ゴーストレディ☆ジェットさん


<オープニング>


 ジェットを背負った女の子。
 一発限りのロマンアタック!
 人呼んで――ゴーストレディ☆ジェットさん!
 
「必殺技は、一発限りだよ!」
 ちっぱーが黒板を前にそんなことを叫んでいた。
 夏も本格化してきたなあと一同がしみじみ思っていると、ちっぱーは腕をぶんぶんやって説明を加えた。
「違うんだよ。地縛霊が某山岳地帯に出たから、被害者が出る前に倒して欲しいんだよ!」
 そうならそうと早く言いなさい。
「名前はジェットさんてことにしとくね!」
 ちっぱーは黒板にやたら豪快な文字で地縛霊さんの特徴を書き殴った。
 
 『四人で一組ジェットさん!』
 『必殺技はジェットアタック!』
 『一発限りのとっておき!』

「以上!」
「すげえ!」
 三行で伝わるこの勢い。
 向こうからすれば命を賭けた大勝負である。
 沸き立つ一同を前に、ちっぱーはぐぐっと拳を握った。
「そんなワケだから皆、失礼の無いようにガツンとやってきてね! たのんだよ!」

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参加者
島守・由衣(透空・b10659)
歌彩・亜矢(レイジングファルコン・b36337)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
東雲・影虎(白にして烈風・b53232)
フィオ・リーヴィス(ソニックダイバー・b56822)
城段・絵梨奈(深紅の刃・b61265)
稲葉・和音(翠雷の頸刎ね兎・b68065)
本田・丈二(マッドスピード・b68625)



<リプレイ>

 これは……作戦など無く、あみだくじで決めた役割分担と、ぶっつけ本番の戦法で彼らは戦場へとやって来た戦士達の、数十秒間に渡る永き物語である。

●ベター・イズ・ベスト
 ジェットさんのハイキックを、東雲・影虎(白にして烈風・b53232)は片腕でガード。
 続いて繰り出されたパンチを横っ飛びに回避した。
「いちげきひっさつジェットさ〜ん」
 常に体が動き続け、汗と呼吸は酷さを増すばかり。
 だがそれ故に、影虎は鼻歌混じりにならずにいられなかった。
「いちげきひっさつならオレも負けないんだぜ。なんかしんぱしー感じちゃうな!」
 相手の目が、常にこちらの隙を覗っている。
 そんな相手に正面から突っ込もうとしていることのリスク。そしてスリル。
 影虎はそれを全身に感じながら、おもむろにゴッドウィンドアタックを放った。
「ドリル・ゴッドウィンドアタック! ってちがう依頼かー!」
 もう、本当に楽しくてしょうがないのだ。
「…………」
 そんな彼の様子を、一歩下がって城段・絵梨奈(深紅の刃・b61265)は一歩下がって見つめていた。
 一撃必殺というものが分からない。いや、意味は分かるが理解できない。
「男の人はそう言うものがお好きなのでしょうか……?」
 絵梨奈は腕を組みつつ呟いた。
 僅かに片眉を上げて、そして地面を蹴る。
 影虎とジェットさんの間に隙間を見つけたのだ。
 彼女の突入で、影虎は跳ね上がる。
 絵梨奈はさもありなんという風に、最高速度のままジェットさんにフェニックスブロウを連続で叩き込んだ。
「さあさあ、まだ戦いはこれからです!」
 三発目のパンチが空を切ったその時、絵梨奈の背後で暴風が吹いた。
 上空を、まるで嵐の如く舞う、影虎がそこにいた。
 彼は最上級の笑顔で、得意の槍を振りかざす。
 あたりまえのように嵐が集まり。
 あたりまえのように気流が変わり。
 あたりまえのように影虎は暴力と化した。
「たおれてもしっぱいしても、ふしちょうのようにはばたくぜ!」
 それを聞いて初めて気付く。この少年、既に一発ミスしている。HPは既に1の筈だ。
 なのに。
「いくぜ、ゴッドウィンドアターック!」
 そしてその攻撃は。
『ふっ……!』
 勢い良く屈んだジェットさんによって、回避される。
「やばっ――うわあ!」
 そして、さながらオーバーヘッドキックの如く。いやセパタクローのスマッシュが如く影虎は蹴り飛ばされた。
 地面を盛大に削って、うつ伏せのまま動かなくなる影虎。
 それを見て、髪をかきあげるジェットさん。
 一息ついたかのような様子を前に。
「お楽しみはまだまだ続きますよ」
 絵梨奈は指をくいっと上げた。
「さあいらっしゃい。ハリーハリー!」
 言い終わるが早いか、絵梨奈の側頭部にジェットさんの蹴りが炸裂する。
 思った以上に強烈な攻撃に、絵梨奈は守りを固めた。
 一発、二発、三発、四発。幾度とない暴力が飛び交い、お互いの攻撃を時に受け時にかわし、順調にお互いを消耗させていく。
 だがそれは、実力差を如実に表す結果となった。
「……ふう」
 忍獣気身法の12回目を使い切る。フェニックスブロウも奥義で積んでいたが、既に8発打ち切った。
 ただでさえ重い気身法。攻撃技が圧迫されるのはよくあることである。
 そして、ついにその時は来た。
『ジェット起動』
 けたたましいモーター音と共に、風を噴出す音がする。
 轟音と共に迫るジェットさん。
 絵梨奈は獣爪を砕けんばかりの勢いで叩きつけ、ギリギリの所でガードした。
 残りの体力はあと僅か。
 通常攻撃でトドメをさせる程相手は甘くない。
 だが――。
「賭けはあなたの負けですね」
 絵梨奈は大きく腕を引き絞り――。
「耐えれてしまえば終わりです」
 その拳に、炎が宿った。
「喰らいなさい!」
 フェニックスブロウ奥義、炸裂!
 溢れるほどに搭載できる、銀誓館のロングセラー。ファイアフォックスの底力だった。
 炎と共に消滅するジェットさんを、遠くのもののように眺める絵梨奈。
「……浪漫というものは、人の心が生み出す幻影なのかもしれません。だから惹かれるのでしょうか――?」
 分かりません。
「あー楽しかった! なんか賭けとけばよかったなー。あ、カキ氷食べたい」
 背後で何事も無く起き上がってくる影虎。
 絵梨奈は改めて息を吐く。
「やっぱり、分かりません」
 彼女自身が、実は最もロマンチックな闘い方をしていたことは、どうやら気付いていない様子である。

