オネット・ラッキーストライク


<オープニング>


 ある日ある時、どこかの誰かがこう願った。
 『ゴーストを倒して』
 少女なのか少年なのか、老人なのか青年なのか、人であるのか人外なのか。
 何も分からず、ただ願いが無垢であったが為に、一匹の狼は目を覚ましたのだった。
 封印より眼覚め、胸に抱くように安置されていた旧式木製ライフルを握ると、腰に差してあったアサルトナイフを銃口下部のストックに装着した。
 それが目覚めの合図であるかのように。
 それが戦いの合図であるかのように。
 ナイフの柄が収まる音とストッパーが下りる音が同時に響き、奇妙な金属音を岩戸の裏に跳ねさせた。
「――装剣」
 ゼロ距離クロストリガー。岩戸が粉々に吹き飛び、狼は日ノ本に姿を現した。
 黄金色の長い髪。髪を素早く後ろで縛ると装剣したライフル(バヨネットと呼ぶ)を身体と垂直に構えた。
 狼は女であった。女であり、戦士であった。
 銃口の先には、白髪白肌の化物・ナンバードが胡坐をかいていた。
「岩の向こうにいるからどうやって出るのかと思ってたら、思ったより派手に登場してくれるじゃねえか」
「流儀でな」
 切れ長の目をすっと細める。
「何処かの誰かが『ゴーストを倒して』と願った。だから私は目覚めることにした。お前が最初の相手と見て……いいのだな?」
「いいとも」
 ナンバードは笑ってガンナイフを抜く。
 女、オネット・ラッキーストライクは、トリガーにかけた指を一気に絞った。
 だがこの二十秒後、彼女の心臓は撃ちぬかれることとなる。この運命を変えられるのは……。
 
「君達だけ、だ」
 予報士はバインダーに収まった書類を手で押さえつけて振り返った。
 これまで彼の説明した、ナンバードに関するデータが細かい字で書き込まれている。
 擬一般人化能力を持ち、ターゲットとする能力者が探る能力を持ち、どこからともなく現れる化物。抗体リビングデッド、通称ナンバード。
「ある能力者が狙われている。駆けつける頃には戦いは始まっているだろうが……しかし、死ぬ運命は回避できる筈だ。君達が居れば」
 
 女の名を、オネット・ラッキーストライクと言う。
 ライフルとナイフを巧みに使いスマートで堅牢な戦い方を得意とする人狼であり、誰かの無垢な願いによって日本某所の封印から目覚めた人狼である。
 元より名前は無かったが、ライフルの銃底に掘り込まれた名前『ベイオネット・ジ・ラッキーストライク』の文字が一部掠れて消えていたのを見て、そう名乗ることに決めたと言う。

「ナンバードは二丁ガンナイフ使いだ。獅子型の妖獣を数体援護用に加えているようだ。ナンバードとの一騎打ちでも不利だというのに、ここまで戦力を整えられてはひとたまりもないだろうだが、今は君達が居る」
 予報士はバインダーを胸に抱き、まっすぐに皆を見た。
「頼む、彼女を助けてやってくれ」

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参加者
塗歩・蒼(冷たい炎・b00350)
御鏡・幸四郎(櫻庵の職人さん・b30026)
暗都・魎夜(黄昏の破壊者・b42300)
大生守・令二(黒狼・b51237)
ヒルデガルド・ケッセルリング(オルキヌスオルカ・b80010)
鋼・正義(豪華絢爛フルメタルカイザー・b80883)
煙隠・煙幕(セーラー服とガスマスク・b83307)
露木・咲夜(呪剣の戦闘メイド・b83660)



