フラワー・スパイダー・ガーデン


   



<オープニング>


 森の奥に広がったのは、ひっそりと息吹く花の世界だ。
 若々しい緑に囲まれた、開けた場所。恐らく過去に誰かが、ここで花を育てようとしていたのだろう。朽ちた柱や柵に、ノウゼンカズラがびっしりと伸びている。
 茂みを書き分け、そこへ訪れたのは二人の少年少女だ。
「わあ、綺麗な場所だね!」
「ここなら、お花のかんむりもきっと作れるよ」
 高いところで咲くノウゼンカズラもあれば、まだ美しい姿を保ったまま地面に横たわるノウゼンカズラも多い。赤く夏らしさを思わせるその花を拾い上げ、少年が景色に感激している少女へ差し出す。
 大きく頷いた少女が、その花を手に取った直後。
 カサカサと、彼ら目掛けて茂みの中から何かが近づいてきた。驚き辺りを見回した二人は、そこに子犬ほどの大きさをした蜘蛛を見つける。
「なんだろう、あれ」
 ただ大きいだけの蜘蛛なら、少年も首を傾げなかっただろう。
 突如現れた黒蜘蛛たちは皆、背に様々な花を生やしていた。ある蜘蛛は小さな向日葵を、別の蜘蛛は桔梗を、また別の蜘蛛は蓮をびっしりと背負っている。
 そしてそれぞれ、ハチの針が生えた尻を振り、狙いを定めて。
「え……!?」
「う、わぁ!?」
 向日葵を背負った蜘蛛が、向日葵の種を無数に飛ばし、少女を叩きつける。同時に、桔梗の蜘蛛が紫の糸を吐き出し、少年を絡めとった。その拍子に尻餅をついた少年は、抗う術もなく、蓮の蜘蛛に眼前まで迫られて。
「た、助けて……ッ」
 銀の針で、胸を貫かれた。


「二人が襲われるまで、まだ日数はあるんだ。間に合うよ。充分」
 井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)は、集まった能力者たちへそう告げた。
 時折人が入るだけの、静かな森の奥で事件は起こる。
 放っておけば、子犬サイズの蜘蛛妖獣に、二人の少年少女が殺されてしまうのだ。しかし二人が森へ入るのは、能力者たちが現場へ向かう日の、数日後。
 予報士が充分間に合うと話したのは、そのためだ。
「もちろん、だからって倒し損ねたりしないように頼んだよ〜」
「だいじょぶなのです。正義はかならず勝つ、なのです!」
 小さな胸を張って、セタ・オルティス(西の六花・bn0299)が自信に満ち溢れた声で言う。
 その姿に笑いつつ、恭賀は能力者たちへ話を続けた。

 妖獣が現れるの森の奥へは、迷うこともなく行ける。
 ノウゼンカズラが咲き乱れる場所は広く、戦うのに支障は無い。誰かがそこにいれば、何処からともなく黒い蜘蛛の妖獣たちがやってくる。
 妖獣は全部で三体。それぞれ背から花を、臀部からはハチの針を生やしている。
「生えてる花は、ひまわり、桔梗、蓮の三種類だね〜」
 向日葵の蜘蛛は、距離を問わず向日葵の種を飛ばしてくる。標的になるのは一人だけだが、種による集中攻撃は地味に痛い。
 桔梗の蜘蛛は、その花びらの色に酷似した糸を駆使する。相手一人を締め付けてくる他、糸で足を叩くことで転倒させてくる。転んでも行動が阻まれることは無いが、足を強打されるため、やはりこちらも痛い。
 そして、蓮の花を背負った蜘蛛は、その背から爽やかで瑞々しい香りを放出する。
「蓮の香りだね。本来の蓮なら、開花しちゃうと殆ど嗅げないらしいけど、いい香りだよー」
 香りは辺り一面に優しく広がり、眠りへと陥らせてくる。痛みは全く無いが、油断は禁物だ。
 いずれも、妖獣が生やしている時点でただの花ではなく、当然摘むこともできない。
 また、妖獣たちの臀部にある針に刺されると、痛みの直後メロメロになってしまい――平たく言うと魅了された状態となり――妖獣と、彼らが背負う花にべったりしてしまう。
 こうなっては、まともに攻撃もできないだろう。

