<リプレイ>
● 山道を歩いていると彩りを変え始めた木々が目についた。 長く続いた夏も去り、山でもようやく秋の準備を始めたのだろう。 「小さな秋の季節ですね……」 隆苑寺・奏司(真銀の陰陽童子・b03733)が山吹色に変色した葉っぱを手にとった。 自然の恵みに囲まれて、このまま行楽としゃれ込みたいところだ。いや、きちんと山歩きの装備をしている辺り、それも目的であるのだが……。 「まあ、お楽しみの前の一仕事ってやつですかね。がんばっていきましょう」 伊藤・洋角(百貨全用・b31191)の視線の先には一本の大きな木が。 「はい、ゴースト退治をばっちり済ませて、秋の夜長を満喫しましょうっ!」 同意と共に、暮井・牧人(夕暮れ帽子と二番星・b71102)がイグニッションカードを取り出す。 秋の日差しを受けて、八枚のカードがきらめき、 「「イグニッション!」」 次の瞬間には武装を終えた、八人の少年少女とケットシーが出揃った。 戦いに備えて陣形を整えると、穂乃村・翠(常磐の符術士・b01094)が残留思念に近付いていく。 「準備は良さそうですね。もう詠唱銀を撒いても大丈夫ですか?」 「はい、いつでもどうぞ」 ではと、袋から詠唱銀を取り出して、そよ風に任せるように振り撒けば――、
猪の着ぐるみを着た少年(以降、いのぐるみ少年)が現れ、その周囲には在りえない大きさのうり坊――ふわもこ猪が出現して、能力者達を見るなり……次々と小首を傾げていくではないか?! これは……かなり可愛いぞっ!
(「た、倒すのに、別な意味で覚悟のいるゴーストさんですね。でも、いちおうゴーストさんですし、倒さなきゃいけませんですよねー……」) 翠が少し後退った。 近くに居ると、あっという間に魅了されてしまいそうだ。 ふわふわした毛並みが動くたびに揺れている――もこもこと、ゆらゆらと。 「で……あの、非常に攻撃しづらいのです、色々な意味で……! あのもふもふが……」 あまりの可愛さに、奏司もためらいが先に出てしまう。 抱きしめたら、どんな感触だろう? 柔らかくて、ふわふわしているのだろうか……。 「もふもふなのです……」 波多野・師将(符術師・b63996)の目はもう釘付け。 (「――ある意味、厄介です」) 惹き込まれそうになった、青乃・千世(淡紫香雪・b65514)は首を振って堪えている。 「むむむ……倒しちゃうのが惜しい……ですけど!」 牧人が叫ぶ! そう、 「あれは敵、ゴースト……でも可愛いっ」 嘉凪・綾乃(緋楼蘭・b65487)も叫んだ。敵と分かっていても、誘惑に勝てる気がしなくても! (「でも皆でキャンプを楽しむ為にも心を鬼に!」) 意を決し、雪の衣を纏いながら前に進む。 だが、その前にいのぐるみ少年が立ち塞がる! 大きく手を広げると、周囲にふわもこ猪や、正真正銘のうり坊が次々と現れては、とてとて歩き出したではないか?! 「こ、これは幻影です……!」 美甘・颯斗(エウカリス・b64753)が難を逃れて、警告を発した。 だが、時既に遅し……。 「もう耐えられません、えいっ」 魅了されたのか、翠がふわもこ猪に抱きついた。ふらふらっと近付いていく、千世もきっとそうだ。 「翠、しっかり。……うわぁ、近くで見ると更に可愛……って違う違う」 とか言っている間にも、綾乃の周りをふわもこ猪が取り囲む。 「きゃあああ」 気がつけば半数が魅了される大惨事……。 「でも、魅了をどのタイミングで回復するかが悩みどころなのですね……」 師将が仲間の様子に思案顔。 本能のなせる業(わざ)か、幻影で魅了されてもちゃんとふわもこ猪をゲットしている。 つまりは、みんなお楽しみの最中。 「なら、ここは予定通りにいきましょう団長っ!」 「はい、お願いしますです!」 