こどもの遊ぶじかんだよ


<オープニング>


 桜の舞い踊る入学式の日。
 上級生のお兄さんお姉さん達が、ぴかぴかの一年生達の為に新しい教室一面に『にゅうがくおめでとう』って、色とりどりの絵や折り紙に輪っかに動物の貼り絵を飾ってくれてたよ。
 どの一年生のクラスも大事に、まだ飾りは残してたの。
 そして1組は、クラス全員の似顔絵が、新しく完成して飾られたばかりだったよ。
 けれど…。

「絶対、グシャグシャにしたのアズミ君だよ!」
「いつも掃除の時間、雑巾投げるし、この前だってライオンの絵にぶつけたもん!」
 ある朝、皆が登校したら、1組の教室の中はムチャクチャになってたの。
 机は倒され、花瓶はひっくり返って、皆の新しいお道具箱も荒されて、それから大事な飾りも破られて汚されて…哀しい姿になっていた。
 皆一斉に泣き出して、名指しされたやんちゃ坊主のアズミ君は真っ赤になって怒り出した。
「俺じゃねぇよ! 俺が朝一番に来た時には、もうムチャクチャになってたんだ!!」
 先生に事情を聞かれても、頑として謝らなかった。
 ──俺は絶対に、やってねぇったら!!

「勿論、これは地縛霊の仕業っ。夜の学校を徘徊して1年生の4クラスと中庭で大暴れしてる困ったヤツが居る所為なんだぜっ」
 小此木・エドワード(小学生運命予報士・bn0026)は、黒板に描いた校内の見取り図をバシバシ叩きながら力説していた。何か熱いな…嫌な思い出でもあるのか?
「出現するのは夜の9時。一年生の教室に髪の長い女の子の地縛霊、教室の窓の外の中庭にピンクの子豚の妖獣が3体出現して大暴れを始めるんだ。学校の皆は気付いてないけど、中庭の六角形の大きな鳥小屋に飼われてるセキセイインコが数羽消えてるのも、地縛霊達の所為」
 もしその内、夜間に子ども達でも侵入したら? 見回りの先生が遭遇したら?
 これ以上、犠牲者が出る前に退治して欲しいと、エドは能力者達にお願いをした。
「中庭は三階建ての北校舎と南校舎の間に挟まれてる場所。一年生のクラスは北校舎の東端から四クラス。地縛霊は、その一年のクラスだけに最初は出現するみたいだ」
 1組は既に被害に遭っており、次に出現するのは2、3、4組のいずれかだと思われる。
「けど、この地縛霊の出現には、少し法則があってさ…」
  1つ目は、多勢が待ち伏せしているクラスには出現しない。
  2つ目は、教室に『ある特徴』を持ったクラスを狙う。
「んー? 1つ目は教室内で隠れる場所があれば、それでクリア出来そうだけど、もう1個の『ある特徴』って何だろ?」
 鳥子色・イコロ(カント・bn0053)は、エドの最初の話にヒントがあったような気がするけど…? と、腕組みをして唸った。
「あと、地縛霊が出現した後、教室の窓ガラスを1枚挟んだ中庭で、ピンクの子豚妖獣が駆けり廻ると思うぜ」
 中庭には鳥小屋を中心に植え込みや花壇もあれば、春先に植えたばかりの二年生クラスのひまわりの植木鉢も沢山並んでる。
「中庭の広さってどのくらい?」
「単純に云えば、教室が縦長に4クラス分ってトコ。この中庭と1年生の教室がゴースト達のテリトリーな。子豚は中庭をぐるぐる植木鉢も蹴散らして疾走しながら、皆に頭突きと強い蹴りを放って来るぜ。遠距離攻撃はないから安心してな。女の子の方は、ちと癇癪持ちっていうか…」
 出現した時、真っ先に教室後ろの掲示板を破りに来る。
 阻止すれば、べしっと平手打ち。ばりっと引っ掻き。怒りの雷撃をどかーんと放つようだ。
「窓ガラスを破るか開けるかして、中庭の子豚と合流しようとするから、そこは一緒にしない方がいいと思うぜ」
 分断したまま、倒すのが良いだろう。