 侮らなければ、そこまで苦戦せず倒せる相手だ。
 妖獣を倒した後は、せっかくなので朱やオレンジのノウゼンカズラを堪能するのも良い。
 すっかり朽ちてしまった木製の柱や柵、辺りの木々などを伝って伸びるノウゼンカズラの世界は、まるで異世界へ迷い込んだかのような美しさや怖さがある。
「ノウゼンカズラって、花の寿命が一日なんだってね」
 恭賀が、開いた図鑑を能力者たちの前へ置きながら呟く。
「一日したら落ちるです? そしたらすぐ全部のお花無くなっちゃうのですよ」
 図鑑を覗き込んだセタが、目を瞬かせる。
 すると恭賀は、ゆっくりかぶりを振って。
「次々に咲くんだって。そういう花を観賞したり、触れてみるのもいい機会だと思うよー」
 地面に落ちてる花なら取っても大丈夫だしね、と恭賀は微笑んだ。
「いってらっしゃい能力者さん。ちゃんと、ただいまを聞かせてよ〜?」

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参加者
島守・由衣(透空・b10659)
佐崎・日和子(春光・b40270)
フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)
日下部・真昼(不穏な織り手・b49306)
ジャック・ボエルジ(ロックパンプキン・b51745)
ブッシュロビン・ミルフォード(緑の中の散策者・b57910)
出雲・さらら(おうさまといっしょ・b65574)
ナッシュ・コール(中学生クルースニク・b73865)
NPC:セタ・オルティス(西の六花・bn0299)




<リプレイ>


 梅雨の名残を夏の陽気が孕み、山に息吹く数多の生き物を照らし出す。
 茂みを掻き分けた山の奥、オレンジやピンクのノウゼンカズラが、彼らを出迎えた。しかし、出迎えたのはノウゼンカズラだけではない。
 日下部・真昼(不穏な織り手・b49306)が不安げに妖獣を見遣った。蜘蛛妖獣三体は、姿だけ見れば小振りな蜘蛛童といったところか。しかし背負う花の美しさが、異様に恐ろしくも感じる光景で。
「出迎えには、素直に応じないとな」
 ジャック・ボエルジ(ロックパンプキン・b51745)が愛器Eddaをすっと構え、瞳を眇める。
 咲き乱れる花園に、不釣合いな金属音が響く。
 ライフルを握る手が汗ばむのを感じながら、ナッシュ・コール(中学生クルースニク・b73865)はセタ・オルティス(西の六花・bn0299)を振り返っていた。
「お互い、初仕事がんばろうな」
「はいです!」
 気合で僅かながら声を震わせたナッシュに、セタが呼応する。
 魔狼の猛々しさをナッシュが背負う頃、ブッシュロビン・ミルフォード(緑の中の散策者・b57910)がケットシーのテイルから魔力の供給を受け、フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)は花を背負った蜘蛛を前に、瞳を輝かせていた。
 ――お花を背負った小蜘蛛さんなんて……!
 ドキドキしつつ小指を立て、真蜘蛛童・爆のリラの足とを赤い糸で結ぶ。同時にリラが吐き出した粘着性の高い糸は、蓮蜘蛛に絡まり動きを鈍らせる。
 花蜘蛛に胸をときめかせているのは、真昼も同じだ。しかしすぐに首を勢いよく振り、そんな場合ではないと自らへ言い聞かせる。ふと傍らを見下ろせば、蜘蛛童・膨の深夜が心配そうに彼を見上げていた。
「……祈らなくても大丈夫ですよ、深夜。私は、蜘蛛である前に銀誓館の能力者ですから」
 そう言い残し向日葵蜘蛛へ、穏やかな緑の弾を撃ち出す。そして鼻息荒く意気込むセタを振り返る。
「張り切って前に出たいかもしれませんが……」
「だいじょうなのです。自分にできることするです」
 真昼に意気揚々と返し、セタは戦場へ吹雪を招いた。
 吹雪の合間を縫って、無数の向日葵の種が目にも留まらぬ速さで蜘蛛童のリラを襲う。
 けれど主との誓いに阻まれ、リラは種が振るった猛威を牙で防ぐ。
「野放しにはできないわ。倒すのが、少し惜しくなりそうだけど」
 引いた拳に詠唱停止プログラムを纏わせ、島守・由衣(透空・b10659)が蓮蜘蛛へ殴りかかる。
 同じ頃、ジャックは勢いを抑えるべく、浮かび上がった弦を指に引っ掛けていた。重なった音が牙を剥き、花蜘蛛たちを痺れさせる。すぐさまマヒから逃れた桔梗蜘蛛が、ブッシュロビン目掛け紫紺の糸を吐いた。
「それっ」
 縄跳びの要領でジャンプを試みた少年だが、足に巻きついた糸により、地へ顔面から転倒してしまう。打った鼻頭を擦りながら顔を上げると、出雲・さらら(おうさまといっしょ・b65574)がほわわんとした雰囲気を連れているのが見えた。
 さららの傍には、シャーマンズゴースト・ファラオのうるるもいる。
「がんばりましょうです!」
 うるるの手をぎゅっと握り締めたさららは、うるるが前衛へ加わる間に輝くコアを旋回させた。
 標的を狙い定めた蓮蜘蛛が、そんなうるるを針で串刺しにする。アンクを掲げたまま、うるるはテコテコと蓮蜘蛛の前まで向かって。
「うるさま!?」
 花が息吹く蜘蛛の背へ顎を乗せ、身を預けた。目を細めて何処と無く気持ち良さそうだ。
「な、なんだか別の意味で戦いにくい、ような……」
 和やかそうな光景を目の当たりにし、困惑する佐崎・日和子(春光・b40270)をケルベロスオメガの桐月が唸りながら見つめる。
 そんな桐月に気付き、舞いを披露するべく腕を広げた日和子は、小首を傾げる。
「ええと、この後お花見をお弁当だから、心苦しいかもしれないけど、我慢して頑張って!」
 励ましを受け、桐月が炎を豪快に飛ばした。


