錆水


<オープニング>


 ───夕暮れ時に、体育倉庫脇にある水飲み場の蛇口をひねると、水ではなく血が出てくる───。

 それは、とある中学校で、何年か前から囁かれている噂である。
「俺、このあいだ試してみたけど、出てきたのただの錆水だったぜ」
「あそこ、夏とかガンガン日が当たっから、使うやつ少ねーもんなー」
「めっちゃ温いし。つーか臭ぇし」
 部活の終わった少年達は、そんな会話を交わしながら渡り廊下を歩いていた。
「けどさ」
「ん?」
「ガーッと沢山水出したら、どうなんだ?」
 温い錆水が出きったら、冷たい透き通った水になるのだろうか。
 その疑問は、彼らの好奇心を刺激するに十分だった。
「……やってみるか」
 2人は水飲み場へ向かい、蛇口を全開にひねってみた。

 ───ゴパッ、ザバッ、ドパパパパ!
 赤茶けた温い水が、蛇口から勢いよく噴出する。
「うわ〜汚ねぇの」
「これ、本当に透明になんのか?」
「どうなんだろうな……。……って、お、きたきた!」
「おー!」
 十数秒ほど経った頃から、水は加速度的に澄んでゆき、試しに手を触れさせてみると、それはひんやり冷たかった。
「消えたじゃん、錆!」
「まぁ、そんなモンだよなー……って、ぉいっ!
「何……ぅぇ、ひっ!?」
 ざばざば、ざば……ぬるり。
 透明になったと思った水が、また赤く染まり始めた。
 それは、先程の錆水とは違う、明らかに血の赤色。
「ひぃ……!」
 少年達は、恐怖のあまり逃げようとした。
 だがその時、突如周囲の景色が歪んだ。
『苦シ……水…………』
「な、何の声……」
「うわぁぁあっ!?」
 少年達は、歪みの中に呑まれて消えた。
 
 
「ハァイみんな、集まってくれてアリガト」
 久慈・久司(運命予報士・bn0090)は集まった能力者達を教壇前に呼び集めると、とある中学校の写真を見せた。
「この中学校の水飲み場に、地縛霊が現れたの。それで、男の子が2人、特殊空間に囚われちゃったのヨ」
 この水飲み場には、夕暮れ時に蛇口をひねると、水ではなく血が出てくるという噂があり、少年達はそれを確かめようとしていたらしい。
 このまま放っておけば、少年達の命が危ないだけでなく、更なる被害者が出てしまうかもしれない。
「特殊空間の男の子達は、まだ生きている筈ヨ。だから、一刻も早く助けに向かってあげて欲しいの」
 
 特殊空間は、蛇口から錆水が出きって、綺麗な水に変わった時に開くようだ。
「男の子達が特殊空間に囚われたあと、水は勝手に止まったみたい。水飲み場には蛇口が4つあるから、多分まだ錆びた水の出るトコロがあるはず筈ヨ」
 内部は薄暗く、地面は水浸しになっている。
 囚われた少年達は、隅の方に折り重なるように倒れており、ショックで気を失ってしまっているようだ。
「現れるゴーストは、血塗れの体操着を着た地縛霊と、ミミズっぽい妖獣4匹ヨ」
 地縛霊は錆水の塊を投げつけて攻撃を仕掛けてくる。この水には、詠唱兵器の動きを止めてしまう力があるようだ。
「水は、一点に高出力で放つ場合と、広範囲に炸裂させる場合があるみたいネ」
 体長1m近くもあるミミズに似た妖獣は、近接攻撃しか仕掛けてこないが、動きは見かけに依らずかなり素早く、その体液には猛毒がある。
 また、妖獣は、地縛霊を囲むようにして現れる為、地縛霊に近接する為には、まず妖獣を始末しなくてはならない。
 
 もう10年以上昔の話になるが、この体育館脇の水飲み場で、血を吐いて倒れた男子生徒が居たらしい。
 現れる地縛霊が、この男子生徒なのかどうかは定かではないが……夏場に溢れ出す錆水と相俟って、噂の原因となったことはまず間違いないだろう。
「ちょっと厄介な相手だけど、男の子達の命もかかってるワ。油断しないで、しっかりとお願いネ!」
 そう言いながら、久司は能力者達に一礼し、まとめ上げた資料を手渡した。

