呪われしファラオ
<オープニング>
イン=ムト=フは逝ったか。
だが、ヤツは最低限の責務を果たした。
あとは、我に任せて冥界に帰るがいい。
我が名は、大神官サメルフ。
活性化した龍脈にそびえる金字塔に力を与え、冥界より戻りしファラオを導く者。
さぁ詠唱銀よ降り注げ、今こそ死者の書は巻き戻り、冥界の門が開かれる。
生と死を分かつ者よ、我らが望み、しかと叶え給え。
「エジプトでの戦いはお疲れ様だった。……だが、あの事件はまだ終わっていない。蘇ったファラオの居場所が遂に分かったんだ」
「本当か!?」
山田・大五郎(運命予報士・bn0205)の言葉に、能力者達はこの場に集められた意味を理解する。
龍脈の流れに乗って、いずこへか消えたファラオ。
その居場所が分かったとなれば、これを捨て置くことなどできるはずもない。
「どうやら『日本のピラミッド』と言われている山々で彼らは完全な復活を遂げようとしている」
ファラオが完全に復活すれば、エジプトの騒動のような大事件に発展しかねない。
加えて、あまり時間も無いときている。
「他の運命予報士達も今頃は説明を始めていることだろう。時間も無いので心して聞いてくれ」
この場に集められた能力者が担当するのは、徳島県にある剣山(つるぎさん)。
霊峰として名高く、龍脈のエネルギーが集まる場所だ。
「登りやすい山ではあるが、交通の便が悪いうえに、山開きもまだだ。そのため、つるぎ町でタクシーを手配している。登山道まではこれを利用してくれ。後は山を登ってもらうことになるが」
と言ったところで大五郎は地図を広げる。
山の南側に印があり、
「ここに大きな滝がある。入口はそれを抜け先だ」
つまり滝の裏側がピラミッドの入口になっている。
滝の前は当然、滝壺になっているが、岩肌に沿って横から回り込むことが可能だ。
「だが、滝の前には巨大なスフィンクスが番をしている」
「……巨大なスフィンクス?」
「体長は10mを超えている。だが、それよりも特徴的なのがコールタールででも出来ているかのようなどろっとした姿だな」
体の形を多様に変え、近接全周、20m直線といった範囲攻撃を繰り出してくる。この攻撃を受けるとコールタールのようなものが体内に侵入してきて体を呪縛し、超足止めのバッドステータスを受けてしまうというおまけ付きだ。
更に特筆すべきは体を崩しての移動だろう。狭いところも容易にすり抜け、前衛の守りなど無視して後衛をその牙にかけることができるという驚異の機動力も持ち合わせている。
「とはいえ、全員で当たればさほどの驚異ではない。ではないのだが……それをやっていたのではファラオの完全復活を阻止するのには時間が足りない……」
なので十名前後の能力者で戦いを挑み、戦闘をしている隙をついて残りの能力者がピラミッドの内部へと侵入を試みることになる。
「注意して欲しいのはスフィンクスも必ず倒さなければならない敵ということだ」
もし、スフィンクスを倒せなかった場合……ファラオはスフィンクスを召喚してその近くに呼び寄せる。そうなれば、ファラオの下にたどり着いても勝利することは難しい……。
「なら、何人ぐらい残ればいいんだ?」
「そうだな……スフィンクスは能力者十人分ぐらいの力を持っている」
とはいえ、ここで数を多く当てれば奥での戦いが苦しくなってしまう。
「難しい案件だと思うが、まだ先がある。すべて聞いてから判断してくれ」
と言って、大五郎は説明を再開する。
「内部に入れば、ファラオのいる王の間まで一直線に石造りの通路が伸びている」
横には五人ぐらいが並べるほどに広く、魔法的な明かりによって照らされているため照明器具を準備する必要はない。
「この通路にはアヌビスフェイクと仮面のリリス十体が待ち構えている」
アヌビスフェイクは混乱射撃と猛毒射撃の二種類の攻撃を繰り出してくる難敵だ。
仮面のリリス達は一様に短剣を持ち、きわめて高いイニシアティブと連携能力を持っている。
五人一組で二つのチームを作り、見事な連携でこちらを仕留めにくる。
加えて、その攻撃を受けるとランダムでいずれかのバッドステータスを受けてしまうのだ。また、短剣を投擲することで暗殺の効果がある長射程攻撃も繰り出してくる。
リリス達が打たれ弱いことが、せめてもの救いだろう。
とはえい、まずはこの連携を破らなければ勝利することは難しい……。
