限は遥かに越えてたしね!」 もうほとんどシャウトである。 こうなってくると、戦葉も半分以上は自棄(やけ)だ。 おまけに地縛霊の口元には薄っすらと笑みが、目には興味の輝きが見える……。 (「自分より不幸な人を見ると強く幸福感を感じるなんて、人の不幸は蜜の味っていうことかしらね。でも、その蜜を味わいきったときがあなたの最後よ。ネタを聞いた御代は……あなたの存在そのもの」) 直ぐにでも攻撃したい気持ちを、戦葉はぐっと抑える。 (「人の不幸話を聞いてハッピーな気分になるとは、どんだけ根が暗いんですか。いや、人の不幸は蜜の味とは言うけれど。大変残念ながら、今の時期は不幸話が満載ですよ。こうなったら、不幸話を聞いてせいぜい幸せになって、倒されてよね!」) 出来ることなら、本音を叫びたいが、摩那もぐっと抑える。 今は我慢しなくては――何せ、水は早くも膝の辺りまで来ている。 「ふふふ……このあいだの中間テストさ! ……俺! テスト受け忘れたんだよ!」 今度は、慎斗が。 「よりによって、成績下位者は罰ゲームっていう企画に参加してるタイミングでさ! ……しかもよりによって依頼で重傷状態になっていたことも重なって! ……普通に受けていたら罰ゲーム回避できてたかもしれないのに! ……最下位だよ! 最下位! ……あ、鬱になってきた……」 もう最後はほとんど雨音に飲まれている。 ああ、何という悲劇的な状況。 ダメージも受けていないのに、能力者達はどんどん追い込まれているよ! 「……私、服がトールサイズになるのよね! 気に入ったデザインの服もサイズが置いてなかったりするし! 『お客さまのスタイルだとこのサイズは』というセリフを何度聞かされたことか!」 鳴海も続く。 自らを傷つけながらも勇猛果敢に……。 「ああ……私も水無瀬さんみたいなもっと背の低い可愛い女の子に生まれたかったわ!」 そして最後には崩れ落ちた。 しかし、仲間の犠牲をムダにしないためにもと、今度は戦葉が。 「この間、定期券を失くしてしまったの! 新しい定期券に買い換えたんだけど……数日後に旧定期券が発見されたわ! しかも、とっても身近なところから!」 何故、こんなことを叫ばなければならないのか! 「見つけれなかった自分に不甲斐なさを感じたわ! ……一生の不覚ものよ!」 何より、喜々としてくる地縛霊への恨みは募るばかり! (「雨は好きですけど超局地的ゲリラ豪雨要らないです!」) とうとう、水は摩耶の胸の辺りまでやってきた。 背の低い者は立ち泳ぎで何とかしている始末。 「あれあれ」 夢緒が頬を染めながら、胸元を両手で隠す。 「殿方の前にあられもなき姿を見せられませぬ」 おおっ! 確かにこの状況、防具によっては。 『うわぁ……これは凄いっ!』 別に叫んだ訳でもないのに、地縛霊がそれにマッハで反応した。 おまけに顔はだらしなく緩んでいる! 「地縛霊のく・せ・にーっ!」 摩耶が即座に突っ込み。 「何とも嫌な地縛霊だ。そういえば、最近、依頼で魅了BSにかかってばかりでさ……」 何か思い出したのか、慎斗が唐突に語り出した。 「周囲からヘンタイ扱いされる機会が増えたんだよ! ……ハハハ!」 言い終えて、がくりと。 「ダメだわ。このままでは悲しみが増えるばかりよ!」 「でも、どうしようもありません!」 とうとう水は2m近くの高さにまで。 アパートの天井に達するまでもう時間はあまり無い。 「なら、私が行きます!」 鈴芽が、地縛霊に近づき、 「数日前に母が男性と家を出て行ったきり戻らないんです!」 何と?! 実は、仕事の都合で職場に泊まり込み中で、送っていったのも父親なんだが……。 「父の落ち込み方は尋常じゃなく!」 単にバカップルで寂しいだけなんだが……。 「昨晩、包丁を手に持って!」 夕飯を作ってくれたそうな……。 「刺し……!」 『……なんてことだ』 おかずは刺身だったそうな……。 「私は……黙って見ているしかなかった! ……うぅっ」 『……可哀想に』 とうとう地縛霊も同情。まあ、魚を綺麗におろすのが難しいから鈴芽は見ていただけなのだが。 (「……ウソはついていないです」) 一応ねっ! だが! だが! まだ地縛霊はハッピーの限界に到達していない! 「……しぶとい」 「そういえば、今回偶然にも摩耶さんが2人いるんですね。女らしくて良い名前です♪」 ならば最終兵器。 鈴芽が切ったのは多くの悲しみを内包した両刃の剣(ネタ)。 「自分の名前は摩那です! 確かによく『摩耶』に間違えられますし! いちいち直すのが面倒だから放っておいたら! もう『摩耶』で覚えられて! 直すに直せないんですけど!!」 「俺、れっきとした男ですっ! でも名前! 摩耶って女性名なんですよっ! 親が山の名前でこれだって! でもせめて確認位して欲しかったっ!!」 さて、ここで問おう。 今までのセリフ、どちらがどっちのものであったのか、理解できていたであろうか? 読者諸氏も胸に手を当てて考えて欲しい。 「わたしもどっちで呼ばれてるか、もう分かんないんですけど!」 