【破滅を迎えた世界に囚われて】選ぶべき道程は

<オープニング>


 ――同行させて欲しい。食事を運んできたイビーとジードはその言葉と共に頭を下げた。
 湯気立つシチューに口をつけることもなく、片桐・綾乃は仲間と顔を見合わせる。小さく頷きあった後、瞳を細めて口を開く。
「どうして……と尋ねてもよろしいかしら? あの時と逆な立場ではありますけど」
「……色々と話しあって、考えてみたの。あなた達の言っていることが真実とは思えないけど、もし、本当なら……って」
「だから同行して、真実を確かめたいと」
 真っ直ぐに見据える小笠原・宏道の言葉に対し、二人は力強く頷いた。
 ならば……と、ヴァイス・シベリウスは改めて仲間と視線を交わし、小さな息を吐いていく。
「……少しだけ、相談する時間をくれないか? 準備を整えられるよう、そう長い時間は取らせない」
「危険な場所を通って行くことになるからね。だから……」
 声音をひそめる水原・風戯に、頷き返すイビーとジード。また後で、鍋や食器を回収しに来ると言い残し、一旦小屋から退出する。
 残された彼らは顔を付き合わせ、最終調整へと移っていった。
「さァて、どうするか。知ってもらうにはまたとない機会だと思うがよゥ」
 森の外へと連れ出せば、真実は白日の下へとさらされる。二人の協力を仰げれば、若者たちの説得も容易いものになるだろうと、稲葉・和音は口の端を持ち上げた。
 しかし、と続けるのは雨夜・銀。窓の外を、最長老の家がある方角を眺めながら語っていく。
「昔、脱出しようとした人が殺されたんだよね。多分、大人に。今回もまた邪魔をしに、殺しに来ると思う。ボクたちだけなら、もしかしたら見逃されるかもしれないけど……」
「かといって、今の段階じゃ大人たちと事を交えるにも色々足りない、か。……いや、足りないのは脱出の方も同じ……か」
 それほど情報収集に時間をかけられなかったからと、暗都・魎夜が静かなため息を。
 産み出された沈黙を破るのは、シチューに口をつけていた阿頼耶・読魅の静かな発言。
「……ともあれ、じゃ。二人が協力的な事に代わりはない。それを上手く活かすのなら……やはり明日、一度帰還する素振りを見せて襲撃を迎え撃つ、かのぅ」
 恐らく、それが最も容易い方法
 タイムリミットは後僅か。若者たちが幸いなる未来を選べるよう……今は議論をかわしていこう。

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参加者
小笠原・宏道(野球侍・b08417)
雨夜・銀(黒炎の能力者・b12558)
片桐・綾乃(猫を被った直情系お嬢様・b19717)
暗都・魎夜(黄昏の破壊者・b42300)
阿頼耶・読魅(二十歳の幼女・b49524)
泉・星流(甘い顔した大の甘党甘えん坊・b51191)
ヴァイス・シベリウス(紅蓮の宵闇・b58720)
稲葉・和音(黒獣凶華の断頸刃・b68065)



<リプレイ>

●これまでの常識にさよならを
 同行の許可を伝えた折、二人は朗らかな笑顔を咲かせながら頷いた。どこか声が弾んでいる様子もあった。
 道中予想されること、などの説明も行おうと切り出したなら、仕事の引継ぎなどがあり余り長く入られないけど……との言葉が帰ってくる。故に、時間がかかるもの……主に決断という意味において……に関しては、道すがら話すことに変更した。
 それから一夜を明け、日が昇る。出発の時間がやって来る。
 仕事があるからか二人を見守るものは一人もいない。普段は交代で見張りを行なっているため、村に待機しているはずの大人たちでさえも姿がなく……。

