銀誓館襲撃〜百目鬼面影:えりまきボクサー!


<オープニング>


 きみはエリマキトカゲを知っているか?
 名前のとおり、大きな襟巻きのようなものがあるトカゲだ。
 そして、昭和の一時期。この生き物はブームにもなったことがある……。
「素晴らしいね、この襟巻きは」
 恍惚と少年が見つめる先には、エリマキトカゲのぬいぐるみがあった。
 おそらくはブーム時期に作られたものだろう。
 だいぶ汚れて黒くなっている。
「こんな素晴らしいものを一過性のものに……世界は間違っていますね」
 愛しくぬいぐるみを撫でる少年――百目鬼面影。
 伴ってビクンビクンと脈動する、ぬいぐるみ。
「さあ、生まれておいで」
 声と共に爆誕!
 昭和ゴースト――エリマキトカゲはすぐさまかしづき、百目鬼面影の言葉を待つ。
「お前にはこれから特訓を受けてもらう」
 エリマキトカゲが面を上げると、百目鬼面影の隣には女が立っていた。
 颯爽菱子。
「さあ、強くなりたいなら私の特訓についてくるんだ」
 言って、颯爽菱子が放り投げたのはボクシング・グローブ。
 この日から地獄の特訓が始まった。
「明日のためにそのいち! その二! その三!」
『マキッ!』
 時間が無いので、かなり突貫で。
「うわ、大丈夫なんですか? 佃煮みたいになってますよ」
『……マキ』
「大丈夫。この減量苦を乗り越えた先にこそ、栄光は待っているのよ!」
 生と死の狭間すら乗り越え。
 遂にその時は来た。
「お前に教える事はもう何も無い。見事、銀誓館を倒すんだ! 行け! えりまきボクサー!!」
『マキッ!』

「みんな、大変だよ」
 教室に飛び込んできたのは、長谷川・千春(高校生運命予報士・bn0018)。
 よほど慌てているのか、集まった能力者の顔を見るなり説明に入った。
「始業式の後に父兄の有志が開いていたチャリティバザーがあったんだけど、その会場がナイトメアビーストのひとり――リメンバー昭和・百目鬼面影に占拠されてしまったんだよ」
 どうやら、面影は『昭和ゴーストを元の物品の姿に一時的に戻して、チャリティバザーの出品物として大量に持ち込んだ』ようだ。
 これもジャックによって強化された力か……。
「更に、今回の昭和ゴーストは颯爽菱子の特訓によって必殺技を会得した『超特訓昭和ゴースト』に変化しているんだよ。うーん、強いんだけど語呂は悪いかもね」
 とはいえ、二人のナイトメアビーストによるゴーストだ。
 確かに侮れないのかもしれない。
「必殺技は1度しか使えないようだけれど、とっても強力だから注意が必要だね」
「何っ?! 必殺技まであるのか!」
「そうなんだよ。結構厄介だよね。とはいえ、元凶である百目鬼面影がいるのは体育館の中なんだよ。入るためには体育館の周囲で行っているチャリティーバザーを埋め尽くしてしまった超特訓昭和ゴーストを、なんとか打ち破らなければ入ることもできないんだよ」
 放置しておけば、何百体もの超特訓昭和ゴーストによって、父兄も危険に巻き込まれてしまうかもしれない。
「という訳で、急いでチャリティバザーの会場に向かって、超特訓昭和ゴーストを撃破して学園の危機を救って欲しいんだよ!」
 分かったと、能力者達がそれぞれに応える。
「ありがとう。じゃあ、みんなに当たって欲しいゴーストの説明をするね」
 そう言って、千春が取り出したるはエリマキトカゲのぬいぐるみ。
 色は緑。
 ぬいぐるみらしく、可愛くデフォルメされて本来の爬虫類らしさは微塵も無い。
「みんなの相手はこれだよ」
「……エリマキトカゲ?」
「そう、エリマキトカゲ。それもボクサータイプ!」
「ボ、ボクサータイプ?!」
「うん、颯爽菱子に特訓されて徹底的にボクシングを叩き込まれたみたいだよ」
 ……なるほど、まあ納得。
「得意技はデンプシー・ロール! 襟巻きを大きく広げて描く無限軌道は恐ろしい破壊力を秘めているよ。加えて、四本足ダッシュから繰り出されるエリマキ・アッパーも侮れなくてね」
 実演をしてみせる千春。
 どうやら可愛い見かけによらず、かなりのパワーファイターのようだ。
「加えて! その影ともいうべきシャドーボクサーが四体!!」
「な、なに?! ……って、シャドーボクサーって何だ!」
「シャドウボクサーとは、えりまきボクサーの影」
 ふむ、エリマキトカゲは、えりまきボクサーという名前なのか。
 と、その間も話は続いているようだ。
「えりまきボクサーの後ろをなぞるように攻撃してくるよ」
「つまり?」
「つまり! 1ラウンド遅れで同じ攻撃を繰り返して来るんだよ!」
「な、なんだって?! ……あれ? 四体が一斉にやってくるの?」
「いやいや、そうじゃなくてね。一体が1ラウンドずつ順番にやってくるみたい」
「じゃあ、その間は?」
「うーんとね……まごまごしてるんじゃないかな?」
「……あっそう」
 何だろう?
 学園の危機だというのにこの緊張感の無さは?
 ゴーストのせいなのか?!
「あれ、そういえば必殺技があるとか言ってなかったけ?」
「おっと忘れるところだったよ。そう、えりまきボクサーには必殺技があってね」
 ごくり。
「その名も! 四十六億年パンチ!!」
「な、何だそりゃ!」
「何でも地球が誕生してからと同じくらいのエネルギーを貯めたパンチらしいよ。えりまきボクサーの最後の技。打てば、えりまきボクサーもただではすまないと言われてるみたい」
 誰が言ってるの……?
「とりあえず、一般生徒や父兄達は『体育館で火事が発生した』という説明で体育館から遠ざける事ができてるから、みんなは被害が広がらないように超特訓昭和ゴーストを、そして百目鬼面影を、絶対に撃破してね」
 千春は笑みを見せる。
 そして、いつものように。
「大丈夫! みんなならきっと何とかなるよ!」

