ハードボイルド


<オープニング>


 ナイトメアシティ。
 それは夜が一日のすべてを支配する闇の世界。
 天高く連なる摩天楼はこの世の栄華を極めたかのように見えるが、実質この街を支配しているのは表に出せないような悪事の数々である。
 その最たるものが街の中心に位置するナイトメアタワー。
 最上階に、君臨するこの世界のボス……。
「はっははは、我らが王ジャック様の力は素晴らしいな」
 葉巻をくわえ、器用に椅子にすわる黒馬。膝の上には豚と猫の合いの子のような生物が乗っていて、それを撫でながら悦に入っている。
 彼こそが、この世界のボス。ドン・ナイトメアだ(むろん名乗っているだけである)。
 その手には『悪夢の欠片』があり、すなわちこの夢の命運を握ったも同じ。
 あまりにもそれが愉快で、ドン・ナイトメアは大きく体を仰け反らせた。そのまま、夜景が見たくなって椅子を大きく倒す。
「……ぐっ」
 まあ、別の言い方をすると浮かれ過ぎて後ろに倒れたのだ。
「いかんいかん、このパターンには覚えがあるぞ。そろそろ引き締めんと銀誓館の輩がやってくるに違いない。折角ここまで運んだものを台無しにされてはかなわんからな」
 ならば、とびっきりの殺し屋達を手配するとしよう。
「なあ、四重奏?」
 振り返ると、扉の前に黒ずくめの男とボディラインを強調した服を着た踊り子、そして壁の隅には西部劇にでも出てきそうなウエスタン風の男が立っている。
「ブレイド」
 黒ずくめの男が手に持った日本刀を抜いた。
「ダンサー」
 踊り子の女性は魅惑的な仕草を取りながら左右両方の手に拳銃を握る。
「ワン・ショット」
 ウエスタン風の男は素早く銃を抜くと、それを誇示するように拳銃で帽子を押し上げる。
「シャドウ」
 僅かに部屋の空気が揺れた。
 姿は見えないが、もうひとり居るのだ。
「さて、ここまで来れるか?」
 ドン・ナイトメアは窓から外界を睥睨(へいげい)して、口元を卑しい笑みで歪ませた。

「ハードボイルドか……おっと」
 能力者達が入ってきたのを見て、山田・大五郎(高校生運命予報士・bn0205)が手にした小説を閉じて、こちらへと向き直る。
「ナイトメアが現れた。既にとある男性が悪夢に囚われ、その影響が周囲にも及んでいる」
 放置すれば、悪夢に侵れる者がどんどん増えてしまう。
 それを防ぐためにも、ここで何とか阻止したいところ。
 不幸中の幸いであったのは、この男性がひとり暮らしであり、玄関の鍵も閉め忘れていることだ。そのため侵入・脱出で悩む必要は無い。
「悪夢の中に入ると、そこは摩天楼のような巨大なビル群が建ち並ぶ夜の大都市だ。もっとも、その治安レベルは極めて低い」
 犯罪都市―−形容するなら、それが最も適切であろう。
「その中心部であるナイトメアタワーと名付けられた百階建てのビルの最上階に、諸悪の権化であるナイトメアがいる。……ビルにつくまでは問題はないが」
 そこから先は当然、障害がある。
「タワーの中で立ち塞がるのは四人の難敵だ」
 名は、四重奏。
 黒ずくめの刀使いブレイド、死をもたらす踊り子ダンサー、最速の早撃ちワン・ショット、忍び寄る影シャドウの四名で構成された殺し屋達だ。
「それぞれに曲者揃いでな。きちんと対策を立てないと不覚を取りかねん。加えて、こいつらは総じて恐るべき攻撃力を持っている。だが、代わりに生命力は貧弱と極端な連中だ」
 ブレイドは恐るべき剣豪である。その最大の特徴は驚異的なガード率。攻撃力の高さと相まって一撃を入れるのは至難の技だ。
 ダンサーは兎にも角にも回避率が高い。その踊りに秘密があるのか、驚異的な回避能力でこちらを翻弄し二丁拳銃で攻め立ててくる。
 ワン・ショットは他に比べると防御能力は高くない。代わりに恐ろしいほどの早撃ちで攻めてくる。この敵から先手を取るには、いや先手を取らねば倒されるのはこちらになるだろう。
 シャドウは正体不明の敵である。その姿を捉えること自体が難しく、どこに居るのかも分からない。いかに奴を捕捉するか、それが出来なければ一方的にやられるだけとなるだろう。
「これに加えて、この悪夢の中ではハードボイルドな行動や言動を取らないと力を上手く発揮できない。……ただ、この点には若干救いがあってな」
 もし、何らかの演技・演出を行ったならば、四重奏もそれに合わせてくれるのだ。
 おそらく、ナイトメアの性格によるものであろう。
「昔、恋人であったというように設定を付け足したりできる。上手く活用してくれ」
 各人のやりたいことで、四重奏の設定に矛盾が生まれた場合は、一番合いそうなものに調整される。まあ、ぶつからないように事前調整しておけば何の問題も無い。
「なお、この悪夢に出てくるドン・ナイトメアは、ナイトメア王の力で産み出されたコピーナイトメアだ。実態ではない」
 そのため、倒しても倒さなくても状況は代わらない。
「だが、わざわざ逃がしてやる理由もない。逃げることもないようなので、こんな悪夢を見せられている人達の変わりに思う存分痛い目に遭わせてやれ」
 実際のところ、ナイトメアの戦闘力は高くない。
 大して苦労することもなく倒せるので、やはり注意は四重奏だ。
「では、これが『ティンカーベル』の不思議な粉だ」
 大五郎が小さな袋を能力者のひとりに手渡す。
「あと、夢の中では考えられないような事も簡単に起きる。加えて、夢の中で深い傷を負ってしまったり、命を落としてしまった場合は、現実の世界でも傷を負ったり命を落としたりしてしまうので充分に気をつけるようにな」
 それでは、説明は以上と大五郎は能力者達を送り出す。
「しっかりな、ハードにきめてこい」

