<リプレイ>
● (「夜は、好きだ」) アキの目に、大きく欠けた月と、それを埋める星の光が映る。 (「満天の星空とか、冷たい空気とか、しんと静まりかえった世界とか……」) だが、最後のものはしばしお預けになりそうだ。 「すごい星、だね〜〜。降るような、ってこんな感じなんだね。この星明りなら、白燐蟲たちはお休みさせても大丈夫かな? さ、真希くん、張り切って行こーか!!」 「御桜先輩は、いつも元気っすねぇ……」 そろそろ仮眠を終えた参加者が集まり始めて、夜の海岸は賑やかになってきた。 「お久しぶりです。賑やかなことになっていますね」 「久しぶり、のんびりと楽しんでもらえればいいのだけど」 克乙と乙姫(真サキュバス)が挨拶をすれば、いろはが笑顔で応える。 「最近事が多すぎるので、こう云う機会は有難いです」 「そう言ってもらえると助かるよ」 「いろは先輩とおさんぽに来ました。がんばって歩きますよー♪」 続いて、夏美が天真爛漫な笑顔と共に。 「うん、頑張ろうね。しかし、夏美は暗いところは大丈夫だったかな?」 「暗くてもこわくないのです……す、すみません。ちょっとだけ手をつないでください」 「いいよ」 と、答えて手を差し出せば、 「わたしも、ちょっと心細いのじゃ。いろは殿、近くを歩いてもよいかのぅ?」 ユラがおそるおそると尋ねてくる。 「構わないけど、どうせなら手を繋がない? 実は私も少しだけ怖くてね」 「なら、仕方ないのぅ。繋いであげるのじゃ」 こうして、左に夏美、右にユラ。 何やら微笑ましい光景に、周りの者も口元を緩める。 「皆様、改めてこんばんはですの。ちゃんと起きていらっしゃいます?」 今度は、芽亜が挨拶にきた。 「私は、夜の遊歩者=フラヌール・ド・ニュイとでもいったものですから、夜歩きの楽しみはよく分かっておりますわ。もっとも、フラヌールはその定義から、市街地を闊歩するもののことで――」 口上のように述べ上げ、再び軽く一礼。 ちょうど目線を上げたところに、ひなたと、葬の姿が。 「唯歩くだけですから、すぐに飽きちゃうんじゃないですか?」 「そんなことないよ、ちゃんとカメラマンとしてみんなの決定的瞬間を撮らないとね♪」 そう言って、ひなたはデジカメをかざす。 「ひなたさま、ご一緒しましょうか。猫に鈴、ともいいます」 「? よく分からないけど、いいよ、芽亜ちゃんも一緒に行こう」 そこに、セレナの黄色い声が。 「大五郎せんぱーい♪ ――きゃっ!」 「むっ」 砂に足を取られたセレナを、とっさに大五郎が受け止める。 「シャッターチャンス!」 「「だめですよ」」 「……せっかくのチャンスがー!」 セレナと、大五郎はその間に体勢を立て直し、 「ご一緒させていただいてよろしいでしょうか」 「ああ、構わんよ。よろしくな」 何やら良い雰囲気。お邪魔者は必要無さそうだ。 そして、いよいよスタート!
