<リプレイ>
●接触 振り出した雨が服を重くする。 壁に手をついて、どうにか体を支えようとするが、そろそろ限界のようだ。 「いた、あの人かな?」 漣・朔耶(緋蜘蛛・b55687)の声に、乾・洋二は振り返った。 路地裏を駆けてくる数人の若者。 迷うことなく、こちらへと近づいてくる。 敵なのだろうかと洋二は咄嗟に身構えたが、出てきたのは攻撃ではなく――傘であった。 「……な、何を?」 「このままだと風邪をひくわよ」 傘を差し出した、高梨・透子(風渡り・b39968)を呆然と眺め、 「……俺に、構うな」 洋二はそれを払うように退けた。 「早くどっかにいけ……俺に関わると」 「死ぬってか?」 言葉の続きを、犬神・ソーカル(オホートニク・b73424)が掻っ攫う。 「おーおー、どうした? 何か今にも死にそうな不景気なツラしてるじゃねェか」 ニヤニヤと笑いながらソーカルは洋二の肩をたたく。 「冗談じゃ、ないんだぞ!」 「悲劇のヒーロー気取りか? そんな有様じゃ、死んでったヤツらはそれこそ無駄死にだよなぁ。それとも、死んだ面々はお前にとってその程度の存在だったのかね」 「何だと!」 激昂して、洋二が胸倉を掴んだ。 一触即発。 危険な空気が流れるも、 「私は周囲を見張ってます……」 「あたしも行くわ」 朔耶と、透子の姿を見て、洋二の熱くなった感情は一瞬にして冷めた。 彼女達はこの場の空気を恐れて離れたのではなく、周囲を警戒しながら路地の先へと。 それは、まるで、
――まさか、奴らを探しているのか?
「疲れて何もかも終われば良いと思ってるんだろうけど、本当にそれでいいの? それで君の大切な人達は満足する?」 状況を把握しきる前に、今度は無堂・理央(龍虎舞闘・b59341)が問いかける。 「………」 それに、洋二は答えられなかった。 考えたこともなかった。 ただ、守れなかったことを、巻き込んでしまったことを悔いていたから。 「ここで終わりを受け入れても、誰も喜びはしないよ」 伏管・煉(時計仕掛け・b71013)の顔には少しばかり同情が浮かんでいる。 彼の経緯を考えれば、ゆっくりと状況を理解している時間も無かっただろう。 (「大切な人を一度に失う。ボクも同じ経験をしたからその絶望感はよくわかる。けど、そこで立ち止まってはいけないのをボクは知ってる」) だからこそ、理央は彼の背を押したい。 今はうつむいて力無く、「……違う」とつぶやくだけの少年の背を。 (「ヨーロッパでの戦いで多くの犠牲者を出しました。あの時と同じ様に無力なままで終わらせるつもりはありません。洋二君を立ち直らせる為にも必ず護ってみせます」) その姿に、フィデルタ・ヴェント(アイロネ・b69131)は決意を新たにする。 彼の命運を、未来を守るためにも。 「これから起こることをよく見ておけ!」 平良・虎信(荒野走駆・b15409)の声に、洋二が反応したときには、既に陣容が整っていた。 洋二を安全圏に置いて、敵を迎え撃つ態勢が。 (「何のための、力か」) 透子がちらりと後ろを振り返り、洋二の姿をいま一度見た。 少年の胸裏に浮かぶのは、不安か、それとも微かな希望か。 (「彼の気持ち、少しだけわかるわ。私は、その問いの答えが知りたくて、能力者を続けているから」) 自分にも見つかるだろうか? 「来ましたよ」 そこに、朔耶が敵の到来を告げる。 「来た……か。それじゃ、始めようか」 ストレッチ運動を終えて、煉がイグニッションカードを取りだす。 洋二に背を向けて、能力者達が前に。 「今は生きる事だけを考えて、敵はボク達がどうにかするから」 「言いたい事が色々あるだろうが、一先ずお預けだ。鬱陶しいお客さんがお出ましの様だしな」 理央と、ソーカルの姿が。 いや、能力者達の姿が変わっていく――武装した戦士の姿へ。 洋二はそれを見て唖然とした。 弥久保・冬霞(紫紺の紙吹雪・b72126)が自分を見ていることすら気づかないほどに。 (「自分のせいで大事な誰かが傷つくのは辛い……です。私も辛い……です」) 冬霞は洋二をかばうように位置取りを修正する。 (「けれど、大事な人が遺すものは……生きている人の幸せだけ……だと思います」) そう、思いたいですと心の中でつぶやいて正面へと向き直る。 戦いの幕開けだ。
