山砕きの魔獣・轟天丸


<オープニング>


「みんな、集まったわね」
 放課後の武道場。八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)は集まった能力者達を見回し語り出す。
「今回、あなた達に頼みたいのは、ある山奥で見つかった強力な残留思念の対処よ」
 その残留思念は、ある巨大な岩の前に存在しているという。その岩自体は、どうやら自然のものではないらしく風雨にさらされ読む事もかなわないが、何やら文字が刻まれた跡がある。
「実は、民俗学とかそっちの方では知る人ぞ知る岩らしくてね。普段はそのまま山奥に放置されているけど時折研究家とかが訪れたりするらしいの。だから危険になる前に詠唱銀でゴースト化させて今の内に処理してちょうだい」
 巴はそこまで言うと、懐から一枚の地図を取り出すと能力者達の目の前で広げて見せた。
「ここが、問題の岩よ。周囲は切り開かれていてかなりの広い範囲が平地になっているわ。障害物らしい物もこの岩しかないし、思い切り戦って大丈夫よ」
 そして、残留思念から出現するのは四体の妖獣だ。巴が言うには、特に用心すべきなのは体長十メートル近い熊の妖獣だという。
「その背中に二本の巨大な銅剣が突き刺さった赤い四つの目を持つ銀色の熊よ。その背中の銅剣から遠距離まで視界内を埋め尽くす電撃を放ち、その咆哮で近接の全周に対象を吹き飛ばす衝撃波を撒き散らし、その身に八つ雷球を生み出してまとう事により回復と同時に大幅に攻撃力を上昇させるわ。特に、電撃は攻撃力が高い上に『追撃』の効果があるわ、要注意よ。攻守に優れた強敵だけど、唯一の救いはその背中の銅剣が重いから立ち上がる事も出来ず、動きもかなり遅いことね」
 後は、三体の体長三メートルほどの黒曜石の大蛇が同時に出現する。この大蛇は遠距離の広範囲の強化している対象を回復を阻害する魔眼を持ち、その身をより強固にする事により回復と同時にガード能力を向上させてくる。
「この三体の黒曜石の大蛇が横一列に並び、銀色の熊がその前衛になるように出現するわ。油断すると、一気に形勢を決められかねないわよ? 十分に戦術を練って対処にあたってね」
 巴はそこまで語ると、いつもの信頼の笑みで能力者達の顔を見回した。
「いい? 相手は知性が低いから連携らしい連携は取ってこないわ。その分、強力な個体ばかりだから油断だけはしちゃ駄目よ――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 そう締めくくり、巴は能力者達を見送った。

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参加者
アレックス・ザナンドゥ(中学生真魔弾術士・b05408)
鬼一・法眼(クライマックス馬鹿・b14040)
大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)
ルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)
的場・遼(ゾンビハンター・b24389)
闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
詩森・しらら(詩う森のしららん・b49090)
駒杖・蒼迩(ホールドアウター・b60988)
鳥越・九(鳥を越えて人類の敵・b68569)