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参加者
蒼穹・克(碧羅蒼天・b05986)
樹・吉野(永訣のサウダージ・b16185)
葉中・優実(花蝶風月・b17825)
リューン・クリコット(夜闇を斬り裂く明星・b22495)
南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)
黒菱・涅雅(覇鬼・b62200)
雹牙堂・カイナ(誇り高き守護騎士・b67028)
アイリス・ゴールド(偽運命予報士・b71070)



<リプレイ>


 この街は犯罪で溢れている。
 人々は良心と呼ばれるものを忘れ去り、相手を出し抜くことを考える……。
 そうしなければ生きていけない。
 ここはそんな街だ。そう、ドン・ナイトメアがいる限り――。


 正面の自動ドアが開き、二人の男を招き入れる。
 エントランスホールに姿を見せたのは蒼穹・克(碧羅蒼天・b05986)と黒菱・涅雅(覇鬼・b62200)。
 共にと素早く周囲に目を走らせ、
 ……居ない。
 この広いエントランスホールに、誰も居ない。
 本来であれば、まずは声を掛けてくるであろう受付嬢も不在になっている。
「これは……」
「ああ……罠だ!」
 二人は同時に飛び退る。
 何かが煌いた。刃――アームブレイド?!
 しかし、次の瞬間には人の姿どころか刃すら見当たらない。
 が、
「姿は消せても、攻撃の癖は消せないぜ」
 応えるように空気が揺らぐ。
 いる。
 姿は見えないがどこかにシャドウがいる。
 涅雅は昔のことを思い出しながら、それを探す。

 俺とシャドウは、かつて同じ暗殺組織の一員として、数多くの死線を潜り抜けてきた。友情と呼べるような感情はないが、奴の戦闘を一番近くで見続けていた分、戦法は熟知している……。