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参加者
山内・連夜(水奏の観者・b02769)
葉中・優実(花蝶風月・b17825)
幸田・泉水(琥珀色の夢・b22961)
白羽・命(白の妖精・b23300)
式銀・冬華(紅き漆黒の魔王・b43308)
美堂・白髏(高校生魔剣士・b51491)
光・歌音(歌舞音曲は生命の煌き・b67283)
リロ・テテム(白虹の麓に笑う猫・b77111)



<リプレイ>

●颯爽登場! えりまきボクサー!!
 能力者達が来るのを、それは待っていた。
 ぬいぐるみのようなフォルム!
 三頭身の体!
 すなわち、
「うーみゅ、これがえりまきボクサー?!」
『マキッ!』
 運命的に、必然的に、能力者達は出会ってしまった。
「うーみゅ」
『マキ』
「うーみゅ」
『マキ』
「うーみゅうーみゅ」
『マキマキ』
「………」
『………』
「どうやら、そっちも口癖が直らなくて困ってるみたいだね」
「マキ!」
 同士を見つけて、白羽・命(白の妖精・b23300)がそっと右手を差し出す。えりまきボクサーもグローブを前に出し、戦いを前に友情が育まれた。
「いや、えりまきボクサーのは口癖じゃないから! というか何やってるんですか!」
「えーー!」
「……でも、あの口癖と言うか泣き声がかわいく感じるんですよねぇ」
 リロ・テテム(白虹の麓に笑う猫・b77111)が妙なところで同意する。
「というか、それ以外もかわいい……」
「うん、佃煮……もとい、愛らしい姿ですけれど。……手加減はできませんよねっ!」
 葉中・優実(花蝶風月・b17825)が隙なく詠唱兵器を構える。
 こっそりと目元が綻んでいるのは、まあ秘密だ。
「見た目が可愛くてもゴーストはゴースト。心を鬼にして愛で……倒します!」
 光・歌音(歌舞音曲は生命の煌き・b67283)も同様に。というか、ほとんど本音が漏れかけ!
 危うい、危ういぞ! 能力者達!!
「まるまるふくふくとしていないヌイグルミなど、脅威ではありません」
 そこにぴしゃりと言い放ったのは、幸田・泉水(琥珀色の夢・b22961)。
「減量などしたのがあなたの不覚です」
『マキッ!?』
 なるほど、確かに腕のところや足の辺りはほっそりと棒のようだ。
 だが、これも厳しい修行のため。
 そこから生み出される攻撃をこれから能力者達は凌がなくてはならない。
(「ふかふかのヌイグルミならば危なかいところでした……。とはいえ、その特訓に敬意を表し、侮ることなく全力を持ってあたることにしましょう」)
 泉水が間合いを取りながら飛び出すタイミングを計る。
 だが、そこに、