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参加者
壷居・馨(真スマイル王子・b08122)
リメリア・ツジモト(高校生青龍拳士・b38680)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
狗々・狗々狼(天ツ狗・b46699)
松仲・鉄太(自然児・b53106)
紫之宮・真(高校生真土蜘蛛の巫女・b54552)
金剛院・空花(澪標・b56447)
彼杵・天羽(高校生クルースニク・b63707)
鵠神・氷樹(はじまりの道標・b70701)
リネット・ノースロップ(ローズドロップ・b76044)



<リプレイ>

●滴り、溢れる
 ───ぴちゃり、ぴちゃり。
 蛇口から透明な滴が零れ、溜まった水に幾重もの波紋を刻む。
 飛び散り、溢れた多量の水で、体育館脇の水飲み場は、一面水浸しになっていた。
「わっ、水溜まりだらけ!」
 念のためにと、防水靴を履いてきた松仲・鉄太(自然児・b53106)は、ピチャピチャと水溜まりの中に入ってみた。
「夏の怪談が現実になった……かどうかは知らないけど、この時期こういった手合いが増えてくるのでしょうね」
「うんうん、特にこの季節は怖い噂話があったら確かめたくなっちゃうよね」
 思いというのは何処にでも留まるものなのね……と、どことなく哀しげに、口の中だけで呟く皆月・弥生(夜叉公主・b43022)に、リネット・ノースロップ(ローズドロップ・b76044)が小さな溜息をついて頷く。
 一体ここで、過去に何があったのか……。
 やはり、水を巡る悲劇だろうか……。
(「きれいな水が飲めることは、今となっては当たり前なんでしょうが……」)
 紫之宮・真(高校生真土蜘蛛の巫女・b54552)は、ふと足下にできた水溜まりに視線を向けた。こうして見ているぶんには、何の変哲もないただの水だ。しかし、地縛霊に捕らわれている少年達には、この水がまるで血のように赤く見えていたのだろう。
「蛇口を捻ったら、水じゃなくて血だよ!? 「汗かいた〜」って顔を洗おうとするととか、「喉渇いた〜」って水を飲もうとすると、血が出てくるなんて怖いじゃんっ!」
 そう力説する壷居・馨(真スマイル王子・b08122)は、想像だけで恐怖を掻き立てられてしまったのか、先程から鳥肌の立った腕をゴシゴシ強く擦っている。
「確かに血は鉄錆の味がするというが……」
「いやいや、怖いから!」
 狗々・狗々狼(天ツ狗・b46699)のそんな他愛のない言葉にすら、背中がビクッとなってしまう。
「しかし錆びた水とは言え……水は命を担う物。この様な物で人を殺められては困ってしまうのぅ」
「うん……。どんな思いが、こんなゴースト、生んだかは、分からない……けど。犠牲が、もう出ないように、しないと、ね」
 助けられる命は拾わねばと、口元に扇を寄せる金剛院・空花(澪標・b56447)に、鵠神・氷樹(はじまりの道標・b70701)がやや辿々しい言葉で同意を示す。
「絶対に、無事に助け出してあげようね!」
 ギュッと拳を握る彼杵・天羽(高校生クルースニク・b63707)に、強く頷く仲間達。
「さぁてそれじゃ、スピーディーにサーチアンドデストロイといきますか」
 そして、皆の準備が整ったところで、リメリア・ツジモト(高校生青龍拳士・b38680)は、徐に蛇口のノブに手をかけた。

