【in chains】連動

<オープニング>


 止水たちが、自分たちを吹き飛ばしたのは青白い光の尾であると知ったのは、教室の壁へ背を打ちつけた後だった。
 身の丈は三メートルほどだろうか。隆起した筋肉と光の毛に全身を覆われ、ヒトとは呼べぬ巨躯へと獄藤・遊鬼は変貌していた。太くなり鋭利に伸びた手足の爪はもはや物を掴むに適さず、その姿で四つん這いになる。金色の髪は青白い光を纏って獣を想起するほどに長い。
 その風体は、まるで。
「フェンリル……」
 空気を伝う威圧感と獰猛さに、小虎は生唾を飲み込んだ。
「これがオレサマの力よォ、敵うと思ってんのかァァア!?」
 肌膚を突き刺す殺気は、恨みとも怒りとも異なった。真っ直ぐな感情に篭るのは、悪行を為す自分に対する誉れか、憧れか、恍惚か。いっそうっとりと酔い痴れてくれれば分かり易いのにと、流華が溜息を吐いて立ち上がる。
「自らに、フェンリルの力を宿らせたんでしょうか」
 怒りを引き出す糸のようなものが、胃の奥からきりきりと巻き上げられていくようで、流華は眉根を寄せる。
「……それにしては小振りですが、大きさだけで判断してはいけないでしょうね」
 直に対峙したときの圧迫感は凄まじく、一筋縄ではいかない強敵であると、止水も全身で感じていた。
 ──だが、決してかなわない相手でもない。
 三人は理屈ではないその確信と共に、詠唱兵器を構えた。

 笛の音はすぐに途絶え、代わりに轟音で校舎が揺らいだ。
 グラウンドにいた能力者たちは、一斉に聳え立つ建物を見上げ、ぴりぴりと伝わる威圧感を知った。
「戦いになったみたいね」
 岡山総長の肩に手を掛けていたトリガーが、仲間を振り返る。こくりと頷いた櫻子が、なら急ごうと促す。そう簡単に倒れる三人でないとはいえ、相手がメガリスを持っているのなら、無事では済まない可能性もある。
 校舎へ足を向けた能力者たちに、視線を重ねた新潟総長と岡山総長が声をかけた。
「あたしらも……行くよ」
「ですが、その身体では」
 宗の言葉に、岡山総長はゆるくかぶりを振る。いつでも行けると笑った彼女に、桜紅楽が頷く。
「戦いが始まったということは、あまりここに長居はできませんね」
「押忍」
 冷静な桜紅楽の発言に、新潟総長も同意を示した。
 漸く所有者に辿り着くのかと、轟はサングラスを押し上げる。
 そして穹は、蜘蛛童の冬日を見下ろして、行くよ、と呟く。主に応じた蜘蛛童が、かさかさと歩き出した。

 夜の校舎に影が差す。
 月明かりを隠す雲は、これから起こる死闘を思わせるかのようだった。

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参加者
明鏡・止水(真白燐蟲使い・b06966)
日月・穹(白怠華殻・b23856)
天宮・宗(怠惰にして眠る蒼龍・b44652)
麻生・流華(風雪の囁き・b51834)
雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・b67470)
天堂・櫻子(義理と人情の桜吹雪・b67497)
トリガー・バレンタイン(弾薬フランボワーズ・b69812)
島津・小虎(リトルタイガー・b71466)
NPC:神谷・轟(真ゴーストチェイサー・bn0264)




