初詣にはまだ早い?


<オープニング>


「寂しいところだね」
 管理される事もなく放置された林の中に一つの社があった。手入れされる事もなく朽ちかけた社には参拝する者もなく。


「そう言う場所だからこそ残留思念があるのかも知れませんわね」
 強力な残留思念を感知したという運命予報士の少女は、巡らせた視線で能力者達が集まったことを確認すると、説明を始めた。
「今回思念が発見されたのは、荒れ放題になった林にある廃墟となった神社の社前ですの」
 昔は詣でる者も居たかもしれないが、今ではただの廃墟。倒され破壊された賽銭箱が放置され、しめ縄はかろうじて残っているが、下手に引っ張ったら根本からもげて落ちて来かねない有様だとか。
「酷い有様のようですけれど、問題はそこにありませんわ」
 思念の段階で感知できるほどの強力な残留思念を放置する事は出来ない。残留思念は詠唱銀を振りかけ、誕生したゴーストを撃破することで除去することが可能だが、これをなせるのは能力者達のみなのだ。
「ありがとうございますの」
 頷き、依頼を受ける意志を示した能力者に礼の言葉をかけると、予報士の少女は具体的な敵戦力の説明に移る。
「現れるのは神主風の地縛霊が一体とイタチ妖獣が三体ほどですわ」
 イタチ妖獣達は近接範囲へ追撃を付与した斬撃を放つ技を持ち、神主地縛霊は自身の攻撃力を引き上げながら20m射程の単体へダメージを与えつつ吹き飛ばす技と20m全周囲に幸運度で回避できる超足止めを付与した状態異常攻撃を持つ。
「数は少ないですけれど、足止めと吹き飛ばしで孤立させられたところで妖獣に狙われると危険かも知れませんわね」
 もちろん、そんな作戦を立ててくる知能はないだろうが、結果的にそうなるという事は充分考えられる。
「知性は低く数は少な目でも侮れない相手ですわ。気をつけて下さいの」
 予報士の少女は、能力者達にそう釘を刺すと出発して行く背中を見送った。
 

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参加者
毛利・周(真火を得た日輪の将・b04242)
泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)
ルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)
闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
黒瀬・芙美(シュテアネの花・b48231)
風雅・晶(陰陽交叉・b54764)
黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)
シュヴール・ルドルフ(フェンリスウールヴ・b57139)
巌・智速(藍染羽織の呪言娘・b77502)



<リプレイ>

●境内
「神社に神主とイタチね……化けて出たのかしら」
「動物を神様として祀る神社もあるから、ここはイタチが神様かな」
 そもそも思念の由来など知りようもないのだが、皆月・弥生(夜叉公主・b43022)の言葉に反応するように巌・智速(藍染羽織の呪言娘・b77502)は口を開いた。
(「間も無く年も明けると言う時期に、神社でのゴースト退治ですか」)
 風雅・晶(陰陽交叉・b54764)達は社の前にいて――葉を落とした木々が多い中、寒風がが梢を揺らし、積もった落ち葉を踊らせる。
(「やれやれ年の瀬だって時に強力な残留思念か空気を読んだから大掃除される為に見つかったんだよな」)
 と胸中で独言ちてシュヴール・ルドルフ(フェンリスウールヴ・b57139)が目を向けたのは周囲の木々。
(「中の神様ももうお返ししているとはいえ、こんな所に残留思念とはね……ふむ」)
(「寂れた神社に残ってるのは危ない残留思念だけじゃ神も残って無さそーだし御利益無さそーかね」)
 黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)と闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)、二人分の視線を受けた社はただ静寂を保ち朽ちかけた姿をさらし境内に佇んでいた。
「もう誰もこの場所に来なくなったのでしょうか……不気味だけど、寂しさを感じますね」
 呟く黒瀬・芙美(シュテアネの花・b48231)の目に社の姿はそう見えたらしい。
「残留思念が何か悲劇を引き起こす前に私たちで倒してしまいましょう」
「イグニッション」
 一人、ルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)は内にも外にも感情らしきものを見せず、ただ排除対象が存在する場所に目を向けていたが、思念を排除するという意志に関しては他の能力者達と変わらない。
「変身……疫神招来、ゴッド・オブ・カラミティっと」
 カードを掲げ、一人が起動すれば他の能力者も倣うように起動して。
「林にいつか人が来るかもしれないし……世界のため、神主さんのためにも、わたしたちが何とかしないと……か」
「ええ。神域で暴れるのは、些か罰当たりな気がしないでもないですが」
 この場合は仕方がない。
「楽な依頼です」
 能力者達が陣形を整える中、泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)は呟いた。「討伐時間は自由」で「人よけは不要」、二つの気兼ねせずすむ点を挙げ。
「『敵が強敵』を除いては」
 同時に留意すべき点を続ける形で。見上げれば頭上には晴れた空があり、寒風が吹き込むと言っても陽光の暖かさが寒さを和らげる。もちろん智速を始め防寒対策をしてきた能力者も居たが温かいに越した事はない。討伐の時間帯に昼間を選んだのは正解だったかも知れない。
(「さて、新年迎える前の最後の仕事だな」)
「だが、その前に」
 別に毛利・周(真火を得た日輪の将・b04242)の思考を読んだ訳ではないのだろう。ただ、すべき事があると口にした能力者とタイミングが偶然かぶっただけで。
「邪魔になりそうなものは片付けた方が良くないか?」
 言葉が指すのは破壊された賽銭箱の残骸を指すのだろう。
「まるで大掃除みたいですな」
「……やれやれ」
 苦笑する者が居たとしても反対意見が出る筈もない。やがて片づけと布陣の両方が完了し。
「風雅先輩お願いします」
「わかりました。神社で暴れる神主など、さっさと片付けてしまいましょう」
 晶は智速の要請に頷きを返すと詠唱銀を振りまいた。