「もちろん、これにも構っている暇はない。十名前後の能力者で戦いを挑めば、戦闘をしている隙をついて残りの能力者がピラミッドの奥へと進むことが可能だ」
ちなみにアヌビスフェイクと仮面のリリスも倒せなければ、ファラオの力が更に増大してしまう。
そのため、上手く戦力配分をすることが成功の鍵を握るのは間違いない。
「最後に、王の間には復活途中のファラオがいる。もっとも復活途中のためか、ミイラのような姿だ。だが、油断はするな。ひとりでも能力者十人ぐらいなら、互角以上に戦える」
能力値はいずれも高く、隙がない。
攻撃を当てるには、最も高い能力値に特化して、奥義級のアビリティを叩き込んでいくのが賢明だろう。
「このファラオが得意とするのは呪いだ」
包帯の隙間から瘴気のようなものが溢れ出し、近くに居るものを切り裂きいたり、取り込んだりしてくる。しかも、威力が高いうえに追撃まで仕掛けくるといういやらしさ。
「もっとも一番の驚異はヤツの持つ魔眼だ」
視界に入った者に呪いを掛け、自分の受けた傷をその者に移し替える。
効果的にはHP吸収の付いた20m視界の範囲攻撃ではあるが、奥義級の精度でこれを回避することは至難の技と言えるだろう。
「と、死角の無い敵に見えるが自身も厄介な呪いを受けているようでな。ここ一番というタイミングで大きな失敗をしてしまうようだ」
拮抗した戦いであれば、その分水嶺で。
能力者達がピンチにおちいれば、追い詰めたところで、何か大きな失敗をしてしまう。
「しかし、油断は禁物だ。この弱点を差し引いても十分過ぎるほどの脅威だからな」
「……分かった」
「では、説明はそんなとこだ。初めにも言ったが剣山には龍脈のエネルギーが集まっている。ファラオの復活はこの龍脈のエネルギーを利用してのものと考えられるが……龍脈といえば、富士の事件の事もある……。くれぐれも用心してくれ」
言って、大五郎は集まった能力者達を見回す。
「難しいことは理解している。達成が難しい場合は、生きて帰ってくる事を最優先に行動してくれ……説明は以上だ。みんなの健闘を祈る」
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参加者
エルレイ・シルバーストーン
(銀石の操霊士・b00312)
浅葱・悠
(星黎の紡ぎ手・b01115)
山田・太郎
(閃旋・b01914)
立風・翔
(吹き溜まり・b02208)
鳳・流羽
(門吏の符呪士・b03012)
鷹峰・京護
(国護りの影祓い・b04005)
鴉羽・凶司
(凶事と死を纏いし罪人・b08812)
三笠・輪音
(夕映比翼・b10867)
平良・虎信
(荒野走駆・b15409)
高天崎・若菜
(永遠と須臾の玄人・b19366)
梶原・沙紀
(破暁の先駆・b21488)
白羽・命
(白の妖精・b23300)
黒瀬・和真
(黒のレガリス・b24533)
ルシア・バークリー
(リトルウィッシュ・b28515)
中茶屋・花子
(クィーン巛フラワーチャイルド・b37343)
イグニス・ランフォード
(近接武術師・b42985)
露木・水無月
(月牙天翔・b43410)
空知・凪
(華蝶拳士・b43818)
真和・茂理
(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)
ファルチェ・ライプニッツ
(終わらないお茶会・b46189)
レイラ・ミツルギ
(魔剣士・b48060)
桐原・真夏
(太陽のリズムで踊ろう・b50014)
常陸・朝霞
(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)
メイベル・ウェルズ
(銀月卿・b54806)
敷島九十九式・秀都
(エクストラエンフォースメント・b57363)
愛良・向日葵
(元気二百パーセント・b62143)
白塚・絹
(爆裂暴走娘・b67544)
リーゼロッテ・ヴューラー
(ブラウニー・b72505)
セルシア・マレヴァール
(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)
四十万・奏女
(月歌鳳蝶・b82478)
<リプレイ>
●プロローグ
「四国の尾根、主峰・剣山。標高1955m、石鎚山に次ぐ西日本第二の高さか。山岳信仰の霊場として知られるに足るだけのものはあるね」