● 一同が歩き始める前に、二つの影が集団を抜け出した。 レイリアと、エオン――人狼の二人だ。 エオンの提案で、二人とも狼の姿での疾走。瞬く間に距離が開いていく。 (「風を切る感触が気持ち良いな」) 銀狼(レイリア)の毛並みが星の光を受けて淡く輝く。隣には闇夜に溶け込んだ黒狼(エオン)。 「さすがに速いな」 それを見送って、一同はゆっくりと歩き出した。 (「天然の照明だけで、そぞろ歩き、ってヤツだな。……海風を背に、涼みと洒落込むか」) 真希が他の参加者に目を向けてから、隣の八重に視線を戻す。 (「夜歩きはゴースト狩りでよくやるが、たまにはのんびり歩くのも悪くないな」) 彼方がぼんやりと歩を進めていると、 「暗くてよく見えませんわね。彼方さん、そこにいらっしゃいますか?」 近くから紗耶の声が。 「あの、はぐれないようによろしければ手をつないで歩きませんか?」 「手を繋ぐ? ……ん、いいけど」 「わー手が大きいですの。羨ましいですわ」 握り返された手が温かい。 (「他のメンバーに知られたらなんか色んな意味で面倒っぽいよなぁ」) 脳裏に浮かぶのはいささかの不安。 だが、似たようなことになっている者は他にも。 「タキちゃん、待ってのぅ〜」 「ちょっと。言いだしっぺが迷子とかやめてよね」 タキの持った懐中電灯を目印に、初がハバネロのぬいぐるみを抱っこして追いかける。 嘆息した後に、仕方ないといった感じで差し出される手。 「別に。迷子になられたら迷惑なだけだし。心配とかじゃ……」 もっとも初はそんなことはお構いなしに、手をぎゅぅとした。 「ありがとタキちゃん! でも初、子供じゃないのぅ!」 次の言葉がこれなのだから、タキとしては肩をすくめるほかなく。 「お空と海が一つねぃ」 初の言うとおり、水平線はまったく見分けがつかない。 ただ、星の瞬きが違いを分けるのみ。 「魔剣士は闇纏いがあるけど……こうしていると本当に闇の中に溶けて、島や空や何か大きな存在の一部になってしまったような……不思議な気持ちになっちゃいますね」 レイラのつぶやきも闇の中に溶けていく。 「夜にこうやって歩くなんて……。耳を傾けてみるとこんなにも木々の葉が揺れる音、海の潮騒、鳥や虫の声に満ち溢れているんだな」 代わりに、煌輝は周りに注意を配る。 「上を見上げれば都会では見れない満点の星空。天の川もこんなにくっきり……」 「星が……すごいのです」 「星が沢山見えるのじゃ。森にいた頃は木々の隙間からも見えたが、空にはもっと沢山星がまたたいているのじゃな」 感嘆の声を上げる、夏美と、ユラ。 「……この星空の輝きはみんなの願いの煌きなのかもな」 煌輝のつぶやきに、他の者も上を向いて。 「普段見ている景色とは別物ですねぇ♪」 ジェニファーの声が弾む。麻里が、克乙が夜空に思いを馳せる。 「それにしても……綺麗な星空……」 悠も見上げ、ふと真ケルベロスベビーの様子が気になって目線を落とせば、 「それにしてもちょこまか動いて……楽しそうだね、アル」 その様子に思わず微笑が浮かぶ。 「迷惑さえかけなかったら駆けずり回ってもいいよ?」 待っていたようにアルは闇の中へと走り――もう姿が見えない。 「もろたかも走り回ってみたいですか?」 「にー」 師将が隣の真ケットシー・ガンナーに話しかけるが、その真意は読み取れない。 そうしているうちに早くも休憩の時間だ。
「手作りの簡単な一口パンを作ってきましたの。よろしければ皆様、召し上がりません?」 「おひとつどうですか?」 紗耶がパンを、夏美がおにぎりを勧める。 一回目の休憩だけあって、誰しもまだ余裕の表情。 「茶が入ったぞ、エオン殿も変身を解いてはどうだ?」 レイリアと、エオンも合流済み。 しかし、エオンは狼変身を解かず、首に引っ掛けた水筒を開けて欲しいと仕草で示す。 「それでは飲みにくいだろうに」 どうやら、道中はずっとこのままのようだ。 「いろはさん聞きましたよ、なんでも修行時代は結構なやんちゃだったとか! いろんな武勇伝があるらしいですけど、どんなことをしてたんですか?」 この場の雰囲気にも慣れてきて、自然と軽口が多くなっている。 「私も興味がありますね」 「聞きたいのです」 克乙がお茶を配りながら、師将も持参したおやつを持って話しに入ってきた。 「……そんな大したことじゃなくてね」 和気藹々と、そして楽しい時間が過ぎていく。