<リプレイ>


 ――その岩は文字通り長い歳月を鎮座し続けたように、そこにただあった。
「人工的な巨大な岩か……。何かを祀ってあるのか、何かの記念なのか」
 その岩の表面――かろうじて感じ取れる人口的な凹凸を撫でながら思いを馳せていた駒杖・蒼迩(ホールドアウター・b60988)は、すぐに意識を切り替える。
 そこは、その岩を中心に切り開かれた平地になっていた。この岩を調査するために研究家達の手によるものなのだろう、自然にはありえない空白地帯だ。
「今回のはかなり厄介ですから気を引き締めていかないと……! ルリナさん、負けませんよ」
「私も負けるつもりはありません」
 ライバル意識を持つアレックス・ザナンドゥ(中学生真魔弾術士・b05408)とルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)のやりとりを見ながら、詩森・しらら(詩う森のしららん・b49090)が一人うんうんとうなずきながら握り拳を作る。
「轟天丸、なんて強そーな名前でしょーかっ!! でも、負けません。『しらら』だって強そうです」
「んじゃ、配置付いたな?準備は良いか? ――覚悟はOK?」
 そんな仲間達へ、詠唱銀を手の中で弄びながら闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)が問い掛ければ配置についた仲間達からうなずきが返った。
 それを見た啓が残留思念へと詠唱銀を撒いた瞬間――バチンッ! と岩を中心に放電光が周囲を埋め尽くした。
 その放電光の中からまず姿を現したのは、黒曜石の体を持つ体長三メートルの蛇だ。その硬いからだか、パキパキパキ、と鳴らしながらくねらせる三体の黒曜の大蛇の前へ放電光が一気に収束し――銀色の毛並みを持つ熊へと変貌する。
『グ、ル、アアアアアアアアアアアアッ!』
 その十メートル近い巨体を震わせて、四つの目を赤く輝かせながら轟天丸が唸りをあげた。さながら翼のような巨大な銅剣がパシリッ! と雷をまとう。
 その深々と刺さった銅剣に眉根を寄せ、大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)がこぼした。
「背中に剣とかちょっとお気の毒ですけど、放っておけませんし倒しませんと……」
「熊と蛇の妖獣か。どうせなら、もっこり美人な地縛霊でも出てきてくれないかねぇ。そうすりゃやる気100倍になるんだけどな……」
 その場にはそぐわない調子で的場・遼(ゾンビハンター・b24389)が深い落胆のため息をこぼす。
「久しぶりに大物相手ね……気が抜けないわ」
「フム……手強い獣相手か、悪くない。精々上手く立ち回るとしようか」
 皆月・弥生(夜叉公主・b43022)が凛と吐き捨て、鬼一・法眼(クライマックス馬鹿・b14040)がナイフを引き抜いた。
「真牙道忍者の道を行くものとして、獣に負ける訳には参りません。難しい敵なれど、必ずや撃破致しましょう」
 鳥越・九(鳥を越えて人類の敵・b68569)が武術短棍を構え言い放ち――轟天丸がゆるりとその四つの目で能力者達を見渡せば、天を見上げ吼える!
『グル、アアアアアアアアアアアアアアアッ!』
 轟天丸――その名のごとく天へと轟く咆哮と共に能力者達と山砕きの魔獣との戦いが幕を開けた。