<リプレイ>

●銃剣人狼オネット
 上がる銃口、二つ。
 ガンナイフのナンバードと、ライフルのオネット。
 二人はほぼ同時にトリガーを引いた。
 弾丸は空中で交差する……が、威力はナンバードの方が圧倒的に上だった。
 胸に銃弾を受けて倒れるオネット。
 彼女が起き上がる前に、間髪入れず獅子型妖獣が五体いっぺんに飛び掛る。
 もはやここまでか。こんな事なら黙って寝ていればよかったかもなと苦笑するオネット。
 その時だった。
「ちょっと邪魔させてもらうよ」
 霞が動いた、ように見えた。
 しかしそれは霞ではなく、どころか人であり、塗歩・蒼(冷たい炎・b00350)の斬撃でった。
 今まさに爪を立てんとしていた獅子を横合いから斬りつけ、強引に撥ね飛ばした彼は、剣を払って振り向いた。
「随分無謀なマネをしてくれちゃって……ラッキーストライクの名には随分負けているようだね」
「どうしてその名を」
 オネットがそう呟いた途端、周囲に激しいライトニングストームが走った。
 獅子たちが一斉によろめき、ナンバードも咄嗟に腕で雷撃を防いでいた。
 そこへ滑り込むように入ってくる暗都・魎夜(黄昏の破壊者・b42300)と鋼・正義(豪華絢爛フルメタルカイザー・b80883)。
「助けに行かなきゃいけない相手が居るんだろ。だったら協力するぜ」
 能力者は助け合い。魎夜はそう言うと宝剣を指でシャランと鳴らした。
 その金音に伴い、正義の全身装甲が重々しい音を立てる。
「誰かが助けと求めるのなら、正義が動く理由としては充分――豪華絢爛、颯爽登場! フルメタルカイザー!」
 吹き出す蒸気。体勢を立て直しかけた獅子達がその様子に僅かな動揺を見せる。
 その隙に正義は二丁のガトリングガンを腕のハードポイントに保持させた。
「兵装エクスプロージョンモード! カイザーインフェルノ・バースト!」
 怒涛のバレットインフェルノが発射され、ナンバードもろとも土煙と水蒸気の中に包んで行く。
 舌打ちするナンバード。
「ちっ、援軍か。調べじゃ孤立無援の筈だったのに……畜生めが!」
 狙いも適当に銃を構えるナンバードだったが、その銃が瞬時に跳ね上げられる。
 素早く接近していたヒルデガルド・ケッセルリング(オルキヌスオルカ・b80010)が剣で銃を撥ねたのだ。
 剣と言うにはあまりに奇妙だったが、それは確かに剣であった。
「なっ――!」
 サングラス越しに視線を動かすヒルデガルド。
 その先には大生守・令二(黒狼・b51237)が回り込み、二人でナンバードを挟むようにして剣を繰り出す。
 ギリギリのところでかわすナンバード。
 令二はオネットの居る方向へと振り返った。
「相手は妖獣を複数体連れている。一人では無理だ」
「それは分かるが……お前たちは一体……」
 リロードボルトに手をかけつつ、訝しげな表情をするオネット。
 そんな彼女の背後に煙隠・煙幕(セーラー服とガスマスク・b83307)が姿を現した。
 土煙と水蒸気、そして自らの霧に紛れて輪郭がはっきりしない。
 ただ、彼女が綺麗なガスマスクを着けていたことだけは分かった。
「ごきげんよう、オネットさん。私達は銀誓館学園から貴女を救いに来た能力者よ」
「オネット……?」
 片眉をあげるオネット。
 そして自分の持っていたライフルを見て、コレの所為かと呟いた。
「それならオネットでいい。丁度名前が思い出せなくて困っていた所だ。細かい事情は――後で説明してもらうぞ」
 ライフルをリロード。すると、彼女の体力がなにがしかの力で回復していた。
 晴れ行く煙の内より、二つの足音が近づく。
「無垢なる願いに導かれた力」
「その気高い魂をナンバードなどに奪われるのは――」
 全身を現した露木・咲夜(呪剣の戦闘メイド・b83660)は十字架を振り上げた。ただそれだけだと言うのに、周囲に無数の包丁が顕現する。
 十字架すら今や、柄の長い大包丁と化していた。
「我慢なりませんわ」
「行くよ、姉さん」
 ロングバレルの銃を水平に構える御鏡・幸四郎(櫻庵の職人さん・b30026)。と同時に、彼の背に頬を寄せたスケルトンと融合した。複雑に様相を変える幸四郎の衣服。
 強い輝きを内に籠め、幸四郎は走り出した。

