夜間歩行


<オープニング>


「夜のピクニック、なんてどうかな?」
 百地・いろは(高校生呪言士・bn0209)の手には一枚の地図。
 興味を示したのを見て取り、彼女はさっと机の上に地図を広げた。
「この無人島なんだけね」
 外周は20km弱といったところ。
 海岸線は平坦な砂浜ばかり。
「まあ、何をするでもなく。ただ島をひと回り歩くだけなんだけどね」
 誰かとたわいのない話をしながら。
 いつもと違う空気を味わいながら。
 耳に届くのは潮騒の音か、虫の声か。
 空にはきっと満天の星が。
「一時間ごとに休憩を入れるから、本当にのんびりしたものだよ」
 日付が変わるぐらいから歩き始めて、一周する前に日の出が見える。
 日の出の後は団体行動ではなく、個人の自由。
 走って一番にゴール(一周)してもよいし、そのままのんびりとでも構わない。
「島には一般人がいないから、使役ゴーストと一緒に歩くのもいいかもしれないね」
 本業能力は構わないが、アビリティの使用は禁物。
 まあ、ゴーストもいない平和な島にそんなものは不要の限りだ。
「と、こんな感じだけど、どうだろう?」
 いろはは笑顔を見せる。
「一緒にこんな時間をすごしてみない?」

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参加者
NPC:百地・いろは(高校生呪言士・bn0209)




<リプレイ>


(「夜は、好きだ」)
 アキの目に、大きく欠けた月と、それを埋める星の光が映る。
(「満天の星空とか、冷たい空気とか、しんと静まりかえった世界とか……」)
 だが、最後のものはしばしお預けになりそうだ。
「すごい星、だね〜〜。降るような、ってこんな感じなんだね。この星明りなら、白燐蟲たちはお休みさせても大丈夫かな? さ、真希くん、張り切って行こーか!!」
「御桜先輩は、いつも元気っすねぇ……」
 そろそろ仮眠を終えた参加者が集まり始めて、夜の海岸は賑やかになってきた。
「お久しぶりです。賑やかなことになっていますね」
「久しぶり、のんびりと楽しんでもらえればいいのだけど」
 克乙と乙姫(真サキュバス)が挨拶をすれば、いろはが笑顔で応える。
「最近事が多すぎるので、こう云う機会は有難いです」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「いろは先輩とおさんぽに来ました。がんばって歩きますよー♪」
 続いて、夏美が天真爛漫な笑顔と共に。
「うん、頑張ろうね。しかし、夏美は暗いところは大丈夫だったかな?」
「暗くてもこわくないのです……す、すみません。ちょっとだけ手をつないでください」
「いいよ」
 と、答えて手を差し出せば、
「わたしも、ちょっと心細いのじゃ。いろは殿、近くを歩いてもよいかのぅ?」
 ユラがおそるおそると尋ねてくる。
「構わないけど、どうせなら手を繋がない? 実は私も少しだけ怖くてね」
「なら、仕方ないのぅ。繋いであげるのじゃ」
 こうして、左に夏美、右にユラ。
 何やら微笑ましい光景に、周りの者も口元を緩める。
「皆様、改めてこんばんはですの。ちゃんと起きていらっしゃいます?」
 今度は、芽亜が挨拶にきた。
「私は、夜の遊歩者=フラヌール・ド・ニュイとでもいったものですから、夜歩きの楽しみはよく分かっておりますわ。もっとも、フラヌールはその定義から、市街地を闊歩するもののことで――」
 口上のように述べ上げ、再び軽く一礼。
 ちょうど目線を上げたところに、ひなたと、葬の姿が。
「唯歩くだけですから、すぐに飽きちゃうんじゃないですか?」
「そんなことないよ、ちゃんとカメラマンとしてみんなの決定的瞬間を撮らないとね♪」
 そう言って、ひなたはデジカメをかざす。
「ひなたさま、ご一緒しましょうか。猫に鈴、ともいいます」
「? よく分からないけど、いいよ、芽亜ちゃんも一緒に行こう」
 そこに、セレナの黄色い声が。
「大五郎せんぱーい♪ ――きゃっ!」
「むっ」
 砂に足を取られたセレナを、とっさに大五郎が受け止める。
「シャッターチャンス!」
「「だめですよ」」
「……せっかくのチャンスがー!」
 セレナと、大五郎はその間に体勢を立て直し、
「ご一緒させていただいてよろしいでしょうか」
「ああ、構わんよ。よろしくな」
 何やら良い雰囲気。お邪魔者は必要無さそうだ。
 そして、いよいよスタート!


 一同が歩き始める前に、二つの影が集団を抜け出した。
 レイリアと、エオン――人狼の二人だ。
 エオンの提案で、二人とも狼の姿での疾走。瞬く間に距離が開いていく。
(「風を切る感触が気持ち良いな」)
 銀狼(レイリア)の毛並みが星の光を受けて淡く輝く。隣には闇夜に溶け込んだ黒狼(エオン)。
「さすがに速いな」
 それを見送って、一同はゆっくりと歩き出した。
(「天然の照明だけで、そぞろ歩き、ってヤツだな。……海風を背に、涼みと洒落込むか」)
 真希が他の参加者に目を向けてから、隣の八重に視線を戻す。
(「夜歩きはゴースト狩りでよくやるが、たまにはのんびり歩くのも悪くないな」)
 彼方がぼんやりと歩を進めていると、
「暗くてよく見えませんわね。彼方さん、そこにいらっしゃいますか?」
 近くから紗耶の声が。
「あの、はぐれないようによろしければ手をつないで歩きませんか?」
「手を繋ぐ? ……ん、いいけど」
「わー手が大きいですの。羨ましいですわ」
 握り返された手が温かい。
(「他のメンバーに知られたらなんか色んな意味で面倒っぽいよなぁ」)
 脳裏に浮かぶのはいささかの不安。
 だが、似たようなことになっている者は他にも。
「タキちゃん、待ってのぅ〜」
「ちょっと。言いだしっぺが迷子とかやめてよね」
 タキの持った懐中電灯を目印に、初がハバネロのぬいぐるみを抱っこして追いかける。
 嘆息した後に、仕方ないといった感じで差し出される手。
「別に。迷子になられたら迷惑なだけだし。心配とかじゃ……」
 もっとも初はそんなことはお構いなしに、手をぎゅぅとした。
「ありがとタキちゃん! でも初、子供じゃないのぅ!」
 次の言葉がこれなのだから、タキとしては肩をすくめるほかなく。
「お空と海が一つねぃ」
 初の言うとおり、水平線はまったく見分けがつかない。
 ただ、星の瞬きが違いを分けるのみ。
「魔剣士は闇纏いがあるけど……こうしていると本当に闇の中に溶けて、島や空や何か大きな存在の一部になってしまったような……不思議な気持ちになっちゃいますね」
 レイラのつぶやきも闇の中に溶けていく。
「夜にこうやって歩くなんて……。耳を傾けてみるとこんなにも木々の葉が揺れる音、海の潮騒、鳥や虫の声に満ち溢れているんだな」
 代わりに、煌輝は周りに注意を配る。
「上を見上げれば都会では見れない満点の星空。天の川もこんなにくっきり……」
「星が……すごいのです」
「星が沢山見えるのじゃ。森にいた頃は木々の隙間からも見えたが、空にはもっと沢山星がまたたいているのじゃな」
 感嘆の声を上げる、夏美と、ユラ。
「……この星空の輝きはみんなの願いの煌きなのかもな」
 煌輝のつぶやきに、他の者も上を向いて。
「普段見ている景色とは別物ですねぇ♪」
 ジェニファーの声が弾む。麻里が、克乙が夜空に思いを馳せる。
「それにしても……綺麗な星空……」
 悠も見上げ、ふと真ケルベロスベビーの様子が気になって目線を落とせば、
「それにしてもちょこまか動いて……楽しそうだね、アル」
 その様子に思わず微笑が浮かぶ。
「迷惑さえかけなかったら駆けずり回ってもいいよ?」
 待っていたようにアルは闇の中へと走り――もう姿が見えない。
「もろたかも走り回ってみたいですか?」
「にー」
 師将が隣の真ケットシー・ガンナーに話しかけるが、その真意は読み取れない。
 そうしているうちに早くも休憩の時間だ。

「手作りの簡単な一口パンを作ってきましたの。よろしければ皆様、召し上がりません?」
「おひとつどうですか?」
 紗耶がパンを、夏美がおにぎりを勧める。
 一回目の休憩だけあって、誰しもまだ余裕の表情。
「茶が入ったぞ、エオン殿も変身を解いてはどうだ?」
 レイリアと、エオンも合流済み。
 しかし、エオンは狼変身を解かず、首に引っ掛けた水筒を開けて欲しいと仕草で示す。
「それでは飲みにくいだろうに」
 どうやら、道中はずっとこのままのようだ。
「いろはさん聞きましたよ、なんでも修行時代は結構なやんちゃだったとか! いろんな武勇伝があるらしいですけど、どんなことをしてたんですか?」
 この場の雰囲気にも慣れてきて、自然と軽口が多くなっている。
「私も興味がありますね」
「聞きたいのです」
 克乙がお茶を配りながら、師将も持参したおやつを持って話しに入ってきた。
「……そんな大したことじゃなくてね」
 和気藹々と、そして楽しい時間が過ぎていく。

 夜の闇にも慣れてきたのか、先ほどよりも間隔を開けて一同は進む。
(「考えてみたらエルとこうして出かけんの初めてなんだよな。何つーか……誘ってもらえて嬉しい」)
 それを心の内に秘めたまま、狼に化けたナッシュは、隣を歩く狐(エルバート)の様子をうかがい。
 ――ぺし。
 試しに尻尾ではたいて足を速める。
(「何したいんだ?」)
 エルバートは疑問を浮かべるが、答は分からず。
 とりあえず、スピードを上げて横に並べば――また、ナッシュが足を速めた。
 置いていかれたら困ると、また追いかけ、抜かれたら抜き返す――こうなれば意地の張り合いだ。
「きゃう!」
 そこにナッシュの声がした。振りかえれば、濡れた砂に足を取られて転んでいる。
(「何やってんだ」)
 そんな思いを浮かべながらも、怪我が無いか確認に。
(「色々からかわれるんだろうなぁ。でも」)
 ナッシュの方も戻ってきてくれたことが嬉しくて。
 そうしている内に、一同が追いついてきた。
(「最近荒れてましたからねぇ。こうやってクールダウンするのも大切ですねぇ」)
 波音が、双牙の耳に届く。
 押し寄せる波は足元を濡らして引き返していった。
「(波音ってなんか落ち着きますねぇ)」
「海があるのに入らないなんて勿体ないです!」
 だが、そのつぶやきは、麻里の声に掻き消えていく。
 どうやら、説得しようと熱弁を振るっているようだ。
「ダメですか……?」
「ねぇ、いろは先輩。時間もあるしいいよね?」
 いつの間にか、ひなたも説得側に回っている。
「……少しだけだよ」
「わーい♪」
「冷たくて気持ち良いですね♪」
「では、私も」
 ほとんど返答を待たずして駆け出していく。芽亜もこのときばかりは追随して。

 再び休憩時間。
 潮騒に耳を傾けながら、レイラは星を見つめていた。
「綺麗だね」
 声をかけて、いろはが横に座る。
「百地さん……一緒に写真を撮りませんか?」
「うん? 構わないよ。じゃあ、ひなたを探して来ようか」
 いろはが立ち上がったところに近づいていくる人影。
「どうです? 気を抜いてますか?」
 それは、双牙であった。
「ああ、のんびりしたものだよ」
「それは重畳です。貴女は考え過ぎな時がありますから、それ位が丁度良いですよ」
「……えっ、な、何を?」
 気が付けば、双牙に頭を撫でられている。
「シャッターチャンス♪」
 しかも、カメラにそれを収められてしまった。
「ひなた、それを渡せっ!」
「ええっ、いやだよ」
「楽しそうですね」
「まったく」

 夜は穏やかに、そして一同ものんびりとお喋りの時間を楽しんでいる。
「こういう時期は、四国を思い出すのかな?」
 アキの問に、いろははしばし考えるような仕草。
(「僕は……故郷が無いから、良く判らないけど……多分、故郷ってこんな感じなのかなぁ」)
 センチメンタルな感情が浮かぶのも、こんな機会だからか。
「浮いた話が無いのかと思ってたけど、いろはも隅におけないね」
 そこに話かけてきたのは、茂理。にこやかな笑みは邪推の現れ。
「……茂理、いや、これはそんなんじゃなくて」
「いや、柔らかかったとか、温かかったとか……あっ間違えた」
 不意打ちだったもので、アキは脳裏に浮かんでいた別の単語をこぼしてしまった。
「詳しく聞かせてもらおうかな」
 どうにも逃げ場が無い。
「もう少しで学園祭ですが、どんな予定たててますか」
「う〜ん、模擬店や屋台とか回って、何か面白いことやってたらそれを見て――」
 近くでは、葬と、ひなたもお喋りの最中。
「変わりませんね。なら、時間が空いてましたら一緒に模擬店見に行きませんか〜」
「いいよ。じゃあ、どこに行こうか?」
 楽しい話題は尽きることなく。
「あ、この声はひなさんです♪ ひなさーん!」
「紗耶ちゃんだ、おーい!」
 声を聞きつけ、互いに手を振りあう。
「飴を持ってきましたの。よろしければ歩きながらでも食べて回復してくださいね」
「わーい、ありがとうなんだよ♪」
 二人の楽しそうな様子に、彼方は口の中で飴を転がしつつ微笑を浮かべる。
(「元気なのはいいことだ。うん」)
 この分なら残りの歩みも退屈しないで済みそうだ。
 また最後尾では、
「戦争とか、存在しない世界にしたいっすよね〜……」
 夜の闇に、真希のつぶやきがとけていて。
「あ? い、いや、その、別に。……ちんまい奴ら、傷つけたくないじゃないっすか。幸せそうに、咽喉鳴らしてて欲しいっすよ」
 慌てて言い訳を入れるのは自分のキャラで無いと思ったからか。
「あー、何言ってんだろ俺」
 それとも単なる照れ隠しか。
「(……優しいんだね、うん)」
 八重は目を閉じ、聞こえないようにつぶやく。
「腹減らないっすか? 握り飯持って来たっす。どうぞっす!」
 やはり、真希には聞こえなかったのか誤魔化すようにおにぎりを。
「おにぎりは、ちょっと体重が気になるけどいただきます。今日はたっぷり歩いてるし、大丈夫! きっと……いただきまーす!」
 だから、八重も聞こえてないままに。
「ん〜……夜のお散歩も悪くないですねぇ♪」
 涼風を受けながら、ジェニファーがそんな一同の様子をぼんやりと眺めていた。

 またまた休憩時間。
「おーい、大五郎君」
「……うん、龍麻か」
「あっ、セレナはこれで……明るくなってから一人で読んでくださいね」
 大五郎に手紙を渡し、セレナは脱兎のごとく駆けていく……あっ、転んだ。
「お邪魔だったかな?」
「いや、そのな」
 返答に何やら困り気味。
「痛っ、何かにつまずいた?」
 だから代わりに、話を逸らして、
「あー椰子の実だー♪」
「おお、これは大きいな」
 二人とも出来た話題に興味を向ける。
 そこに真ケルベロスベビーが飛びついてきた。どうやらボールか何かと思ったようだ。
「アル」
 慌てて、悠が駆け寄ってくる。大五郎の姿を見つけると、
「触ってみます? 使役と戯れる機会なんてそう無いでしょうし……それにほら、この子見た目猫っぽいし! 意外ともふもふなんですよ?」
「そうか……では」
 ゆっくりと怖がらせないように。
「風の便りに聞いたのですが、最近猫を飼われたそうですね」
 いつの間にか、克乙も輪の中に。
 そのまま猫の話題へと移っていく。


 水平線から陽光が溢れ出した。
「日の出もこうして見るといつもより綺麗じゃのぅ」
 ユラがいろはの手を握ったまま感慨深げな声を出した。
「一日の身体の疲れや辛い出来事によるネガティブな気持ち。夜明け前の深い闇はそう言ったものを思い出させる。でもそれは、夜明けの光がもたらすもの……新しい展開、新しい発想、新しい気分、そんな朝日の前に闇は晴れていく……」
「ああ、太陽が昇ると今日も一日がはじまって行くって感じだよな。さあ、あとひと頑張りだ!」
 茂理の言葉に、煌輝が続く。
 もうここからは自由に。
「(誘ってくれてどうも)」
 ――ザザーン。
「えっ、タキちゃんいまなんて?」
 波音に紛れた言葉を、初が問い返す。けれど、タキは答えずにとぼけたフリ。
「よく分からないけど、いっぱいアリガトするのぅ!」
 声は聞こえずともその意図は十分に伝わっていた。
「今夜はありがとう、次は人型でどこかエスコートするよ」
「エオン殿」
 エオンもまた、レイリアに感謝の言葉を。
 その後ろでは、大五郎はセレナから受け取ったピンクの手紙をのぞき込んでいる。
 顔が赤いのはそういう内容だからか、朝日を受けているからか。
 いずれにせよ、ゴールは近い。
 あと少し――励まし合う声と共に、歩みが続く。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:26人
作成日:2010/07/16
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