「でさ、もし教室や花壇がぐっちゃぐちゃになってたら、翌朝学校に来た子達が皆哀しむじゃん。戦いが終わったら、出来れば直してあげてくんないかな?」
「そっくりそのまま修復出来るか判らんぜ?」
 イコロの言葉に「別に、同じ様に直さなくてもいいんじゃんっ」と、エドは笑う。
「大事なのは、皆が喜ぶ事っ! 壊れちゃった物は、『前よりもっと素敵な物に変身しちゃった』ってのが、絶対いいと思わね?」
 それに皆に疑われたアズミ君の事もある。
 犯人はアズミ君じゃなかった。犯人は外からやって来た悪戯好きのお化けの仕業だった。
 そして悪い事して、ごめんねって謝りに来たっ。っていうシナリオとかどうかな?
「お化けかどうかは兎も角。絵本で、ありがち過ぎな話だなあ…」
 けど、僕もそういうの嫌いじゃないぜ?
 エドとイコロは、互いにニカッと笑い合い、エドは能力者達に呼びかけたのだった。
「大事なのは皆が喜ぶ事! 皆の笑顔の為に頑張って来てくれなっ!」

マスター:ココロ 紹介ページ
GWは、いかがお過ごしですか?
ほのぼのわくわく冒険テイストでお届け予定です。
アズミ君の濡れ衣を晴らす為、しょんぼりな一年生達を元気にする為、頑張って下さいね。

成功条件は、地縛霊他ゴースト全て退治ですっ

物語は夜の人気の無い校舎の中に入った所から始まります。

【教室で隠れられそうな場所?】
教壇、オルガン、先生の大きな机、掃除用具入れ
隠れ場所がなければ、自分で作るのも一興…。

【中庭】
鳥小屋は直径2m、高さ2.5m。鳥籠を大きくしたような形です。セキセイインコ、オカメ、サクラボタンインコと多種居ます。中庭の中央にありますので、戦闘中に被害を出さないように…。
一年生の教室下に低いツツジの植え込みとチューリップの花壇が一列。その前に植木鉢がずらっと並んでいます。

後始末は「俺はそんなキャラじゃないぜー」的クールな方も自動的に強制参加です。
小1の机椅子は、中高校生には小さ過ぎるでしょうけれども(笑)
尚、教室や中庭修復に室内点灯で人が来るかどうか等、気にしなくて大丈夫ですよ。
夜の学校は皆さんとゴーストのお時間ですっ。

イコロは御用がなければ、隅に転がしておいて下さいね。皆様のお邪魔だけはしないとお約束致します。

参加者
田島・未菜(猛娘・b01975)
長瀬・悠(ただ一人のための刃・b05099)
日番谷・電光丸(中学生水練忍者・b06789)
姫咲・ルナ(桃色月夜に生まれた仔猫・b07611)
セシェム・シストルム(小学生ベスティアスリンガー・b17883)
羊丘・クラーク(小学生ヘリオン・b21197)
如月・菫(スミレイロシンフォニィ・b22396)
万木・沙耶(墮夢・b23472)
八歳・沙紀(香木の枝・b23537)
長谷川・暁(中学生土蜘蛛の巫女・b23709)
NPC:鳥子色・イコロ(カント・bn0053)




<リプレイ>

●大事な似顔絵だったんだよっ
 びりびりに破いて、くちゃくちゃにしちゃったのは誰だったのかな?
 クラスの皆は、いつもらんぼうもののアズミ君だと云った。
 本当の犯人は、ね。
 本当の犯人は……。