「どうやら闇纏いを独自に進化させたようだな」
 ふっ、と笑ったようにまた空気が揺らぐ。
「お久しぶりですね……あの時のカレーの恨み、晴らさせて頂きます!」
 克も姿を見せぬシャドウに声を掛け、
「何度か手合せしましたが、紙一重の勝負で決着をつけることは出来ませんでしたね。ですが、今回は2対1、勝たせてもらいましょう」
 覚悟を決めたその眼差し、静かに力が高まっていく。
 顕現せし、その力をもって、
「今回のスパイスと行きましょうか」
 克が何かを投げた。
 赤い物――消火器?! シャドウが気付いたときにはもう遅い。床に激突して消化剤が一気にエントランスホールに広がった。
「……なるほど、少しは考えてきたようだが」
 シャドウの声だ。
 まだ余裕が見える。しかし周りは白い靄に包まれて、動けば一目瞭然。
 さて、どこからくる?
「くだらんな……」
 左?!
「この程度で私を止められるとでも?」
 今度は右?!
 空気はいささかも揺らいでいない。ということは何処かに通信機でもあるのか?!
「だが、背中を預けられる仲間の存在。それが今の俺とお前の決定的な差だ」
 そう言って鮫のように笑う涅雅。
 じりじりと高まる緊張。僅かな揺らぎすら見逃すものかと五感のすべてを動員する。
「そろそろ終わりにしよう」
「……最後の一撃は、威力の高い空中からの攻撃。それがお前のポリシーだったな」
 ぼそりとつぶやいた涅雅の言葉。
 それに反応したのか、大きく靄が揺らいだ。
「やはりこうくると思っていましたよ……! あなたのクセは見切っています!」
「これが俺の――影(シャドウ)だ」
 克が飛ぶ! 涅雅が足元から赤き影を呼び起こす!
「……!」
 用意周到な罠だったのだと気付いたときにはもう遅い。
 赤き手に大きく引き裂かれたところを、克が無数にも映る連続の蹴りで叩き落す。
「……ぐはぁ」
 シャドウは地に叩き付けられ、そのまま横たわった。
 いや、直後に歯を噛み締めて体内に仕込んだ爆弾のスイッチを入れる。
 凄まじい爆風に、思わず目を瞑り――開ければ、そこに人の居た痕跡は残っていない。
「シャドウ、彼とも別の形で出会えていれば……」
 克は壮絶な死に同情を禁じえない。
 だが、倒すべき敵は他にもいる。
「お前でも一人で逝くのは寂しいだろう。今すぐナイトメアの首を取って来てやる」
 最後にそう声を掛け、涅雅は次なる戦いへと向かった。


(「かつては、この刀以外に信じるものなんて無かった……」)
 樹・吉野(永訣のサウダージ・b16185)が扉に手をかける。
(「けど、今は違う。背中を任せられる相棒がいる」)
 後ろに視線を投げかけ、
「わたしの命は預けたわよ、優実」
 声と共に素早く扉を押し開ける。
 そのまま雪崩れ込むように中に押し入れば、出迎えた銃弾がその残滓をなぞっていく。
「そこね、ダンサー!」
 葉中・優実(花蝶風月・b17825)が扉を盾にしながら二丁拳銃で反撃。
 だが、飛び交う銃弾を舞うようにしてダンサーも難を逃れた。
「久しぶりね、ダンサー。いえ、朱雀姉さん……」
 吉野の声に踊りが止まる。
 まるで見定めるようにダンサーは吉野を直視して……。
「一子相伝の古流剣術『稜威鬼流』その当主の座を妹である私に奪われ、力のみを求める殺し屋に身を落としたとは聞いていたけど」
「……だから、なに?」
 吉野に対して浮かぶのは冷笑。
 そこに居るのはかつての姉ではなく、血を求めるただの修羅。
「死んでもまた会いましょう……あなたが殺した相棒の口癖よ。覚えてる?」
 ならばと、優実が二丁拳銃を構え口元に笑みをつくる。
「ええ、懐かしいわね。さしずめその銃で敵討ちといったところかしら?」
「そう姉の形見よ。装弾数は4発……けど、撃ち尽くす前に仕留める。あなたを狂わせたドンにも一発あげないといけないもの」
「……そうね。どうせ当てることは出来ないのだから、死出の旅路には身軽な方がいいわね」
 互いに睨み合う。
 もう引くことなんて出来ない。
「いくわよ、相棒!」
「朱雀姉さん……、決着を付けましょう」
 優実が銃火を切り、吉野が間合いを詰める。
 飛来する銃弾を上半身の動きだけで避け、闇を纏わせた『真鉄』が走る。
「当主の証、この刀を手にするために技を磨き続けた、あの頃の姉さんはどこにいってしまったの?」
 ダンサーはそれを舞踊による変則的な動きでかわすと、返礼に銃弾を飛ばした。
「そう……、わたしの知っている朱雀姉さんは……もういないのね……」
 剣劇と銃劇。
 まるで相克の螺旋のように死の舞踏が続く。
 くるくると、狂狂(くるくる)と。
「……言いたいことはそれだけ? なら――死になさい」
 ダンサーの背面撃ち?! 目標は優実だ。
 回避不能なタイミングで凶弾が迫る。
 一瞬、優実の背後にぷぅの姿がだぶって見え……。
「……悪いけど心電図を真っ平らにできるほど穏やかなハートはもちあわせてなくってね」
 耐えた。
 満身創痍ではあるが、闘志はいささかも衰えていない。
「まさか……はっ」
「これが、わたしに出来る最後の手段……」
 間隙を突いて、吉野の必殺剣が!
 ダンサーは無理な体勢で回避運動を取り――目を見張った。
 吉野が刀を投げ捨てて組み付いてきたのだ。
「優実、わたしと一緒にダンサーを撃ちなさい!」
「……っ、バカなことはやめなさい」
 足掻けども振りほどけない。
「死んでもまた会いましょう? 次はオフィスよりもカフェがいいわね……姉も好きだったし」
 優実がダンサーの瞳を真っ直ぐに見据えて、引き金を引いた。
 轟く銃声。
 倒れ込む、吉野とダンサー。
「大丈夫?!」
 慌てて優実が駆け寄る。
 吉野が返す目には、確かな強さが。
「馬鹿ね……、こういう時こそ笑ってみせるものよ? ハードボイルドに、ね」
 そして、胸から取り出したのは姉の写真が入ったロケット。
 ちょうど何かにぶつかって、ひしゃげていた。