<リプレイ>


「見てるかァ、このオレサマの姿をよォ!」
 フェンリルと化した遊鬼が、隆々たる興奮で毛並みを逆立たせる。青白い光を纏った四つん這いの獣は、ヒトの名残を多くしたまま。
「……なんかむかつくわね」
 島津・小虎(リトルタイガー・b71466)が素直な感想を呟き、得物を頭上高く掲げた。旋剣の加護が小柄な少女を包む。
 自らが倒れぬようにと、麻生・流華(風雪の囁き・b51834)は雪だるまで身を固めた。
「力に溺れるとは正にこのことですね」
 不快な笑い声を絶やさない遊鬼に、流華は耳を塞ぎたい気持ちで一杯だ。けれど目も逸らさなければ、耳も塞がない。それが流華の芯の強さでもあった。
 自身を含む三者の立ち位置を確認した明鏡・止水(真白燐蟲使い・b06966)は、疼く白燐蟲の力を借りて、自らの傷を癒す。
「今回は、気兼ねなく叩き伏せられますね」
「叩き伏せられんのはなァ、そっちだろォ!」
 熱風が教室内で渦巻き、灼熱の息が小虎を覆う。直線上を走る炎は脅威だが、トライアングルの陣形を保っていたため、全員一斉に直撃を喰らうことは、免れた。
 くっ、と噛み締めた痛みを吐き捨てて、小虎は後発組が入り易いように入り口側から離れておく。
 ――過ぎた力を得て調子に乗ってるバカには、灸を据えてやらないとね。
 小虎はもう一度、業炎の剣で構えを取る。それだけでは癒しが足りず、止水が寄り白燐蟲を這わせ、流華は次なる攻撃に備え雪だるまの鎧を招く。
「そうだ回復しまくれェ! どォせ追いつかねェんだからなァ!」
 三人の許へ飛び込んだ遊鬼が、長大な尾で小虎と止水をはたく。ふわりと浮いた身はしかし、壁へ激突などしなかった。
「お待たせしました」
「絶妙なタイミングで吹っ飛んできたな」
 天宮・宗(怠惰にして眠る蒼龍・b44652)と神谷・轟が、止水と小虎にぶつかる形で、二人がそれ以上飛ばされるのを妨げたのだ。
 吹き飛んだ二人が視線をフェンリルへ戻せば、宗たちより先に教室へ入った雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・b67470)と天堂・櫻子(義理と人情の桜吹雪・b67497)が、パイルバンカーを遊鬼へ突きつけていて。
「雪積!」
「はい、櫻子さん!」
 二人のさくらによるインパクトが、彼の腹を抉った。
 喉を剥きだして笑う遊鬼に、真蜘蛛童・爆の冬日が果敢に齧り付く。冬日の勇姿を後方から見守りながら、日月・穹(白怠華殻・b23856)は入室を最後にしてもらった岡山総長と新潟総長へ、確認するように問う。
「大丈夫、だよね」
 二人の総長もまた能力者たち同様、消耗した状態から続けての戦いとなる。
 穹のみならず、彼らと最後まで仲間として戦えることを願う能力者たちは、突出を控えるよう、総長たちへ話していた。
「絶対突出しない、とは約束できないよ」
 岡山総長の返答は、不敵な笑みと共に届く。
「あたしらにも意地はあるのさ」
「押忍」
 だけど心遣いは嬉しいよ、と答える総長たちの顔色は、鎖に翻弄されていた時と異なり、清々しい。
 体勢を立て直した止水へ、トリガー・バレンタイン(弾薬フランボワーズ・b69812)が黒き蟲の癒しを施す。片手で蟲を伝わせて、トリガーは岡山総長へ声をかけた。
「一緒に後衛で扉の護りを固めましょう」
 遊鬼が逃亡する可能性も考慮して、トリガーが選んだ言い方だ。これには岡山総長も、努力するよ、と口角を上げた。