「せーの……お休みなさいませー!」 牧人と、師将の手を離れた無数の呪符が風に乗って、戦場を覆い尽くす。 顔に張り付いてくる呪符を払おうと、ふわもこ猪が前足を器用に使っているが……うーん、踊っているようにしか見えない。ついでに言うと、これはこれで可愛い。 『きゅぅ』 『……zz』 で、健闘『可愛く』、一体、また一体と、眠りに入っていく、ふわもこ猪。 『ふわぁああ』 更に、いのぐるみ少年もお休みです。 つまりは、絶好のチャーンス♪ 「眠ってますよね……?」 「まあ、大丈夫でしょう」 恐る恐る近付く千世に、洋角が温和な笑みを見せる。 言わないが視線の先には魅了されたままに、もふもふを楽しむ翠と綾乃の姿が。 「……うん」 後押しされて、千世が軽く指でつっついてみる。 ふわもこ猪は寝返りを打って、無防備にお腹を見せた。 やっぱりそこにも、もふもふの空間が広がっていて、 「やっこくて、もこもこです」 その感触に、千世もご満悦な様子。 「うふふ、柔らかいですねぇ〜」 「天高くもふもふ肥ゆる秋です!」 颯斗がふわふわ感溢れる頭を幸せそうに撫で、牧人が抱きついたままに持ち上げる。 ああ、なんという夢のような空間! 「ううー……可愛くてモフモフなのが悪いの」 魅了から回復した、綾乃もふわもこ猪を膝に抱いてお楽しみの最中。柔かな毛並みを梳(す)いてみれば、さらりとした感触が指を包み込む。 ああ、なんという至福の時。 しかし、 『……むぅん』 楽しい時間もそろそろ終わりか、いのぐるみ少年が目蓋をこすりながら起き上がった。 (「そういえば、あの少年も厄介ですね……」) 破魔矢をつがえて、奏司の視線が傍らに注がれる。 (「やっぱりそっくりだなぁ。あの子」) 牧人の視線もそっと後ろに。 「ぼ、僕は違うのですー」 その先に居る少年と瓜二つな、師将は大慌て。 さすがに今日は、師将も猪の着ぐるみを着ていないので明らかに格好が違う。加えて、師将の隣にはケットシー・ワンダラーのもろたかもいる。 違いは十分。……十分なはずだ。はずなんだが、妙に不安だ……。 「師将くんの真似をして隙を狙おうなんて、そうは、い……いかないわよ!」 『……?』 「い、いかないんだから!」 言い切りながらも、綾乃の攻撃が鈍る。 疑うことを知らない純真無垢なその眼差しに……戦意が、戦意が! 『えいっ!』 とかやってるうちに、うりぼう型の弾丸が綾乃に飛んだ! 「きゃあああ」 油断大敵。気持ちは分かるが、敵は敵である。 (「――ここは心を鬼にして。これは、地縛霊……地縛霊………」) 千世が反撃とばかりに雑霊弾を飛ばす。 そうしているうちに、ふわもこ猪もお目覚めのようだ。 やはり、 「そろそろ、終わりで良いでしょうか?」 様子を見守っていた、洋角が仲間達に声を掛ける。 みんな十分にもふもふは堪能したようで、少しだけ名残惜しそうに、全員が同意を示した。
――ならば、終わらせよう。
破魔矢がふわもこ猪を射抜き、そこに光の槍が突き刺さる。 「攻撃するのが躊躇われる程のふわもこ具合でした。ですがこれはゴーストなのです」 颯斗が次なる目標を見定めているうちに、千世の放った雑霊弾が敵の足を止める。 そこに戦場全体を、綾乃の起こした吹雪の竜巻が走り抜ける。 だが、真っ白に染まりながらも、一体のふわもこ猪が抜け出してきた。 「なるほど……この大きさでこのもふもふ感、ですか」 洋角が受け止め、頭を撫でてやると共に、魔眼がその歪んだ生を奪う。 これで残ったのは、いのぐるみ少年のみ。 それも、 「そろそろ、おやすみなさい」 翠の貼り付けた呪殺符が永遠の眠りをもたらして。 本気になって僅か二十秒、戦いは終わった。