「セタさんにカッコイイ所見せるチャンスなのです♪」
 という、さららの言葉を受けてか否か、パレハは前側のあしを上げて威嚇するように向日葵蜘蛛をねめつけると、糸で咲いた向日葵を覆う。
「おいたをしてはいけませんよ!」
 すかさず真昼が桃の枝で模った長槍で風を切り、矛先で向日葵蜘蛛を突く。
 ――向こうの能力も多彩なので、どうか。
 美味く舞えますゆにと願いを秘めて日和子が静謐さを湛えた足取りで仲間を癒す。同時に桐月の炎が戦場を駆け抜けた。
 直後、能力者たちは鼻腔をくすぐる香りを知る。瑞々しく爽やかな香気に、由衣が瞼を閉じる。
「これ蓮の香りよ。良い香り……」
 由衣の一言が届くより先に、仲間達を猛烈な睡魔が襲う。閉じかけた意識を振り起こし、由衣は目尻を擦った。
 ――蜘蛛に咲く花は綺麗だけど、格好良さで言ったらパレハ達蜘蛛童の方が上だもの。
 抗えた者もいれば、香りを堪能しつくし船を漕いだ者もいる。
 こくこく揺れるブッシュロビンを、テイルがレイピアの切っ先でつついて起こした。痛そうである。
 リラが身を振って蓮蜘蛛へ噛み付いた直後、フィルは漆黒に呪われた弾丸で、同じ箇所を撃ち抜く。
「退治する対象でなければ、一緒に遊べましたのに……!」
 悔しさにぎゅっと目を瞑るフィルを、リラが生温かい眼差しで見つめたような気がする。
 そこへ涼しさを提供するかのように、セタが再び氷雪の竜巻を起こした。冷気が妖獣たちを襲えば、矢継ぎ早にうるるの噴く火が彼らを熱し、光で槍を模るさららがそんなうるるを褒めちぎった。
 仲間達の微笑ましげな様子に口角を上げ、ジャックは静かに曲を奏で始めた。
「捨て置く訳にはいかねェ」
 例え見栄えが美しかろうとも。痛みを伴うものであるならば――シンプルな目的は、当人のように迷いなく妖獣たちを徐々に追い詰めていく。痺れは緩やかながら、確実に。
 不意に、真昼が向日葵蜘蛛の針で肩口を切られる。すると人が変わったように、向日葵蜘蛛めがけ突進して。
「真昼さん!?」
 ぎょっとしてナッシュが呼びかけると、彼は半ば必死の形相でこう訴えだす。
「連れて帰りたい……」
「日下部さん、気持ちはとても解ります」
「日和子さんも、そう思ったのですね」
 真昼へ同意を示した日和子にさららが頷くという混乱じみた光景だが、魅了されているのは真昼ただ一人だ。
 目も当てられない現実に、深夜が祈りを寄せ、リラも心配そうにフィルをつつく。
「ふふ、大丈夫よリラ。わたくしの一番はいつだって、ライラックの花飾りを付けたあなたですもの」
「……ミリョーって怖いのですね」
 セタが不意に呟いた。
「そう、だな」
「フィルさんのもミリョーなら、自分もパレハにミリョーされまくってるですよ」
 彼女の反応にナッシュは頬を掻き、すぐに思い出したようにライフルを構えた。
「てめーにその花は似合わないぜ!」
 追尾した紋様へと、容赦なく弾丸を叩き込む。
 重なった衝撃が止む前に、ブッシュロビンがヤドリギの祝福を齎す。
「この後に遊びに来る人達のためにも、頑張らないとね」
 そして、眠気も魅了も全て拭っていく日和子の舞いに後押しされ、桐月が蓮蜘蛛を炎で焼ききった。


