新たなる『ゲーム』


<オープニング>


 ドンドンと激しくドアを叩く音。
 電話も鳴り止まず、安住の地であるはずの家はもう心休まる場所ではない。
「(くそっ、くそっ、くそっ)」
 声を潜めながら、男は悪態をつく。
 ほんの半年、借金の返済が滞っただけじゃないか……それをこんなに!
 親も親だ、あのぐらいの借金払ってくれたっていいじゃないか。
 こんなときに周りは……ほんと使えない連中ばかりだ。
「(どうして、俺だけがこんな目に……くそっ!)」
 世は理不尽だ。理不尽すぎる。
「お困りのようですね」
「……えっ! ええっ?!」
 驚きのあまり声が大きくなって、男は慌てて口を塞ぐ。
 借金取りか? だけど、どこから入ってきたんだ? 何でシスター服を着てるんだ?
「あなたを救ってあげましょうか?」
 シスター服の、いや本物のシスターだろうか?
 何にしても、その言葉は不思議と信じられるような気がする。
「……本当に、救って、助けてくれるんだな?」
「はい、あなたは自分でも知らない大きな力を使う素質を持っています。それを使えば、あなたを認めなかったすべての人達に罰を与えることができるでしょう」
 さあ――どうますか? と甘美な言葉を紡ぐ。
 明らかに怪しい。だが、それを補って有り余る物がシスターにはあった。
 強いカリスマ性。
 惹きつけられ、男は頼み込むように頭を下げる。
「お願いします。俺にその力を与えてください」

「聖女アリスが現れた」
「……なっ?!」
 山田・大五郎(高校生運命予報士・bn0205)のひと言で、集まった能力者の表情が変わった。
「アリスは原初の吸血鬼を生み出す『ゲーム』を行うために人を集めている」
 次の言葉で更に緊張が高まった。
 多くの被害をもたらすことになったあの『ゲーム』が再び行われようとしている?
「場所となる民家は最近になって地上げされたものらしい」
 他の場所にも同じような背景があり、いずれも地上げ屋の関与が見られる。
「そこにアリスによって見出され貴種ヴァンパイアになった男と、この男が恨みに思っている人々が閉じ込められている」
 実はこれで準備が整っている。
 後は『ゲーム』を行うだけの状態だ。
「本来、原初の吸血鬼を生み出すための『ゲーム』とは、充分な準備が必要だった。だが、アリスはその手順を効率化して、短期間で原初の吸血鬼を生み出す方法を見出したようだ」
 それが今回の手法。
「加えて、『ゲーム』の主役である貴種ヴァンパイアも『つい最近ヴァンパイアになった日本人』というわけだ」
 これは最早、『吸血鬼株式会社』による『原初の吸血鬼の大量生産』といって間違いないだろう。
「今回の『ゲーム』のために、貴種ヴァンパイアになった男が恨んでいる人々が集めらているのは先に説明したと思う――それが駒だ」
 彼らに能力者としての素養は無い。
 ただ、貴種ヴァンパイアになった男が集められた人々を……時間をかけてなぶり殺しにする事――それで原初の吸血鬼となる。
「つまり……いたって簡単に原初の吸血鬼が生まれるというわけだ」
 忌々しげな声。
 聞いている方も同じような思いだ。
「……また、当の貴種ヴァンパイアの戦闘力は、普通の能力者ひとり分程度しかない」
 強敵ではない。
 逆に言えば、その程度でも原初の吸血鬼になれるということだ。
「だが、付け入る隙はある。原初の吸血鬼になるためには『時間をかけてなぶり殺しにする』必要があるわけだ。ならば、完了する前に儀式を阻止してしまえばいい」
 捕まった人々の救出も当然のこと。
「しかし、これを見越して家の中にはみんなを迎撃するために『吸血鬼株式会社に所属するサキュバス』と『妖獣の群れ』が護衛として配置されている」
 つまりは――素早くサキュバスと妖獣の群れを撃破し、儀式を阻止しなければならない。
 サキュバス達に敗北するか、あるいは勝利しても時間がかかりすぎた場合には、原初の吸血鬼が生み出されてしまう。
「そうなれば形成は一気に逆転してしまう。そうならないように全力を尽くしてくれ」
「……分かった。ひとつ質問していいか?」
「ああ、何だろう?」
「俺達が向かっている間も儀式は行われているとこうことだな?」
「……その通りだ。おそらくネチネチとやっていることだろう。……もしかすると戦力を分けることを考えたかもしれんが、かなり危険だ。各個撃破される恐れもある」
「……分かった」
 空気は更に重くなり、説明は続く。
「みんなに向かってもらう民家で待ち構えているのは、サキュバス・ドールが一体と、人間ほどの大きさに加えて身体のあちらこちらが凍りついたヒヒが八体だ」
 サキュバス・ドールに関しては能力者達が使役しているものと変わりない。
 神秘対策をしておけば十分だろう。
「このヒヒ……そうだな、氷猿とでも呼ぶとしよう。その能力だが、非常にすばしっこい。それに加えて手近な対象に集中攻撃を加える特性がある」
 攻撃方法は、鋭利な爪による引っ掻きに、魔氷を伴う噛み付き、発する奇声は傷を癒すと共に攻撃力の上昇と広範囲の対象を踊りに誘う。
「しかも氷猿は物陰や扉の向こう、はたまたは天井に張り付いている」
 一見、姿が見えなくても家の中に入れば戦いは始まったと考えた方がいい。
「貴種ヴァンパイアの男がいるのは二階だ。そこへ行くためには当然先ほど挙げた妨害がある」
 だが、それされ抜ければ敵は貴種ヴァンパイアの男ひとりだ。
 能力者ひとりと同等程度の強さ、加えて貴種ヴァンパイアのアビリティしか使えない。
 サキュバス・ドールと氷猿を倒して、多人数で乗り込んだのなら簡単に勝てるだろう。
「以上のように危険かつ迅速な対応が求められる依頼だ」
 しかし、放置すれば確実に原初の吸血鬼が産まれる状況――やるしかない。
「分かっていると思うが、原初の吸血鬼の力は非常に大きい。万が一、原初の吸血鬼が生まれてしまった場合は必ず撤退してくれ。無理に倒そうとするのは危険すぎる」
 最後に、大五郎は能力者達の顔をいま一度見て、
「この依頼はみんなでなければ成すことはできない。十分に注意して朗報をきかせてくれ」