●神主
「煩悩落としの除夜の鐘の前に、残留思念で厄落しといくかっ」
 現れた神主地縛霊を出迎えたのは、啓の飛ばした原稿用紙だった。描かれる漫画には護符や梵字が散見され、コンセプトが垣間見えるも、知性の低い地縛霊に知覚できたのは、原稿用紙に切り裂かれる痛みと染み込んでくる毒の痛みのみ。
「風雅先輩」
 声に弾かれたように後退した晶が白燐蟲を詠唱兵器に纏わせれば、声を発した芙美は黒燐蟲を纏わせて。
「カッ!」
 白と黒、並ぶ二種の淡い燐光の足元から噴き出した別種の光は逆に能力者へ仇を為す。
「足止めか」
 光はまるで強靱な糸のように足を絡め取っていた。もっとも、運良くかわせた者も多く被害は少ない。ましてや、移動できないだけならば戦いようのある能力者も多いのだ。
「ギッ」
 弥生に呪いの魔眼で睨みつけられたイタチ妖獣は、ルリナの投じた投げ縄に引っかけられ、短い悲鳴と共に一瞬宙に浮くと地面に叩きつけられ。
「詠唱ライフルなんてのも本当に久しく使ってなかったからな」
 強烈な覚悟と共に詠唱ライフルを構えたシュヴールは、跳ね起きた妖獣の斬撃をとっさにライフルでガードしながら上体を流す――次の一撃に繋げる為に。
「恐れる必要はない」
 妖獣の斬撃は、追撃の大ダメージに耐えられる前衛と十分な回復があれば。流葉の作り出したファンガスの投網はゴースト達の頭上から舞い降りて。網が降りてくるまでの数秒に残る妖獣達も能力者達へ斬撃を見舞うが内一体の斬撃は暫しの見納めとなりそうだった。網に絡め取られた妖獣は二体、シュヴールを襲った者も含めれば。
(「新しい時代に古き思念は持ち越させる訳にはいかぬ。ここで綺麗さっぱり浄化してくれよう」)
「さぁ、タイマンと行こうか? イービル・バインドッ!」
 心を無にし周が深呼吸を終え、目を見開く前で白児の伸ばした鎖が地縛霊へと伸びた。
「さぁて、祝詞の準備は出来てるか、神主さんよ? ……てめぇを祓う祝詞のな!」
 怒りを宿した瞳が白児へ向けられたのは、言葉ではなく鎖の力によって。
「これで何とかもって!」
「っと、年末に怪我して新年を療養で迎えるなよ〜?」
 妖獣の斬撃に傷ついた味方へ智速の飛ばした符が癒しの力を発揮し、啓も倣ってドリンク瓶を投じる。
「熱い一撃をおみまいしてあげますよ」
 芙美のパンチは宿らせた太陽の炎が燃え移り広がる間すら与えず。拳は満身創痍だった妖獣の頭部を打ち砕いて、断末魔の悲鳴をあげながらイタチ妖獣が消滅して行く。
「これでまずは一体ですね」
 妖獣との戦いは網に絡み捕られ動きをとれぬ妖獣が出た事で一気に能力者側へと形勢が傾いていた。
「喝ッ!」
 一方で地縛霊も白児と鎖で繋がれ思うような戦いをさせて貰えず、怒りに駆られて他が見えなくなっている。
「砕けろ、カラミティ・フィストッ!」
 距離を詰めた神主地縛霊と白児が一瞬交差し。
「ぐっ」
 詠唱兵器がボロボロになった白児が崩れて膝を着いた。そもそも戦闘力は侮れない地縛霊との一騎打ちである、この流れは想定内か想定外か。
「ここはこのままイタチを」
 傷ついた仲間を気にしつつも、回復する必要は無いと見たか弥生の視線は怨念をのせて内から妖獣の身体を切り裂き。
「真白に輝く蟲たちよ、我らに加護を」
 逆に必要と見た晶が白燐奏甲を施す中、ルリナは無言で小さく頷くともがく妖獣達の足元に滑り込みんだ。
「逃がさない」
 高速回転からの蹴りがイタチ妖獣達に炸裂し、網から抜け出して反撃に移ろうとする妖獣へ流葉は更にファンガスの網を投じる。少なくともここまでは全体的に見て能力者側が優勢に見えた。

