銀誓館襲撃〜天竜頭蓋:若獅子令嬢


<オープニング>


 見慣れた日常が一変していた。
 大きく開かれた銀誓館学園の入り口に集う不良集団が、その原因だ。
 その集団の中に、獅子が描かれた旗を掲げるグループがあった。学ランを纏った彼らの線は細く、声を荒げるでもなく、バイクのエンジン音とクラクションだけを響かせ、行き交う生徒達を品定めしている。
 不意に、素知らぬ顔で過ぎようとした学園の女生徒を、一人が呼び止めた。
「君、カレシいる?」
 至って穏やかな声で尋ねるものだから、女生徒は一瞬目を見開いたものの、すぐさま関わりを避けるように足を速める。
「スルーは酷い。カレシいないなら遊ぼう」
 結い上げた金の髪を揺らし、女生徒の腕を掴んだ。内気そうな顔立ちの女生徒は、真っ赤になりながら「彼氏ぐらいいます!」と腕を振り払い、走り去ってしまった。
 あーあ、と後ろから落胆の声が届く。
「アサトは本当、ああいう子が好きだな」
「嫌がられたり睨まれるとゾクゾクする」
「屈服させたくなるんですよね。わかりますよ、アサトさん」
 アサトと呼ばれた金髪の少女へ、仲間たちから声がかかった。
 くすくすと笑う仲間を振り返り、アサトは再びバイクを唸らせ、始まりを告げる。
「さ、遠慮なく狩ろう」
 淡々とした声が、バイクの駆動音に掻き消えた。


「能力者さん校門、校門見た!? 不良達が集まって騒いでるんだ!」
 顔を青ざめる井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)を、能力者たちが一先ず落ち着くよう促す。
 息を整えた恭賀は、騒ぎを起こしているのが、天竜・頭蓋とその影響を受けた強化不良達であると告げる。
「強化不良はただの不良とは違うからねー。一般生徒はもちろん、先生にだって止められないよ」
 彼らに太刀打ちできるのは、能力者たちだけだ。だからこそ、銀誓館学園の施設や一般人が被害に遭う前に、彼らを追い払う必要がある。といっても不良グループは一つや二つではない。
 そこで恭賀は、グループの一つ『若獅子』と名乗る集団の撃退を、目の前の能力者たちへ託した。
 『若獅子』は、その名の通り若き獅子の旗を掲げ、バイクで町を駆ける暴走族だ。
 撃退が叶えば、同じように他のグループを追い払った仲間と協力し、奥に控えるナイトメアビースト天竜・頭蓋へと戦いを挑めるだろう。
 今回の天竜・頭蓋は実体――正真正銘、頭蓋本人だ。
 うまくいけば、天竜・頭蓋と決着がつく可能性もある。


「で、『若獅子』についてなんだけどねー……全員女の子なんだ」
 思い思いにアレンジした学ランでバイクに跨る、女生徒の暴走族。
 それも汚い言葉を叫んだり、声をやたら荒げて走り去る一般的なイメージの暴走族とは異なり、ただバイクの音のみで静けさを破っていく。
 しかし、気に入った女性を見つけると、強引に遊びへ誘ったり、取り囲むこともあるらしく、地元の人はかなり迷惑しているようだ。
 また、外見に惑わされ近寄ってきた男達を返り討ちにするぐらいには、暴力的だという。
「リーダーは金髪をアップにした子で、アサトって言うんだ。一番小柄だから、すぐわかるよ」
 グループ『若獅子』を率いているリーダーなだけに、グループの中で最も強敵となる。17歳だが、中学生に間違われることもあるとか無いとか。
 彼女を筆頭に、『若獅子』は8人の少女達で構成されていて、リーダーのアサト以外にも、バリエーションに富んだ性格の少女達が所属している。
「彼女達のバイクなんだけど、平たくいうと使役ゴーストみたいに動くから、気をつけてねー」
 バイクは、彼女達とは別に行動できる存在だと恭賀は言う。指示が出ればその通りに走り回り、襲ってくる。とはいえ使役ゴーストではないため、主のため祈りを捧げることは無い。
 バイクを持っているのは、その内の5人。手数だけで言えば、相手の方が上だ。
「そのバイクなんだけど、ぶつかってくる以外に、圧し掛かってきて動きを封じてきたりもするんだ」
 鋭い突撃は単体のみにしかしてこない、単調な攻撃だ。
 しかし圧し掛かってくるのは厄介で、地面へ倒されるため身動きが取れない上、少しずつ体力も削られる。