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参加者
蒼穹・克(真カレーなべ・b05986)
黒鋼・輝刃(牙鳴散らす・b09479)
華都・巴(ブランエスクリール・b19541)
釣・克乙(真風来坊・b52353)
時守・癒太(無色の夢使い・b52874)
鳥羽・セレナ(早く大人になりたい・b56318)
フィロミア・エルンスト(新緑の担い手・b60645)
ソフィー・セルティウス(深蒼雹刃・b60749)



<リプレイ>

●苛烈なる戦い
 速度が落ちる。
 息を整えようと大きく息を吸い込む。
 武装は既に完了済み。
 目の前には何処にでもある一般的な玄関――その先に阻止しなければならないものが、ある。
 華都・巴(ブランエスクリール・b19541)が玄関を一気に押し開け、素早く視線を走らす。
 正面に伸びる廊下、天井に敵影は無し、廊下の左右には襖(ふすま)。
「階段は廊下の奥です。距離にして4、5m……むっ」
 同様に目を配っていた、釣・克乙(真風来坊・b52353)が声に気付いた。
 仲間達もその声を耳にしたのか、表情が歪む。

 ――声は、悲鳴、哀願、罵声、そして怨嗟。

(「これが、ゲームですか。最低ですね……」)
 ソフィー・セルティウス(深蒼雹刃・b60749)の胸中に吐き捨てたくなるような思いが生まれ、
(「また、ゲームですか。この身で体感したから分かります。あれは、絶対に止めなければならないものです。なんとしても阻止しなければ……!」)
 蒼穹・克(真カレーなべ・b05986)の脳裏にかつての光景が浮かんだ。
 運命予報士の言った通り――猶予なんて無い。
 能力者達は警戒を払いながら、中に足を入れる。
「行こう、オフィーリア」
「にゃ!」
 フィロミア・エルンスト(新緑の担い手・b60645)も真ケットシー・ガンナーと共に。
「来たぞ!」
 同時に、黒鋼・輝刃(牙鳴散らす・b09479)が声を上げた。
 廊下の影から躍り出るように現れた四体の氷猿、その後ろにはサキュバス・ドール。
「さっさと片付けましょう、ゲームの方が心配です」
 克が声と共に走り出せば、前衛を張る他の三人――巴、輝刃、ソフィーも動く。
「まずは道を切り開くんだぞ! 吼えろ、月牙天爪ッ!!」
 最初から全開! 輝刃の一撃が氷猿の腹をえぐれば、他の三人も一気に畳み掛ける。
「同じのは難しいか、ソフィー横のをやるぞ」
「分かりました」
「――ははっ、こっちは急いでるんでな、手加減は期待すんなよオラァ!」
 交錯し、瞬く間に二体の氷猿が傷を負う。
「撃ち込みます、射線を開けてください――オフィーリア!」
「にゃにゃ!」
 フィロミアの森王の槍と、オフィーリアの制圧射撃!
「――まだ!」
 更に、時守・癒太(無色の夢使い・b52874)がブラックヒストリーで追撃!
 猛攻の前に氷猿の一体が崩れ落ちた。だが、他の三体はすぐさま牙をむく。
 乙姫(真サキュバス)が口付けで迎撃するもすり抜け……。
「来るぞ!」
 巴の警告に前衛の残り四人が咄嗟に防御姿勢。