●力、持つ者達 雨が次第に強くなってきた。 おそらく、その中を傘もささずに来たのだろう。 白い髪の死神――ナンバードは、髪もスーツも濡れて肌に張り付いていた。 「悪いけど、行き止まりだよ」 煉が声を張り上げると、ナンバードが無表情のままに左手を高く上げる。 それを合図にナンバードの背後から蠢く塊が飛び出した。 妖獣だ。 「それでは行きます」 弾けるように、朔耶も飛び出した。 僅かに抜きん出て、煉。 それに引っ張られる形で、虎信と、朔耶が続く。 「まずは足をっ」 ――止めると、煉の踏み出した足が、周りの空気を跳ね飛ばす。 敵の勢いが削がれた。 「野暮な真似をするな、ゴーストなんぞに邪魔はさせん!」 「さあ、私と踊ろう綺麗で悲しい滅びの舞を!」 畳み込むように虎信が蹴り上げれば、朔耶の赤手から噴き出した妖気が紅蓮の炎となって妖獣を包む。後は勢いのままに互いの体がぶつかり合った。 がっちりと組み合った形。 「ここまでは予定通りね……」 透子が魔弾の射手を展開しながら、敵の出方をうかがう。 いや、うかがうまでも無かった。 「来るわよ!」 警告を発した直後に、風切り音が路地裏を駆け抜ける。 音の発生源は、大鎌。 やや不規則な軌道を描いて能力者達を襲うと、ナンバードの手元へと帰っていく。 「死神気取りかしら。その鎌、目障りよ」 透子が僅かに視線を二の腕に向ければ、詠唱防具が見事に切り裂かれている。 何度も受けるのは厳しい……。 「ならば、これで」 幻楼火がゆらめく。 フィデルタの力に、ナンバードは一瞬動きを止めるが――止まらない。 「……厳しいようですね」 防御を抜いても、やはりそこからが厳しい。 加えて、ナンバードは変わらず無表情のままに、こちらを凝視している。その様はカラスが死体を狙っているかのようだ。いや、本当に狙っているのだろう。 「……ナンバード、相変わらず不気味な見た目ですね」 「そうだね、でも直ぐにその余裕を奪ってみせる」 理央の練り上げた力が戦場を駆け抜ければ、一拍の間を置いて今度は吹雪が猛威を振るう。 「ここは……通しません」 冬霞はそのまま氷雪に満ちた竜巻を操って、戦場を白く染めていく。 ほんの十秒程度に、それらすべてが起こった。 「……何だ、これは?」 「動くなよ」 ソーカルは言って、狙いを絞る。 「わざわざ雨ン中来てるってのに、手前にくたばられちゃこっちも寝覚めが悪ィんでな」 十字架型の紋様が妖獣を捉えると、次いで無数の銃弾が走った。 「なっ……」 洋二は目に映るものが信じられない。自分の持った力も十分に常識を外れていたが、目の前で繰り広げられているものに比べれば、まだ可愛いものだ。 「下を向いて蹲っているだけでは前へは進めんぞ!」 妖獣を渾身の力で殴りつけて、虎信が叫んだ。 「一匹、上に逃げるよっ」 「虫ケラが俺様を無視するなんぞ百年早いわ!」 煉と、虎信が同時に地を蹴る。 それを後押しするように吹き上げる風。 「逃がさないわよ」 透子が起こした疾風が妖獣を縛り上げる。 「もらった」 「往生際が悪いぞ!」 そして、妖獣が四散した。 強いだけでなく、連携も取れている。 何よりも、
――あいつらを、圧倒している!?
「また来ますよ」 フィデルタの警告に軸線上の能力者達が防御態勢に移った。 少し遅れて飛来する大鎌。 「だ……大丈夫ですか……っ……わ…私が……癒しますから……!」 そして、すぐさま冬霞の病魔根絶符が、 「もきゅう」 真モーラットピュアのチリエが傷を癒していく。 「皆さん……の後ろは……わたしが守ります」 倒れないでという気持ちを織り込んで、冬霞が次の符を投げる。 「私もお手伝いします」 フィデルタがアヤカシの群れを飛ばす。 瞬く間に癒えていく傷。 ゆえに前衛は傷つくことを恐れずに敵へと挑みかかる。 それは戦いのスピードを加速させ、 「雨も本降りになってきやがったし、いい加減ここらでケリつけようぜ、ゼッケン付き!」 気が付けば、ソーカルが言ったとおり。 最後に残ったナンバードに狙いを定めて、撃鉄を引く。 迎え撃つように大鎌が、 「そこっ」 銃弾を払おうとしたところに、透子の操った強風が割り込んだ。 耐え切れず、体が浮かび上がる。 更に、 「止まらないのが、時計の機能だからね」 煉が練り上げた勁が打ち込んだ。 「さあ、準備は万端」 下では、理央が白虎絶命拳の構え。 「これで終わりです業火爆砕、紅蓮撃!」 朔耶も追撃をかける。 一気呵成。 轟音と共に全力の一撃を振り切れば、もうそこにナンバードの姿は無い。 あっけないほどに早い、戦いの終わりであった。
●何のための、力 「終わったね、お疲れさま」 煉が身体に残った勁を発散しつつ、仲間の怪我のぐあいを確認する。 一気に押し切ったこともあって傷の深い者はいない。 「……かゆみがある人は、というかタオルの方が必要だね」 そう言って、仲間達に配り。 最後に洋二のところへ。 「ほら、これで体を」 「やめてくれ」 煉の差し出した手が払われた。 握っていたタオルはそのまま水溜りの中へ。 「……俺は、俺は」 言いかけたところにパチンと高い音が響いた。 洋二の左頬が赤くなっている。 「男でしょなにウジウジ言ってるの」 手を出した勢いのまま、朔耶が詰め寄る。 「ここにいる人達は程度の差こそあれ、貴方と同じかそれ以上のものを背負ってるのよ」 洋二は押し黙ったままで応えない。 視線を逸らしているのは自らの不甲斐なさを感じているからか。 