 彼女達の武器は、爪と旗だ。
 アサトを始めとするバイク乗り5人は、獅子の牙を思わせる爪がついた両腕の手甲を得物としている。獅子の心を篭め殴りかかってくるのだが、これは次の技へ繋げるための布石でもあり、青龍拳士や白虎拳士の連携技を思わせる。
 そして、その「次の技」が、獅子の牙で相手の急所を捉え喰らいつくものだ。回避も難しい。
 一方、バイクを持たない3人は、獅子が描かれた旗を武器としている。
 自らを軸に旗を振り回し、周囲の敵をなぎ払う他、掲げた旗から獅子の幻影が飛び出し、獅子の咆哮で距離を問わず単体を襲う。咆哮には追撃効果があるため、運が悪いと止め処なく痛みを受け続けるはめになる。
「あ、で、リーダーの子は色目も使うよ〜」
 色目で魅了を試みるのはアサトだけだ。気に入った女性がいれば誘ってくるし、気に入らなければ使わない。
「彼女達のいる場所、そう広くは取れないけど狭い戦場でもないよ」
 障害物もなく、一般人も怖がって近寄らないため、動き回るのに難の無い戦場だが、彼女達との間合いを空けるのは難しい。ほぼ混戦状態になるだろう。

「それで、天竜らの目的はわかるのか?」
 神谷・轟(高校生真ゴーストチェイサー・bn0264)の質問に、恭賀は「多分だけど」と前置きした上でこう話した。
「メガリス『ティンカーベル』を奪うのが目的じゃないかって言われてるね」
 もちろんメガリスを奪われるわけにはいかず、また事情を知らない生徒や教職員を巻き込むわけにもいかない。
 世界結界の効果があるとはいえ、あまり派手な立ち回りはしないようにしてほしい、と恭賀は言葉を付け足した。
 一般人からしてみれば、「他校の不良グループが突然言いがかりをつけてきた」という状況だ。因縁をつけてきた不良たちを、銀誓館学園の勇敢な生徒が追い払った――と解釈できるように演出できれば、尚良い。
「慌しいけど、すぐそこにいるんだ。頼んだよ、能力者さん!」

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参加者
カイル・レヴァント(ストームブリンガー・b34461)
鉄・徹也(白琥の牙を磨く水の刃・b36313)
紅月・レイアス(魔剣士・b37451)
志村・かなえ(中学生黒燐蟲使い・b45052)
不破乃・里桜(中学生真コミックマスター・b53851)
白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)
彩樹・ふたば(ありすまにあ・b68688)
島津・小虎(リトルタイガー・b71466)
NPC:神谷・轟(高校生真ゴーストチェイサー・bn0264)