 澄み切った空と輝く緑が澱みのない空気を産み出して、肺に癒しと活力を与えていく。
 自由に動けるという意味ならば三日ぶりとなる空の下、開放感がないわけではないけれど、雨夜・銀(黒炎の能力者・b12558)の唇から漏れるはため息ばかり。瞳もどこか遠い場所を見ているかのようで……。
「どうした? なんか元気が無いみたいだけど」
「……ん、あ、いや。何でもないよ」
 ……ジードの気遣いに大丈夫と首を振り、改めて村の出口へ目を向ける。その向こう、森を向けた先にある街へと意識を向ける。
 結界の外には、世界結界に守られている世界。在るべき歴史をたどった場所。
 障害のある様子は伺えない。恐らくはまだ、ではあるが。
 待ち伏せか、追跡か。いずれにせよ、阿頼耶・読魅(二十歳の幼女・b49524)は隙なく周囲に目を向ける。ただ一つ、人の気配を感じる場所に意識を傾ける。
 村に君臨する大きな家。再長老たちが住まう場所。
 崩壊した世界の中、結界の外はゴーストたちが跳梁跋扈している。そんな場所へ向かわんとする二人に許可を出した意図はいかなるものか。
 耳を立てても聞こえなかったと、猫に変身できる泉・星流(甘い顔した大の甘党甘えん坊・b51191)は言っていた。
 今もなお、ギリギリまで様子を探るため、猫のまま周囲の様子を探っている。
 やはり、最長老の家以外に気配のある場所は存在しない。耳を澄ましても、聞こえてくるは若者たちや小動物が奏でる営みばかり。
 意味ある音も、不穏な気配も、この場では欠片ほども伺えない。
「……」
 これ以上時間をかけても仕方が無いと、皆の元へと舞い戻り出発の合図を出していく。
 ジードとイビーが頷き返すのを待った後、改めて別れの言葉を告げた。
 心地良い木の匂い。単純だけど味わい深いスープにパン。窓から聞こえてきた鼻歌に、村で過ごした短き日々に……。

●新たな常識との対面
「……さて、そろそろいいでしょうか」
「だなァ」
 村から出て、森の中を一時間ほど歩いた後。小笠原・宏道(野球侍・b08417)と稲葉・和音(黒獣凶華の断頸刃・b68065)が頷き合い、隊列の中程を歩くジードとイビーを呼び止める。
 覚悟はしていたのだろう。二人は若干身構えつつ、足を止めて振り向いた。
「……そろそろいいって」
「ああ、すみません。言い方が物騒でしたね。何……昨日伝えたいと言っていた、事柄についての説明です」
「悪ィな、今はちィと静かに聞かせたいモんだからよォ。だから……最後まで大きな声を出さず、聞ィてくれな?」
 ――それは、真の世界に関する話。
 世界結界という存在が、人々をゴーストから守ってくれているということ。ゴーストが跳梁跋扈してなどいないということ。
 年を取ると見えざる狂気という現象に侵されてしまうこと。それを防ぐ手段として、イグニッションカードという道具があること。自分たちが、それを用いる銀誓館学園と言う組織なのだということ。
「信じられないとは思いますが、思い当たる節はありませんか? 数年前まで外に憧れを持った若者が、ある年齢を迎えた辺りから皆、判を押したように頑なに外の世界を否定するようになる、など」
「……いや、わからなぇ。そもそも、世代がかなり離れてる」
「それに……」
「……信じられません、か?」
 片桐・綾乃(猫を被った直情系お嬢様・b19717)の問いかけに、二人は揃って首を縦に振る。距離を取る仕草も見せている。
「だって、私たちを守っていてくれたもの。だから私たちは安心して……」
 言葉重ね、追い詰められれば、二人は村へと戻ってしまうかもしれない。あるいは、今まさに同行しているという事実が二人をつなぎ止めているのかもしれない。
「……ま、信じられないなら、いつもの与太と思っといて構わないから。慣れてるし」
 今はまだこれ以上は難しいと、暗都・魎夜(黄昏の破壊者・b42300)が話を打ち切る合図を出す。
 軽く頷き返しつつ、ヴァイス・シベリウス(紅蓮の宵闇・b58720)が口を開いた。
「今は一先ず心に留めおいていて欲しい。あるいは……」
 無意味に警戒させてしまうだろうか、すぐにでも分かる時が来るかもしれないとは続けない。ただ、正面へと向き直り外への進軍を開始した。
 心の変化の現れか、二人の歩みが鈍化してしまっているけれど。心なしか表情も暗いものへと変わっていたけれど。
 だからだろう。和音が二人の肩を軽くたたき、小さな笑顔を見せていく。
「ま、さっきも言ってたが確証なしに信用できるモんじャねェ。だから、後はお前らの眼と耳で判断しな。何、時期に分かるさ」
 結界を抜け、街へと出れば嫌でもわかる。それも時間の問題だ。
 怯えは残っているけれど、進軍速度は回復した。会話も笑顔もないけれど、概ねスムーズに進めている。
 それでも、意味ある音のない世界の時間は長い。変わらぬ景色は道を誤ったのではないかという錯覚をもたらした。
 幸いなるは、己等を追跡してくる気配があったこと。意識をそちらへ割くことにより、若干でも時間の経過が早まったように思えたこと。
 一時間、二時間が経過しても、その気配が飛び出してくることはなかったけれど……。
「……」
 当たり前かもしれない、と、和音は小さく首を振る。
 一人。ただ、一人だけなのだ。己等を追跡してきている存在は。ならば、警戒すべきは……。
「こちらが結界ですか?」
「あ、ああ。多分。つっても、実物を見るのは久々だが……」
 出発から三時間ほどの時が経過していただろうか。既に日は高く、気温も若干暖かなものへと変わっている。眩い太陽に照らされて、結界として示された縄が、鳴子の罠が軽く揺れていた。
 宏道が踏まぬように乗り越える。残る者たちも彼にならい、総員結界を突破して――。
「っ!」
 ――先行していた猫……星流が慌てた様子で戻って来た。
 示された方角へと目を向ければ、肩から脇腹にかけて裂傷を負ってしまっている男の姿が……!