● 能力者達が次に向かったのは、山腹の拓けた場所であった。 人の手はほとんど入っていないが、比較的平坦な地形でテントを張るのには申し分ない。 ならば、ここにしようと持ってきたキャンプ用品が次々に下ろされて、 「……ふぅ」 テントや毛布といった重量のある物を運んでいた、颯斗はようやくひと息ついた。 とはえい、日は傾いてきている。そうゆっくりとはしていられない。 「ささっとやりましょう、終わったらバーベキューですよー」 洋角を初めとして、颯斗と牧人の三人が今日の寝床となるテントの設置を、その間に残りの面々が食事の準備という手筈である。 「少しでもお役に立てるよう頑張ります」 ここは年長男子組の頑張りどころと、颯斗は先ほどまでの疲れを脇に置いた。 「俺も頑張りますよっ!」 実は初めのキャンプである、牧人は何もかもが目新しいようで声が弾んでいる。 もっとも、戦いの疲労と合わさり、かなりの重労働になることを、彼らはまだ知らない……。
一方、食事の準備は順調そのものであった。 メインはバーベキューということで食材を切り分けるだけで済むのも、その理由である。 「火床の準備が終わりました」 「じゃあ、魚は先に焼いておこうか」 千世の知らせを受けて、綾乃がそっと奏司に視線を投げかける。 「はい」 ちょうど味付けが終わったところで、ホイルの中には魚と一緒にバターやスライスした玉ねぎが並べられている。これで、後は火を通せば完成だ。 そのホイルを、奏司が火床に持っていく。火床には、翠が待機しているし、何も問題あるまい。 むしろ、問題は……。 「えっと、これはあっちですよねっ。……おとと」 テント設営も大詰めに入っているが、牧人を初めとして経験は少な目。どうやら、慣れぬこともあって難航しているようだ。 「ちょっと手伝ってくるのです」 サラダを作り終えて、師将が応援に向かう。 これで、あちらもほどよい時間に終わるだろうか。 「まあ、こっちも頑張らないとね」 「もうひと頑張り、です……!」 綾乃のつぶやきに、千世が応える。 「じゃあ、これ運んでくれるかな」 「はい」
どうにか、テントも日が暮れる前に張り終わり――あとはお楽しみの時間となった。 「それでは、団長に乾杯の音頭をとってもらいましょう」 「あ、僕がするのですか……では、乾杯ー」 「「乾杯っ!!」」 紙コップが軽く触れ合い、次いで明るい声が響き渡る。 「お疲れさまでした。どんどん焼きますのでたくさん食べてくださいですねっ」 翠が焼けた肉や野菜を次々に皿に盛っては、次の食材が網の上に。 すると肉の脂が跳ねて、香ばしい匂いを辺りに漂わせていく。 「お腹ぺこぺこなのですー」 「僕も今日はたくさん食べられそうです」 師将と、颯斗が早速と料理を口に入れれば、まるで疲れた身体に行き渡るように、旨みが味覚を刺激する。どうやら、ほどよい運動がよいアクセントをもたらしてくれたようだ。 「こんなのも用意しましたよ」 そう言って、奏司が運んできたのは先ほど作っていた魚のホイル包み。包みを開けると、魚とバターの香りが立ち込めて、 「これは美味しそうですね」 「お好みでレモンを絞っても美味しいですよ」 もう食欲をそそること、この上ない。 「牧人くん、こっちももう火が通ってるよ」 「はい、ありがとうございます」 ちなみに火床は二ヶ所あり、もうひとつは綾乃が管理しているのだが、 「あの……」 「やってみる?」 千世がこくりとうなずく。 調理するのは慣れていないようなので、見守りはするが――何事も経験。 火の勢いを見ながら、千世が食材をかえしていく。だが、炭の勢いもちょうど強い頃合。脂身の多い肉では時折小さな火柱が立っている。 (「落ち着いて、焦がさないように、生焼けしないように」) 見ているよりも難しい。 でも、次第に焼き加減も分かってきて――もっともその頃には焼くのが忙しくなってきた。 