 長い廊下。
 リューン・クリコット(夜闇を斬り裂く明星・b22495)の歩みはゆっくりと、そして確かに。
 この先に両親の敵がいる。
 父親の元弟子であり、突如凶行に及んで両親を殺した憎むべき男が。
 隣を歩くアイリス・ゴールド(偽運命予報士・b71070)にとっては兄弟子に当たり。
 あの日、行方をくらませてから追い続けてきた男だ。

 そう、すべては復讐のために!

「ようやく、ようやく見つけたよワンにぃ」
 アイリスの視線を受け止め、ワン・ショットが左手で帽子を押し上げた。
 そして返答代わりにと、口元に不敵な笑みをつくる。
「にゅ、探しましたにゅ。両親の敵、覚悟ですにゅ!」
「待って」
 攻撃を始めようとするリューンを、アイリスが止めた。
 そう、聞きたいことがある。
 それを聞くまでは、
「どうして、師匠を殺したの?」
「………」
「なんで、なんでなにも答えてくれないの! ワンにぃ!」
「結局、理由なんて無かったですにゅ」
 留められたリューンが再び攻撃態勢に移る。
 同調するようにワン・ショットもまた腰の拳銃に手を伸ばしていく。
「この時をすっごく待ってたですにゅ。絶対負けないですにゅ」
「……そうか、それは楽しみだ」
 互いにゆっくりとしたモーションで、更にスピードを落とす。
 場を包むのは静寂。
 しかし、この間もイメージの中で見えない戦いが続いている。
 僅かな動き、息遣い、ほんの僅かな動作ですら、相手の先を制するために必要なもの。
 一秒がまるで二倍にも三倍になったかのような濃い時間。
「……!」
 先に動いたのはリューン。
 だが、それよりもワン・ショットの銃が先に咆哮を上げた!
 飛来する凶弾。
 そこにアイリスが踏み込む。
 二本の仕込み杖が一瞬のきらめきを残す。ついで訪れたのは身を引き裂くような衝撃だ。
「くぅぅ……」
 苦痛にうめくアイリス。
 しかし、それによって生まれた時間は無駄にはならない。
 間隙を突いてケルベロスオメガがワン・ショットに飛び掛る。むろん、避けようと身をよじるが、
「――いまですにゅ!」
 光が一筋の線を描いて駆け抜けた。
 腹部を撃ち抜かれたワン・ショットは大きく身を崩して倒れこむ。
「やったですにゅぅ、アイリスお姉ちゃん、ダロス、ありがとうですにゅ」
 リューンが素直に喜ぶ。
 だが、それには目もくれずアイリスは急ぎ駆け寄った。
「ワンにぃなら今のは対処できた筈、どうして」
「……ふっ」
 ワン・ショットの傷は深い。もう助かることは無いだろう。
「にゅ、なぜ両親を殺したのか教えてもらいますにゅ」
 その問いに、ワン・ショットは顔を背ける。
 このまま墓場に持っていくつもりだ。
「もしかして、妹を人質に取られているの?」
 表情がこわばる。
 沈黙を保っているが、真実は明らかだ。
「そう、そういうことだったんだ。ごめん、ごめんねワンにぃ。ボクは、ボクは!」
「にゅ、にゅぅ、そんな理由があったですかにゅ……」
「知られたくなかった。知れば……お前達は悲しむからな」
 ワン・ショットは昔のように優しい笑みを浮かべる。
 そして、そのまま息を引き取った……。
「おやすみ、ワンにぃ。……行こう、この先に本当の仇がいる」
 アイリスに首肯し、リューンは決意を露にする。
「ドン・ナイトメア、絶対に許さないですにゅ」
 戦いはまだ終わっていない。