夜の闇にも慣れてきたのか、先ほどよりも間隔を開けて一同は進む。 (「考えてみたらエルとこうして出かけんの初めてなんだよな。何つーか……誘ってもらえて嬉しい」) それを心の内に秘めたまま、狼に化けたナッシュは、隣を歩く狐(エルバート)の様子をうかがい。 ――ぺし。 試しに尻尾ではたいて足を速める。 (「何したいんだ?」) エルバートは疑問を浮かべるが、答は分からず。 とりあえず、スピードを上げて横に並べば――また、ナッシュが足を速めた。 置いていかれたら困ると、また追いかけ、抜かれたら抜き返す――こうなれば意地の張り合いだ。 「きゃう!」 そこにナッシュの声がした。振りかえれば、濡れた砂に足を取られて転んでいる。 (「何やってんだ」) そんな思いを浮かべながらも、怪我が無いか確認に。 (「色々からかわれるんだろうなぁ。でも」) ナッシュの方も戻ってきてくれたことが嬉しくて。 そうしている内に、一同が追いついてきた。 (「最近荒れてましたからねぇ。こうやってクールダウンするのも大切ですねぇ」) 波音が、双牙の耳に届く。 押し寄せる波は足元を濡らして引き返していった。 「(波音ってなんか落ち着きますねぇ)」 「海があるのに入らないなんて勿体ないです!」 だが、そのつぶやきは、麻里の声に掻き消えていく。 どうやら、説得しようと熱弁を振るっているようだ。 「ダメですか……?」 「ねぇ、いろは先輩。時間もあるしいいよね?」 いつの間にか、ひなたも説得側に回っている。 「……少しだけだよ」 「わーい♪」 「冷たくて気持ち良いですね♪」 「では、私も」 ほとんど返答を待たずして駆け出していく。芽亜もこのときばかりは追随して。
再び休憩時間。 潮騒に耳を傾けながら、レイラは星を見つめていた。 「綺麗だね」 声をかけて、いろはが横に座る。 「百地さん……一緒に写真を撮りませんか?」 「うん? 構わないよ。じゃあ、ひなたを探して来ようか」 いろはが立ち上がったところに近づいていくる人影。 「どうです? 気を抜いてますか?」 それは、双牙であった。 「ああ、のんびりしたものだよ」 「それは重畳です。貴女は考え過ぎな時がありますから、それ位が丁度良いですよ」 「……えっ、な、何を?」 気が付けば、双牙に頭を撫でられている。 「シャッターチャンス♪」 しかも、カメラにそれを収められてしまった。 「ひなた、それを渡せっ!」 「ええっ、いやだよ」 「楽しそうですね」 「まったく」
夜は穏やかに、そして一同ものんびりとお喋りの時間を楽しんでいる。 「こういう時期は、四国を思い出すのかな?」 アキの問に、いろははしばし考えるような仕草。 (「僕は……故郷が無いから、良く判らないけど……多分、故郷ってこんな感じなのかなぁ」) センチメンタルな感情が浮かぶのも、こんな機会だからか。 「浮いた話が無いのかと思ってたけど、いろはも隅におけないね」 そこに話かけてきたのは、茂理。にこやかな笑みは邪推の現れ。 「……茂理、いや、これはそんなんじゃなくて」 「いや、柔らかかったとか、温かかったとか……あっ間違えた」 不意打ちだったもので、アキは脳裏に浮かんでいた別の単語をこぼしてしまった。 「詳しく聞かせてもらおうかな」 どうにも逃げ場が無い。 「もう少しで学園祭ですが、どんな予定たててますか」 「う〜ん、模擬店や屋台とか回って、何か面白いことやってたらそれを見て――」 近くでは、葬と、ひなたもお喋りの最中。 「変わりませんね。なら、時間が空いてましたら一緒に模擬店見に行きませんか〜」 「いいよ。じゃあ、どこに行こうか?」 楽しい話題は尽きることなく。 「あ、この声はひなさんです♪ ひなさーん!」 「紗耶ちゃんだ、おーい!」 声を聞きつけ、互いに手を振りあう。 