 夜のしじま、某小学校の北校舎1階に能力者達は居た。
 『にゅうがくおめでとう』
 桜が咲く頃、1年生の各4つの教室には上級生のお兄さんとお姉さん達から、新1年生の皆への楽しい贈り物の絵や色紙が沢山飾られていた。
 五月の今もそれらは大切に残されていて、新たな季節を迎える度に、今度は新入生達の手で楽しい思い出を飾り変えて行く予定だった。
「地縛霊さん、なんであんなこと、したんでしょうか……」
 ところが、先日の夜に地縛霊が暴れた1組だけは、剥き出しのコンクリート壁面に、殺風景な掲示板の姿に変わり果てていた……と、万木・沙耶(墮夢・b23472)は長谷川・暁(中学生土蜘蛛の巫女・b23709)達に淋しそうに云う。
「新入学で皆と仲良くなれる第一歩って時に、迷惑な地縛霊だよなー」
 3組と4組の似顔絵を剥し終えた日番谷・電光丸(中学生水練忍者・b06789)は、自分の過去を振り返りながら云う。
「アズミに同情するぜ。普段やんちゃしてると、ちょっとした事で皆に疑われるんだよなー」
「1年生って、オトモダチとワクワク遊ぶのがお仕事なの! アズミ君が皆と仲良くなれるお手伝い、できたら嬉しいなっ」
 教室と中庭をデジカメで記録撮影し終えた姫咲・ルナ(桃色月夜に生まれた仔猫・b07611)は、去年まで自分も新1年生だった時の記憶を純真な瞳で告げた。

 地縛霊を誘き寄せる場所として選んだのは2組の教室。
「小学生が描いたように見せる為に、わざと下手に描いたんだから」
 本気で描けば、もっと上手だよ? ……きっと。
「スミレ、お絵描きが大好きなのですよぅ…♪」
 八歳・沙紀(香木の枝・b23537)が用意して来た似顔絵に合わせ、如月・菫(スミレイロシンフォニィ・b22396)達も楽しそうに色鉛筆を使ってお絵描き中。

「……という事で、各組待機の者は、窓の鍵を外しておいて貰えるか。後は合図後に教室を点灯してから移動を頼む。それで中庭の視界が明るくなる筈だ」
 はーい。
 了解ー。
「ねっねっ。あたしも長瀬先輩似の奴を1枚描いちゃったよー。似てる?」
 皆に指示していた上級生の長瀬・悠(ただ一人のための刃・b05099)に、田島・未菜(猛娘・b01975)は、得意げに見せる。
 似ている…のか?
 悠は至極真面目な顔で、簡素で歪な丸に黒粒な点で成り立った自分の顔絵を見つめていた。

 中庭では、教室窓下に鮮やかなツツジが咲き誇り、その前に花壇と3組の教室へ避難中のひまわりの植木鉢が並んでいた。
 室内が明るい教室側からは窓全面が鏡状になり外が見えないだろうが、何かあれば声一つで窓を開け、往来は可能だ。
「初めての依頼。勿論、怖くない訳じゃない」
 羊丘・クラーク(小学生ヘリオン・b21197)と鳥子色・イコロ(カント・bn0053)等と共に運び出しを手伝い、懐中電灯を各所に設置していたセシェム・シストルム(小学生ベスティアスリンガー・b17883)は、鳥小屋を眺めながら呟いた。
 夜の闖入者達の気配に酷く怯えた様子で、忙しく動き回る鳥達。
 誰一人、怪我をさせないように、オレは頑張るしかないんだ……。