 日和子の舞いで追いつかない分を、ジャックが反逆の嵐でフォローする。重なった癒しは確実に仲間達を奮い立たせ、そして倒れさせはしないという、意志の強さを示す。
 刹那、桔梗蜘蛛の臀部から生えた針が、ブッシュロビンを誘惑する。桔梗咲き乱れる妖獣の背へ顔をうずめようとしたブッシュロビンへ、帽子のツバをくいと手で整えたテイルが、間髪いれず祈りを捧げる。
「テイル……」
 魅了から回復した顔は、心なし残念そうだ。
 仲間が指された瞬間を目撃したナッシュが、針を引き抜いたばかりの桔梗蜘蛛へ引き金を引く。
 ――同じ蜘蛛でも蜘蛛童とはえらい違いだよな。
 力押しでいけると、瞬時に判断して。
「小さい子が安心して花を見られるように、しっかり退治しとかないとな」
 照準を合わせ注ぎ込んだ弾丸に、桔梗蜘蛛が消滅した。
「残るは一体だ」
 ジャックが合図のように告げ、応じた真昼が向日葵蜘蛛へと緑に光る弾をプレゼントする。深夜の吐いた糸と絡み合うように、向日葵蜘蛛の仕草が動揺の色に染まって。
 息を整える暇も与えず、さららの放った光が鋭利な槍と化し、向日葵蜘蛛を貫通した。
 そして躊躇い無く、セタの威勢の良い叫びが響く。
「いくですパレハ、イケメンっぷりを見せつけてやるです!」
「うるさまもピカピカ具合では負けてないのです♪」
「たしかに金ぴかで眩しいね……」
 ブッシュロビンが目を細め呟く。
 カジカジ噛み付くパレハと、アンクでポコスコ殴打するうるる。そして彼らを誇る主の図ができあがった。
 種を飛ばし抗う向日葵蜘蛛へと、ジャックが破壊の限りを尽くす存在を思わせる曲を手向ける。
「せめてもの贐に……この旋律を」
 捧げた音に向日葵蜘蛛が身を低くし、そこへ超越した力を奪うプログラムの螺旋が、由衣の拳から叩き込まれた。
 ふらついた蜘蛛を狙い定めたのはフィルだ。漆黒の弾丸が、真っ直ぐに妖獣を貫く。
「さぁ、夏花の咲く森へ参りましょう」
 最後の花蜘蛛が、天へと昇華されていった。
 ――今度は普通の蜘蛛に生まれて来るのですよ。
 空を仰ぎ瞳を濡らす真昼の傍ら、ナッシュは澄み切った空気を、大きく吸い込んだ。
 夏の匂いが蘇る。その空気は、平穏に満ちる味がした。