●赤い水
 ノブを捻ると、軋音と共にガフンと大きな音がして、赤茶色をした水が勢いよく噴出した。どうやら、少年達が使った以外の水道には、まだ多量の錆水が残っていたようだ。
「わっ!」
「水がホントに赤い! 初めて見た!」
 鉄錆の溶けた赤茶色の水に、鉄太が驚きの声をあげる。
「こんな水じゃ、とても飲めないでしょうね」
「うん、お腹壊しそう」
 そんな事を話しながら、じっと流れ出る水を見ていると、その色は徐々に消えてゆき、ついには透き通った水となった。
 だが、いよいよここからが本番である。
 いつ水が真っ赤になっても良いように、いつ特殊空間へ連れ込まれても良いように、イグニッションカードを握って身構える。
 そして、透明な水が流れるようになって数秒後……。
「───来たっ!」
 周囲の空気が突然変わった。
 と同時に、水の色が血の赤へと変化した。
「うわ! さっきの色と全然違う!」
 水は忽ち水飲み場を赤く染めた。
『……苦シ、ィ……』
「!?」
 歪む世界。
「「「イグニッション!!」」」
 能力者達が即座に叫ぶ。
『水……飲……』
 突如広がる、薄暗い、水浸しの特殊空間。
 現れた地縛霊……血塗れの体操服を着た少年は、4匹の巨大ミミズ妖獣と共に、その空間のほぼ中央に佇んでいた。そして見回せば、端の方には先程見たものとよく似た水飲み場らしき場所があり、その手前に少年が2人、折り重なるように倒れていた。
「おにいさん達はゼッタイに助ける!」
 鉄太がすぐさま倒れている少年達の方へ走り出す。それに続き、天羽とリメリアもまた、少年達の保護に向かう。
「妾も、多少は盾となるよう動かなくてはな」
 やや後方に移動しながら、ゴーストと少年達との距離を測る空花。一応、それなりに離れているようであるが、やはり安全の為にはしっかり引き離しておく必要がありそうだ。
「ミミズ……思った以上に大きいわね……」
「お前らの相手は俺達だ!!」
 弥生は巨大ミミズにややげんなりしながら虎紋覚醒を、狗々狼はゴーストの気を引くように雄叫びをあげながら忍獣気身法を使い、壁となるよう進み出る。更に真もリフレクトコアを展開しながらそこに加わり、ミミズの進路を完全に絶つ。
「よし、先制攻撃!」
「そこ、動いちゃ駄目……だよ?」
 馨のジャッジメントサンダーが、地縛霊とミミズ2匹を貫いた。更に氷樹の茨が茂り、残るミミズを締め上げる。
『ギュ……』
『ギギギ……』
「……大きいミミズさんはあまり直視したくないので、早々に倒させて頂きます」
 そしてリネットは、ミミズから若干視線を逸らしつつ後衛に陣取ると、中空に描き出した魔法陣の力を己の中に取り込んだ。
『ギ……』
『ギュゥ……!』
 2匹のミミズが狗々狼と真に襲いかかる。だが2人は慌てずにそれをかわし事なきを得た。
『水、ガ……ッ!』
 地縛霊は、まだ立ち位置の確立できていない弥生と真に、錆水の塊を投げつけた。
「……っと!」
 真はどうにか、飛沫が少々かかっただけで助かったが、弥生の両手の鷹爪獣爪は、ギシッと軋んでまともに動かなくなってしまった。
(「うまく助けられたかのぅ」)
 幻楼七星光を展開し、ミミズを1匹石化させた空花は、ちらりと後ろを振り返った。そこでは丁度、鉄太、天羽、リメリアの3人が、少年達を抱え上げて、水飲み場の陰に避難させているところだった。
「よし、ここなら!」
「わふ。怖い思いしたよね……すぐ倒すからここで大人しく待っててね」
 いまだ気を失ったままの少年達にそう告げて、戦う仲間達の方へ視線を向ける。そこでは丁度、狗々狼と真と馨の3人が、流れるような連携をみせ、1匹目のミミズを無に帰したところだった。そして弥生も、爪の錆を削ぎ落とし、突進しようとしてきたミミズに黒燐蟲を浴びせていた。
「だから寄るなって言ってるでしょうが! 黒燐よ、喰らい尽くせ!」
『ギギ……ギュォォゥ!』
 無数の蟲に腹を食い破られたミミズは、泥水のような体液を零しのたうち回った。
(「これは……思った以上に……」)
 もう見たくないと言わんばかりに、隕石の魔弾でミミズを潰しにかかるリネット。生憎、そばに居たもう1匹には避けられてしまったが、弱っていた1匹が、この一撃で消え失せた。
 残るミミズは後2匹。その片方が石化している事を確認した氷樹は、すぅっと目を閉じ、特殊空間内に猛吹雪を巻き起こした。
『ギ……ビギーィ!』
 また1匹、茨と氷から逃れる事の出来なかった哀れなミミズが、砕け散るように消えてゆく。
『早……水ヲォォ!』
「く、っ」
「空花さん!」
 凝縮された錆水が、空花の胸を強く叩く。鉄太が叫ぶが、走りながらでは舞も祖霊も使えない。
「この程度なら、心配無用じゃ……っ!」
 空花は崩れかけた膝に力を込めると、再び七つ星を輝かせた。
 ミミズと地縛霊を巻き込むように黒燐蟲の塊を投げた弥生だが、今度は惜しいところで外れてしまった。
「鉄錆の匂いをばら撒きたいなら――手伝ってやろう」
『……ッ、ゥヴァァァ!』
 狗々狼は地縛霊を挑発するかのように、至近距離で牙道大手裏剣を炸裂させる。その耳に、少年達の避難を終えた天羽とリメリアの声が聞こえてきた。
「みんなーもう大丈夫だよ!! どかんとやっちゃえ!!」
「危険度増々なんで時間もないし早々にキャストオフして貰うよ!!」
「彼杵さん! リメリアさん!」
 真は安堵の笑みを浮かべると、光の槍でミミズの胴体を貫いた。そしてミミズがもう虫の息と見た馨は、標的を地縛霊に変更する。
「おとなしく、痺れてなさい!」
『ギャァァッ!!』
「いつまでも、此処に居ちゃダメだよ」
 麻痺とまでは至らなかったが、それでもかなり大きな一撃。そこにリネットが隕石の魔弾を重ね、地縛霊を炎に包み込むと同時に、ミミズをぶちりと潰しきった。
「よかっ、た……」
 ミミズの最期を見届けた氷樹は、ホッと一息といった表情で、空花の傷をヤドリギの力で癒しにかかった。
『ヴヴ……水、ヲ……』
 ひとりきりになった地縛霊は、それでも、哀しげな怨嗟の言葉を吐きながら、虚ろな双眸で能力者達を睨み付けていた。