「他の命の犠牲によって生き延びた者は、その命の分だけ生きる義務があるの。そして貴方は生きていく為の力を持っている」 沈黙。 そして、 「……無いよ。そんなもの。俺にはそんな、力は、無い」 「いや、ある! 単に生きようとしていないだけだ!」 虎信が断言した。 「お前は家族や友に『死んで欲しい』と思った事があるか?」 自問するまでも無い。 「まァ思うまい、当然の事だな! 普通はそうなのだ、家族や友ならばな! 自身が守れなかった者への報いが安易な死か? 家族や友の無念を以て、生きる事を諦めてしまうのか?」 「俺には……」 「生きていく為に足掻きなさい」 皆まで言わせず、朔耶が言葉を被せた。 「生きていく目的は何でもいい、それが親しい人達を奪ったゴーストへの復讐でもね」 少なくともそれは力だ。 生きていくための力だ。 「その行為を蔑んだり笑ったりする人は、私達の仲間には誰もいないから」 洋二は能力者達を見渡した。 「つらい事が立て続けに起こって心が疲れているのは分かる」 自分も同じように失ったことがあると、理央が自らの胸に手を当てた。 「けど、そのつらさは乗り越えていかなきゃいけない」 いつまでもそのままではダメだから。 「あ……あの」 そこに、冬霞がつぶやいた。 「もし……私が大事な人の為に命を落としたら」 ぎこちらない言葉。 こういうことに慣れていないのだろう。 だが、必死に言葉を紡いでいる。伝えようとしている。 「……私が幸せにしてあげれない分……大事な人に……幸せになってほしいと思います」 恥ずかしげに視線を逸らして、 「ただ……それだけです」 つぶやき、冬霞は、煉の元へ。 「……引き上げの準備してくるね」 やはり不安だったのか、冬霞は煉の手をぎゅっと握っている。 「……ひとつ聞きたい。どうして、俺にこんなことを?」 洋二が問う。 命を懸けて戦い。 そして、心の折れた洋二に優しい言葉をかけてくれる。 一体、何故なんだ? 「個人の問題であり、根底は俺様達がどうするモノでもない! だが人間一人が立ち上がるかどうかの瀬戸際だ! ゆえにここまでは手を貸してやった!」 しかし、 「……歩き出す道は自分で探せ!」 また、突き放された。 「どうしても道標が欲しいのならば、銀誓館学園と言う所に行ってみるのだな!」 「というか、来なさい私達の所に、私達の学園に」 「うん、銀誓館なら同じつらさを味わった人も大勢居る。乗り越える手助けはできるよ」 今度は誘い。 乗れば、この葛藤は薄まるのか。 「少し待ってください」 それを、フィデルタが止める。 「貴方が能力者として戦う事は、失った命を背負って生きるという事。過酷な道になるかもしれない、今よりも苦しい時が来るかもしれない」 続けて説明したのは銀誓館学園が抱えている問題。 もしかすると今よりも厳しい現実。 「だから銀誓館へ来る事を強要はしません。ですが、ここへ来れば貴方は一人ではなくなる。支えてくれる人や護りたいと思える人がきっと出来ると思います」 そして、 「何のための力か、その答えを急いで出す必要はありません。諦めなければ必ず自分が納得できる答えが見つかるはずです。確証はありません……ですが、少なくとも僕は見つけられました」 答えがそこにあるのか。 洋二は能力者達をいま一度見る。 「どこに行くのも、貴方の自由。どう生きるかも、貴方が決めることよ」 そう言って、透子は銀誓館学園の案内書を手渡す。 「ただ、命を粗末にすることは、貴方が大切に思っていた人たちを悲しませると思う。それだけは、忘れないで」 決断を待たずに彼らは去ろうとする。 「今日みたいに追い回された挙句惨めにおっ死ぬか、オレ達みたいに学園来てさっきみたいな連中叩き潰すか、後は手前で決めな」 「こら、最後に脅してどうする」 「来れば、単純に強くなれると教えてやっただけさ」 そう言って、ソーカルは肩をすくめた。
足音がゆっくりと路地裏から遠ざかっていく。 答えは自分で出せということか。 「……」 しかし、洋二には未だどうすればいいのか分からない。 ただ、言いたいことはあった。
●そして 「来るかな、学園に」 「どうだろう?」 「まあ、命を粗末にするようなことは無いと思うけど……」 「その辺りは大丈夫だろう」 後ろを見てみろと、手が動いた。 雨が上がって、散らばっていく雲の合間に、それは確かに読み取れた。 ヘリオンサインで。
――おせっかい! と。
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参加者:8人
作成日:2011/05/21
得票数:カッコいい7
ハートフル15
ロマンティック1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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