 ピピ…ピ。
 夜な夜な学校に現れ、イタズラして暴れまわる地縛霊達に会える時間が迫っていた。

●1組の教室と中庭
 机を引き倒す騒音の刹那、鋭い警報が響き渡った。
 一斉に点灯された各教室の明かりが、中庭に広がる闇を昇華する。
「来たよ!」
 疾走して行くピンクの影が3体、待機していた未菜やセシェム達の眼に映る。
「来い! オレが相手だ!」
 セシェムの両手に構える二刀の剣が頭上旋回すると、イコロから白蟲を宿された未菜と背を合わせ周囲を見張る。体長も脚の速さも中型犬並だろうか、柔らかい肌を見せながら花壇を一線に駆け抜けた。
「イコロ君。一箇所に集めたいから吹き飛ばしてー」
「えーと……どっち方向にかな?」
 1体は鳥小屋の周辺を回り金網へ頭突き、残りは縦横無尽に中庭の端から折り返し疾走し、立っていたクラークとイコロの足元へ飛び掛り転倒させた。
「んー。あっち?」
 未菜が指差した方向は、1組とは反対の4組の教室前である。
 なるほど。菫と電光丸が待機していた教室からは庭の地面を照らす明かりが点いている。
 別方向に散る子豚。
 クラークから紡ぎ出される眠りの歌に交錯し、黒いオーラを纏わせたセシェムの和洋の2本の剣が疾る影に一閃した。
 護る、皆を!
 獣を追う未菜の視界の隅には、硝子の向こうで地縛霊と拮抗している仲間達の姿が映った。

 びりびりっ……。
 混迷の闇へ繋がる忌まわしき鎖を引きずり、掲示板の似顔絵を破く女の子の姿を悠は見た。
 窓を引き開け教室内へ身を滑り込ませるのと、教卓に潜んでいたルナと沙耶が飛び出すのは同時。
「子どもならではの辛さ、今の俺には判ってやれない。ならば、判りそうな者が接する時間くらいは作るさ」
 一撃と回避。
 踏み台の棚から、ころりと幼子は落ちた。
 少女が弾けた動作で窓側へ走り出した時、隣の教室より駆けつけた暁が戸口で遊天の柄を床に叩きつけ、次々と電光丸、菫達が教室内に集結した。
「ほいストップ。掃除大変だから窓割んなよ?」
 暁の眠りの歌が響き出す。
 後衛の仲間達を場に残し、電光丸は小さい机の合い間を窮屈に走り抜けながら窓へ立ち塞がると、悠が明凪舞姫・蒼の直刀を上段の構えから炎の蔦を放ち振り下ろす。
『わぁ…んっ!!』
 切ない幼子の声が響いた。
 鎖ごと床上をころころ転がり、起き上がりざま周辺の机をがしゃんと引っ繰り返して中身を四方へ投げる。

「んと……どうして、イタズラするですか?」
 此処に居るのは……。
 学校への恋しさじゃないんですか。
 菫は声を掛けるが、少女は癇癪を起し両手でばんばんと机を叩き、激しく揺らす。
『あそこ……、わた…の顔…ないないないっっっもんッ』
 能力者達が作成したクラス全員の似顔絵を指差し、泣き喚く女の子。
 入学前に死んだ子。みんなのなかまに入れて貰えない子。忘れられていく哀しさ。
 どんな想いを残して地縛霊になったかは判らない。
「でも、みんなも哀しませているよね? 許されないいたずらはあるんだから……!」
 沙紀の周囲には、明鏡止水の心が具現した様な球体が展開されていた。

 尚も行く先を阻む悠をべちべちと叩き引っ掻く姿は、幼い。
 菫や沙耶達の為に耐え忍ぶ悠に小さな疵が増えていき、暁に癒しの援護を受けても……、敢無く、能力者だからこそ迎えねばならぬ哀しい時間は訪れる。
「いかん。下がれ皆!」
 少女の髪に蒼白き火花がチリリと帯電した時、悠が再度、炎の蔦を少女に絡ませたが、ルナ達に向う迅雷の方が速かった!

●もし、いつか
 耳を引き裂く破壊音が轟いた。
「何っ?!」
 一瞬、校舎の窓が軽くびりりと震動し、セシェムは背筋に冷汗を伝わらせる。仲間達の居る教室に雷光が迸ったのを未菜も見た。
「結構デカいんじゃない?! アレっ!」
 幼稚な攻撃だけかと思いきや、尋常でない雷撃の光音に、皆は無事なのかと焦れる。
 大怪我した子が居たら……居たら…居たら??
「集中」
 クラークが短く言葉を切る。
 判ってる。
 けれども。

「オレは例えゴーストを倒しても、誰かが怪我をする方が、もっと嫌だ!!」

 ──わたしはアズミ君だけでなく、アナタの心も救いたかった!
 
 不意に離れた場所に居る筈のルナの叫びが、窓の境界を越え、セシェムの悲痛な叫びと共鳴した気がした。
 それぞれに2人の想いは異なるけれども、護りたい。救いたい。
 その願いは同じ事なのだ。
 ゴーストを前に、1人の想いと力はちっぽけなものかもしれない。
 弱くて、弱くて、弱いもの。
 だが、皆で力を合わせて初めて、強くて、強くて、強いものになる。
 丸盾を構えたクラークの背後に後光の十字が出現し、裁きの光がイコロに集められた庭隅の獣達に伸びて行く。傷付き弱る子豚の足元に、低い姿勢から滑り込んだ未菜の二刀が閃き突き上げ、護る想いと力を高めたセシェムの黒き剣が最後の1体迄、両断した時。
「あ……」
 クラークは妖獣達の屍が全て消失していく様を目撃したのである。

 雷撃に跳ね上がる幼いルナの体は、机の隙間に倒れ落ちていった。
「……ぁぅ…」
 蹲るルナに曼珠紗華が舞い散るように沙耶の真紅の術扇が聖なる舞と共に、癒しを授けていく。
「……話し合いダメなんですね。悠ちゃん有難う。もういいです。……可哀想だけど、倒させてもらうです!」
 菫の錫状の輪が重なり清涼な音が教室内に満たされた。
「人間の時の楽しかった思い出を忘れてしまっているなら……早く、ここから解放してあげるね」

『……』

 言葉も心も。
 銀の雨に歪められたゴーストへ届く事を、期待してはならぬのかもしれない。
 だが、その沈黙が『うん』と、ルナには答えてくれているような気がしたから。

「同情はするけどよ、ちょっとおいたが過ぎるぜー。小さい子達が哀しむから、お前は静かな所で眠ろうなー」
 接敵した電光丸の爆水掌が胸に打ち込まれ、散り乱れる髪の隙間から覗く黒い瞳が、憎悪でもなく無へ帰したい希求に縁取られている──気がした。
「もう…こんなことが、おきないように…皆が笑えないと、学校じゃないから…」
「あんまり長い間痛めつけるのは、可哀想。……早く」
 早く終わらせてあげたい。
 菫と沙耶と沙紀の重なる想いが光り輝くエネルギーの槍を放ち、更に少女の胸を貫いた時、
『がっこ……う……た…』
 床の上へ混沌の闇に鎖で繋がれた少女の体は、ゆっくりと倒れた。

 もし、いつか生まれ変わることがあるなら。

「私の学校においで♪ その時はお姉さんになった私が、うんと可愛がってあげるから」
 ルナの声は天から舞い降りる柔らかな純白の羽毛のように思う。
 少女はもう一度だけ同じ言葉を呟き漏らし、そして静かに世界から消失していった。

 学校って楽しそう……。行きたかった…の。

 小さな女の子の叶わなかった願いが、能力者達の耳にいつまでも残っていた。
「……向こうも終わったな」
 悠が静かに剣を降ろし、窓を開けると、清浄な夜風を駆けて来る未菜達の姿が目に映っていた。

●明日はきっと
「あ〜…他に用のあるヤツは、そっち優先でいいぜ? 掃除は俺がやっとくからさ」
 教室の床を箒で掃き始める暁の声を機に、一斉に片付け開始となった。

「おっと。イコロおもてーだろ、教卓や大物はこの大きいお兄さんがやるから壁とか片付け……って、いねー?!」
 窓から顔を出したイコロは、電光丸にひらひら手を振った。
「中庭を直してから行く。悠、スコップ借りていいか? 持って来てくれて有難う」
「ああ。手伝いはいるか?」
「あっちあっち」
 セシェムが、掲示板の貼り直しに手が届かず四苦八苦中の菫達を指差した。
「あたしも重労働は引き受けるよ。お姉さんですからっ! えっへん」
 と、頼りにされたい未菜と電光丸は、ルナ達小さい子の代わりに、暁が注意深く血と泥を拭取りながら掃いた床に乱れた座席を直していき、小学生達も散らばったお道具箱も元の位置に戻していく。

 掃除が完了すれば、再び殺風景な1組の教室に折り紙とか輪飾りを飾ろうと製作開始。
 クラスの皆に疑われてしまったアズミの濡れ衣を晴らす為、仕掛けをしておくのだ。
「あたしの華麗な折鶴を見るが良い! って、何かくちゃくちゃになっちゃった。何ー故ー」
「田島。小学生らしい見事な細工が出来たな。偉いぞ」
 鶴は悠に、へなっと首が折ってご挨拶した……。
 教卓にはルナが用意した髪の長い少女の人形、三匹のピンクの子豚さんヌイグルミ、それからキレイな花も沙紀の用意した綺麗な花瓶と一緒に飾られた。
 座席表でアズミの席を確認し、クーピーを置く沙紀。
 ──幽霊の女の子からの、お詫びのプレゼントだよ。
「こんな感じで…大丈夫です?」
 菫と沙紀が地縛霊の女の子の似顔絵を描き、クラークと一緒に書いたゴメンナサイの文字の横に貼り付けると、最後の最後に大切な仕上げを完了した事に、皆で一斉に歓声をあげた。

 全てを終え校舎を出ると、新緑の季節を実感する。
 夜気を肺の奥深く迄吸い込むと、湿る緑の匂いがじんわり身体中に蓄積されて行く気がした。
 校門に近づくと、柵を乗り越えようと四苦八苦しているチビッコ達に一同は遭遇した。
 何となーく他人とは思えない悪戯小僧な少年の顔を見た時、自然と電光丸は声を掛けていた。
「よおっ。俺、電光丸って云うんだけど、もしかしてお前がアズミか?」
「……安曇日向は、俺っ」
 目を丸くしたアズミが女の子を庇うように、ずいっと前に出ると、女の子がムッとしたように前に出る。互いに繰り返してすったもんだしている遥か後ろで、ビクビクと電柱の陰に身を潜めている女の子が、もう1人居た。
 どうやら三人はクラスは違うのだろうが、友達らしいと暁は思った。
「もう今夜は遅いから帰りな。明日になればクラスの皆の誤解も解けると思うしさっ」
 明日はきっと、皆びっくりしてくれる。
 明日はきっと、良い事がある。
 再び色溢れる楽しい教室に戻ったのは、見知らぬ女の子の幽霊からの贈り物だって事。
 昔入学直前に事故に遭い、入学出来なかった子が幽霊になって、ヤキモチ焼いたイタズラだったんだよって。真実は誰にも判らないけれど、能力者達はそう思ったのだ。

「お前を男と見込んで頼む! 可哀想な幽霊の代わりに、謝ってあげて欲しいんだ。そしたらお前の優しさにクラスの皆も気付いてくれるからさ」
「アズミ君は素直になれないだけで……本当はただ皆と遊びたかったんじゃないかな。ついついそんなとこ、私にもあるしね♪」
 優しく声を掛ける電光丸とルナに、アズミはそっぽ向いた。
 いーてててっ☆
「ばーかばーか。ヒナタはそんなだから、新しいクラスで1人ぼっちになるのだよ」
「あ、喧嘩はダメですよぅ」
 菫達が押しとどめ、やがて女の子に頬を抓られて引っ張られていくヒナタの後を、電柱の女の子が追いかけていく。

 信じるし、やってやるよ。ありがとな……。

 去り際に小さくアズミが呟いた気がした。
 素直じゃないなぁ……。

「学校は…楽しく、まなぶところです…もうかなしいことなんて…おこって、ほしくないです」
 ──皆がまた明日から笑えますように。
 祈りを捧げる沙耶の言葉に頷き、能力者達は帰っていく三人を見送ったのだった。


マスター:ココロ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/05/17
得票数:楽しい2  泣ける2  カッコいい1  ハートフル14  せつない4 
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