<リプレイ>


 日常に突如差し込んだ魔の影は、刻々と平穏を荒らしていった。
 学生たちが行き交う際に起こる騒々しさとは程遠い血気盛んな世界が、真実を知らぬ一般人たちを怯えさせ、不安に陥れている。或いは真実に気づかず近寄るため、非常に危険な状況でもあった。
 カイル・レヴァント(ストームブリンガー・b34461)と島津・小虎(リトルタイガー・b71466)は、戦場となる場所の近くへ寄りそうな一般人たちを遠ざけるため、声を尖らせていた。
「怪我したくなかったら、下がっててくれると助かるんだけど?」
「ここは任せて逃げて。大丈夫。えっと、危なくなったら助けも来るから!」
 志村・かなえ(中学生黒燐蟲使い・b45052)もまた、声こそ鋭くしてはいないものの、強化不良たちを眼前にしながら、少しでも被害を抑えようと努力していて。
 そんな能力者たちを窺うのは、自己流に学ランをアレンジしているグループ『若獅子』の少女たちだ。私たちを倒しにきたんじゃないの、と肩を竦めたメンバーの一人と、彩樹・ふたば(ありすまにあ・b68688)の目があう。そしてふたばは、中でも小柄な少女へ心配そうに声をかけた。
「あ、そこの小さな女の子は、危ないからお家へ帰ろうね……」
「「!」」
 戦慄が走ったのは『若獅子』の方だった。
「アサトさん気にしちゃだめ!」
「あ、ごめん、リーダーだったんだね。中学生でも手は抜かないよ!」
 二言目を受け、17歳アサトの眉がぴくりと動く。なんとなく、小虎はそんなアサトに内心で同情した。
 瞬時に空気が重たくなりかけたところへ、白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)が、残念な女の子たちだけど、とため息をつく。
「愛する銀誓館に喧嘩を売るなんて、身の程を思い知らせてあげなくちゃね?」
 そうして琴音は、思いの丈を武器へ篭める。
「そこでぼさっとしてるやつ、怖いのかよ?」
 鉄・徹也(白琥の牙を磨く水の刃・b36313)が不意に投げたのは、旗を持った少女への挑発だ。
「怖いですって? 舐めないで!」
 すると思惑通り、旗持ちの一人が、怒りに身を任せ徹也に殴りかかってくる。他の旗持ち二人は、やれやれと肩を竦めていたが。
 黒燐蟲の加護を得物へ這わせながら、かなえは品定めするようなアサトの視線に、
「好みじゃないと思うけど……アンタ達みたいなのに負けるような銀誓館じゃねぇ!」
 と、精一杯悪ぶってみせた。どことなくぎこちないが、アサトの目は興味なさそうに眇められる。
「はあ。口の悪い子はどうも苦手でね」
 どうやら成功したようだ。意外にわかりやすい人なのだろうかと、かなえは首を傾ぐ。
 なかなかの賑やかさに拍車をかけたのは、琴音と真ケットシー・ガンナーのテツロウ、そして不破乃・里桜(中学生真コミックマスター・b53851)の攻撃だった。バイクやバイク乗りをも巻き込もうとする三人――二人と一匹――の連携に、仕返しだと声を張り上げながら『若獅子』たちも襲い掛かってくる。
 独自の狩猟体勢へと移行した神谷・轟(高校生真ゴーストチェイサー・bn0264)の傍ら、紅月・レイアス(魔剣士・b37451)が旋剣の力を得ながら標的を狙い定める。
「久しぶりに見に来たら……随分面白いことしているみたいだね」
 まるで相手が許されぬ罪を犯したかのように、レイアスは読み辛い感情を瞳の赤に含んでまばたいた。