 先に戦いとなっていた三人は傷を塞ぐ術を優先し、そんな三人を仲間が援護する。誰もが傷ついたまま挑むフェンリル戦だ。憂いは少しでも取り除きたいと、癒し手を担うトリガーと穹、止水は念に念を重ねていた――だが。
「全力でやらせてもらいますよ」
 身軽な足取りで宗が駆け、全身に虎縞模様を浮かび上がらせる。相手が狼ならば彼は虎だ。獣と獣の睨み合いは、大きさこそ違えど獰猛さを帯びている。
「やってみろよォ、オレを倒せるんならなァ!!」
 頭を揺らした遊鬼が、炎を吐き出す。魔炎が、宗を始め能力者たちへ襲い掛かった。途切れぬ熱は、火傷のように肌を焦がす。戦場を駆け抜けた炎の息に、一度下がって傷を癒していた小虎が、苦そうに眉根を寄せた。
 冬日が硬い顎で、遊鬼の前足へ噛み付く。だが遊鬼は冬日にも構わず、前衛として立ちはだかる櫻子と桜紅楽をねめつけた。
 まず櫻子が問うた。
「獄藤、一体何が目的だ?」
 中衛に立つ流華の生んだ上昇気流が、遊鬼の毛並みをなびかせる。風が体力を奪うのとほぼ同時、鉄鎖ドローミの所有者である少年は下卑た笑いを漏らす。滲み出るのは、驕り昂った情。
「うってつけだったんだよォ、悪いコトするのになァ!」
 自らの手は汚さず、安全な場所から眺める。そのポジションが極上だったのだろうか。自由を奪い、従えることで優越感に浸る居場所が。
「知り合いに会えたんだろォ? だったらよ……」
 大きく吸い込んだ呼吸に、止水が予兆を仲間へ報せる。息が来ます、と。端的に。
 直後、武器を構えた能力者たち目掛けて、真っ直ぐに赤い息が降りかかった。あらゆる命を焼き尽くすほどの炎は、能力者たちの衣や肌に纏わりつき、じわじわと体力を奪っていく。
「オレに感謝のひとつぐらいしてもイイんじゃねェ?」
「何を……言いたいのか、わからない」
 手早く祖霊を召喚しながら、穹が遊鬼の発言に瞼を落とした。わからないのかよォ、とフェンリルの牙を遊鬼が剥きだす。
「死んだヤツに会わせてやったのは、オレだぜェ?」
「ふざけるなッ!」
 それまで黙っていた轟がインパクトを叩き込み、前へ出た新潟総長も一撃を喰らわせる。後方からは岡山総長のガトリングガンが飛び、猛攻は凄まじいというのに、遊鬼は大笑いするだけだ。
 トリガーがフリッカーハートの情熱を前線へ飛ばした。
「よくも彼等の絆を踏みにじってくれたわね」
「……遠慮は無用という事ですね」
 怒りに喉を嗄らせたのは、トリガーだけではない。続けた桜紅楽が、珍しく負の感情をあるがまま口から放り出した。
「獄籐遊鬼。貴方を、全力でぶちのめしてさしあげますっ!!」
 桜紅楽のパイルバンカーに櫻子が続く。遊鬼の身体を、太い杭で打ち抜いた。纏ったフェンリルの殻ごと叩き潰し、メガリスを手に入れる。それが櫻子の描いた結末でもあった――すなわち。
「総長達の魂を弄んだ落とし前はつける」
 連鎖を、断ち切ること。


