<リプレイ>
● 「インフィニティルーン……最低限は勉強したけど」 私、あんまり知らないのよ、と言いつつ草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)はポケットの中に仕舞い込んでいたデッキに触れてみた。 そこは廃ビルの三階。早朝の冷たい空気が肺を満たす中、蒼氷・麻凛(武踏月騎・b42218)がしげしげと手の中にあるカードの束、デッキを見ながら言った。 「にしても、急にも拘らず良く用意出来たな……」 「いや、売れ行き悪くて倉庫に放置されていたのを捨て値で買いた、げふんごふん」 その視線を受けてインフニティルーンのカードの入手ルートを七奈・七海(中学生真ブロッケン・b74904)がわざとらしい咳払いでごまかす。 「カードデッキ……私も思わず一晩かけて調整してきてしまったのだぜ。山札を削るコントロール型」 「カードゲーム好きな地縛霊かぁ。じゃあじゃあカードゲームで攻撃なのフェリスちゃんは夢幻世界TCGで突撃なの!」 一晩の力作を手に天見・日花(アルナスル・b00210)がしみじみ呟き、田村・フェリス(チェンジリング・b62471)が満面の笑顔で言った。 そんな彼等に、不意にその声が投げかけられた。 『おお、インフィニティルーンの同士がこんなに!? バトルしようぜ!?』 「バトル? いいわ、受けて立ちましょう」 喜色満面の少年――地縛霊に、そう答えながら皆月・弥生(夜叉公主・b43022)がイグニッションカードを手にした。 それに、ルーンマスターの少年は鼻白む。 『何だよ、そのカード。インフィニティルーンじゃないだろ?』 「TCGをしている間は、自分が魔法遣いになった気分なのでしょう。ですがそれを、現実に持ち出されては困りますの」 「あたしもTCG好きだけど、カードで戦えたら面白いなとか考えることもあるけど、でもこんなのは何か違うんだよ。だから……あなたのターン、あたしたちが終わらせてあげる」 どこか諭すように儀水・芽亜(夢何有郷・b36191)が言い捨て、狩野・マキナ(光射す道を探して・b57990)が身構える。 「さぁ、ガチの決闘や……クローセル一緒に行くでぇ!」 「さあ、デュエル開始だ! ドロー! 私はこのカードをプレイだ! イグニッション!」 ユウキ・スタンッア(は落着いてねとよく言われます・b43530)が、九原・終(新世紀スタンダード真妖狐・b73832)が、カードを掲げ能力者達がイグニッションしていく。 それを見てル−ンマスターの少年は、目を丸くした後にニヤリ。 『いいぜ――オレのルーン守護天魔王騎士蹂躙デッキは最強だぜ!?』 まるで、それさえも予定調和のように話を合わせて三枚のカードを手に吼えた。
● ただ一体のルーンマスターの少年に対して能力者達の陣形はこうだ。 前衛に日花と麻凛、弥生、那由他、中後衛に芽亜とユウキ、マキナ、フェリス、終、七海、ユウキの使役ゴーストであるケルベロスオメガのクローセル、マキナの使役ゴーストであるケットシー・ガンナーの大福といった布陣だ。 「バトルスタートよ」 「まずは私達が相手だ」 弥生と麻凛がルーンマスターの少年へと駆け込み、弥生が虎紋覚醒で麻凛が忍獣気身法でそれぞれ自己強化を施した。 「あ、観客ですー。狭いので奥失礼しますよ」 「合体アビ発動! これで攻撃力は倍以上にアップや!」 奥へとばらけるように走り七海が背後に霧の巨人を召喚し、ユウキがレッドファイアを吹いたクローセルとゴーストイグニッションで合体し自己強化する。 『ふん、まずは場慣らしか。おそらくはカウンター型かトラップ型、あるいは強化型デッキだな!』 その炎をカードから召喚した騎士の腕で叩き落としながら、ノリノリでルーンマスターの少年が評した……自己強化で戦力を整える戦術を強化型と呼ぶなら意外に外れていないのがノリの恐ろしさだ。 「紋様術なのー!」 「魔道と魔剣の草壁那由他。私が相手をするわよ」 フェリスが紋様術――と主張する魔弾の射手で魔法陣を空中に描き、那由他がわざとカードを見せながら旋剣の構えを取る。 