●ダンス・ウィズ・ゴッド
 右ストレートを紙一重で避けて、歌彩・亜矢(レイジングファルコン・b36337)はクレセントファングを放った。
 流れるような蹴り上げを、ジェットさんは腕をぶつけてガードする。
「開幕からインフィニティエアとかやってみたかったけど、あえて最初は抑えて戦うわ」
 そのままカウンターを放とうと踏み出したジェットさんに、なんと亜矢は空中で二発目のクレセントファングで切り込んだ。
 胸元を刃が切り裂き、血を吹かせる。鮮血は空中で消滅したが、怪我そのものはジェットさんに残った。
「チマチマやるのは性に合わないけどね」
 などと嘯く亜矢。充分豪快に闘っている。
 ジェットさんは三度目のキックを回避して後退。
 と、そこへフィオ・リーヴィス(ソニックダイバー・b56822)が飛び掛った。
「やっぱり必殺技は浪漫ですよね。全てはこの一撃のために、ですよ!」
 慌てて格闘戦をしかけるジェットさん。
 フィオは待ってましたとばかりに彼女の拳を蹴りを受け止めた。
「生身の技ならやっぱり直接攻撃! パンチですよ。キックですよ!」
 身を翻すフィオ。
「そして私は」
 さっきまで攻撃を受け止めていた『それ』を、大きく横に振りかぶったのだ。
「槍を構えて突撃ですよ!」
 大気を豪快に薙ぎ払う槍。
 特殊な形をしたフィオの槍は、空気を食い殺さんばかりの勢いで二回三回と振り回された。
 その度に身をかわすジェットさん。
 回避だけではない、飛んだ直後に蹴りを加えたり、屈みながら脚払いをかけたりと、ジェットさんの反撃も凄まじかった。
 それに、ことあるごとに槍のデッドゾーンである懐に滑り込もうとしてくるのだ。棒術のように振り回しているとは言え、フィオにとっては厄介極まりない。
「意外とはしっこいですね!」
「フィオさん、代わるわ!」
 ジェットさんの回し蹴りを回避したタイミングを狙って、亜矢が前へ出る。
 斬撃と蹴撃を組み合わせ、多種多様に攻め込む亜矢。だがジェットさんとてやわではない。その隙を巧みに突いては亜矢の体にダメージを蓄積していった。
「つっ……!」
 腹を抉るようなキックを叩き込まれた所で亜矢は後退する。
 フィオがフレイムキャノンを惜しみなく乱射。
 牽制で放たれた射撃は一発も当たらなかったが、充分な距離は取れた。
 何に充分かって? そんなのは決まっている。
「そろそろアレ、いきましょうよ!」
「あー、あれね」
 対戦前の雑談で、二人はあることを話していた。
「コミュニケーションって大事よね」
 そう言いながら、亜矢はインフィニティエアを展開。
 風が彼女を包み込む。
 ジェットさんは、期は来たれりとばかりに突っ込んでくる。
 狙いは恐らく亜矢だろう。渾身のジェットアタックを叩き込むつもりだ。
 分かってる。
 分かっているからこそ。
 彼女たちは飛ぶのだ。
「ゴッドウィンド!」
「ストランダム!」
 ジェットさんのキックが、二人の間を擦り抜けるようにして掠る。
 対して、フィオの槍と亜矢の刃が、彼女の胸へと突き刺さっていた。
 天を仰ぐような体勢で停止するジェットさん。
 消滅する彼女を前に、二人は同時に汗を拭った。
「そうそう、これがやりたかったんです」