●斬撃の連鎖と
「これを使うのも久しぶりだ。……存分に射撃を堪能させて貰おう」
 周の向けた両手の詠唱ガトリング砲が火を噴き、妖獣から悲鳴が上がる。ただ、悲鳴をあげつつもイタチ妖獣は距離を詰めた。運に助けられる形で網を抜け出し、反撃に出たのだろう。
「くっ」
 とっさにガトリングを盾にする必要こそ後衛の周には無縁だが、前衛の能力者はそうもいかない。初撃に続いた刃は二つと四つ。
「回復も攻撃のうちだよねっ……と」
 斬撃に傷つく仲間へと智速はとっさに符を飛ばし、白燐蟲や黒燐蟲も淡い光を帯ながら主やその仲間の傷を癒す為に力を行使する。
「流石に全てが簡単に倒れてはくれないわね」
 弥生が睨みつけた妖獣は傷を負いつつも倒れるには及ばず、更にもう一体の妖獣は原稿用紙に切られた傷とルリナのグラインドスピンがつけた痣を除けば傷らしい傷はほとんど無い。三度目の傷もスライディングしたルリナのもので。
「あっ」
 滑り込んだ体勢から繋げた高速回転キックは傷の浅いイタチ妖獣に新たなダメージは与えたが、傷の程度の重い妖獣が蹴りから逃れて。声をあげたのは誰だったか。
「さぁ人狼の狩り時間が来たぜ」
 十字架型の紋様がグラインドスピンから逃れた妖獣と重なった。
「覚悟しな」
 立て続けに撃ち込まれる弾丸がイタチ妖獣を踊らせ、投げられたファンガスの網が再び妖獣の動きを封じる。
「焔よ、我が敵を焼き焦がせ」
 断末魔の悲鳴が能力者の鼓膜を打ったのは周の撃ち出した火球が妖獣を呑み込んだ直後の事。
「カラミティ・フィストッ!」
「喝ッ!」
 ただ、妖獣が数を減じる中も白児と地縛霊の戦いは続いていた。力量からすれば一対一ではかなうはずもない。痛手を受けつつも仲間に癒される形で復帰し、白児は拳を繰り出す。衝撃波に袖の裂けた外套は蟲の燐光に照らされて元の姿に戻っては地縛霊の衝撃波で再び損壊する。
「黒山」
 破壊と再生のループが途絶えたのは、怒りに囚われていた地縛霊が強制された感情から抜け出したから。
「喝ッ!」
「ぐっ」
 攻防の終わりとでも言うかのように神主姿の地縛霊は榊を一閃させ、生じた衝撃波は白児を遠くへ弾き飛ばす……筈だった。
「……大丈夫か? ……こちらの優位は変わらん、援護は任せておけ」
 地縛霊の誤算は後方の能力者達が吹き飛ばしに備え、吹っ飛んできた味方を押しとどめると言う策を講じていた事だろう。
「すみませんね」
「問題ない」
「そうね、おかげで妖獣は片づいたわ」
 地味に啓の手による原稿用紙のもたらした毒が効いていた事もある。残る一体、トドメを刺したのはルリナだった。白児に声を掛けた内の一人、弥生も一時癒し手にまわった事により妖獣への攻撃手は数を減じたが、標的である妖獣も数を減じていたのだ。
「狩らせて貰うぜ」
「直接殴りたいですが……睨みだって痛いですよ」
 二度目のクロストリガーに蜂の巣にされたイタチ妖獣の身体は、禍々しい怨念に満ちた視線を受けて内から裂け。首に引っかかった投げ縄に抗う力などもはや残されていなかった。地面と望まぬ激突を強いられた妖獣は弱々しい悲鳴を洩らして消滅し、残されたのは地縛霊のみ。
「呪いの言葉で伝えるよ……神聖なこの場をこれ以上みんなの血で染める訳にはいかないっ!」
 しかも吹き飛ばしに攻撃伴った地縛霊にとっての恩恵は、智速が呪言を放つ場面で完全に裏目に出る。
「んじゃ、新年迎える前にとっとと綺麗にしちまうか」
 相手が単体であるならば、ブラックヒストリーの効果も薄い。啓はナイフを手に反撃ままならぬ地縛霊へと距離を詰める。反撃がままならぬのだ、一方的な攻撃なら回復も不要。能力者達の集中攻撃はこうして始まった。
「古き思念の具現よ。新しき年に汝は不要。我が焔にて焼尽せよ」
「トリガー引いてやるから遠慮せずに全弾持って行け」
 火球に弾丸、大盤振る舞いされる攻撃がマヒして動けぬ地縛霊へ降り注ぐ中。
「神主ともあろうものが、自ら神域を荒らすとは何事ですか。今一度、あの世で反省してきなさい」
 晶の振るった二振りの日本刀は闇のオーラの尾を引き地縛霊の胸で交差する軌跡を描く。結果としてはこの斬撃と身を蝕む毒、そして身体を包む炎がトドメとなった。燃えながら崩れ落ちる地縛霊は一言も言葉を発することなく、地に伏すと光の粒と化して霧散した。
 戦いは終わったのだ。