「たぬ王――参上」
「ペンギン界の皇帝がお相手しましょう」

 え、えっと、たぬきとペンギンが現れた……?!
 いや、たぬきの着ぐるみを着た式銀・冬華(紅き漆黒の魔王・b43308)と、ペンギンの着ぐるみを着た美堂・白髏(高校生魔剣士・b51491)だ。
 っていうか、何だ?! その格好は?!
「ああ、何て素敵な光景でしょう」
 優実が和んでいる。
 もはや緊迫感の欠片もない。これで戦うのか? 本当に? 本当に?
「安心しろ。ヤツの相手はファラオボクサーだ」
 へっ?
 とことこと歩いてくる真シャーマンズゴースト・ファラオ。
 傍らには、山内・連夜(水奏の観者・b02769)がセコンドのような姿で立っている。
「ちなみにこれが『グローブ』だ」
 指し示すのはファラオの持つ巨大なアンク。
 いや、それグローブじゃないよ!
「気になるようなら『コミッショナー認可』と書いておこう」
 と言って、油性ペンで書き書きと。
 ええと、頭が痛くなってきたぞ……。
「悪いけど、まだ後が残っているからね。さっさと、倒させてもらうよ」
 命の言葉と共に、心の中でゴングが鳴る。
 嗚呼、神様。どうか、どうか、まともな戦いになりますように!

●BOX!
「さあ! 46億年パンチというのを見せてもらおうか!」
 白燐奏甲を自らに施しながら、リロがえりまきボクサーの前に立った。
「そうですね。脅威の四十六億年パンチ、打たずには倒れられないでしょう」
 泉水も同意するように並び立つ。
 それに対して、えりまきボクサーが静かに目を瞑った。
「……えっ」
 ゆっくりとグローブを前に突き出すと周囲に淡い光の粒が舞い始める。
 同時に空気が変わった。
 クライマックスを彷彿させるようなBGMがどこからともなく。
「えっ、ほんとに? 初めからクライマックスですか?!」
 リロが雰囲気に押されて後退る。
『マキッーーーーー!』
 叫びと共に周りを漂う光の粒が更に多くなった。
「まずい、本当で打つ気だ。全員防御を……な、なんだ」
 警告した、連夜の視線が逸れていく。
 その先にあるのは先ほどから漂っている光の粒……いや、その塊だ。
 おぼろげに形を成し、
「……こ、これは」
 浮かび上がったのは、最初の生命として誕生したエリマキトカゲの姿。
「は、はいっ?!」
 次に浮かび上がったのは、地球に落ちてくる隕石を止めようとするエリマキトカゲ達。
「な、何ですかこれは?」
 更には、人類に火の使い方を教えるエリマキトカゲなどなど。
「「嘘ばっかりだ!」」
 だが、妄想と侮る無かれ!
 無茶が通れば、道理が引っ込む。えりまきボクサーの拳には凄まじいエネルギーが!
『マキィィ……』
 しかし、これを打てばどうなるか。
「……迷っているのか」
 冬華の目に映る、えりまきボクサーは微動だにしない。
 目を瞑り、拳を突き出したままだ。しかし――その目が遂に開く!
『マキィイイイイ!』
 叫び。
 そして、エネルギーの溜まった拳を下げ、