「ケビン! どうしたんだ!?」
 傷を負う男の名はケビン。周辺警護を担っていた大人。
 駆け寄ろうとする二人を止めるため、綾乃が手を伸ばしていく。が、届かない。
 二人はケビンの元へと到達した。
「ジードとイビー……気をつけろ。そいつらの仲間にやられた!」
「なんだって!?」
「そんなはず……」
 魎夜の言葉は半ばにてかき消され、代わりに外側の木々が大きく揺れる。
 大人と思しき体躯を持つ仮面の集団が現れた。
「首尾は上々みたいね」
「貴方達は……!」
 聞き覚えのない声、見覚えのない姿。血濡れた剣に、殺意。
 大人だ。村の大人たちが言葉を連ねていく。
 村への先遣隊、上手く村人を誘導できたみたいねと。得た情報を聞かせて頂戴、と。
「騙したの?」
「違います! この方々は……」
「どうしたの……って、ああ。人質ね。でも、邪魔になるようなら殺さないと」
「っ!」
 不意に、大地を走る影。踏み砕き、綾乃は術扇に手をかける。
 現状を何とかしなければ碌に説明もできないだろうと首を振り、魎夜も剣を引き抜いた。
「身を守れる術は持ってきたかのぅ、ジード。イビー」
「え……」
「あたしらがこいつらを片付ける。物騒な見送りに来た、こいつらをよォ!!」
 読魅は虚空に縛の文字を刻みだし、和音は白燐蟲を火砲に宿す。
 臨戦態勢と整えていく彼らとは裏腹に、ケビンは二人を抑えつけるように下がっていく。声を大きく荒らげる。
「耳を貸すな! このことを村に戻って伝えるんだ!」
「でも……」
「……俺が守る。だから……!」
 今離れる訳にはいかないからと、魎夜が二人を守れる位置。ケビンの逃亡を許さぬ位置へと移動した。
 最中を舞うは幻影兵。綾乃が紡ぎ、己等を補助するために動いていく。
 奏でるは斬撃音、仮面の大人たちが奏でている。
「おいおいどうしたんだい? 仲間じゃないか」
 ……にじみ出る歓喜は隠せない。
 嫌悪しか浮かんでこないのか、宏道が静かな眼差しで彼らを睨む。二人を守れる位置へと移動しつつ、相手取る敵の数を数えていく。
「貴方達のような方々など知りません。彼らの歩むべき未来の為に……倒させてもらいます」
 総計七。星流が木の上に登り機を伺っていることを考えれば、数の上では五分。ならば――。
「ぐ……」
 勝敗を決するは策や気迫。力量差と口の端を持ち上げ飛び込んだ銀の拳が女の腹部へとめり込んで、空気の塊を吐かせていく。
 手応えはあった。期待はしない形ではあるが。
「この程度か、あんたらの力は」
 ゴーストたちが跳梁跋扈しているという妄想の中で戦ってきた者たちと、現実のものとして捉え日々鍛錬してきた者たち。差が歴然であったのも当然か。
 もっとも、己の狂気を果たすためならば、倒すべき存在を演ずる度量はあるのだろう。少なくとも、何も知らぬ若者を混乱させる程度には。
「……突破は無理か」
 イビーとジードの状態を確認し、ヴァイスは静かに首を振る。虚空に生み出せしギロチンを放ちつつ、口を真一文字に結んでいるケビンを一瞥する。
「これが見えざる狂気ですの……」
 同様に視線を向けていた綾乃がため息を吐き出した。
 今のところ妙な行動を起こす気配が無かったから、仮面の大人たちへと向き直り光を放つ。
 決して殺したりなどしないよう注意して。一人一人、確実に戦闘不能へと追い込んでいくために……。