●魂の雫
 ばしゃんと弾けた錆水が、馨とリメリアに襲いかかる。
「わわ。今、癒すね!」
 すぐに鉄太が舞を踊り、幾ばくかの体力と詠唱兵器の機能を戻す。
 ここからが正念場と、空花は氷雪を吹き荒ばせ、弥生は怨念の隠った瞳で地縛霊を睨み付けたが、どちらも防がれ、思ったような効果を発揮する事は出来なかった。
「この技……僕も嫌いなんだよね…頭痛くなっちゃうから……!!」
 駆け込みざま、地縛霊の顎にライジングヘッドバットを叩き入れる天羽。その間に狗々狼は地縛霊の背後に回り込んで一撃。
「……少し愚痴でも聞いてくれるかな」
 今の自分は、この場には一番不似合いかも……とぼやきつつリメリアは硬く拳を握り、龍顎拳を地縛霊の腹に叩き込んだ。
「これで私にやられるようならアンタは傑作だ!」
『ヴァァ……ッ』
「いきます!」
 ぐらりと揺らめいた地縛霊の脇腹に、真が光の槍を突き刺す。更に馨が雷の魔弾を続けるが、こちらは狙いが逸れてしまった。それならばと、リネットが炎に包まれた隕石を落とすも、惜しいところで魔炎を生じさせるまでには至らない。だが続く氷樹の氷雪地獄が、遂に地縛霊を魔氷で捉えた。
『ッアァ……水、水ガァァァーーーッ!!』
「危ないッ!」
 地縛霊は、氷にその身を蝕まれながらも、リメリアに向けて刃のように鋭い錆水を飛ばした。
「……!!」
 それは、リメリアの喉を直撃し、彼女はごふりと血を吐き出し、水浸しの地面の上に仰向けに倒れた。
「くそぉーーッ!」
 鉄太は唇を強く噛み締めて、まだ戦っている仲間……馨の傷を祖霊で癒した。
「あと一歩じゃ。妾達だけで、何とか!」
「えぇ、終わらせましょう!」
 空花の氷が更に地縛霊を包み込み、弥生の瞳が強い毒を注入する。
 狗々狼の大手裏剣が炸裂し、前のめりに揺らめいた地縛霊の身体を、天羽のヘッドバットが仰け反らせる。
『ヴ、ァ……苦シ、ィ……ミズ、ガ!』
「水に、どんな辛い記憶があるのかは分かりませんが……」
『────!』
 真の放った光の槍が、地縛霊の左胸を貫いた。
「君だって、イツまでもこんなところに居てはダメだ。仲間なんて、欲しがっちゃダメだよ」
 血のついた体操服が痛々しいよ……。
 崩れ、消えてゆく地縛霊に、馨がそう語りかける。
『水……僕、ハ……ァ……』
「そろそろ還る時間だよ」
「もう、苦しくないといいね」
『………………』
 しゅわしゅわと、まるで水が蒸発してゆくかのように。
 地縛霊は、遂にこの世から姿を消した。