「えいっ!」

 と、そこに何かが落ちてきた。
 何かは地面に着弾すると瞬く間に、えりまきボクサー達を魔法の茨で覆ってしまう。
『……マキ? マキ?!』
『『マキッ?!』』
「いや、あんまりにも時間が掛かってたんで……つい」
 命は予想以上の戦果に思わず声を曇らせた。
「それにしても一網打尽とはこのことだね」
 えりまきボクサーが動けなくなったので、運良く逃れることができたシャドウボクサーもまごまごしている。つまるところ敵が全員動けなくなったわけだ。
「続きは気になりますけど、こちらもいきますか?」
「ああ!」
 歌音が素早く幻影兵団を展開。
 他の能力者達も強化アビリティを使って、十秒ばかりの強化タイム!
 で、十秒が過ぎたわけだが……。
「まだ、捕まってるとは」
「運が無いですね」
『……マキ』
「……なんかこう哀愁というか、そういうものがあるよね。減量でところどころガリガリなのもあわさって……そもそも階級制じゃないのにあそこまでしぼるとは」
 リロがまじまじと見つめる。
 何だろう? まるで弱いものいじめをしているみたいだ……。
「まごまごされると攻撃したくなるじゃないか」
 そうでしょう、そうでしょう。
 うん? 『攻撃したくなる』? 攻撃したくなるって、冬華さん??
「可愛いは正義。それでも勝負の世界は非情なのです!」
 更に、白髏が歩み出る。
 ちょっと待って!
「まごまごじたばたしている姿は見てて和みますが、それはそれ!」
 両肘から生えてくる処刑の刃。
「そうです。皆さん今のうちです!」
 横に並んだのは、泉水。
 『戯月』の柄を握って、豪快に旋風を起こす。
「まきまきも、まごまごも共に切り裂く。この回転を止められますか!」
 二つの悪滅スピナーがエリマキトカゲ達を巻き込んで荒れ狂う。
「よし、続くぞ!」
「これを見逃す手は無いよね」
 他の能力者達も加わって、一斉攻撃!
 ぎゃあああ! エリマキトカゲ・ア・ピンチ!!
『マキィイイイイ!』
 そこにようやく呪縛の解け、えりまきボクサーが復帰。
「やはり、このまま終わってはくれないか」
「ならば迎え撃て、ファラオボクサー」
 打ち下される脅威のパンチ(巨大なアンク)。
 力で押しきろうと、えりまきボクサーもパンチを打ち返す。
 交錯する力と力。
「えりまきボクサーが地球の歴史を感じさせるなら、ファラオボクサーは自身の王朝の歴史だ」
「……どう見ても、アンクの重みにしか見えませんが」
「些細なことだ」
 いや、違うと思うな。
『マキィイイイイ!』
 おっと、その間にえりまきボクサーが軽快な動きから無限の軌道を描き出す。
 これはデンプシー・ロール……!
 そして吹き飛ぶファラオボクサー!
「まぁ地球の歴史には勝てるはずもないか……」
 おいおい。
「えりまきよ、一つ言っておく。貴様の必殺技は……既に見切った!」
 と、ここで、たぬ王(冬華)が立ち塞がった。
 しかし、えりまきボクサーは怯むどころか、攻撃を掻い潜りながら四本足で猛ダッシュ!
「むっ、エリマキ・アッパーか?」
 ならばと、懐に潜り込んだところにカウンターで霧影爆水掌!
 たぬきとエリマキトカゲが最強を賭けて、いま激突する!!

 ゴチーーン!

 激突した。
 えりまきボクサーの頭が。
「頭突きだな」
「頭突きですね」
「……ぐっ、どこがアッパーだ!」
 常識など無用!
「まあ、ぬいぐるみがベースの上に三頭身だと、まともなアッパーが打てるはずもありませんよね」
 ……実のところその通りです、優実さん。
「型破りにもほどがあると思いますけど、こちらも黙っていませんよ!」
 ならばと、歌音がヒロイックフィーバーを連発する。
 爆煙が次々と立ち昇り、
「たぬ王の仇はわたしが討ちます!」
 そこに第二の刺客、ペンギン(白髏)見参!
「ペンギンの翼の一撃は鳥類最強! とくと味わいなさい。ペン! ペン!」
 悪滅スピナーでくるくると。
 対する、えりまきボクサーもデンプシー・ロールでくるくると。
「すごい……どちらも甲乙付けがたいです」
「カメラに撮っておきたかったですね」
 攻撃を止めて思わず見入る、優実と、歌音。
 やっぱり、緊張感が持続しない……。
「しかし、いつまで戯言に付き合う気はない。見ろ、これが本当の分身攻撃だ!」
 立て続けに、冬華も霧影爆水掌で攻撃を仕掛ける。
「ボクも続くよ」
 横からは、リロがクレセントファングを。
『マキィ! マキィイイイ!』
 が、えりまきボクサーは軽快なフットワークと鉄壁のパリィでこれを凌いだ!
「や、やるう」
「大したものですね」
 ここで、泉水が踏み込み――鋭い一撃!
『マキィ!』
 これも凌いだ!
「本当に大したものです。でも、ご自慢のエリマキもボクサーとしては不利になっているのでは?」
「いや、あのエリマキを使って宇宙の意思を受信しているんだ」
「えっ?」
 その言葉に驚き、声の主である連夜に注意が向く。
「そして未来さえも見通す。それが奴の強さだ! ……まあ、もちろん嘘だがな」
「「ここまで引っ張ってそれですか!」」
『マキィ!』
 何か、えりまきボクサーまで怒っている。
「とはいえ、時間稼ぎもそろそろいいだろう」
 と、連夜が振り返った先には、
「ここは通しませんよっ!」
 とシャドウボクサーの前に立ち塞がる優実の姿が。
 で、前を塞がれちゃった彼らはどうしているかというと……やっぱり、まごまごしていた! どうりで戦闘に出てこないわけだよ!!
「それじゃあ、これで止め!」
 命の放った森王の槍が最後の一体を倒した。
 これで敵は、えりまきボクサーのみ。さあ、雌雄を決するときだ!