●未来へと続く道を選び
「うらァ! 一人目ェ!!」
 殴り飛ばした男がまだ生きていることを確認し、和音は長髪の男へと視線を移す。再び火砲に力を宿し、懐へと飛び込んでいく。
 銀もまた拳に炎を宿し、後ろ髪を束ねた女を殴り倒した。横合いから放たれた斬撃は銀色の棒で容易くいなし、深いため息を吐いていく。
 やはり、弱いと。村を守る存在としては。
 ほぼ必要なかったのだろう。狂気が先にあったのだから。
「……」
 次々と同僚が倒されていく光景に当てられたか、ケビンの頬に汗が伝う。恐怖か、怒りか、拳を震わせている様子もあった。
「っと、させません」
 その横、ジードの下へと飛び込まんと伸びていた影を、宏道が割り込み切り払う。短髪の女との距離を詰め、影を宿した巨大な野太刀を振り下ろす。
 大きな衝撃を身に受けて、女がひどくよろめいた。
 樹上に待機していた星流が目を光らせ、揺れる頭に飛び込んだ!
「っ!」
 仮面が剥がれ、年を重ねなお整った顔が露わになる。
「え……」
「シェーナ、さん……?」
 ジードとイビーが名を呼べるのは、読魅らの他には村に住んでいる者しかいない。
「化けの皮が剥がれたのぅ。イビー、ジードよ。これが見えざる狂気というものじゃ」
 仮面の集団が大人たちだと声高らかに宣言し、読魅は縛の文字をケビンに向けてはなっていく。
「ちっ」
 ケビンは剣を引き抜き切り払い、驚きに囚われている二人へと向き直り……。
「させるとでも思ったか?」
 ヴァイスが肩で受け止めた。影を纏しケビンの剣を。
 傷はない。全て紅蓮の十字を意味する衣服が防いでくれたから。
「畳みかけようぞ。なに、命までは奪わん」
「ええ。若者たちをも縛る見えざる狂気を打ち倒しましょう」
 読魅が新たな文字を描き出し、綾乃は光を解き放つ。
 魎夜は影を弾いた後、二人に向かって手を伸ばした。
「さあ、来い! このチャンスを逃したら後はねぇ!」
「させるか!!」
「こちらのセリフだ」
 割り込もうとするケビンと鍔迫り合い、ヴァイスは二歩、三歩と押していく。自由な動きを阻害する
 ――そう、大勢は決していた。
 彼らの勝利は揺るがない。
 後は、二人が道を選ぶだけ!
「……」
「……」
 言葉はなく、今は要らず、二人は伸ばされた手を掴みとる。
 未来を描き出すための勝利の鐘が、真昼の森に響き渡る!


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/12/12
得票数:カッコいい10 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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