 懐へ飛び込んだ宗は、蹴りが完全に入るより先に、フェンリルの口に骨まで砕かれんばかりに噛まれ、倒れてしまっていた。数だけで言えばこちらに分はあるが、相手の実力が一枚も二枚も上なのだ。苦戦は必至と考え、皆戦いに挑んでいる。
 冬日がかじかじと顎で精一杯抗う後ろ、主である穹は幾度目になるかわからぬ祖霊の癒しを、仲間へ齎していた。
 ――おかしな話だけど、今は少し楽しい。
 戦いの最中に覚えたのは、仲間と共に歩み、そして立っている場所での楽しさだ。激闘の中に飛び込んで、楽しいと感じたことなど穹は一度も無かったけれど。だからこそ、ここにいる仲間たちが全力で貫き通せるようにと、穹は祈るような想いで回復を連ねる。
「何かを繋ぐものは、鎖ばかりではないんだ」
 相変わらずこちらを見下している遊鬼には、きっと理解できないだろう。そう考えた途端、穹が僅かに表情を曇らせた。
 癒し手の中、穹と止水は回復に回復を重ね、余剰となるのを避けようと試みていた。しかしこの死闘では、重ねなければ生還できないと、回復を担う者たちは既に悟っている。実際、フェンリルを宿した遊鬼の一手一手が重たすぎるのだ。
 ――スイッチの基準は確かに明確にしましたが……。
 止水は感じていた。否、彼に限らず気づいていた。
 強敵を相手に踏ん張れているのは、スイッチと呼ぶ交替作戦のおかげでもあった。しかしタイミングを合わせるのが難しい策でもある。
 これだけいる人数の残存体力や、眼に見え難い消耗の度合いを逐一掌握し、前衛と中衛の比率を鑑みて入れ替わり立ち代り動くのは、実戦ともなると難しい。『状況を見て理解する』という行為も、能力者であれば確かに困難ではないが、強敵を前に、戦いながら容易く成せるものでもなかった。
 自らの疲弊具合を報せて動く方針の者がいれば。或いは、前の人数が少なくなったら前衛として出るのだと、分かり易い基準を設けている者がもう少し多ければ。或いは。
 個々の意志は、全体の意志となり、やがて戦いにじわじわと影響していく。
「元気なくなってきたなァ、もう終わりかァ?」
 挑発するような遊鬼の尾が前衛陣を払う。そんな彼へ、真っ向から小虎が食って掛かる。虎に勝てるなどと思うな。そう、強い意志を瞳に宿して
「虎の牙、深く突き立ててあげる。覚悟なさい」
 黒き影がフレイムソードに這い、炎と影の余韻を落として獣を斬る。獣の前足を覆っていた青白い輝きが揺らいだ隙に、流華が浄化の風を戦場に吹かせていく。
「安らぎの風よ……」
 仲間の背を後押しする癒しの力もまた、誰もが持ち得る力であり、回復手ひとりひとりにしか無い力でもあった。
 ふと遊鬼を見上げた流華は、彼は恐らく逃亡しないだろうと察する。逃亡を予測し、警戒していた者は多い。それもあって、遊鬼に逃げ延びる術は無くなった。
「この怒りをぶつけてやりましょう!」
 桜紅楽の掛け声に合わせて、岡山総長と新潟総長が得物を振るう。
 ひたすらに攻撃を叩き込む仲間たちを、トリガーは後方から援護した。そして所有者に溶け消えたことで、姿かたちの無いメガリスを想う。
 ――あたしはお前が大嫌いよ、ドローミ。
 揺れた瞳を隠すように瞼を伏せて、軽やかな情熱の力をトリガーが飛ばした。情熱は前衛の櫻子へ届き、彼女が膝に力を入れる間に、轟が遊鬼の前足を貫く。さすがに穴を開けられては苦痛なのだろう。遊鬼が身悶えた。
「喰らい尽くせ、白燐蟲」
 止水が矢継ぎ早に蟲を解放する。弾丸となった蟲たちが、フェンリルに似たヒトの喉元を貫通して入り込み、体内から侵食していく。
「ガァァッ、鬱陶しい、早く倒れちまえェ!」
 苦しげに暴れだした遊鬼の息が、またもや教室内を駆け巡る。熱された息は、ただ周りの全てを焼き尽くすためのもの。
 そこに、「力の使い方」として能力者たちが納得できるものは、なかった。
「守りたいモノのために力を尽くしてきた私達に、お前が勝てるものか」
 止水から投げられた言葉に噛み締めた牙を鳴らし、遊鬼は次に鎖の名を呼んだ。
「おいドローミ! このままじゃ負けるだろォがァ、なんとかしろォ!」
 宙に向かって叫びだした彼に呆れて、櫻子は深々と溜息を吐く。
「……貴様にかける遠慮も情けもない」
 怒りを闘志に変えて、彼女の握るパイルバンカーにより重たい力が篭る。
「彼らの魂を嬲った罪、その身に刻み込め!」
 気合と共に突きつけた衝撃は、魔狼を模したヒトから根こそぎ力を剥ぎ取った。