 守勢を軸にと考えたのは徹也だ。バイク乗りの構える爪は、回避の難しい技をもたらす恐れがある。だからこそ、まずは守りを固めることに専念したのだ。
「攻撃してこないのかい?」
「悪いなっ、今回は防ぐことに徹してるんでね!」
 アサトの問いにもうろたえず、会話を耳にした『若獅子』メンバーがクスクス笑おうとも、徹也はブレる素振りを見せない。
 不愉快にも聞こえる笑い声を一蹴するべく、里桜が妄想を糧にした原稿用紙を舞い上がらせる。
 ――学園を守らなくちゃね。
 握る拳に、里桜の決意が灯った。
「侵攻はここで食い止めるよ!」
 ふたばもまた、仲間たちに発破をかけ勇敢に立ち向かっていく。
 そして、仲間たちによって『若獅子』の塊が成れば、かなえの呼び集めた黒燐蟲が牙を剥く。
 ――学校、みんな、大事だから……かなも頑張る。
 絶対に負けない。その意志は確かな心の力となって、かなえの瞳を輝かせた。
 合間を縫って反撃に出る『若獅子』たちを、前衛陣が食い止める。
 知性のある敵とはいえ、後衛を守る壁となるのは容易かった。堂々と校門から因縁をつけてきたりするなど、どうも策を講じるような頭は持ち合わせていないか、或いは深く考えない強化不良なのかもしれない。
「まあ、やることをやるだけだわ。さっさと蹴散らして頭取りましょ」
 小虎が鼻を鳴らし、そう告げる。するとカイルが「ああ」と短く同意を示した。
 そんなカイルが得物へ黒き影を纏わせ、間近に立ちはだかったバイク乗りを一人、地へ伏せさせる。
 よくも、と歯を噛みながら少女たちの爪や旗が独特の音を響かせる。それは爪の鋭利さであったり、はためく布の摩擦であったり。
 不意に、テツロウの制圧射撃がバイク乗りたちの足元を覚束なくさせる。移動の手段を奪われるのは地味に辛い。
 矢継ぎ早、くるりんとマジカルステッキを振り回した琴音は、炎に包まれた隕石の魔弾でバイクを一台叩き落した。
「何を吹きこまれて来たのか知らないけれど、利用されただけってわからせてあげるわ」
「何言ってんの」
 旗を掲げた少女が鼻で笑う。
「私たちはかわいー子が見られればいいの」
 それを聞いた能力者たちは、難しげに目を眇める。
「ほら、余所見している場合じゃないっしょ!?」
 バイクの駆動音が幾つも戦場を駆け、前衛陣をへと次々圧し掛かった。轟もまたバイクに引き倒され、その巨躯をどかすためパイルバンカーの杭を打ち込む。衝撃に耐えかねたバイクが寂しげに鳴く様を見つめ、レイアスは手のひらに膨大な電流をかき集める。
 ――黒影剣があれば、それで両断するところだけど。
「……こっちはどうだ!」
 芯をも貫くほどの電撃で、バイクがまた一台犠牲となった。
 確実に数は減らせているものの、それでも『若獅子』があと7人、バイクが残り3台と、物量では相手の方が圧倒的だ。
 逆境をチャンスへ変貌させるのは、紛れもなく能力者たち自身で。
「獅子だとか言ってやがるみたいだがなぁ」
 徹也は荒げた声を、強化不良である『若獅子』へ投げる。
「獅子のたてがみってなぁな、メスにはねえんだぜ!」
「っ、うるさい!」
 憤りで顔を真っ赤にしたのは、先刻前へ飛び出してきていた旗持ちの一人だ。すかさず水流のエネルギーを源とした手裏剣で、徹也が少女の膝を折らせる。
「……あんな挑発に乗るから」
 ぼそりと呟き、アサトが倒れた仲間を見やる。仕方ないじゃん、と身動きの侭ならない少女が頬を膨らませた。
 若獅子たちがそうしている隙に、里桜はせっせと仲間たちへ栄養ドリンクを投げ渡し、琴音はテツロウと共にしつこくアクセルを踏むバイクへ一撃を加える。ミシッ、と鈍い音が耳朶を打ち、バイクの駆動音が止んだ。
「学園の平和のために、この先は通さないよ!」
 それは見紛うことなき意志。腕を広げ、突撃する形で獣のオーラを纏いふたばが善戦する。野生の溢れんばかりのパワーで叩かれては、さすがの『若獅子』ももう一度立ち上がることはできなかった。
 カイルが掲げた黒影の異名を持つ一振りと、かなえが祈るように集わせた黒燐蟲の塊が、同時に空を飛んだ。重なるようにしてもうバイクから、動きという動きを奪い去る。
 続々と倒れていくバイクや仲間にしかし動揺するでもなく、アサトは「へえ」と感心してばかりだ。
「ここは抜けさせないよ」
 レイアスのライトニングヴァイパーが、意気込みを餌に猛威を古い、続けざまに轟が銃弾を散らす。
 炎の銃弾が地道に体力を削る間、小虎の静謐なる舞いが、ゆるやかな時間の流れのごとく仲間たちから痛みを消し去っていった。