あっ、摩那が自棄になった。 「まあまあ、確かに二人の名前は似てるけど、俺はちゃんと摩那君と摩耶先輩の区別はついているよ?」 萌芽が慌ててフォロー。 よおーく考えてから、二人を指差す。 「「………」」 「逆よ!」「逆だ!」 「……あれ?!」 「お釈迦様のお母さんの名前だそーですけどっお母さん! ありがたい名前ですよええ。でもお母さんってー!」 摩耶はもう再起不能寸前。 「いや、名前なら俺も無髪なんて苗字のせいでよくハゲ扱いされたよ! ……あ、視界が滲む……」 何とか取り持とうとして、萌芽も自滅。 「本当に(髪が)無いわけじゃないから大丈夫ですよ! 今は!」 「………今は……今は……」 あっ、鈴芽が止めを刺した。 「この時期は水着コンもあって、体型の維持が大変なんだけど、冬の間に出ちゃいけないところが増えちゃって! 今、お腹減ってるんだけど! そして、今年の夏も彼氏いませんがー!」 と、摩那はこの間も暴露を続けていたようだ。 (「みなさんの不幸話聞いてると梅雨と一緒で気分が重くなるわね」) もう、鳴海は耳を塞ぎたい。 一体誰がここまでの悲劇を予想したであろうか? 『あっはははははは!』 「「うわっ?!」」 突然、水が無くなって能力者達は空中に投げ出された。 慌てて受け身を取り、前に向けば、大笑いをしている地縛霊が……!
●スーパー・ウルトラ・ハッピー地縛霊 「……幸せそうね」 「……大笑いしやがって」 怒り心頭。 理性ゲージ崩壊寸前。 「光あるところには影、影あるところには光がありまする。されど、影のみにとらわれるは、不幸にございまするな。もう十分に笑いをもたらしましたゆえに」 問答無用と、夢緒がターゲットロック。 「白き光を秘めたる蟲、ひとつになりて穢れを喰らい浄め賜え」 そしてすぐさま白燐侵食弾。 「こいつも食らえ、やっぱりおまえが雨男だー!!」 「人の不幸を笑うなーっ! ……正直俺も少し救われたけど!」 慎斗も、萌芽も攻撃を重ねる。 幸せに酔った地縛霊に避けるという選択肢は無く――直撃! 『ぐほぉ……あっはははははは!』 でも、笑ってる。 「人の不幸話で幸せそうな顔するな! マジ、腹立つんですけど!」 「それもこれも……みんなお前が悪いんだー!」 だが、それは能力者達の怒りを倍増させるだけ。 『げふっ、べほっ……』 摩那も、摩耶も、もう攻撃攻撃。 「あの世でどんぶらこしてきなさいっ!」 おっ、摩那のデモンストランダムがクリティカルヒット! 『ごほっごほっ……ぐっ、あっはははははは! ……もう笑い死にそうだ、苦しい』 「……あなたの脳みそ……ハッピーにしてあげようかと思ったけど」 「また不幸にしてあげましょう♪」 「そうね」 一向に収まらない地縛霊の大笑いに、戦葉と、鈴芽がとっても怖い笑顔を向ける。 もう、こうなったら作戦なんて関係ない。 「フルボッコでも生ぬるいですね」 「全殺しの全殺しで我慢してあげるわ」 で――六十秒の間、攻撃の雨と、血の雨が降り続いた訳で……。 『………げほっごほっ』 「……さよなら」 最後は、鳴海のさよならの指先で逝ったとさ。
●進め、能力者! くじけるな、能力者っ!! 「えーっと……とりあえず謝っておきます。ごめんなさい」 鈴芽の言葉に、 「ごめんなさい」 「ごめんね」 連鎖的に謝罪が続いた。 作戦だったとはいえ、いやはや何とも凄まじかった。 「……あ、後味が悪いというか、すっきりしない展開だった……」 ものすごく疲れた顔で、慎斗が言う。 不幸話に加えて、あの地縛霊……。 「雨男もどうせならあの話を水に流してくれればよかったのに……」 萌芽もぐったりと。 「あら、なかなか不幸話を言う機会ってないから……ちょっとスッとしたかも?」 しかし、戦葉は違った。 「王様の耳はロバの耳ってことね。みなさんも色々と苦労してるのね。いえ、生きてる限り苦労するものかしら、人生そんなものね」 思いっきり叫び、他の人の悩みも聞けて、確かにそんな感じになれたかも……? まあ、何にしても。 「また明日から……」 と、あんパンをかじりながら、摩那がつぶやく。 「そうですね」 「こんなことで落ち込んでなどいられませぬ」 「というか、あんな奴のことで落ち込んでなんかいられるか!」 「……え、ええ」 慌ててうなずく、摩那。 (「実はダイエットのことだったんだけど、まあいいわよね……」)
こうして去って行く、能力者達。 空にはちょっと晴れ間が見えたりもして――、 「うわっ、雨だ」 「誰が雨男ですか?」
……ごめん、気のせいだった。
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参加者:8人
作成日:2010/06/30
得票数:楽しい13
笑える8
カッコいい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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