 ――重い衝撃、武器と防具が悲鳴を上げる。

「横からですの!」
 その声に前衛が反応にするよりも早く――衝撃波が右の襖を吹き飛ばすした。
『キジャアアア!』
「襖の下敷きになったのが一体、奥にも……」
 鳥羽・セレナ(早く大人になりたい・b56318)が『呪奏琵琶【人魚の涙】』の弦に手を掛けたまま目を凝らす。だが、後衛の位置からでは見通すことが出来ない。動く気配は感じるのに……!
「そこは私がカバーします――でやぁあああ!」
 克が部屋に飛び込むなり、連続の蹴り!
「これで……何匹目だ!?」
「……倒したのが1匹、残っているのが、5匹です」
 輝刃と、ソフィーが敵を払い除けながら現状を確認。
「焦りは禁物です。どこから出てくるか分かったものではありません」
 警告と浄化の嵐が。
 克乙は仲間の様子に目を配りながらも周囲に目を凝らす――あと二体どこかに潜んでいるはずだ。
「うお、こんなところにいたんだぞ!」
 そこに輝刃の叫び。
 視線の先は階段?!
 目をやると同時に、飛び降りてくる二体の氷猿!
「舐めた真似しやがるぜ!」
 巴がロケットスマッシュで迎え撃つ!
 ぎりぎりまで引き付けて一体にカウンター。だが、もう一体ともつれあったまま態勢を崩した。
「華都さん……」
 助けに行きたいのは山々だが、克も別の部屋に居る二体の氷猿と交戦中。
「陣形がこうも崩されてはまずいです。傷の深い人への回復を優先させましょう」
「はい、ですの」
 癒太が攻撃から回復へ、セレナも本来の役目へと。
(「しかし……四対八では厳しいですね」)
 ギンギンカイザーXを投げ、癒太は戦況を推し量るが……明らかに前衛が足りない。
 これでは誰かが集中攻撃を。

 ――キキキッキキキッツ!

 更に氷猿が奇声を上げ始めた。
 三連続のそれに、輝刃、克乙、乙姫、フィロミア、オフィーリアが踊りに誘われる。
「……分かってるね。先に踊りから回復しても祈らずに攻撃を続けるんだよ」
「……にゃ」
 フィロミアに応えるが、オフィーリア自身も踊りから抜け出せない。
 それが悔しいのか淑女のような振る舞いにやや陰りが。
 もっとも、それは他の者達も同じ。
 攻め手が止まる、支援が止まる、連携が崩れる――歯痒いことこの上ない。
「へっ、どんどん来いよ、楽しませてくれんだろー?」
 そこに、巴が血を吐き捨てて、ハンティングモードを取りながら前へ。
「……危険です!」
 サベージナックルで纏わりつく氷猿を払い除け、ソフィーが警告を発する。
「仕方ねえだろう――このままだと前が崩れるぞ」
 出切ることなら集中攻撃など受けたくもない。だが、今のままでは『前衛の誰』かがそれを受けることになる――ならば、最も耐えられる者が引き受けねば、と。
「こうもままならないとは……」
 克も飛び掛ってきた氷猿を布槍で受け流し、苦い顔をする。
「……前に出ます」
 そこに後衛の癒太が。
「ならば、乙姫を代わりに」
「では、一緒に前に出してください。戦況を立て直すために、どれだけ数が必要か分かりませんから」
 克乙に笑顔を向けて乱戦の中へ――重症は覚悟の上だ。
(「原初の吸血鬼……彼らの狂気によって数え切れない命が犠牲になりました……。これ以上の悪夢を阻止する為にも儀式を阻止するまでは倒れられません!」)
 熱き思いを胸に秘め、前衛の背を守るように癒太が切り込む。
「なら、セレナたちがそれを支えきりますの!」
「――その通りです」
 慈愛の舞に続いて、克乙も浄化の嵐を。