 徹也が噛んだ歯の隙間から呼吸に乗せ、舌打ちを零す。
 水の流れが手裏剣を模して『若獅子』の少女へ、敗北の味を覚えさせる。次にチッと舌と歯を鳴らしたのは誰だったのだろう。前衛陣の耳へそれが届くより早く、ふたばは『若獅子』のリーダーであるアサトの名を呼んだ。
「若獅子のリーダー!」
 呼び止める声に振り向いたアサトと、ふたばの視線がぶつかった。
「ボク達が勝ったら、頭蓋くんの情報教えてもらうよ!」
「情報?」
 少年の叩きつけた挑戦状に、アサトはくっくと喉の奥で笑う。
「聞き出す暇があったら、自分の目で確かめたらどうだい?」
 教えることなど何も無いと言い切るかのように、翳したアサトの手甲が、獅子の誇りを連れ仲間と連携して、能力者たちへ襲い掛かった。
 しかし、ここで容赦ない連係プレーを崩したのはカイルだ。軽すぎず且つ重たすぎることもない刃の一閃で、薙ぐ。真正面からその餌食となった少女が一人、意識を失った。
 ――手堅いわね。
 小虎は、ふとそんなことを思った。回復を託された手前、やや後方から見渡せる戦場を把握するのに、そう時間はかからなかった。着実に勝利を目指す仲間たちの動きを見守る。
 彼女が手堅いと表現したのは、そこだった。まさか侮るなどとは思わずとも、油断のひとつやふたつあってもおかしくない。しかし、痛いミスと呼べるものを彼らは出さなかった。
 それはおそらく、小虎に限らず感じていることだろう。
 大惨事は誰だって避けたい。琴音も漂う仲間たちの気持ちを受けながら、蒼き魔弾を文字通りぶっ放す。
「かな、頑張るから、虫さんもみんなを助けて!」
 直後、喧騒を切り裂く黒き蟲の蠢きが、『若獅子』のリーダーを襲った。空が高くなったとアサトが自覚する。足元から、自分が崩れたためだ。
「誰も……君たちになど、気にも留めないというのに……」
 大衆が戦士たちを賞賛するでもなく、応援を手向けるわけでもない。
「……そんな学校を、なぜそこまで」
 問いは至極簡単な言葉で済まされた。
 解らないのだろうかと、レイアスが首を傾いだ。反撃に出ることもできず地に縋り付くアサトを見下ろし、浮かんだまま尋ねてみるけれど、「解らないから聞いてる」と淡白な答えを寄越すのみで。
「なら、おまえに解るはずがない」
 眉根を寄せるアサトへそう返したのは、カイルだった。するとアサトは考え込むように唇を結ぶだけで。
 直後、里桜の黒歴史が空を駆け巡る。精神的苦痛を与えるに良いだろうと判断して、暴走族をモチーフにした原稿を脳裏から現実へと変化させていく。中には、背の低いアサトを揶揄するような内容のものもある。
 なかなかに自由な原稿用紙がかまいたちとなって荒れ狂う中、里桜は炎を纏った銃弾を降らせる轟をつついて、こっそりたずねた。
「バレットインフェルノがあれば、原稿は燃え尽きるよね?」
「それはできない相談だな」
 口角を上げ轟が肩を竦めた頃、テツロウの二挺拳銃が、空気を甲高く鳴らす。それを合図に琴音が魔法の弾を同じ標的へぶつければ、ごめんアサト、とか細く呻いて『若獅子』の少女が膝を折る。
 ふと、パイルバンカーを『若獅子』の一人から引き抜きながら轟が辺りを見回す。
「あと二人か」
 短い言葉で、戦況のすべてを物語る。
「数だけでは勝てないってことだね」
 大いなる黒歴史の旋風を撒き散らして里桜が頷く。『若獅子』と名乗る彼女たちとて、絆や寄せる信頼の強さを知らぬわけではないだろう。
 だが、対峙した銀誓館学園の能力者たちが背負う、「守りたい日常」のためという感覚からくる強さを、彼女たちは侮っていたのかもしれない。ならばこのチャンスを無駄にはしないと、猛る獣の牙を宿したふたばは、両腕の爪で鋭利な傷を『若獅子』の少女へ生む。
 虹彩に浮かんで見えたふたばの闘気を知り、少女がびくりと肩を震わせ、巨大な旗から獅子の幻影を出現させた。
「そんなにこの学校が大事か!」
 幻影越しに少女の叫びが届く。けれど信念を揺るがす決定打にはならず、獅子の咆哮だけが小虎を苛めた。
 負傷した仲間達を一瞥したかなえは、自分の中で定めた回復の手順を思い出し、黒燐蟲の癒しを小虎の得物へ添わせる。優しい夜にも似た色が、小虎から痛みを拭っていく。
「……喧嘩よくない。おとうさんだったら両方げんこつする」
 少々口を尖らせてみせれば、今しがた旗を掲げたばかりの少女が「アサトのカミナリの方が怖い」とひとりごちた。
 まさか掬われるとも知らなかったその呟きに、小虎が胸元へ流れた髪をさっと背へ払う。
「そんなのを怖がるなんてまだまだね」
 彼女の言葉に目を丸くした少女の背へ、徹也の放った水刃が手裏剣となって突き刺さる。ぐらりと傾いた少女を地へ仰臥させたのは、カイルの振るった日本刀だ。
 次々横たわるはめになった旗が、風になぶられもせずぐったりしている。三人目の旗持ち少女が、アサトたちの分も、と言わんばかりに旗を掲げる。勢いあまってたたらを踏んだ少女は不意に、獅子の幻影と行き違いで飛び込んできた漆黒の影を知る。
「僕についてこれるかな?」
 不適な笑みと共にレイアスが伸ばしたのは影だ。獅子の咆哮にレイアスが身を捩った直後、少女を纏っていた戦う力の一切を存分に引き裂いた。


 剣戟の余韻に浸る間もなく、能力者たちは肩を上下させながら『若獅子』たちへ近づく。
「さあ、しっかりしゃべってもらうわよ。黒幕のことをね」
 琴音が腕を組み尋ねた。学ランのボタンを外し、緩めた喉を精一杯動かしながら、アサトが琴音を見上げる。喋ることなど無いと、その眼差しが訴えた。後ろでは小虎が祖霊を仲間へ施していて、抜け目ない、と思わずアサトが笑う。
「他のところも大丈夫かな」
 かなえが独り言のように不安を呟けば、仲間たちはまともに身体を動かせずにいる『若獅子』の向こうを見遣る。
 レイアスがロープでそんなアサトたちの腕を封じながら、仲間へ声をかけた。
「とりあえず拘束しておくから、大丈夫だよ」
「お願いします!」
「頭蓋のとこへの殴りこみは、任せてよー」
 真っ先に頷いたのはふたばと里桜だ。宣言と同時に、見送ることしか侭ならぬアサトたちの脇を抜けていけば、仲間もそれに続く。
 尋問のため居留まった徹也は、これ以上の抵抗も制止の意志も示さない『若獅子』のメンバーたちへ、こう告げた。
「次来るときは普通に来るんだな。それなら歓迎するさ」
「……ご冗談を」
 吐息に混じるアサトの笑みは、獅子にそぐわぬ柔らかい情を帯びていた。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/11/30
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