「まずはこれだ! 手札からマジックカード『幻楼七星光』をプレイ! 効果は――えっと長いから省略! ――を与える!」 『手抜きだぞ、それ!』 狐耳をピンと立ててカードを掲げながら終は七つの星の輝きを光臨させるが、カードから部分召喚された光の翼がその光を遮った。 「死に直すまでの暇潰しくらいは付き合うよ」 「夢幻の壁よ――!」 日花がその背に霧の巨人を召喚し、凛と言い放った芽亜のサイコフィールドが仲間達を包んでいく。 「いっくよー! あたしのターン、ドロー!!」 マキナがデッキから抜いた適当なカードを掲げると、その頭上に植物の槍が出現する。そして、大福の制圧射撃と共にルーンマスターの少年へと放たれた。 『オレのターンッ! 召喚――ルーンの悪魔王ッ!!』 バキリ! と軋みをあげて黒い悪魔がルーンマスターの少年の背後に出現する。そして、その皮膜の翼を大きく広げた瞬間、ゴウッ! とその視界内を超重力が押し潰していった。 「くぅ、さすがスーパーレア!! 汎用性が高い上に強力だわー」 あれは手に入らなかったのよねー、と七海が少し羨ましげに言う。だが、その威力と効果は目を見張るものがあるのは確かだ。 『ルーンの悪魔王だけじゃ終わらないか! いいぜ、オレのデッキの主力はこいつだけじゃない!』 ルーンマスターの少年はふてぶてしくそう笑うと数枚のカードを宙に浮かべる――それに能力者達は身構えた。
● 「ヒーリングウィンドゥなの!」 「あなたの力はこんなものなのかしら?」 フェリスが浄化の風を吹かせ、挑発しながら那由他が闇色に染まる刀を振り払った。 それをルーンマスターの少年は騎士の腕を部分召喚してガードする――ギィンッ! と火花を散らしランスと刀が弾き合う。 「私のターン、アタックカード『天妖九尾穿』――効果はやっぱり省略!」 狐耳を立てた終が黄金の尾を放った。だが、それも純白の天使の翼に受けきられる。 「私のターン、プリペアー。……え、ドローの前に3フェイズくらい挟むでしょ、ピーキーなゲームだなー」 「蹂躙しますわ!」 日花の瞬断撃の一撃が同じ動きをする霧の巨人によって放たれ、芽亜のナイトメアランページが戦場を駆け抜けた。 『ぐ、う……!』 ガードが間に合わない、芽亜のナイトメアランページを受けながらもルーンマスターの少年は踏み止まり、マキナがその手に持ったカードでハートマークを描く。 「大福もお願い!」 ヤドリギの祝福でマキナは自分と終を癒す。そして、大福も祈りを捧げた。 『オレのターン! 召喚――ルーンの守護天使!』 ルーンマスターの少年が叫び、それに答え純白の翼を持つ女の天使が出現した。そして、その手に持つ光の剣で日花と麻凛、弥生、那由他の四人を切り裂く。 「く、でもこの程度なら――!」 「凍て付く氷牙に抱かれ眠れ……!」 弥生がその赤い瞳に禍々しい輝きを宿し、麻凛が魔氷の白に染まった獣爪を振り払った。それに内側から切り裂かれ胸元をピキリ……! と魔氷に蝕まれながらルーンマスターの少年は膝を揺らす。 「そのカードと一緒に撃ち抜いてやるでぇ!」 「てりゃあ!」 ユウキの放つ雑霊弾と七海の霧の巨人によるクレセントファングが繰り出された。ビキリ、とカードにひびが入りながらも雑霊弾は受け止める事に成功するが、霧の巨人の弧を描く蹴りがルーンマスターの少年を切り裂く。 『く、相手のターン、長くね!?』 今更ながら気付いたのか、焦ったようにルーンマスターの少年が吐き捨てた。 ――能力者達とルーンマスターの少年による戦いは能力者側が有利に進んでいた。 ルーンマスターの少年が使うカード――もとい、能力は一つ一つは優れた効果を持つ能力だ。それを能力者側はフェリスの浄化の風と芽亜のヒーリングヴォイスを中心に回復していき、後は自己回復で戦線を維持していく。 ルーンマスターの少年もルーンの守護天使で回復するなど持ちこたえようとする努力は重ねたが、それも焼け石に水――その決定的な瞬間がついに訪れようとしていた。 『オレのターン――召喚、ルーンナイト!!』 