 穏やかな風が木々のおしゃべりを生み、花咲き乱れる世界にもそよぐ。
 落ちたノウゼンカズラを拾い集めるフィルの鼻歌をBGMに、ジャックは景色を写生するため腰を下ろして手を動かす。ふと近くを見遣れば、写真を撮るナッシュや、真昼が深夜と共に花をせっせと集めていて。
 ――恙無し、か。
 笑みにも似た吐息を零し、ジャックは再び手元へ視線を落とす。
 そして、その一方では。
「みんなお疲れ様」
 労いの言葉を向ける由衣が、弁当を広げ始める。敷かれたシートの上は、既に各自が持ち寄った弁当や飲み物で溢れていた。
 宛らピクニックのようだ。
「おにぎりとエビフライ作ってきたの、良かったらみんなもどうぞ」
「私はお弁当の定番を作ってきました」
 由衣に続いて日和子がフタを空ければ、からあげや卵焼きなど、弁当らしいおかずがずらりと並んでいる。
 すごいのです、を連呼してセタが瞳を輝かせた。
「セタちゃん、お米料理が好きって聞いたので、五目ちらしも」
「ごもくちらしです??」
 日和子の言葉に首を傾げたものの、セタは興味津々だ。華やかな色合いに目を奪われ一口ぱくっと食べてみれば、途端に少女は頬を上気させて。
「不思議な味のお米なのです、おいしーのです!」
 興奮気味に答えたセタに、日和子も胸を撫で下ろす。
「よかった、酢飯が大丈夫か気になっていたものだから」
 今度は酢飯という単語にセタがキョトンとする。
「僕のも酢飯だよ。いなり寿司っていうんだ。ごま入りのと、普通のがあるよ」
 ひょこっと顔を出し、ブッシュロビンも持参した弁当を開く。
 食べ物で埋め尽くされたシートへと、ここでナッシュが合流する。すごい量だな、と目を見開きながら腰を下ろし、彼もサンドイッチを取り出した。
「お米にパンに、ビュッフェみたいね」
 小さく笑いながら呟き、由衣も具沢山のおにぎりを皆へ勧めた。思い思いに手を伸ばし頬張る中、由衣はおにぎりにかぶりつくセタを覗き込んだ。
「セタには馴染みの無い料理よね。苦手じゃない?」
「ふぐっ」
 質問した直後、梅干を噛んで口を窄めたセタの表情に、思わず笑いが零れる。セタ自身、酸っぱいのです、と何処と無く楽しげだ。
 くすくす笑ったさららも、楽しい時間に身を委ねて。
「お外で皆と食べるお弁当はかくべつなのです♪」
「ノウゼンカズラのカーテンから吹く風が、気持ちいいですしね」
「あ、フィルさん」
 花を集めるなどしていた面々が、賑やかな場へと花のように集い始めた。
「うるさま、他の使役さんたちにあ〜んしてあげるですよ」
 さららの促しに頷き、うるるが細い手をその場にいた使役組へ伸ばしていく。しかしすぐに、さららと同じ角度で首をかしげた。
「……蜘蛛さんのお口ってどこでしょか?」
 蜘蛛童たちがぎちぎちと顎を鳴らし始めた。あの辺なのかもしれない。
「セタもパレハもスコーンをどうぞ」
「わ、スコーンなのです!」
「あ。冷たいゼリーもあるのですよ」
 ブッシュロビンとさららがデザートに分類されるものを並べ始めたのを見て、ジャックが人数分のアイスティを注いだ。
 離れちまった詫びに、と言いながら差し出された紅茶は、淹れた人の心を映すように透っていて。
「オレンジフレーバーだ。食後のデザートの共に如何だろう?」
「丁度喉が渇いたところなので、嬉しいです」
 フィルが微笑み、周りも次々紅茶を手に取る。
 そこで思い出したように、フィルが忍ばせていた花冠を取り出した。
「折角ですので、皆様お揃いで付けませんか?」
「お姫様みたいなのです!」
 声を弾ませたセタの横に座り、由衣が丁度良い具合に冠を頭へ乗せる。余分があればと、彼女も一つかぶってみせて。
「冠は恥ずかしいという方の為に腕輪サイズも用意してみました」
「皆さん器用なのですね」
 感心の溜め息を漏らすさららの傍ら、うるるを一瞥していたジャックが、唇に笑みを刷く。そっとかぶせてあげたのは、彼が作った花冠で。
「うるるも花冠で貫禄が増したな」
「うるさまとっても嬉しそうなのです♪」
「セタとパレハには、これを」
 連ねた花でお揃いにしたシュシュをジャックから受け取り、セタは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとなのです! ほら、パレハも!」
 ぺこりとお辞儀したセタに倣い、パレハが頭を僅かに下げる。
 使役たちの様子を眺めていたナッシュは、ふと気になっていたことを主人組に尋ねてみる。
「そういや、自分の使役って区別がつくもんなのか?」
「つかない人もいると思うのですよ。人それぞれなのですね」
 セタがそう答えた。
 不意に木々がざわめき、命短しノウゼンカズラを揺らす。
「別世界に迷い込んだみたい」
 由衣が想いを零したすぐ後、小さな花冠を三つ背に乗せた深夜を、真昼がぎゅっと抱きしめた。
「……あの花蜘蛛さん達も花が好きだったのよね、きっと」
 日和子が天を見上げ、つられた仲間が果て無き青を瞳に映す。
 周りの視線が遥か高みを望む中、ジャックはふと先程スケッチした紙を見つめていた。花の園に、愛おしそうに寄り添うのは、花を抱いた三匹の蜘蛛だ。表情も声も無いけれど、三匹の仕草は正しく、楽しげで。
「……このメンバーで良かった」
 殆ど独り言のようなナッシュの言葉に、さららが「また皆さんと来たいのです」と微笑む。
 顎を指先で触れ、日和子は瞼の裏へ、ある季節を思い浮かべる。
 それは始まりを知らせる、暖かなー―。
「今度は、花曇の季節にでも、楽しくお花見出来ているといいね」


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2010/07/30
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