「……絶対に、倒れるわけには、いかねぇんだぞ!」

 機能不全に陥りつつあった前衛が、息を吹き返した。
 輝刃の『月牙天爪』が氷猿の腹を打ち抜き、
「あんなゲーム何度もやらせてたまるか! 絶対に止めてやるんだぞ!」
 そのまま空いた手で床に叩き付ける。
 左から飛び掛ってくる氷猿への対処は――、
「その氷では、私のスパイシーさを破れませんよ!」
 克が布槍で絡め取った。
「――もう、好き勝手にさせません」
 更に森王の槍。
 フィロミアからの援護だ。二人は視線だけで礼を述べ、すぐさま次の目標へ――動きが止まった。

「……がっ」

 敵を引き付けていた、巴がゆっくりと崩れ落ちていく。
 薄れゆく意識の中で浮かんだのはアリスのほくそ笑む顔……。
(「……でしゃばりなお嬢さんの思い通りになってたまるかよ!」)
 魂で肉体を繋ぎ止め、強引に崩れかかった姿勢を戻す。
「大丈夫ですか」
 ソフィーがその体を支える。
 青息吐息に漏れるのは、
「(……吸血鬼株式会社っつーネーミングがださいよな、横文字使えよ欧州人)」
「えっ、何ですか」
「早く倒そうって話だ! オラァアアアア!」
 強引にロケットスマッシュを打ち込み、勢いのままに振りぬく。
「よく分かりませんよ」
 その様子に、ソフィーは下がることを提案するよりも背を守るように移動する。
「援護します、その間に回復を」
 近くでフィロミアの茨の領域が爆ぜた。
 だが、氷猿達はそれに奇声で抗う。
「ここが正念場です」
「分かっていますの!」
 ならばと、克乙とセレナ――二人の癒し手がそれを押し返すように癒し続ける。
 まるで能力者達の体で力比べをしているかのようだ。
(「また原初の吸血鬼を誕生させようだなんて絶対許せませんの!」)
 思いを力に、みんなを支える力にと――セレナの舞が続く。
 それは、克乙とて同じことだ。
(「仲間を守りきることこそ癒し手の本領です」)
 癒しの力を送り続けながら、あらゆる事態に対処できるように前線を見つめる。
 既に、彼の使役たる乙姫の姿は無い。
「オフィーリア……ごめんね」
 隣では、フィロミアが苦悶の表情を浮かべていた。
 彼もまた自らの使役の前衛に送り出し――今、倒されてしまった。
「思ったより厳しいな……がはっ」
 遂に、巴も。
「巴先輩はセレナが安全なところに連れて行きますの」
「任せます――茨よ、いま一度」
 感傷に浸る暇も無く、フィロミアが魔法の茨で巴の周囲の氷猿を縛る。
「これ以上、奇声は上げさせません」
 その間に、克が一体を無に帰し、
「あと残りは氷猿が3匹……」
 紺碧の獣爪から感触が消えたのを確認して、ソフィーがつぶやく。
 視線は階段の先――惨劇の行われる場所に。
「戦力は2倍以上、今なら」
「いえ、今2階に行くタイミングではありませんの」
 逸る癒太を、セレナが留めた。
「なら、あと一匹倒せばいいか?」
 輝刃は、セレナがうなずいたのを見て一気に踏み込む。
 彼我との距離を瞬く間にゼロにすれば、逃げようと氷猿は慌ててバックステップ。
「――逃がしません」
 フィロミアの放った森王の槍の衝撃がそれを鈍らせれば、輝刃はにっと笑って豪快に一撃。
「唸れ、月牙天爪ッ!!」
 氷猿がそれで消えたと同時に、
「上は頼みましたよ」
 克の声が背中を押す。
 既に別の氷猿と交戦に入っているようで、後は僅かな目配せが送られた。
「急いで倒して応援に行きますの!」
 その横には、セレナが並び。
 克乙と、フィロミアも後を追わせないと階段の近くに陣取る。
「さて、スパイシーに行きましょうか」
 敵の攻撃に備えて緩んでいた布槍が、克の声と共に鋭利に変化した――。