「飴を持ってきましたの。よろしければ歩きながらでも食べて回復してくださいね」 「わーい、ありがとうなんだよ♪」 二人の楽しそうな様子に、彼方は口の中で飴を転がしつつ微笑を浮かべる。 (「元気なのはいいことだ。うん」) この分なら残りの歩みも退屈しないで済みそうだ。 また最後尾では、 「戦争とか、存在しない世界にしたいっすよね〜……」 夜の闇に、真希のつぶやきがとけていて。 「あ? い、いや、その、別に。……ちんまい奴ら、傷つけたくないじゃないっすか。幸せそうに、咽喉鳴らしてて欲しいっすよ」 慌てて言い訳を入れるのは自分のキャラで無いと思ったからか。 「あー、何言ってんだろ俺」 それとも単なる照れ隠しか。 「(……優しいんだね、うん)」 八重は目を閉じ、聞こえないようにつぶやく。 「腹減らないっすか? 握り飯持って来たっす。どうぞっす!」 やはり、真希には聞こえなかったのか誤魔化すようにおにぎりを。 「おにぎりは、ちょっと体重が気になるけどいただきます。今日はたっぷり歩いてるし、大丈夫! きっと……いただきまーす!」 だから、八重も聞こえてないままに。 「ん〜……夜のお散歩も悪くないですねぇ♪」 涼風を受けながら、ジェニファーがそんな一同の様子をぼんやりと眺めていた。
またまた休憩時間。 「おーい、大五郎君」 「……うん、龍麻か」 「あっ、セレナはこれで……明るくなってから一人で読んでくださいね」 大五郎に手紙を渡し、セレナは脱兎のごとく駆けていく……あっ、転んだ。 「お邪魔だったかな?」 「いや、そのな」 返答に何やら困り気味。 「痛っ、何かにつまずいた?」 だから代わりに、話を逸らして、 「あー椰子の実だー♪」 「おお、これは大きいな」 二人とも出来た話題に興味を向ける。 そこに真ケルベロスベビーが飛びついてきた。どうやらボールか何かと思ったようだ。 「アル」 慌てて、悠が駆け寄ってくる。大五郎の姿を見つけると、 「触ってみます? 使役と戯れる機会なんてそう無いでしょうし……それにほら、この子見た目猫っぽいし! 意外ともふもふなんですよ?」 「そうか……では」 ゆっくりと怖がらせないように。 「風の便りに聞いたのですが、最近猫を飼われたそうですね」 いつの間にか、克乙も輪の中に。 そのまま猫の話題へと移っていく。
● 水平線から陽光が溢れ出した。 「日の出もこうして見るといつもより綺麗じゃのぅ」 ユラがいろはの手を握ったまま感慨深げな声を出した。 「一日の身体の疲れや辛い出来事によるネガティブな気持ち。夜明け前の深い闇はそう言ったものを思い出させる。でもそれは、夜明けの光がもたらすもの……新しい展開、新しい発想、新しい気分、そんな朝日の前に闇は晴れていく……」 「ああ、太陽が昇ると今日も一日がはじまって行くって感じだよな。さあ、あとひと頑張りだ!」 茂理の言葉に、煌輝が続く。 もうここからは自由に。 「(誘ってくれてどうも)」 ――ザザーン。 「えっ、タキちゃんいまなんて?」 波音に紛れた言葉を、初が問い返す。けれど、タキは答えずにとぼけたフリ。 「よく分からないけど、いっぱいアリガトするのぅ!」 声は聞こえずともその意図は十分に伝わっていた。 「今夜はありがとう、次は人型でどこかエスコートするよ」 「エオン殿」 エオンもまた、レイリアに感謝の言葉を。 その後ろでは、大五郎はセレナから受け取ったピンクの手紙をのぞき込んでいる。 顔が赤いのはそういう内容だからか、朝日を受けているからか。 いずれにせよ、ゴールは近い。 あと少し――励まし合う声と共に、歩みが続く。
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参加者:26人
作成日:2010/07/16
得票数:楽しい6
ハートフル9
ロマンティック2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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