●マッド・サイド・デッド
 島守・由衣(透空・b10659)のデモンストランダムが発動する。
「あなたのジェットとあたしの拳、どっちが勝つか勝負よ!」
 あえて拳の形に固めた右腕を、ジェットさん目掛けて叩き込む。
 ジェットさんはそれをクロスした腕でガードして、まるで押し倒すかのような体当たりを仕掛けた。
 無理に抵抗せず、地面を転がる由衣。
「一発に賭ける姿勢は嫌いじゃないわ。でも、むざむざ食らうわけにはいかないわね」
 再び拳を固める。
「やられるまえに、やるわ!」
 デモンストランダム。だが間合いが浅い。
 ジェットさんが跳躍。
 上空から打ち込もうと構える。
 そこへ本田・丈二(マッドスピード・b68625)のゴッドウィンドアタックが襲い掛かった。
 不意打ちとも言える背後からの攻撃に、ジェットさんは空中で体勢を変えて緊急ガード。
「やるじゃねえか。そこまで漢気を見せられたら、それに応じねえわけにはいかねえな」
 博打技を失敗したにも関わらず、サングラスを余裕でかけなおす丈二。せり出した岩場に着地したと同時にインフィニティエアを発動させた。
「どっちが倒れるか、互いの全力をもって競い合おうじゃねえか!」
 その瞬間、彼は風になる。
「このマッドジョー様のスピードに、ついてこれるか確かめてやるぜ!」
『……!』
 追い討ちをかけようと飛び込むジェットさん。
 だが彼女の試みは、またも空中で阻まれた。
「大丈夫? まだこれからよ、頑張りましょう!」
 ジェットさんの体を全身で受け止める、由衣の姿がそこにあった。
 密着した状態から、肩へ叩き落すようなデモンストランダム。
 由衣が離れたその瞬間に、今度は丈二のゴッドウィンドアタックが炸裂した。
 次は外さない。ジェットさんの腹を正確に捉えた一撃は、彼女を遠くの岩場に叩き付けた。
「決まった。だけどまだ終わっちゃ居ねえよな!」
 地面を蹴る丈二。案の定ジェットさんは起き上がり、反撃の格闘技を……。
『ジェット緊急起動』
「なっ!」
 こんな中途半端なタイミングで?
 そう思ったときには、既にジェットさんのアタックは仕掛けられていた。
 丈二の眼前に迫る。回避は間に合わない。ガードも恐らく無理だろう。
 これをまともに食らったら、どう考えてもお陀仏だ。
「丈二ィ!」
「ぐ、うおおおおおおおおお!!」
 とっさに顔面を庇う丈二。
 衝撃。
 まるでトラックにでも跳ねられたような感覚の直後、彼は岩場で自分の背中を摩り下ろした。
 そして、完全に沈黙……。
「お、あ、生きてる?」
 しなかった。
「よっし!」
 後でガッツポーズをとる由衣。
 そうである。彼女が空中で叩き込んだデモンストランダム。これによって武器封じが発生していたのだ。
 彼女は、ギリギリの賭けに勝ったのである。
「そうか、そーゆーことか……サンキュウ由衣」
 HPはギリギリ。
 風は満タン。
 丈二はゆっくり立ち上がり、じりりと地面を踏みしめた。
「行くぜ」
 地面を蹴る。
 ダッシュ。
 まずい。
 風になる。
 風を切る。
 加速。
 回避を。
 更に加速。
「マッドジョー!」
 跳躍。
 間に合わない。
 飛行。
 防御。
 右足を前に。
 防御を!
「ショウタイム!」
 そして彼は、ジェットさんを貫いていた。
 消滅する彼女を挟んで、丈二と由衣は背中を向ける。
「ゴーストにしておくには、惜しい相手だったな」
「うん。たまには、こんな闘い方も悪くないわね」