「過ぎた力は己を滅ぼす。いい教訓になったでしょ?」
 小虎が忙しなく肩を上下させる遊鬼を睨みつけた。視線を返した彼の瞳にはもう、フェンリルを宿すときにあった激しい気性が見受けられない。
「おっ……オレは悪くない!」
 突然吐き捨てられた弁解に、能力者たちは二の句が告げず固まる。
「悪いのはこの鎖だ! そうだ、コイツが悪い!」
 振りかぶった遊鬼が、乱暴に鉄鎖ドローミを放り投げた。甲走った金属音が空しく床に散らばる。遊鬼は鎖を指差して、責任逃れな発言を並べ立てるばかりだ。罪の意識も、省みる心も無く。
 しかし、そんな彼を目の当たりにしても、憤りに震えた拳を能力者たちは行使しようとしなかった。一人や二人、彼を殴り倒す者が出ても不思議ではなかったのだが、能力者たちが今気にかけているものは別にある。
 所有者である遊鬼がメガリスを手放したことで、それまで確かな姿を保っていた岡山総長と新潟総長が、薄く透けてきていた。
「一緒に戦えて、良かった」
 口火を切った穹に、別れを惜しむ暇がないと周りも悟り、言葉を紡ぐ。
「いつか……今度はタイマン勝負を」
 桜紅楽が笑顔を浮かべ、ありがとうございましたとお辞儀をする。この表情が常の少女にとって、別れの際も変わらずに。
「いつかまた、共に戦えるときを」
 止水もまた想いを手向けると、岡山総長が頷いた。
「あたしらも同じさ。忘れないよ」
「……押忍ッ」
 堪えるようにぐっと頷き、新潟総長が轟を見遣る。視線を受けて轟が口端を上げた。
「良き戦友と出会えたことを誇りに思う。もしあいつらにも会えたら、伝えてくれ」
 そう告げた彼へ呼吸するのと同じように、新潟総長が会釈をする。
「岡山総長。貴女、Mr轟に伝えたい事があるんじゃない?」
 トリガーの囁きに目を見開いた岡山総長はやがて、ゆるりと頭を横に振る。
「大いなる災いから、随分経ったんだろう?」
 確認するように尋ねた彼女へ、トリガーは瞼を伏せた。それを是と捉え、岡山総長が微笑む。だから過ぎた話なのだと答えて項垂れた拍子に、涙の雫が、もう殆ど消えている足のつま先にぽたりと落ちた。
 ありがとうと総長たちへ小虎が言葉を連ねる後ろで、櫻子は細長い目尻を緩ませる。
「ありがとう、忘れない」
 ひとたび瞬きを終えたときにはもう、総長たちの姿は無かった。
 鎖の呪縛から解き放たれ、消えてしまった余韻に浸る能力者たちは、転がったままの鉄鎖ドローミと遊鬼を一瞥する。
 無言のまま仲間と顔を見合わせた轟が、捨て置かれていた鉄鎖ドローミを先ほどまで力を酷使していた鎖に、異様な気は感じない。
「明鏡」
「……はい?」
 突然轟に呼ばれた止水が、顔色ひとつ変えずに歩み寄る。止水へ差し出されたのは、ドローミだ。一驚を喫する彼に、轟は顎を引いてみせる。
「頼む」
 言葉は短いながらも、信頼を多分に含んでいた。
 止水が触れた瞬間、ドローミは寒々しい金属の肌を眩く光らせて、懐へと吸い込まれていく。能力者たちが目を剥くが、止水も首を傾げるだけで。
 彼が懐から取り出したのは、一枚のカード――ほんのり色づいたイグニッションカードだった。
「不思議なこともあるのね」
 静かな感想を零したトリガーが、思い出したように振り返り、遊鬼を見下ろした。
「オレを殺すのか? は、はは……ッ」
 自らの手で成したことの責から逃げている。そんな彼を相手にする者は一人も居らず、無言のまま荒れた教室から出ていった。
「オイ、無視してんじゃねェ!」
 涙の所為か恐ろしさの所為か、震えた声が彼らの耳朶へ届いた。それでも歩みを止める者はいない。彼を構う者もいない。これが、能力者たちの答えだ。
 ――だから不幸になると……言ったのに。
 言葉としては模らず、最後に教室を出た流華が戸をぴしゃりと閉める。
 ぼろぼろの状態で一人残された遊鬼の、どこへも流せず行き詰った想いが、叫び声となって廊下まで響いてきた。響くばかりで返す声も無し。

 それはまるで、獄舎に繋がれた囚人のごとく。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/03/24
得票数:カッコいい18  せつない12 
冒険結果:成功!
重傷者:天宮・宗(怠惰にして眠る蒼龍・b44652) 
死亡者:なし
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