●ロシアより弾を込めて
 令二の剣がナンバードの頭上を掠める。
 上方向へ突き出された銃。瞬間的に身をのけぞらせる令二。彼の眼前を銃弾が通り過ぎる。
「さっさとやられてくれよ、お前の相手なんてしてたくねえんだよ!」
「やられてたまるか」
 歯を食いしばり、令二は右手でカタールを強く握った。
 ガチンと音が鳴り、冷気が渦を巻いて発生する。
 途端、彼のカタール(刀身が通常のものより非常に長い)は氷の牙と化しナンバードの背に突き刺さる。
 口の端から血を漏らすナンバード。
 そこへヒルデガルドが剣を地面から数センチ浮かせた状態で突っ込んでくる。
 ナンバードは左手でサブアームを抜いて闇雲に連射。対してヒルデガルドは銃弾を特に避けもせず胸と腹に二発づつ受け取り、かなりの大振りで剣を叩き込んだ。
「痛覚無いのか――くっ!」
 銃で受け止めようとするナンバード。
 この時、相手の剣んが歪過ぎたことをよく考えておけば、この瞬間別の対処法をとれていたかもしれない。
 剣はあろうことか『口』を大きく開き、波打ち際の哺乳類に食らいつくシャチを彷彿とさせる唐突さ、そして強引さでナンバードの腕を食いちぎった。
 目を見開くナンバード。
 彼は歯が砕ける程食いしばると横っ飛びに離脱。
 とれた左腕などどうでも良いと言うかのように、立ち上がると右腕を突き出した。
 狙おうと思えばオネットを集中攻撃できるが、今はそれどころではないのだ。
 立ち上がったその様に、幸四郎が銃を突きつけたのである。
 両者の銃が近接距離で額に向けられている。
 幸四郎とナンバード。
 視線が交わり、射線が交わる。
 だがこの瞬間のイニシアチブはナンバードにあった。銃弾は吸い込まれるように幸四郎の額へ8発。
 ガードなど容易く突き抜ける衝撃に幸四郎の身体が傾きそうになる。が、幸四郎は叫んだ。
「八重っ!」
「おっけ、一回だけだよ!」
 サポートに入っていた八重が想愛満月・絢爛を発動させる。胸のコサージュが光り、幸四郎の体力がみるみる元に戻って行った。
 残念ながら付随効果までは生まれなかったが、今はこれで十分だ。
 射線が保たれている内に雑霊弾を全力発射。
「ゼロ距離です、よく味わって下さいね!」
 ナンバードの額に叩き込まれる超雑霊弾。ナンバードは弾けた毬のように転がった。

 一方。
「……」
 蒼は黙って剣を握り込むと、両サイドから飛び掛ってくる獅子相手に悪滅スピナーを展開した。
 攻撃を逆に跳ね返すかのような高速スピン。両足でブレーキをかけ、未だ腕に食いついて離れない獅子に剣を突き刺す。
 食いつく力が更に強くなる。腕を噛み砕かれそうだ。しかし蒼は突き刺した剣を思い切り捻じり込み、四肢の身体を真っ二つに引き裂く。
 その途端、二体の獅子が彼を無視して後方へと飛び込んで行った。
 煙幕とオネットが同時に構える。
「貴女も私達に合わせて、射撃だけにしてくれると助かるんだけど」
 飛び込んできた獅子は大きく口を開ける。そこへ煙幕はナイフを腕ごと突っ込んだ。爆水掌炸裂。内側から風船のようにはじける獅子。
「残念ながらそういう状況でもなさそうだ」
 一方のオネットも獅子の口内にライフルを突っ込むと、クロストリガーをぶっ放した。はじけ飛ぶ肉片。
「共闘という形ですし、戦い方までは強制できませんわね」
 残念ながらと付け足して、咲夜は十字架を振り込んだ。今オネットを回復しても意味が無い。アンチヒールが解けていないのだ。ならば――。
 攻撃のタイミングを伺っていた獅子に包丁が突き刺さる。一本? そうではない。無数の包丁があらゆる方向から突き刺さったのだ。悲鳴じみた声をあげて消滅する獅子。
「……やるな」
 ライフルをリロードするオネット。
 そんな彼女に横合いから獅子が飛び掛る。
 不意である。攻撃直後の彼女等はほんの一瞬対応が遅れた。
 歯を食いしばるオネット。
「つっ……!」
 獅子の牙がオネットの首へ深々と突き刺さ……りは、しなかった。
 大きな炎が剣となって……否、剣が大きな炎となって獅子を殴り飛ばしたのである。
「こいつはとんでもない馬鹿だ。誰とも知れない相手を助けた所で良いことがあるってわけでもないのにな」
 未だ炎を上げる剣を手に、魎夜が吼えるように言う。
「だけど、俺はそんなバカが嫌いじゃない」
 額と肩から血を流し、ナンバードが立ち上がる。
「強ぇ……何者だお前ら!」
「通りすがりの高校生さ、覚えとけ!」
 獅子の額に薄刃の剣を突き立てる。それを最後に獅子は消滅した。
 歯ぎしりを鳴らすナンバード。
「ガキの数人楽に薙ぎ払えると思ったのに……くっそ……こうなったら!」
 無理矢理な体勢で銃を構えるナンバード。令二達が射線を塞ごうと動くも、ナンバードが本気で撃とうと思えばその程度の射線を潜らせるくらいは可能だった。
 トリガーにかかる指。
 目を細めるオネット。
 しかしナンバードの指がトリガーを引くそのコンマ2秒前、鎖が腕へと巻き付いた。
「エマージェンシーコード――バトルアンカー!」
「んなぁっ!?」
 無理に体勢を崩され、物理的に、そして意識的に引っ張られるナンバード。
 視線の先には二丁のガトリングを片手で構えた正義が立っていた。
「兵装ガンランスモード」
「テメェ邪魔すン――」
「カイザーインパクト!」
 引っ張り込んだナンバードへと更に踏み込み、正義は重々しいガトリングをナンバードの顔面へと叩き込んだ。
 引きちぎれる鎖。軽く土を転がって伏せるナンバード。
 そんな彼に、魎夜は全力で突撃した。
「ここで死にたくないだろ。全力でかかって来いよ! てめぇの命を諦めるなよ!?」
「言ってくれやがって……」
 片腕をついて起き上がるナンバード。
 途端、令二が高速で彼の前を駆け抜けた。走る剣線。吹き上がる血。その直後に魎夜の紅蓮撃が交わり、血は炎を帯て吹き上がった。
「ぐ、がああああああああ!!」
 ナンバードが天に吼える。
「…………」
 その様子を確認して、ヒルデガルドは数センチだけ右にすり足した。
 オネットがライフルを構える。
 トリガーエンド。
 正義の脇の下を、蒼の剣の上を、幸四郎の腕の隙間を縫って弾丸が飛び、ナンバードの胸に吸い込まれた。
「ちっくしょう……」
 崩れるように倒れるナンバード。
 彼の背が地につくより前に、身体は砕けて消滅した。
 静まり返る戦場。
 オネットはライフルを身体と水平に構えると、目を瞑ってこう言った。
「美味しい所だけ貰ってすまないな。借りは後で必ず返す」