●水の一滴、血の一滴
 気が付けばそこは、じめじめとした空の下だった。
「お休みなさい、ね」
 抜け出る直前、氷樹の囁いたその一言は、地縛霊となってしまった少年の耳にも届いただろうか。
「おにいさん達は!?」
 鉄太は慌てて、水飲み場の陰を覗き込んだ。
 そこには、いまだ気を失ったままの2人の少年の姿があった。しかしその表情は、先程までの苦悶が浮かぶものとは違い、どことなく安心しているようにも見える。
「どうやら、無事に終わったようじゃのぅ」
「あぁ、そうみたいだな」
「わはっ! 本当に良かったね!」
 出血のひどかったリメリアは、まだ意識が戻っていないようではあるが、とりあえず命に別状はないだろう。
 馨は再度、確かめるように蛇口を捻ってみた。
 出てきた水は、はじめの数秒こそ濁っていたが、すぐ透明な水となり、その後暫く出し続けても、赤く染まる事はなかった。
「特殊空間も、もう開きませんね」
「そうね。これで、本当に「ただの噂」になったわ」
 真と弥生は安堵の笑みを向けあうと、倒れっぱなしの少年達に歩み寄り、すぐ脇にある体育倉庫の壁に凭れさせた。
「ここなら風通しもいいわよね」
「後は、少しでも早く誰かが見つけてくれる事を願いましょう」
「でもその前に、しっかり拭かなきゃ!」
 濡れっぱなしで風邪をひいては大変と、天羽はタオルを取り出して、まずは少年達の顔と頭、そして手足をさっと拭いてあげた。
「君達も、いつまでも此処に居ちゃダメだよ」
 リネットも、クスリと笑んで少年達に声をかける。
「好奇心、猫を殺す……って言うよ?」
「うむ。猫に限らず、様々なものを……のぅ」
 少年達に昔の自分を重ね合わせ、どことなく愛おしそうにその頭を撫でる馨の姿に、空花もフフッと笑みを浮かべる。
「さて、後は誰かに見つかる前に撤収するか」
 周囲に人目がない事を確認した狗々狼は、そう言って、仲間達にこの場からの撤収を促した。
「そうね、帰りましょう」
「あっ、その前に!」
「……?」
 皆の視線に、鉄太はにひひと悪戯っぽく笑ってみせると、蛇口を上向かせて指を添え、黄昏の空にまるでシャワーのように水を飛ばした。
「もう、苦しくないといいね」
「そうだね」
 能力者達は水飛沫に目を細め、天に昇った魂に祈りを捧げた。


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/07/31
得票数:楽しい2  カッコいい9 
冒険結果:成功!
重傷者:リメリア・ツジモト(高校生青龍拳士・b38680) 
死亡者:なし
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