●見よ! これが四十六億年パンチだ!!
「さあ、後はあなただけです」
 決着をつけようと間合いを詰めていく、ペンギン(白髏)。
 他の能力者達も、えりまきボクサーの動向に注意を払いながら攻撃の機会を待つ。
 緊迫した空気。
 流れ落ちる汗。
「来た!」
 そこに、えりまきボクサーが再び四十六億年パンチの構えを取った。
「でも、それは発動の遅さが……えっえええ!」
 命が再び茨の領域を撃ち込もうとしたときには、もう既にエネルギーが!
「ど、どうして?」
「もしかして、実はチャージしなくても大丈夫?」
「じゃあ、さっきのはどういうこと?」
「って、来ますよ!」
 遂に放たれる、えりまきボクサー最後の必殺技。その名も四十六億年パーーーンチ!
「ま、まぶしい」
「ここは極寒ブリザードにも耐えるペンギンの忍耐力を見せる時!」
「ファラオボクサー、自身の王朝の歴史で耐え切るんだ」
「こうなったら、それを乗り越えてわたしたちは先へ行く!」
 凄まじい衝撃が能力者達を襲う。
 同時に、光の先から雪のような物が吹きつけてきた。
「な、何これ?!」
 それは能力者達の体を瞬く間に包み込む。
 真っ白な雪だるまのようになり、能力者がひとり、またひとりと倒れていく……。

「……こ、これは、綿?」

 唯一、安全圏に居た連夜が飛んできた白い物を手に取った。
 うーーん、どう見ても綿だ。
 よく見ると、えりまきボクサーの姿も無い。
「大丈夫か?」
 敵の攻撃に備えてゆっくりと近付いていくが、特に襲いかかってくる風でもない。
 とりあえず、地面に横たわっている繭のような物が仲間のなれの果てであろうか……?
「まだだ、えりまきボクサー!」
 おおっと、繭が立った。
 声から察するところ、冬華っぽいぞ。
『マキ……!』
 声に反応して、よろよろと『日干し』みたいになったえりまきボクサーが立ち上がった。

 ――俺はすべてを出しきる!

「なっ?!」
 ここに来て、えりまきボクサーの心の声が聞こえてきた?!
 四十六億年パンチにはこんな効果まであったのか?!
 それともただの幻聴か?!
「いいだろう! ならば、受けよ我が必殺の……一秒パンチ!!」
 それはただの霧影爆水掌のようであったと、目撃した連夜は後に語っている。
 咄嗟にえりまきボクサーもパリィするが、しおしおになった今ではそれも虚しく。

 ――まだだ、俺は全て出しきって……真っ白な綿のように……。

 幻聴のようなものとは、裏腹に体は崩れていく……いや、
「こんなになって」
 雪だるまのようになった優実が寸でのところで抱きとめた。
「もういいんですよ」
『マキ……』
 優実の腕の中で、えりまきボクサーは元のぬいぐるみに戻っていった。
 もっとも中身は全て無くなり、外側しか残っていない。
 綿は風に流されて空へと飛び散っていく。
「しかし、中々良いえりまきだった」
 それを見送りながら、冬華がそっとつぶやく。
 さらば、えりまきボクサー……。

●そして能力者達は……
「危ないところでした」
「まったくです。クロスアームブロックしてなければ窒息していたかもしれません」
 無事だった、泉水と、白髏がふぅと安堵の息を吐く。
「えりまきボクサーが減量していなかったら全滅していたかもしれませんね……」
 リロが手のひらに残った綿を見つめる。
 恐ろしい相手だった。
「……ファラオボクサー」
 使役ゴーストは軒並みダウンだ。
「うう、そこに救急箱があるから……」
「自分が無事なら、とか考えたのが悪かったのでしょうか……」
 で、ご愁傷様に重傷を負った、命と、歌音。
 まあ、何も対策を立ててなかったので諦めてください〜。
「そんなぁ」
 と、残念な結果になった二名の重傷者を安全な場所に移して、残りの六名は向かう。
「ブームとはならずとも、好きな人もいるでしょうに。百目鬼さんはそのあたり近視眼的過ぎますね」
 泉水が見つめる先には体育館が。
「さて、まだ次が残っています」
「ああ、決着をつけに行こう」
 そして、走り出す。
 能力者達を見送るように、空には白い物が舞っていた。

「そういえば、あのパンチって……」
「ああ、結局のところ。四十六億年とかまったく関係無かったな!」


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/01/24
得票数:楽しい8  笑える6 
冒険結果:成功!
重傷者:白羽・命(白の妖精・b23300)  光・歌音(歌舞音曲は生命の煌き・b67283) 
死亡者:なし
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