●O・L・Sのゆくえ
「感想はどーかな、レディ?」
 薄い笑みを浮かべて言う蒼に、オネットはそれこそ薄い表情でライフルの安全装置を入れた。
「イジワルな聞き方をするな。これでも礼儀は弁える方だ」
 それよりも、と呟くオネット。
「何故私を助けたんだ。謙遜するわけじゃないが、お前たちくらいの戦力があるなら私に大した利用価値は無いぞ」
「いえ、戦い方と境遇にシンパシーを感じただけですよ。少なくとも私は」
 ヘルメットを外して言う正義。オネットは髪紐(なんと針金だった)を解いて首を振る。金髪が大きく広がった。
 それを見てと言うわけではないが、令二が剣を収めて言った。
「俺も同じ人狼でな。お前は洗脳を受けてないんだから、羨ましい」
「そっちもそっちで随分厄介事を抱えているみたいだな」
「把握しきれるか不安だろ?」
「…………」
 じゃらり、と空薬莢を踏む音がした。
 振り向いて見れば、ヒルデガルドが何も言わずに帰って行く後ろ姿があった。
 既に遠い。
「……あいつはシャイなのか?」
「ストイックなんだと……思いますわ」
「色んな奴がいるんだな」
 失礼にならない程度の返し方をする咲夜。
 オネットが妙に納得していると、幸四郎が缶コーヒーを手渡してきた。
「あなたは、ゴーストを倒して欲しいと言う願いで目覚めたそうですね」
「ああ、それだ」
 指をさすオネット。
「不思議だったんだ。名乗っても居ない私の状況を見て来たかのように言うんだな、お前たちは。そういう能力の仲間でもいるのか」
「概ねその通りです」
「ですから、ゴーストの情報もよく集まりますのよ」
「……」
「この学園で、願いをかなえてみませんか」
 言わんとしていることを大体で察する。
「身を寄せるあてにはなるわ。ついでと言ってはなんだけど」
 胸のポケットから名刺を差し出す煙幕。
 受け取ってみると、『ナンバード被害者友の会』とあった。
 なんだ、この渡りに船を寄越したような連中は。
「出来過ぎていて、一周回って不安ですらあるが、先刻の借りもあるしな……多少なりとも助けになろう」
「そうしてくれると助かるっつーか、これからの戦いにはあんたの助けが必要だ」
「人手が、だろ?」
 魎夜の差し出したパンフレットを、オネットはやや乱暴に受け取った。
 どこか握手のように見えて、魎夜は笑った。
 うっすらとした笑みを返すオネット。
 そして少しだけ考えてからこう言った。
「所でまともな髪紐はないか。針金では髪が傷む」


マスター:空白革命 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/02/02
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