●貴種ヴァンパイアの男
 扉を豪快にぶち破る。
 不意打ちなど掛けるつもりはない。
「事情とか考えてやれる余裕無ぇんだぞ、悪ぃが全力でぶん殴る!」
「……なっ?!」
 輝刃の姿を視認した時には既に遅く、最後に残った獣撃拳奥義が豪快に打ち込まれた後。
「……ぐはぁぁぁ」
 貴種ヴァンパイアの男は苦悶の表情と掠れるような声を出した。
「喜んでください、貴方の過ちを正しにきましたよ」
「……なにを」
 ――言っているんだ、と続けようとしたところに今度はソフィーの痛撃が。
「……がああぁぁぁ」
「自分で借金しておいて、他人に当たるなんていいご身分ですね?」
 周りを見れば虫唾が走りそうに。
 誰もが傷付いていた。しかも、動けぬように縛り付けられて。
「命を落とした人はいないようです。皮肉な話ですが、念入りに行ってくれて助かりました」
 これならば、後はきちんと治療を受ければ大丈夫だろうと、癒太が安堵の息を吐く。
「お前達は何者だ?! お、俺が誰だか分かってるのか!」
「ええ、借金は自分のせいなのに他人にあたるなんて最低の人ですね」
「なっ?!」
 ソフィーの言葉で、男の顔が真っ赤になった。
「もうこんなふざけたゲームは、おしまいですよ」
「な、なんだと、ふざけるなっ!」
「言うだけ虚しいですよ、坊や」
「……ぼ、坊やだと。お前みたいなガキがっ!」
「自分がした事の責任を取れないあなたは坊やで十分です」
 あまりの反応に、癒太から失笑が漏れる。
 こんなヤツを原初にしようとは……。
「あなたの相手よりも、この人たちを早く助けてあげなければいけません。だから――」
 どうぞ、かかってきてください、と癒太が手招く。
「くっ……ガキどもが!」
 激昂したままスラッシュロンド。
 確かに鋭さもある、能力者とも戦える力はあるだろう。
 だが、三対一に持ち込まれている時点で勝ち目が無いことに彼は気付かない。
「さあ、今度は貴方が痛い目に遭ってもらいましょう」
 ソフィーのサベージナックルが顔面を捉えれば、
「さっきも言ったが、遊んでやる時間は無ぇんだぞ!」
 輝刃の勢いを乗せた重い一撃が。
「……おや? もう戦闘不能ですか」
 癒太の見ている前で、男はよろよろと倒れた。
 油断もあった。だが、それ以上に男には覚悟が無かった。故にこれは当然の帰結であった。

●小さな勝利
「な、何とかなったんだぞー!」
 輝刃が勝ち鬨を上げる。
 それは氷猿を倒した仲間達がやってきたのと同時で、本当に戦いが終わったことを告げていた。
「何とか阻止できましたが、ゲームに巻き込まれた人々の心の傷はどうなるのでしょうか? 世界結界がなんとかしてくれればいいのですが……」
 心配そうに、克が傷付いた人達を見つめる。
 大半が傷を押さえてうずくまっているか、ショックで気を失っているか、だ。
「これは悪い夢です」
 克乙は比較的正気そうな人を選んでフォローをしているが、やはり世界結界に頼るしかない。
「後で救急車を呼ぶとして、この人の手配も」
 癒太が一般人から、男へと視線を移す。
「インスタントに原初の吸血鬼を生み出すとは我々の想像を絶する科学ですね」
「本当ですの……」
 克乙の冷や汗交じりのつぶやきに、セレナがうなずく。
「アリスさんは、生まれた原初の吸血鬼を処刑人の林檎の奪取にでも使うつもりなのでしょうか?」

 ――それとも……。

 克乙の疑問に答えられる者は誰もいない。
 更に厳しい戦いを誰もがひしひしと感じていた。
 能力者達の元に残されたのは、原初がひとり生まれなかったという小さな勝利のみ。
 だが、それも積み重なったならば――いつかは。


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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/08/04
得票数:楽しい1  カッコいい15  知的4 
冒険結果:成功!
重傷者:華都・巴(ブランエスクリール・b19541) 
死亡者:なし
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