「バーベキューは焼くのも楽しいんですね……」 「確かにそうかも」 「こちらで焼きそばをしますよ」 と、そこに奏司の声。 あちらこちらで、和気藹々と食事が進む。 「こういう色んな物を皆で食べるってのはいいですねぇ」 「ええ、皆さんと一緒に外で食事する機会はなかなかないのです」 仲間の様子に洋角がいつものように笑みを作り、師将もうんうんとうなずく。 正直こういう時間はたくさん欲しいものだ。 「……おや?」 そこに、何やら不思議な匂いが。 「あ、それ。俺も食べてみたいかも……!」 「それは何ですか?」 見れば、牧人と、颯斗が詰め寄っている。その先で千世が焼いているのはマシュマロかな? 「食べますか……?」 ちなみに、 「香ばしくていい感じ」 先に見つけた綾乃はどうやら気に入った様子である。
● 遂に日も暮れて、夜の帳が世界を包み込んだ。 空には太陽に代わって、無数の星々と、綺麗な円を描いた月が彩っている。 「確か、デザートも準備されている様でとても楽しみですね」 洋角の言葉に誘われてか、翠が月見団子とウサギのワッフルを持ってやってきた。 「お待たせしました」 その頭頂部にはお月見に合わせて、ウサ耳が揺れている。 「つけたい人は言ってくださいね。ちゃんと予備もありますから」 「翠も好きね。さて、私からは」 と、綾乃が持ってきたのは、うっすら黄な粉をまぶしたお団子。 それに、奏司が持ってきたお菓子も加わって、またも豪勢にお月見が始まった。 「デザート、とっても美味しいです。料理がお上手で尊敬します」 千世が言葉どおりに舌鼓を打ち、 「あ、あの……もう一個おかわり……宜しいですか? 余っていたらで結構ですので」 「遠慮しないでいっぱい食べて食べて」 和菓子が大好な、颯斗はかなり幸せな様子だ。 「こういうのは好きですね、自然の音だけを聞きながら月を眺める。お団子を食べながらというのも風流ですね」 洋角がまったりとしながらつぶやき、 「こうして皆と見る月は、いつもよりも明るく澄んで見えて、とても綺麗」 颯斗が確かにとうなずいた。 気温も低くなってきて空も澄んできたのだろうか、月の輝きがいつもとは違って見える。 「やっぱり山は星が綺麗なのです」 師将が言うように星々の光もまた月の光に打ち消されていない。 「月が綺麗ですね……。お星様も、如何ですか?」 「えっ?」 「ほら、月を映して甘い夜空を飲めるのです」 そう言って、奏司が飲み物に金平糖を溶かし込んだ。 「なんて、見よう見まねなのです。時代劇で、月見酒のシーンがあって、やってみたかったのです」 「あっ、なるほど」 「へくしっ」 そこに、牧人がくしゃみを。 気が付けばだいぶ冷え込んできている。 「もう遅くなってきたものね」 「そろそろ、お開きにしますか」 「でも、皆さんとまた、こうして星を見たいですね……」 何気ない千世のつぶやき。 「なら、今度は、栗とか、食べられる狩りのあとにしたいですね」 と、奏司が付け加え。 それは確かにと、同意の笑みが続く。
一同がテントへと引き上げた後、師将は用意してきた大き目の寝袋を持ってまた外に。 チャックを開けて、もろたかと一緒に寝袋の中に飛び込む。 吐き出す息は白くても、中はとても暖かい。 そして、煌く星々は宝石のような輝きを、師将ともろたか届けてくれていた――。
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参加者:8人
作成日:2010/10/06
得票数:楽しい10
ハートフル6
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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