●来年に向けて
「さーて、今年ももう終わりか……」
 戦い終えて、啓はジャケットに袖を通すと大きく伸びをした。ここまでは良い、問題があるとすればそれはこの後だった。
「さて、厄であるゴーストも祓えた。帰って新年を迎える準備でもするとしようか」
(「残っている理由もありませんし……確かに、まだ初詣をするにも早いですし」)
 周は廃れた神社を一瞥して呟き。ルリナも踵を返そうとしたが。
「このまま寂れるのもな……雑草位は抜いておこうか」
「そうですね、境内を掃除して戦闘で荒れた部分ぐらいは直しておきましょうか」
 シュヴールと晶はそれぞれ神社の手入れを主張したのだ。意見が割れた訳である。
「流石に冬だと昼でも外は冷えるな……何か暖かいモンでも食べて帰らねぇ?」
 と言う啓自身が提案しようとしたような派生の意見も厳密に言えばある。智速は手に花を持ったまま相異した意見を持つ面々を交互に見ていたし、参拝してから帰るつもりだった弥生はその場を動いていない。
「日が暮れる前に帰還できるなら……」
 とは、芙美の言。最終的にとられたのは、折衷案だった。言わば、早退可能な軽い掃除を挟んだ拝礼付きの撤収コースで希望者は寄り道あり。
「少しでも信仰があった頃の姿に戻れると良いな」
 簡単な掃除にそれ程時間はかからなかった。もともと賽銭箱などを片付けていた事もあるし、壊れそうな社自体はどうしようもないのだから。
「神主さんイタチさん、今まで此処を護ってくれてありがとう……そして、ごめんなさい」
 掃除を終えた社の前、花を供えて呟く智速から少し離れて。
「今年はこれで、仕事納めですかね」
「さて、これで私たちも仕事納めでしょうか?」
 晶と白児はほぼ同じ事を口にして、一瞬顔を見合わせる。
「これから大晦日に初詣、それから正月……少しはゆっくり出来るといいんですが」
「来年も良い年になることを祈りましょう」
 短い沈黙を挟んで見上げた空はまだ充分明るい。
「鈴を鳴らすのは無理としても拝礼くらいはしないとね
 やがて、拝礼を終えた能力者達は主無き神社を後にして帰路へとついた。肌寒い風に背中を押されるようにして。
 


マスター:聖山葵 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2010/12/30
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