「マジックカード、『王の帰還命令』を使います!」 『そ、それは禁止カードだ!』 騎士を召喚しようとしていたルーンマスターの少年へ七海が高らかに宣言する――もちろん、意味などある訳がない。しかし、少年はそのカードにトラウマがあるのだろう、その心の隙をついて弥生が騎士のランスを獣爪で受け流す事に成功した。 「一つ勘違いをしていようね。これはゲームじゃない、殺し合いよ」 「残念だが……貴様のバトルフェイズは既に終了している――ずっと私のターン!」 弥生がその呪いの魔眼が、麻凛のフロストファングが、ルーンマスターの少年を切り刻んだ。 「まぁ、個人で作るカードゲームより流行ったんやろうし、そう嘆かずに逝っとき!」 「クレセントファーング!」 ユウキの雑霊弾が撃ち抜かれ、七海の霧の巨人によるクレセントファングが切り裂く――ガクン、と大きく体勢を崩したルーンマスターの少年へフェリスがマジックロッドを掲げ那由他が時空を歪める蒼い雷を繰り出した。 「ビィーーム!」 「そろそろ、私のターンでいいかしら……!?」 バキリッ! とビームと蒼い魔弾に騎士のカードが砕け散る。それを見たルーンマスターの少年が軽く目を見張った。 「私のターン! 私のターン! 私のターーーーン!」 「私のターン、大、瞬、断、撃!!」 終の背から伸びる黄金の尾三本が少年の身を貫き、日花が電光剣を高速で振り下ろす動きで霧の巨人が少年を切り伏せた。 『ぐ、う……ずっこい……』 「さあ、これで終わりですわ!」 「お願いだから、もう、ターンエンド宣言して? こんなカードバトル、やっぱり何か悲しいよ……」 芽亜のナイトメアランページが、マキナの森王の槍と大福の射撃攻撃が、少年を撃ち抜いた。 カードが、バラバラと宙を舞う――少年はゆっくりと倒れながら、確かにマキナを見て言った。 『オレ、の……ターン、エンド……だ……』 床に倒れるよりも早くカードと共に消滅していく少年に、ユウキはどこか痛ましげに囁く。 「……マイナーでも、それを支えてたんはあんた等やってん、それはハッキリといえるし……ゆっくり休み」
● 「だからダメージはライフカウンターで管理しろと言ったのだ」 今のは祈りになっていただろうか? と小首を傾げる日花の言葉と共に全員がようやく安堵の息をこぼした。 「……同じTCG好きとしては寂しいよ、少し。インフィニティルーンは今回はじめて知ったけど、結構面白いかも。こんな出会い方じゃなかったら、一緒に対戦できたのに……」 「ルールは単純だが奥の深いいいゲームだったんだがなぁ、日の当たらないカードをフォローしすぎてイタチごっこになったのが敗因かな?」 寂しげにマキナが呟くと、終がしみじみと呟いた。ただ高いカードがあれば勝てる、というTCGよりかは随分と子供に優しくて良心的だった……と遠い目をする。 「……そうだ、せっかくデッキ組んじゃったし、誰か対戦しない?」 「あ、私もデッキ作ってきたのでお相手しますよ」 「勝負ならどんだけでも付き合うでぇ! うちの攻撃防げるかなぁ?」 「TCGにはちょっと煩いぞ? くふ、さあ、改めてデュエル開始だ!」 「ごめん説明書あるかしら? あらためて読みたいわ」 「……遊び方? いや、実は知らんのだよな」 「……まあお手柔らかにね」 どうやらインフィニティルーンをやる事に決まったらしい仲間達とガランとした部屋を見て、芽亜が小さく溜め息をこぼした。 「事前に聞いていなければ、ここがカードゲームのお店とは思えませんわね。これもひとつのバブルの夢の跡ですか。まあ、不動産バブルに比べればささやかなものですが」 何事もほどほどが一番ですわね、と芽亜が笑う。 TCGは対戦相手がいなくては出来ないゲームである。共に楽しみ、学び、切磋琢磨して成長できる――そういうものであった欲しい、そう思う能力者達であった……。
|
|
参加者:10人
作成日:2010/11/30
得票数:笑える1
カッコいい3
せつない9
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |