フェンリル撃破作戦:Limit Break
<オープニング>
「欧州に二十体ものフェンリルが現れたことは聞いているか?」
それが、百地・いろは(高校生呪言士・bn0209)の第一声だった。
ヨーロッパから帰還した者達によって多くの情報がもたらされているが、その中でも最大の関心事にして最大の事件である。
「事は人狼十騎士のひとりだった聖女・アリスの情報に端を発している。ヨーロッパの処刑人達の世話をしていた老女が、メガリス『ニーベルングの指輪』によって操られているという話だったのだが……」
この問題を解決するためにヨーロッパに向かった能力者達により、妖精郷のヤドリギ使いの長である妖精郷の運び手・ラプンツェルや、人狼十騎士のひとりである狼使い・ローラからネジを抜く事に成功した。
だが、良いことばかりではない。
洗脳を解かれた彼女達から、欧州の人狼達の新たな作戦が判明したのだ。
「欧州の人狼達の……いや、清廉騎士・カリストの目的は二十体のフェンリルを動員して欧州で大戦争を行うことだ」
二十体ものフェンリルによる大戦争……。それはヨーロッパの世界結界に大きな影響を与え、最悪の場合は日本と同様にシルバーレインの降る場所へと姿を変えるだろう。
「むろん、そんな事を許すわけにはいかない。みんなの力を貸して欲しい」
それがここに能力者達が集められた理由。
ひとりまたひとりと決意を顕にして、そして決戦に挑む戦士がここに出揃う。
「ありがとう。では、詳しい説明を始めるね。まず、召喚されたフェンリルは、ビャウォヴィエジャの森の奥に一体づつ配置されている」
うち一体をここに集まった能力者達によって倒すことになるわけだ。
「そこまでの道案内はヴィッシュという人狼とその仲間達がしてくれる。どうやらかつて銀誓館に救われたこともあって志願してくれたらしい」
彼らの数は能力者達と同じぐらい。
主に行き帰りの道案内をしてもらうことになるが、それ以外にも退路の確保、邪魔者が来ないように見張りを行うなど、裏方の大半を任せることになる。
「少し話をしたが、かなりの意気込みのようだ。この部分は任せて大丈夫だろう。それに加えて、ローラがフェンリルの居場所に他の人狼騎士が近づかないようにしてくれている」
ローラは人狼十騎士のひとり。
さすがにその命令が破られるとは考えにくく、襲撃に邪魔が入る恐れはない。
「と、お膳立ては揃っている。問題は私達がフェンリルを倒せるか……その部分だ」
幸いなことにローラの協力を得られたことで、フェンリルとその近くにいるゴーストウルフは『こちらから攻撃を仕掛けない限り、いくら接近しても攻撃してくることはない』。ただ、アビリティによる強化も攻撃をとして扱われるので注意が必要だ。
「攻撃を行えば、当然向こうも反撃してくるので完全な不意打ちとはならないが、それでも初期配置を自由に選べる利点は大きい」
特にフェンリルは範囲に影響を及ぼす攻撃が多く。加えてそのダメージは半端なものではない。纏まっていては回復が追いつかず、フェンリルに押し切られてしまう。
戦場を広く使って攻撃を受ける者を少なくするのは勝つための最低条件といってもいい。
「そうだな、フェンリルを中心に四方(東西南北)に散るぐらいことはしておいた方がいいだろう。……だが、これでも厳しいと思う」
それほどの難敵。
圧倒的なまでのにレベルの差があるのだ。
「ゴーストウルフ達はフェンリルの機嫌を損ねないようにか、15mほど離れている。フェンリルを中心に円を描いている形だ。ちなみにゴーストウルフを攻撃しても戦端は開かれてしまう。散らばっているので範囲攻撃に巻き込むのは難しいが邪魔はされてないようにはしておこう」
ちなみにゴーストウルフはフェンリルを倒す事ができれば四散して行くので、無理に倒す必要は無い。だが、放置しておくのも厄介ではある。
「分かっていることは以上だ。正直なところ今の作戦では上手くいったとしても五分五分ぐらい……。だが、ヨーロッパを征服しようとするカリストの企みは絶対に阻止しなくてはならない。危険な戦いになるが、知恵と勇気を駆使して勝利を掴もう!」
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参加者
エルレイ・シルバーストーン
(銀石の操霊士・b00312)
浅葱・悠
(星黎の紡ぎ手・b01115)
神山・秀一
(空ろの灯篭・b01609)
神崎・翔
(闇を背負いし青き瞳・b04754)
嘉納・武道
(柔道番長・b04863)
蒼穹・克
(碧羅蒼天・b05986)
平良・虎信
(荒野走駆・b15409)
アルファ・ラルファ
(ティアレタヒチ・b15679)
都築・アキ
(ターンコート・b16871)
五十鈴・尚人
(神誓継承者・b17668)
葉中・優実
(花蝶風月・b17825)
大木・夏美
(ロードオブレディ・b20748)
リューン・クリコット
(夜闇を斬り裂く明星・b22495)
烏森・スズメ
(拳で語る人・b27259)
竜造児・咲耶
(機竜操士・b28506)
ポルテ・トルテ
(フェンリルクォーツ・b37411)
天乃空・ティーザ
(白銀騎王・b40642)
藤森・青葉
(光紡ぐアステリズム・b42571)
空知・凪
(華蝶拳士・b43818)
真和・茂理
(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)
竜宮寺・武
(闇を纏いし守護の剣・b44628)
月村・斎
(閑人・b45672)
南雲・レイジ
(烈火の剣侠児・b47935)
レイラ・ミツルギ
(高校生魔剣士・b48060)
神楽・真冬
(舞い散る粉雪・b51839)
妹尾・縁
(笑顔に憧れる子猫・b54041)
シルヴィア・テスタロッサ
(ブラムストーカー・b62958)
月宮・狼也
(吼え猛る守護騎士・b63662)
綾川・紗耶
(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)
海原・零
(蒼魂の霹靂・b78340)
NPC:
百地・いろは
(高校生呪言士・bn0209)
<リプレイ>
●カウントダウン
原生林の中を能力者達は進んでいた。
ビャウォヴィエジャの森。
かつて人狼戦線の舞台となった場所である。
(「久しぶりの帰郷……なのに、こんな状況なのね」)
エルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)は先程、ヴィッシュから聞いた話を整理していた。
フェンリルのことや、ヨーロッパの情勢。
何でも無さそうに語っていたが、忸怩たる思いなのだろう。言葉の端々に憤りが見て取れた。それはヨーロッパ出身のエルレイにとっても同じこと。
(「あの時弱体化した一体でもすごく面倒だったのに、量産化なんてずるいよ」)
考えているうちに森を抜ける。
広大な空き地にそれは居た。
「相変わらずでかいね……このおおかみさん……」
フェンリル――かつて能力者達を苦しめた神話にも出てくる巨大な狼。
「まさか、こんな日が来るとはね」
烏森・スズメ(拳で語る人・b27259)が思わず声をもらした。
いかにすれば、倒せるのか?
いや、本当に倒せるのか?
その姿を見ていると、不安ばかりが沸き起こってくる。
「これだけの数を生み出すのに何個メガリスを使った……?」
呻くような声を出したのは、神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)。
この他にも十九体。
他のフェンリルに向かった能力者達も今頃は向かい合っているのだろうか。
「これが、かつて人狼との戦争で人狼側の切り札だったと言うフェンリルですか……。担当するのは1体だけとはいえ規格外の化け物なのは間違いないですね」
間近で見るとその大きさが実感できる。
加えて、神楽・真冬(舞い散る粉雪・b51839)は周囲にも目をやった。
森の中に不自然な形に生まれた空き地。
人狼達がフェンリルを置くために用意したのではなさそうだ。
おそらく……この怪物が作りだしたのだろう。
「……こんなのを使われては大変な事になる、倒しておかないとな」
「脅威だからこそ放置は出来ない。魔狼フェンリル、ここで沈めてみせる」
海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)と、竜宮寺・武(闇を纏いし守護の剣・b44628)が決意を固めて足を踏み出す。他の能力者達もいつでも戦えるように警戒を最大レベルに引き上げて、一歩。
そして、また一歩。
歩を進めるごとに巨体はその威圧感を増していく。
フェンリルの双眸が輝きを増した。
明らかに能力者達の接近に興味を示している。
(「まるで神話の世界にでも紛れ込んだ気分だな。だが欧州まで日本のように銀の雨が降り注ぐ土地にしてしまうわけにはいかない……。なんとしても、ここで食い止めないとな」)
ともすれば怯みそうな気持ちを押し留め、シルヴィア・テスタロッサ(ブラムストーカー・b62958)が詠唱兵器を握り締め、そして進む。
――ウウウウゥ。
能力者達の接近に、ゴーストウルフ達が唸り声を上げ始めた。
「おうおう、そんな唸るなって」
月宮・狼也(吼え猛る守護騎士・b63662)の軽口に、ゴーストウルフは更に唸り声を大きくする。だが、威嚇はすれども襲い掛かってくる気配は無い。
予定通り、こちらから攻撃を仕掛けない限りは襲ってこないようだ。
「まあ、人狼騎士がフェンリルを倒すなんてスゲー皮肉だろうが全力でぶちのめさせて貰うぜ」
狼也はそれを確認すると、倒すべき敵へと近づいていく。
こうして能力者達は散らばり、それぞれの場所へと。
「にゅぅ、フェンリルものすごく強いけど一緒に頑張るですにゅ」
リューン・クリコット(夜闇を斬り裂く明星・b22495)が真ケルベロス(ダロス)に、
「フィル、厳しい戦いだけどお願いね」
綾川・紗耶(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)もケルベロスベビーに声を掛けている。
他にも作戦を確かめ合うために短い言葉が交わされていく。
「師匠と同じ班というのは良い予兆ですね」
蒼穹・克(碧羅蒼天・b05986)の声に、嘉納・武道(柔道番長・b04863)が閉じていた目を開けた。
「ああ、お互いに全力を尽くしましょう」
言って、フェンリルを見上げる。
最接近した今となっては、そのすべてを視界に収めることは出来ない。
「こんな化物と正面切って殴り合いなんてのは俺の柄じゃないんだが……」
別の場所では、五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)もフェンリルを見上げていた。
禍々しい異形、明らかな脅威。
「あいつに乗り移られたか?」
ぽりぽりと頬を掻きながら、思うのは大切な人のこと。
(「ま、何にしてもこいつを放置する訳には行かないんだ、やるしかないな!」)
尚人は準備が整ったのを確認すると、百地・いろは(高校生呪言士・bn0209)に合図を送った。
「怖い、ですけど……ここで戦わないと泣く人がいるんです!」
大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)も人形抱きしめたままで合図を。
そして準備は整った。
「いろは、カウントダウンを頼む!」
南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)が武者震いを止め、ひと際大きな声を上げる。
「分かった!」
応えて、いろはが目をつむる。
「大丈夫、いろはちゃんなら皆付いてきてくれますよ♪」
真冬が振り向いて笑みを見せれば、
「ボクら高校3年としてはとんだ卒業試験になったね、いろは! さあ、サクッと勝ってヤストシェンビェ=ズドルイの温泉で祝杯を上げよう!」
真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)の声も響いてくる。
そう、きっと勝てる。
「みんな――見ての通り、敵は強大だ。だが、私達は勝つ! 全員無事に勝って帰るよ!」
「「おう!!」
「いいね、気合いが入るよ」
「鬨の声と言うヤツだな!」
シルヴィアと、平良・虎信(荒野走駆・b15409)が気合いを篭める。
「さあ、カウントダウン。テンション上げていくよ!」
続いて、ポルテ・トルテ(フェンリルクォーツ・b37411)の声が、いろはの背を押した。
「いくよ、10!」
「「10!!」」
腹の底から出した声が戦場に響き渡る。
それに警戒を強くして、ゴーストウルフの唸り声も更に大きく。
(「フェンリル、破壊エネルギー体か……。私にとっての戦は己が信念と命を剣に託し臨むもの……信念の伴わぬ力がどれほどのものか見定めさせて貰おう」)
浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)が戦意を露わに。
(「あのワンコと戦ったのはもう何年も前の事です。私達の今の実力……みせつけてあげましょう」)
葉中・優実(花蝶風月・b17825)が必ず勝つと決意を篭めてカウントを叫ぶ。
進むごとに空気が張り詰めていく。
(「正直、とっても怖い……でもフェンリルの被害を放置出来ない……私は牙無き者の剣だから!」)
いつでも攻撃を繰り出せるように、レイラ・ミツルギ(高校生魔剣士・b48060)が剣を握りなおす。
(「そして私や百地さんや、他にも三年生でここに来ている人が居る……だから39人全員で無事に帰って卒業式出るんです!」)
カウントは三まで進んだ。
(「皆に幸運を」)
藤森・青葉(光紡ぐアステリズム・b42571)が最後に胸の内で祈る。
「「2!!」」
「「1!!」」
「「0!!」」
●4(班)−1
「さあ、いくのだ!」
「トーテムよ」
カウントが終わると同時に、宮草・佳菜と、杉本・沙紀から支援が飛んだ。
幻影兵が現れて、能力者達の数は一気に倍加したかのよう。
そして、これが他の班でも起こっている。
サポート達の力を借りて幻影兵団で射程の隙を無くす。
これが能力者達の導き出した勝利の方程式のひとつだ。
「いくよ、もっちー!」
「ぷぅ!」
更に、アルファ・ラルファ(ティアレタヒチ・b15679)と、優実がゴーストイグニッション。
堅実な強化で力を高めていく。だが、それは彼女達だけ。
残りは、
「烈火の剣侠児、南雲レイジ、罷り通る!」
声と共に幻影が加速。
まるで自身を鞘走った剣のように走らせ、ゴーストウルフを捉える。
「一気に行きます!」
「悪いが早速退場してもらおうか」
続け様に、レイラの幻影兵と、尚人の蒼の魔弾が後を追う。
ゴーストウルフも回避しようと飛び出すが、
「おっと、逃がさないよッ!」
ポルテと、シルヴィアの攻撃が出鼻をくじいた。
それで一体のゴーストウルフが四散し、もう一体に攻撃が切り替わっていく。
「この程度なら、他の班も上手くやっているだろう」
まずは戦いの障害となるゴーストウルフの排除、それが作戦の第一段階。
戦果を見て、シルヴィアはこの部分のクリアを確信する。
だが、続けて起こった轟音と衝撃で、そんな考えは吹き飛んでいった……。
●2(班)−1
壁が迫ってくる。
フェンリルの間近にいた虎信の目にはそう映った。
避ける?
とんでもない。距離を空けて安全圏に逃げる以外にどうしようもない。
「この……!」
咄嗟に布槍を割り込ませようとするが間に合わない。
当たった部分が弾け飛んだような錯覚。
「ぐっ……」
同じく距離を詰めていた月村・斎(閑人・b45672)からも苦悶の声が聞こえてきた。
受けた衝撃に足がよろける。
防具は何とか耐えてくれたが、おそらく二度目は無い。
加えて、この傷を回復するのはそれなりに時間がかかる……。
「予想以上だ……」
「だが、これで後ろには絶対通せなくなったね」
翔と、茂理が代わりに前へ。
前衛がスイッチ。
それぞれの班から二人ずつ、フェンリルに取りついて攻撃を誘導する。
攻撃を受ければ、後ろに下がって傷を癒す。その間は同じ班の残り二人が前衛を担当する。
これが能力者達の導き出した勝利の方程式その二。
「でも……フェンリルの攻撃力が大き過ぎます」
「私は耐えられませんね」
夏美と、妹尾・縁(笑顔に憧れる子猫・b54041)は短く言葉を交わし、それぞれの役割に戻る。
白燐蟲が飛び交い、雷鳴が轟く。
「なら、余計に時間はかけられません」
エルレイの投げ放った光の槍がゴーストウルフを追う。
戦場から生まれる情報は瞬く間に膨れ上がり、中・後衛に位置する能力者達はそれらを読み取りながら戦術に修正を加えていく。
●3(班)−1
「邪魔ですにゅ! 光に焼かれて消えされですにゅー!」
リューンの光の槍がゴーストウルフを貫き、よろめいたところにダロスの牙が穿った。
そのまま噛み切るようにダロスが顎を引くとゴーストウルフは崩れ落ちていく。
「よくやったですにゅー、ダロス! あとは倒れた人が出たら安全圏まで運ぶですにゅー!」
これで3班の近くにゴーストウルフは居なくなった。
ようやくフェンリルに攻撃を集中することができる。
(「……人狼戦線の時は遠目で見るだけでしたが。まさか、手合わせできる機会が生まれようとは」)
クルセイドモードで受けた傷を癒しながら、克が飛び出すタイミングを計る。
「土蜘蛛の祖霊よ……」
「大丈夫ですか?」
サポートの鳴神・盟華と、稲田・琴音による癒し。
フェンリルの攻撃は強力だが、数の強みでまだ前線を維持している。
「作戦通り、攻撃を惹きつけることが出来ています。辛いと思いますが、このまま耐えてください」
更には、真冬の祖霊降臨が。
しかし、これでも傷を癒しきることが出来ない。
「ちぃ……下がらせてもらうよ」
「厄介なことこの上ないのう」
スズメと、空知・凪(華蝶拳士・b43818)が下がってくる。
二人とも防具を機能停止まで追い込まれ、前線に立てる状態ではなくなっていた。
それをフェンリルが顔だけを後ろに向けて、目で追ってくる。
「早く交代を」
紗耶が邪魔はさせないと奥義まで高めた光の槍を、その顔に投げつけた。
が、確かに当たったものの、苦しむそぶりすら見えない。
「……本当に化物ですのね」
やはり、膨大な生命力の前に能力者達の攻撃など雀の涙でしかないのか。
「だけど、それを重ねるしかありません」
武道が声と共に間合いを詰める。
踏み込んだ勢いをそのままに。
まるで自らを龍顎拳として打ち込むかのように。
「揺らぐ素振りが無くとも、この日まで培ってきたモノを信じるのみ!」
裂白の気合いが戦場にこだました。
続けて、能力者達の叫び声が響いていく――。
●1(班)−1
肉薄しているとフェンリルの全貌は視界に収まらない。
迫ってくる攻撃手段の多くが目の前で暴れまわっている足であったとしても、それを凌ぐ術すら見出せない。加えて、まだ二つの有力な攻撃手段を有しているのだ、この化物は。
「まったく、普段とは違う戦いなのは分かっているけど……」
都築・アキ(ターンコート・b16871)が傷口を押さえながら後退る。
足が重い、骨の一本や二本は持っていかれたかもしれない。
「……頑張ったらその分ぐらい、ご褒美は期待しようか」
軽口を叩いたのはいつもの自分を取り戻すため。
見るからに戦況は悪化している。
このまま時間を重ねたのでは不利になっていくだけかもしれない。
「今後はこういった相手も増えてくるのか、ちょうど良い。どこまでやれるか試金石になってもらおう」
神山・秀一(空ろの灯篭・b01609)が下がってきた、竜造児・咲耶(機竜操士・b28506)の傷を癒す。
「……中衛を……押し上げないと……どうにもならない……」
咲耶は言う。
このままでは作戦は破綻すると。
事前に中衛を前に出して、三つ目の前衛とする算段は立てられていた。
「早くもそうするしかないとはな……」
フェンリルの攻撃があまりにも強力だ。
もう切り札を一枚切らねばならない状態……だが、ここで引き返すことも出来ない。ならば、最後まで突き進むのみと天乃空・ティーザ(白銀騎王・b40642)が覚悟を決める。
目に映るのはフェンリルの雄々しい姿。
「狼の罪は狼が裁くまでだ」
幻影の兵団による無数の攻撃に、ティーザ自身も加わっていく。
隣には同じく、生身の悠が。
「我が剣は星黎の守剣……貴様の破壊を凌駕し守り抜いてやろう」
純白の剣が闇に染まる。
二人は時間差をつけて、迫ってくる足を斬りつけた。
直後、振り払うようにフェンリルの右前足が動く。
二人を巻き込みながら辺りを蹂躙していく。
だが、
「まだだ!」
喰らいつけ。
余力があるなら攻撃を叩き付けろ。
「頑張って下さい!」
「休んでる暇もないわね」
サポートの土御門・雅連と、襟裳・岬が全力で支援する。
目的はひとつ。
フェンリルを倒すため、能力者達は持てる力のすべてを振り絞っていた。
●4−2
「……っ! 邪魔をするな、獣!」
横合いから飛び出してきたゴーストウルフを、シルヴィアが切り伏せた。
これで長く残っていた4班の周りのゴーストウルフも消え失せ、同時に敵がフェンリルだけになった。だが……その間に被った損害も大きい。
「くっ……経験あるんで分かっちゃいたが、やっぱとんでもないなこいつ!」
尚人が魔弾の射手を展開しながら前衛に。
先ほどから前衛を担当する四人はダメージを受けては下がり、傷を癒しては前に進むことの繰り返し。
「ああ、耳がおかしくなるッ!」
ポルテが大人しくしろと瞬断撃を叩き込む。
耳に聞こえてくるのはフェンリルが踏み鳴らす地鳴りの音と、身を震わすほどの咆哮。
だが、そんなことにかまけている暇は無い。
目の前の巨大な足がゆるやかに動いたかと思えば、目にも留まらぬ速さに変化して、
「……ふごっ」
気が付けば攻撃に巻き込まれいてる形だ。
「吼えろ! レイジングソォォォドッ!」
少しでも動きを止めようと、今度はレイジが吸血衝動で矢のような攻撃を仕掛けた。
エネルギー体のボディに渾身の力で剣を突き刺す。
深々と突き刺さったことを幸いに、レイジは体重を掛けて傷をえぐろうとする。
が、そこでフェンリルが身を振るった。
「う、うぉおおおお!」
剣を突き刺したまま、レイジの体が右へ左へ。
「あのままでは危険です、ラルファちゃん支援をお願い!」
「了解したのデス!」
優実と、アルファの雑霊弾がフェンリルに撃ち込まれる。
だが、動きは変わらない。
必死に喰らいついていた、レイジもとうとう剣ごと振り落とされた。
勢いがついていた分、足元に落ちなかったのは不幸中の幸いであろう。
「さすがにフェンリルもあれは痛かったみたいですね」
ちょうど後退してきたレイラが近づく。
「やはり、上を取りたいな」
「確かに」
「と……言っている間にも交代か」
二人はまた前線へと駆けていく。
戦いの音は絶え間ない。
終わる気配を感じさせぬほどに。
●幕間1
それは苛立っていた。
自らの周りを囲む小さなもの。
息を吐けば吹き飛んでしまいそうな、それらを……どうしても壊すことが出来ない。
小さなものは、叩けど、潰せど、燃やせど、壊れることなく向かってくる。
なぜ壊れない?
苛立ちのままに四肢を振るう。
怯めと咆哮をあげる。
そして――、
●2−2
「光よ断罪の槍となれ、かの歪んだ存在を貫け!」
エルレイの投げた光の槍がフェンリルの鼻先に当たった。
暗き炎のような双眸がこちらへと向く。
続いて天にも届く咆哮が大気を震わせた。
そして、巨体が駆ける。
「えっ、フェンリルが向かってきてます?!」
夏美は一瞬見間違えたのかと思った。
だが、巨体はあっという間に視界を埋めていく。
「皆さん、防御を! 防御を優先してください――きゃああああ!」
言った直後に地面をえぐるような勢いで前足を突き出してくる。
今度は大地が震えた。
「なんて火力……戦争の相談でも最悪の事態の象徴とされた魔物なだけはあるね。2年半能力者として鍛えてきた集大成、ここで見せる」
攻撃範囲から逸れていた、茂理が電光石火の蹴りで、
「ああ、以前は弱体化させて何とか勝利したが、あの頃とは違う! 鍛練の成果を今こそ見せる時!」
虎信も高速の蹴りの連打でフェンリルを迎え撃つ。
これ以上、後衛を攻撃させるわけには行かない。少しでも意識を、こちらに。
「意地の張り所……だな。さて遊んでやるよ」
斎が傷ついた身体をおして、奥義まで高めた黒影剣を繰り出す。
反撃とばかりに巨大な鉤爪が周囲を薙いだ。
避けようもなく、夏美、茂理、虎信、斎が一瞬で深手を負う。
(「なんで僕ここにいるんだろう。ちょう怖いんですけど」)
目の前で吹き荒れた暴風に、青葉が身を竦ませた。
だけど、ほんの僅かでも、
「とんでもない気の流れのようですけど……砕いてみせます!」
幻影兵を通して石兵気脈砕きを打ち込む。
体が石に……いや、石になったところから剥がれ落ちていく。
「やっぱり、そう都合よくはいかないよね」
慌てて後退。
やはり、あれだけでかいとバッドステータスも効きにくい。
「大丈夫ですか」
「我らに『世界』を守る英霊の加護を」
その間に、サポートの綾川・悠斗と、氷桜・ひさめから回復アビリティが飛んでいた。
同様にフェンリルの攻撃も。
徐々に混沌に覆われていく、2班。
「で? どういたします?」
縁の無機質な声。
彼女はこんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ感情を心の奥に閉じ込めていた。
「傷を負っている人は一旦射程外に逃げてください。そうでない人も距離を取って、いつでも射程外に出られるように……今は他の班が来るまで逃げましょう」
夏美の言葉に2班の面々がうなずく。
「ああ、戦闘不能だけにはならん様にせんとな」
「誰ひとり欠ける事無く勝利を得るために」
虎信と、茂理が走り出す。
「私は私自身を知ってます。だから私ができうることをするだけです」
同様に、縁も。
2班の面々が距離を取り始め、後を追おうとしたフェンリルに背後と側面から攻撃の雨が降り注ぐ。
振り返ったフェンリルは咆哮を上げ、次いで蒼い光を発した。
●1−2
蒼い光が線を描くと、そこから一気に魔炎が吹き上がった。
「ボロボロになるのは当然! 倒すまで凌駕してでも殴り続けてやる!」
膝立ちで立ち上がる狼也。
秀一も被弾したようで体が大きくよろめいている。
「……皆に力を、癒しを……!」
すかさず、零が守護精霊を呼び出して仲間の傷を癒す。
1班のサポート陣も癒しの力を注ぎ続けている。
「ちぃ、負傷したものを一旦逃がす! 猛攻を加えて、意識をこちらに向けるんだ! フェンリルの一撃に耐えられるものは私に続け!!」
そう叫んだ、ティーザは黒影剣で斬り付けて、勢いのままに敵の懐へ飛び込んでいく。
更に傷ついた場所に十字架型の紋様がマーキング。
すると、そこに銃弾の雨が降り注ぐ。
「……ま……犬ころ一匹に苦戦してたら……先が思いやられるよね……」
咲耶のクロストリガー。
更に狙いをつけて、もう一度。
そこにフェンリルが口を大きく開けて、巨大な火球を吐き出した。
着弾点が、轟音と衝撃に包まれ、
「……ふぅ、こちらを狙ってくれたのは、まだ助かるな」
膝を付いたものの、立ち上がった武の動きに淀みは無い。
「戦は苦戦するくらいが面白い、この程度で屈する訳にはいかないな」
悠もまた同様に。
二人ともジグザグに動きながら旋剣の構えで回復。
「修羅の宴……戦という至高の時を楽しませて貰おうか……」
闇のオーラを剣に纏わせて、悠が駆ける。
フェンリルとの距離を一足で詰め、即座に斬りつける。続けて、武の斬撃が。
更に、
「手を貸してくれ」
アキが走り込んできた。
意図を理解して、悠と、武は互いの両手を組む。
膝の高さに構えると、走り込んできたアキの右足が乗り掛かり、タイミングよくそれを持ち上げる。
アキも自身の力を使って飛び上がり、フェンリルの頭の高さまで飛翔すると、急降下。
(「大戦争を止めるためにもフェンリルを打ち砕く」)
ローリングバッシュが横腹を打った。
「先程の分は返させてもらおう」
「さあ、やってやるぜ!」
秀一の白燐侵食弾と、狼也の幻影兵を使ったフロストファングが同じ場所に。
フェンリルは苦しそうに身をよじる。
「効いている?」
「……もしかしたら、フェンリルは焦っているのかもしれない……後ろから見ているとそんな気がするんだ」
重症を追っている分だけ、零は距離をとってフェンリルを見ていた。
「そうか、そうかもしれないな」
「……済まないな、もう少し僕がしっかりしてたら……」
「気にするな。……まぁ、なんだ。自分を、支えてくれる仲間を信じる。だから、仲間を信じて、僕は僕の仕事をする。だから、そっちも自分の仕事をすればいい」
アキはそう言って意識をフェンリルに戻した。
言われてみれば、確かにあの怪物は追い詰められているのかもしれない。
●3−2
また光が駆け抜け、魔炎が後を追う。
今度は3班が強襲された。
「にゅぅ、まだまだこれからですにゅ。光よ集いて更なる力をですにゅ」
リューンの周りにリフレクトコアが再展開。
「被害状況は?!」
魔炎が収まったところに、いろはが叫んだ。
「まだ問題はないね。だいぶ攻撃も散発的になってきたし、反撃するいい機会だ」
言って、スズメは青龍の力を拳に篭めながらフェンリルの足元に走り込んでいく。
「こちらも大丈夫です」
受けた魔炎を慈愛の舞で祓いながら、真冬が笑う。
(「いろはちゃんの盾にでもなれればと参加しましたが、数少ない癒し手が先に倒れる訳にはいきません。最後まで立ってあの魔狼の炎を打ち消し、いろはちゃんも皆も全員必ず守りますよ」)
そうして、癒しが行き届いていく。
だが、
「今度はこちらにやって来ましたわ!」
紗耶が叫んだ。
警告の声はあっという間に巨獣の立てる物音に上書きされる。
気が付けば、日が遮られていた。
フェンリルの下に居るのだと気が付いたのは少し時間が経ってから。
「さすがに大きいのぅ」
凪は急ぎそこから逃げる。
が、周囲を薙ぎ払おうと鋭く爪が走りだした。
「武道家は"弱き"を守る盾、"強き"を刺し貫く矛なり」
そこに突っ込んできたのは武道。
どうやら、助けに来てくれたようだ。
「さあ、ここを突破しますよ」
傷だらけになりながらも、武道は口角を上げて無理に笑う。
「分かったのじゃ。ただし、遅れをとる気はないぞ」
凪も同じように笑って、暴風の向こうへと駆ける。
●4−3
荒れ狂い、本能のままに行動するフェンリル。
それに対して、能力者達は逆に組織だった動きに専念していた。
「右側の班が押されてるので一斉に行きますよ! いっせーのーでっ」
優実の号令に4班の能力者達が一斉攻撃。
フェンリルが痛みに身をよじり、こちらを向く。
「あっ、注意がこちらに向きました! 急いで散開してください」
フェンリルがどのような動きをしようとも各班が個別に対処する。
数の強みを活かしつつ、それでいて機動性も失わない。
これが能力者達の作戦の最たるものであり、最も慣れ親しんだ戦闘単位であった。
「使役ゴーストとの絆の力で、己の限界は破壊できるデス……、だから、この仲間との絆の力で、フェンリルも倒せる! 限界突破(Limit Break)デス!!」
迫るフェンリルに、アルファがゴーストイグニッション込みの雑霊弾を撃ち込む。
僅かに突進の速度が緩み、
「終末の魔獣に、魂の救済を……Ein blauer Ort!」
シルヴィアの放った蒼い雷弾がカウンター気味にフェンリルの頭部へと突き刺さった。
だが、咆哮が戦場に響き渡る。
巨大な鉤爪が嵐のように吹き抜ける。
神話に語られた顎(あぎと)が迫りくる。
すべてを喰らいつくさんと、すべてを破壊しつくさんと、能力者達に襲い掛かる。
「世界でも喰らい尽くす気か……? だが、こちらにも……守りたい世界がある! ここで御退場頂くぞ、フェンリル!」
再び、シルヴィアが蒼い雷弾を生み出せば、同時にフェンリルも蒼い光を。
次々と吹き上がる魔炎。
それらを突き破って、レイジが飛び出してきた。
後ろにはぴったりと、ポルテが続く。
「このまま行きますよ!」
「オッケー、頼りにしてるよー」
最後の吸血衝動を使いレイジが黒い疾風と化す、そして斬撃。
続いて、いや、同時にポルテの瞬断撃。
「この好機逃す訳にはいかんからなぁ――畳み掛ける!」
「はい、行きます!」
今度は尚人が蒼の魔弾を走らせ、レイラの幻影兵が黒影剣を打ち込んだ。
狂獣と化したフェンリルに一歩も引かない。
裂帛の気合いがこだまする。
そして、戦いは更に加速していく――。
●幕間2
それはかつて見たものを彷彿させた。
奇跡とさえ思えたものだ。
奇しくもこの場所で繰り広げられた人狼と銀誓館の戦いである。
「あのときも、とんでもない連中だと思ったが……ここまで強くなっているとは」
ヴィッシュの目にこの戦いの現状がありありと映る
間近でフェンリルと戦っている能力者達にその実感はあるまい。
だが、
「……信じられねぇ、完全に封殺してやがる」
あのフェンリルを、だ。
勇猛に、そして知略の限りを尽くして、規格外の化物を封じ込めている。
まるであのときの再現のように。
「くそぅ、俺もあいつらみたいに銀誓館に行っとけば良かったぜ」
そうすれば、あの強さに手が届いたのだろうか?
いや、考えまい。
今は自分の受け持った役割をこなさなくては。
羨ましそうに今一度戦場を見てから、ヴィッシュは森の方に注意を向ける。
茂みから飛び出してきたゴーストウルフと、ヴィッシュの長剣が交差した。
●2−3
「好きにはさせないのですよ!」
夏美の放った蒼い雷が2班の能力者達をフェンリルの右前足へと導く。
「ボクの道は、この右脚で蹴り開く!」
「うらああああ!」
茂理の蹴りが三日月の軌跡を残せば、虎信の龍顎拳がその上を渾身の力で殴りつける。
そして、攻撃はまだ終わらない。
翔の二本の刀が闇の残滓を刻めば、エルレイの光の槍が撃ち貫く。
「さすがに頑丈だな。だが、それだけでは俺たちに勝てない」
身を翻し、翔が再び一閃。
目障りになってきたのか、フェンリルの顔が2班に向く。
「威嚇でもしてるつもりかい。まあ、犬を倒していろはちゃんに良い所を見せるか」
「終わりにこそ油断しますので……集中を」
斎が叩いた軽口をたしなめるような、縁の言。
同時に大きく開いた口から火球が生まれ、2班の中心で爆散。
「くぅ……確かに追い詰めていても油断はできないね」
爆発に耐えて、青葉が姿を見せる。
すかさず、ライカンスロープを使いながら距離を取れば、虎信がフェンリルの前に立ち塞がる。
「フェンリルよ! 俺様達は一人で戦っているわけでも、一人で強くなったわけでもない! 強くなったのは俺様達、銀誓館学園だッ!」
その力を見せてやると、真正面から殴りこむ。
「光よ走れ、かの歪んだ存在を刺し貫け! そして、仲間の道を切り開け!」
エルレイが再び光の槍。
そして他の仲間達も続く。
●3−3
能力者達の猛攻にフェンリルは苦しみを露にした。
「悪いな、わしらの勝ちじゃ!」
勝利を確信して、凪がつぶやく。
それが聞こえた訳でも、意味を理解した訳でもないだろう。
だが、フェンリルの顔が凪に向いた。
あっ、と思った瞬間には蒼い光が走り抜け、魔炎が3班を二つに割った。
……いや、魔炎の中から、武道が立ち上がる。
「3年前に人工島で相対した時は手も足も出ずに敗北したが、あの時の借りを返させてもらうぞ!」
既に軽く五回は死ねるだけのダメージは受けた。
だが、立ち上がる。立ち上がり続ける。
「貴様に対する恐怖心はあるが、俺の進む道に賭け、破壊だけの力に屈する事は出来ん。小指の先一つに闘志が宿る限り俺は絶対に倒れん!」
仲間の癒しが、武道の信念が、倒れることを否定する。
「そうです、師匠。私たちの力を見せてやりましょう!」
克が並ぶ。
そして、フェンリルが次の攻撃を始める前に二手に分かれた。
速い、残った力を振り絞って矢のように突き進む。
「援護するですにゅー!」
リューンの投げた光の槍がフェンリルの目元をかすって通り過ぎる。
しかし、これでいい。
「助かるよ、これで狙いが定まった」
「ええ、同じ光の槍です。必ず当てて見せますわ」
スズメが狙いを絞り込み、紗耶が光の槍をつがえる。
共に狙いはフェンリルの右目。
さきほど、リューンの攻撃がかすめたところだ。
「「いっけーーー!」」
次の瞬間、フェンリルが痛みに吠えた。
「今なら行けるのじゃ。わしに続けぇ!」
凪が右前足に走りこむ。
彼は見ていた。
攻撃がどこに集中していたのかを、そしてその場所こそ。
「なっ……」
意識的ではなく、苦しみにもがくフェンリルの左前足が偶然にも凪を跳ね飛ばした。
だが、痛みはすぐさま消えていく。
見ずとも分かる。
真冬と、いろは、二人の癒し手が力をくれた。
そして、意図に気付いた武道と、克も駆け寄ってくる。
さあ、ぶちかませ!
●1−3
今までで一番大きいフェンリルの叫び。
それは怒りによるものではなく、痛みによるものであった。
能力者達の手によってフェンリルは足を潰され、遂に立つことも出来なくなった。
「ようやく終わりが見えてきた……これを打ち破れば……人狼側に後がなくなるのね……」
咲耶は最後に残ったクロストリガーの照準を絞る。
狙いは痛みに苦しんでいるであろう右目。
「弱点が見えた以上、そこを狙うのは定石だな」
同じく、秀一もそこを狙って白燐蟲を凝縮した弾丸を撃ち込む。
どちらが命中したのか、それとも両方当たったのか、再びフェンリルが苦痛に身をよじった。
その間に前衛の能力者達はフェンリルの体を駆け上がる。
巨体の上を、走り、弱いと見える部分に攻撃を繰り出す。
「如何に強くとも信念の伴わぬものに負ける道理はない……貴様にも終焉をくれてやろう」
体重も乗せて、悠が二本の剣を突き立てる。
むろん、フェンリルも黙って見てはいない。振り落とそうと、残った三本の足で体を大きくゆする。
「悪あがきをしてくれる。だが、終わらせる!」
武の刀がフェンリルの眉間に突き刺さった。
途端に体が宙に浮く。
フェンリルが顔を振り回しているのだ。
「離すなよ」
見れば、アキもチェーンソー剣を深々と突き刺していた。
二人の体が右へ左へと跳ね上がる。
「皆……頑張れ……」
零が祈るような仕草でそれを見守る。
そこに飛び込んできた影。
「これで終わりだ!」
更に、ティーザが二本の刀を突き立てた。
フェンリルの動きが止まる。
いや、すぐさま激しい動きで能力者達を振り落とそうとする。
「言っただろう! 倒すまで殴り続けてやるってな!」
「来いッ!」
狼也は唸りを上げるリボルバーガントレットを、深く突き刺さったティーザの刀に叩きつけた。
まるで釘を打ち込むように。
そして、フェンリルの動きが止まった。
今度こそ、本当に。
●勝利の証
炎のようにゆらめいていた体から、光が飛散していく。
初めはゆっくりと、徐々にその数を増して、空に無数の淡い輝きが散っていく。
フェンリルの輪郭は崩れ、遂にはすべてが宙に舞い上がった。
「おぉおおおおおおお!」
それを見て、武道が拳を突き上げて咆哮する。
勝った。
あの化物に、勝った!
「……作戦完了、ですね」
「にゅぅ、厳しい戦いだったですにゅぅ」
武と、リューンが安堵の息を吐く。
「ふぅ……やれやれ、だ」
疲れた顔をしながらも、尚人の顔に浮かぶのは笑顔。
「か、勝てたのですよー」
夏美がもう立っていられないと体を崩したところに、
「いい指揮だった! まァ、後は凱旋だな」
虎信がその背を支えてくれた。
本当に厳しい戦いだった。
見れば、終わったと……レイラや、アキも大地に倒れこんでいる。
「何というか、ほんと、あたしら強くなったよね」
もう姿は残っていないが、スズメの目はフェンリルの巨体を見上げるよう。
「ただ強い相手との戦はあまり楽しめないものだな」
その辺りが残念だと、悠がつぶやく。
仲間達の声に耳を傾けていると本当に勝ったのだと実感が沸いてくる。
「Amen……」
シルヴィアが小さく胸元で十字を切った。
そうしているうちにヴィッシュ達もこちらへとやってくる。
「いい仕事ができました。帰ってカレーでも食べますかね」
克が人狼達と話をしていると、縁が考えるような仕草をしながら、
「……えっと犬さん飼いたくなりましたね」
と、そんなことをつぶやく。
「えっ、マジ?!」
「フェンリル見てたら飼いたくなりません?」
「ならないよッ!」
「ああっ、忘れるところでしたわ! いろはさん愛してますの!」
「……さ、紗耶、一体何を?」
「そういえば大事なことを忘れるところだった」
「百地への告白大会か」
「ん〜いろはちゃんモテモテですねぇ。フェンリルよりこっちから守る方が難しいかも知れませんね♪」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! みんな落ち着こう!」
欧州の空に、能力者達の、人狼達の笑い声が溶けていく。
それが何よりも確かな、勝利の証であった。
マスター:
てぃーつー
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参加者:30人
作成日:2011/02/25
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