 轟天丸ただ一体を前衛に三体の黒曜の大蛇が横一列に後衛となるゴースト達に対して、能力者達の陣形はこうだ。
 轟天丸の抑えとして中央前衛に啓とルリナ、中央後衛に全体の回復役としてしらら、蛇に対する右翼前衛に法眼、右翼後衛にアレックスと蒼迩、九、左翼前衛に遼と弥生、左翼後衛に夏美といった三陣の布陣だ。
「初撃からいかせてもらうかのぉ」
 まず、法眼が駆けた。そのまま一直線に一体の黒曜の大蛇へと駆け寄れば、止まる事無く右足を振り抜いた。バキンッ! と法眼のクレセントファングがその硬い黒曜石の体に一文字の傷が刻まれれば、しららが気合い十分と両の拳を握り叫ぶ。
「ごーてんまる、いざ尋常に勝負っ!」
 ゴウッ! としららの氷雪地獄が猛吹雪を巻き起こした。ピキリ、と魔氷に白く染まっていく轟天丸や黒曜の大蛇――その猛吹雪を突き抜け、啓と合わせてルリナが轟天丸の左右へと回り込む。
「テメェの相手はこっちさ――獣だろ? 目の前から目ぇ逸らすなよ!」
「――ラジカルフォーミュラ」
 啓が低い体勢から渾身の獣撃拳を繰り出し、ルリナは瞳に膨大な文字列を映し自己強化を施した。
「ぐ、お……!?」
 啓の黒水晶の刃が、轟天丸の横腹に命中するも――あまりにも硬い感触に弾かれた。パワー、スピード、タイミング、申し分ない一撃だった。しかし、轟天丸のガードにほとんどの威力が削ぎ殺されている。
「宿りなさい、黒燐蟲」
「忍獣気身法!」
 左翼から駆けた弥生が黒曜の大蛇に肉薄すると己の獣爪に黒燐蟲を宿し、右翼後衛で大蛇を横一列に見通せる場所で九が漆黒の獣性のオーラをまとい自己強化した。
「蒼の魔弾よ!」
 アレックスが生み出した時空を歪める蒼い雷が投げ放たれる。その蒼の魔弾の一撃は狙いを違わず法眼を傷つけた黒曜の大蛇を貫いた。
「――黒影剣ッ!」
 左翼から駆けた遼が長剣の刃を闇色に染めながら、黒曜の大蛇へと振り下ろす。ザンッ! と振り抜かれた一撃が魔氷に染まった大蛇を切り裂いた。
「こっちですよ!」
『シャアッ!!』
 夏美の撃ち放った蒼の魔弾がもっとも傷を負っていた黒曜の大蛇を撃ち抜く。撃ち抜かれた大蛇が苦痛の叫びを上げて身をくねらせれば、隣の大蛇との間の空間に始まりを意味する刻印が光によって刻まれる――蒼迩だ。
「――貴様等は厄介だからな。早々に消えて貰おうか」
 ドンッ! とアークヘリオンの爆発が、二体の黒曜の大蛇を巻き込んだ。もっとも傷を負っていた一体はそれが止めとなり、粉微塵に砕け散っていく。
『――シャアアアッ!!』
「く……っ」
「ぬ、う!」
 ギンッ――! と二体の黒曜の大蛇がその目を見開いた。その黒曜石の魔眼に、弥生と法眼が呪われ膝を揺らす。特に弥生は回復を阻害する激痛の呪いを同時に受けてしまう。
『グル、アアアアアアアアアアアアアッ!!』
「――ッ!?」
 轟天丸が、吼えた。その砲声は衝撃波となり、啓とルリナを軽々と宙へ浮かせ吹き飛ばす。
「……やっぱり、強いですね」
 着地に成功してルリナがこぼした。ただの一撃で大きなダメージを受けた――その事を自覚しながら身構える。
「ファイトですっ!」
 しららの励ましの声を受けながら、全員が止まる事無く戦闘を続行した。