 俺の名はレイジ、本名じゃねえ。rage……激情を意味する言葉さ。
 僅かばかりの金と、【ある物】を求めて、雇われ殺す。
 それが俺の日常だ。

「ドン・ナイトメアに興味はないが、ブレイドといったか」
「ああ」
 南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)にブレイドはゆっくりとうなずく。
「お前の女を殺したのは俺だ。あの女は【いい物】を持っていた……」
 その言葉に殺気が膨らむ。
「そうか……他の連中もやられたことだし、暇を貰おうかと思っていたんだが」
 鋭い一撃!
 切っ先がレイジの真横を駆け抜ける。
「気が変わった。その命、貰い受けよう」
 今度は切り返し!
 それをバックステップでかわしてレイジが反撃に移る。
 まずは上段への突き――体勢が泳いだところに強引に体ごとぶつかっていく。
 火花が散った。
 互いの刃と刃がぶつけ合い、力と技を打ち込みあう。
「この剣の名はリーファか?」
「……なっ?!」
 レイジの言葉にブレイドが動揺を見せた。
 その隙を突いて一気にエレベーターの壁に押し付ける。
「……やはりな。お前の女と同じ名前か」
 応えはない。
 だが、怒りに燃える双眸がはっきりと答えを示している。
「剣は道具、それに名前をつけるような軟弱な奴が俺を殺せるかね?」
「……なめるな!」
 ブレイドがレイジを跳ね除ける。
 強引に一撃。続けて鋭い一撃を。
 怒涛のラッシュにレイジの二の腕に傷が走る。頬に赤い線が走る。
 だが、その時――エレベーターが止まった。
 扉が開く。

 ブレイドと俺はフリーランスの護り屋で、相棒だった。だがブレイドは大切な者を護れず、復讐に身を焦がすようになり、俺と袂をわかった。だが、今はドン・ナイトメアを殺すために、奴を……ブレイドを、殺す。全ては……目的を果たすためだ。

「久しぶりだな」
 雹牙堂・カイナ(誇り高き守護騎士・b67028)が飛び込んできた。
「なに?!」
 咄嗟にブレイドが剣で受け流す。
「俺は決して謝りはしない」
「……」
「なぜなら、ナイトメアシティの人々を悪の手から護るために、こうすることが必要だからだ」
 この間も打ち交わされる剣と剣。
「『護るというビズに誇りを持つ』。それが俺達の合言葉だったな……相棒」
「古い話を……もうそんなこと忘れてしまったさ」
 ブレイドが剣を横薙ぎに払った。
 カイナがバックステップで距離をとる。
「変わってしまったな」
「……かもしれん」
 前にカイナ、後ろにレイジ。挟まれた形となったブレイドは呼吸を整える。
「だがなあ! 前しか見れねえのは今も昔も変わらねえな!」
 レイジが今までとは比べものにならない勢いで襲いかかる。
 カイナも必殺の一撃をもって。
 ブレイドもまた同様。
 それぞれの刃が命を求めて交じり合う。
 一拍の間を置いて――ブレイドが崩れ落ちた。
「さらばだ」
 カイナが剣を握り締めたまま、もう動かぬ男の顔を見つめる。
 涙の代わりに、ぽたりぽたりと固く握り締めた拳から血が流れ落ちた……。
 隣ではレイジも男の顔を見つめ、
「俺はレイジ。……rage、【激情】に駆られた命を狩る、それが俺の渇望」
 それが名前の由来さ、とつぶやきカイナへと向き直る。
「いいな、レイジ。俺達が仲間なのは、ドン・ナイトメアを倒す時までだ」
「そう来ると思ってたぜ。お前の眼は濁りもしてなけりゃ、虚ろでもねえ。護るんだろう?」

 ああ、そうだ。
 そして奴を倒したら、彼女の仇はブレイドに代わって俺が討つ。
 そう、レイジ。お前は俺が倒す――。


「あなたは分身……なら、言う事は一つ。死んでもまた会いましょう。悪夢でね」
 優実の声を最後に聞いてドン・ナイトメアは倒れた。
「皆お疲れさまでしたにゅ〜。皆のハードボイルドカッコ良かったですにゅ〜♪」
 終わったと、リューンが歓喜の声を上げる。
 これで、この街にも平和が。
 悪夢に囚われた人々も意識を取り戻すことだろう。
「さあ、果たし合いだ。いくぞ、レイジ……!」
「ああ、死合おうぜ。さあ、お前はどんな【レイジ】を見せてくれる!?」
「あら?」
「あの二人、まだやる気ですね」
 カイナとレイジが剣を抜いて向かい合う。
「まあ、いいんじゃないですか」

 ここはそんな奴らが生きる世界。
 不器用に、己のスタイルを貫く奴らが生きていく世界だ――。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/11/05
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