●ワン・オフ・チャンス
 皆月・弥生(夜叉公主・b43022)は呪いの魔眼を狙い済まして撃った。
 距離50センチ。前動作無し。
 にも関わらず、その攻撃は回避された。
 弥生の肩を掴み、自身の体を軸にして回転。背後を取られる。
 強烈な高足蹴りで、弥生の体は跳ね飛ばされた。
 なんとか受身をとるが、途中の岩場に背をぶつける。
 にも関わらず、弥生はドライな表情で相手を見ていた。
「背中にジェットパーツって、そんなもの使ったら体に負担が……ああ、地縛霊だからいいのね」
 などと言いつつ再び呪いの魔眼。
 これは左手で打払われる。不可視の筈だが……どうやらセンスだけで防御しているらしい。
 内心歯噛みする弥生。
 どの隙をどう狙えば良いだろう……。
 と、そこへ稲葉・和音(翠雷の頸刎ね兎・b68065)がまん前から飛び掛って行った。
 隙だらけも隙だらけ。全身どこを砕かれても文句の言えない突撃体勢で、妙な形のパイルバンカーを構えた。
「よーやくコイツを叩き込める時が来たな。滅多に無ェ機会だ、派手にやろォじゃねェか!」
 モーションバレバレのデッドエンド。
 しかし、その攻撃はジェットさんの肩に突き刺さった。
 一瞬たじろぐジェットさん。堂々とし過ぎて、逆に避け難かったのである。
 だが今ので武器封じに陥った筈だ。ここは序盤同様回復に転じて……。
「細工は流々、後ァ仕掛けを御覧じろ!」
 そしてまさかのデッドエンド二発目。
 ジェットさんと弥生はそのいい意味での大雑把さに目を剥いた。
 彼女の祭りは続く。
「バンカーの杭に成したるぁ、ダチの形見の日本刀。薬莢弾きゃクビ飛ばす、白銀色の閃刃よォ!」
 デッドエンド三発目。
「願いと想いを腕に乗せ、亡霊どもを穿ち潰せッ!」
 そして正真正銘最後の最後。
「これにて終幕! 蒼天に消えな!」
 四発めのラストデッドエンドが炸裂した。
『あ……が……』
 ジェットさんの右胸を貫き、背中から銀の刃が覗いていた。
 バラバラに砕け散ったパイルバンカー。
 最後に残っていた刀も地面に転がる。
「こんだけ撃てば……」
「まだよ、離れて!」
 無意識に振り向く和音。
 その瞬間、ジェットパーツが起動した。
 武器封じになり、ガードで削る策は使えない。丸腰同然の和音に、渾身のジェットアタックが……。
「こ……のっ!」
 和音を突き飛ばし、体を捻る。
「な、おまえ!」
 眼前に迫る暴力。
 弥生は回避を捨て、両腕を交差させた。
 衝突。
 勢い良くぶつかった弥生は、ジェットさんに捕まれたまま岩場に後頭部を叩きつけられた。
 鮮血が噴出す。
 暫く交差されていた彼女の両腕は、重力に引かれて地面についた。
 立ち上がるジェットさん。
 次はお前だとばかりに振り向いた……その時。
「必殺技っていうのはね、倒せなかった負けなのよ」
 血塗れの顔をした弥生が、片目を開けていた。
 腕が捕まれている。
 不意に引っぱられる。
 そして。
「この技使うの、初めてなんだけどね」
 最大限に強化された白虎絶命拳が、ジェットさんの胸に打ち込まれた。
 一瞬で消滅するジェットさん。
 最後に残った和音と弥生は……。
「いい根性じゃねェか」
「それはどうも」
 獰猛に笑い合った。

 ほんの短い間の、命を賭けた戦いはこうして終わった。
 最後に残るのは、勝者の笑み。
 ただそれだけである。


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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/08/25
得票数:カッコいい12 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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