「よし、どんどんいきますよ!」
 アレックスの蒼の魔弾が黒曜の大蛇を貫き、その一撃で粉砕した。
 それに続くように八つの雷球を身にまとう轟天丸へとルリナは螺旋状の文字列を拳にまとい一撃を繰り出す!
「デモン――ストランダム!」
 ドンッ! と轟天丸をルリナのデモンストランダムが捉えるが、押し切れない。その間に遼と夏美が最後の大蛇へと攻撃を放った。
「いつまでも、お前らに構ってる暇はないんだ!」
「蒼の魔弾!」
 遼の黒影剣に横一文字に腹を薙ぎ払われ、夏美の蒼の魔弾に貫かれる。だが、黒曜の大蛇がそれにかろうじて耐えた瞬間、一条の光が貫いた。
「――光の槍よ」
 蒼迩の光の槍の一撃に黒曜の大蛇が爆ぜるように砕け散る。その時だ――弥生が焦ったように叫んだ。
「右翼! 雷が――!」
 その弥生の警告は、最後まで紡がれなかった。グルリ、と右翼側に視線を巡らせた轟天丸の背中で二本の銅剣の間に放電光が生まれていく――その轟天の雷は、ルリナを含んだ右翼の者達をまとめて飲み込む。
「――っ!」
「ルリナさん!」
 白く染められた視界の中、倒れるルリナの姿を見てアレックスが悲痛の声をあげた。
 ――能力者達とゴースト達の戦いは膠着状態が続いていた。
 轟天丸の強力な範囲攻撃の数々、特に轟天の雷球によって強化された後の攻撃によって能力者達は苦しめられた。しららがヘブンズパッションによって戦線をよく維持するが回復手の不足は深刻だった。黒曜の大蛇の黒曜石の魔眼を警戒しながらも自己回復に使用して耐え凌いでしくしかなかった。だが、その中でも蒼迩のアークヘリオンや九の牙道大手裏剣を主軸にそれぞれが攻撃を繰り出していき、黒曜の大蛇を打ち倒す事に成功する。
 そこからの轟天丸と能力者達の戦いは熾烈を極めた。一瞬の気の緩みが大勢を決してしまう、綱渡りのような戦いの中――ついに、その時が近付いていた。
「倒れたらそこで終了ですよっ!?」
「オオオオオオオオオオオオオッ!」
 しららのヘブンズパッションを受けた啓が野獣のような声をあげた。低く身構え跳躍――獲物の喉笛に食らいつく肉食獣の動きで、渾身の獣撃拳を叩き込む!
『グル――ッ!』
 その一撃に、初めて轟天丸の巨体が揺れた。ズシン……、と地響きを立て体勢を立て直す轟天丸に、弥生と合わせて動いた蒼迩が続く。
「――呪われろ!」
「なかなかに手強いようだが、さて、これは耐えられるかな?」
 体に虎の縞模様を浮べた弥生の赤い瞳が禍々しい輝きを宿し、蒼迩の渾身の光の槍が投擲された。ビシリ、と轟天丸の腹部が内側から切り裂かれ、光の槍が深々と突き刺さる。
 そこへ、近接へと間合いを詰めていた九が跳躍し――クルン、と愛用のトンファーを回転させた。
「人を脅かす獣は、人が排除します――人が排除できぬ化け物ならば、超常の者たる我々が排除します!」
『グル、ア――!』
 ダンッ! と轟天丸の脳天に回転したトンファーの一撃――九のインパクトが叩き込まれる。
「これで……終わりです!」
「攻撃を合わせていくぞ!」
「はい!」
 アレックスと夏美が時空を歪ませながら蒼の魔弾を撃ち放ち、遼の黒影剣が突き出された。二発の蒼い雷がその巨体を貫き、闇色に染まった刃が深々と突き刺さる。
 そこに、インフィニティエアの暴風を右足にまとわせた法眼が跳躍した。
「大は小を兼ねるのか? 速さは質量には勝てないのか? ――――」
『グル、アアアアアアアアアアアアアアッ!!』
 その言葉を遮るように轟天丸が咆哮を上げた。視界を白く染め尽くす轟天の雷が、法眼を含んだ右翼へと放たれた。
「―――ッ!」
「……ッ!?」
 その雷に飲み込まれ、アレックスと九、蒼迩が地面へと叩きつけられた。だが――雷鳴の中叫び続けた法眼の右足が振り抜かれる――!
「―――――ーーードッ!!」
『―――――オオオォォッ!』
 ザンッ! と轟天丸の巨体が法眼のクレセントファングに切り刻まれた。その一撃に、ドン……! と重たい地響きを立て轟天丸の巨体はついに倒れ伏し、消滅した……。


「でかいの相手も疲れる疲れる……と、全員無事か?」
「……ええ、倒れた四人も命には別状はなさそう」
 啓の言葉に、倒れた仲間を看ていた弥生が安堵の笑みをこぼす。
 終わってみれば半数近くの仲間が倒れる激闘だった。傷を負っていない者など誰一人としていない、全員が力の限りを振り絞って勝ち取った勝利だ。
「えと……ごめーふくをお祈りします」
 この岩がお墓とかそういうのかはわかりませんけど、と夏美が岩に手を合わせ祈りを捧げる。
 その岩は、何も答えは返さない――ただ、今までと同じ何も語らず、これ以後もあり続ける事だろう。
 ただ、これで人の命が奪われる未来はなくなったのだと確信を抱き、能力者達はその場を後にした……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/07/04
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冒険結果:成功!
重傷者:アレックス・ザナンドゥ(中学生真魔弾術士・b05408)  ルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)  駒杖・蒼迩(ホールドアウター・b60988)  鳥越・九(鳥を越えて人類の敵・b68569) 
死亡者:なし
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