真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)が残る行程を確認しながら先を見つめる。
ここまでは予定通りだ。
その先頭を進むのが、
「蘇ったファラオか。直接的にしろ、間接的にしろ、背後で異形たちが関わっているような気がするけど。まあ、何にしても、今は目の前の敵に専念だね」
自らに言い聞かせるようにつぶやきをもらした、白羽・命(白の妖精・b23300)だ。
ヤドリギ使いの力によって道を作り出し、後に続く能力者もその恩恵を受けている。
「エジプトで倒せなかったファラオがまさか、日本のピラミッドに現れるとは……」
同意するように、常陸・朝霞(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)がうなずく。
きっとそれぞれに思いを溜めていたのだろう。運命予報士の話を聞いて直ぐに出発。移動中も作戦を固めるのにほぼ費やしている。
「巡礼士さんも動いてくれるといいのですが……」
唯一、作戦行動以外では、露木・水無月(月牙天翔・b43410)が外部に連絡を取ったのみ。
そして、話している今この時も能力者達の足は進み、
「ったく、ピラミッドっぽけりゃ何でもありかよ」
道なりが険しくなってきたところで、立風・翔(吹き溜まり・b02208)がぼやいた。
「山をピラミッドに見立てるとはわかりやすいですね。しかし山は自然物……」
「人工の物と自然の物を混同するとは……人の手では自然をどうこうする事は無理と言う事を教えて差し上げますわ!」
「ええ、ファラオの面のクフ王を封殺した私達の力を再び発揮する時……行きますよ」
「「『庭井よさみと愉快な仲間達』、出動!」」
ポーズを決めながら、中茶屋・花子(クィーン巛フラワーチャイルド・b37343)と、高天崎・若菜(永遠と須臾の玄人・b19366)の声が重なる、重なるが、
「……やっぱり2人ではポーズが決まりませんね」
「おおーい、放っていくぞ?」
「わわっ待ってください!」
慌てて、二人が隊列に戻る。
「余裕だな。まあ、今から緊張しているよりはマシか」
「だな」
喋りながらも能力者達の顔が少しずつ引き締まっていく。
そろそろ目的地が近くなってきた。
「出来ることはやりつくしましょう。それが、銀誓館の流儀というものなのでしょう?」
沈黙を破ったのは、四十万・奏女(月歌鳳蝶・b82478)の声。
「ああっ、必ず作戦を成功させて全員生還しようぜっ!」
「あたし達は皆で生きて帰るまでが依頼なのー」
答える、敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)と、愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)。
それを見つめながら鴉羽・凶司(凶事と死を纏いし罪人・b08812)は他のことに思いを馳せていた。
(「わざわざ龍脈を利用しての復活となると龍脈の方も心配だが、それに気を取られてカイロの二の舞ってのは許せないからな。まずは目先の事を確実にこなすとしよう」)
気が付けば、もうじき作戦予定の場所。
「そろそろだ。手筈通りに行くぞ」
「「おおっ!!」」
●VSスフィンクス 1
水音が近くなってきた。
もう件の滝が近いのだろう。
木々が生い茂り、加えて緩やかな高低差もあるため、まだ目標は視界に入っていない。
が、ここで本隊と離れたスフィンクス班の十人は自己強化を施す。
いつ戦闘に突入してもいいように横一列に並び、互いに準備が整ったことを確認。
「こうした靴は初めてですが、確かに実用的で心強いですね」
緊張をほぐすように、奏女が笑いかける。
「そうだな」
再び互いに顔を見合わせ、ゆっくりと前進。
警戒しながら歩き、
「!」
木々の合間に、流れ落ちる滝と黒い影のようなものが。
「来た……っ!」
溶けるように体を崩し、急速にこちらへと迫ってくる。
彼我の距離は10m程度。接触するよりも僅かに早く、水無月の致命電光と、イグニス・ランフォード(近接武術師・b42985)の竜撃砲が迫る敵に突き刺さる。
だが、そんな攻撃をものともせず、スフィンクスは先端を鋭い刃のように変えて、命、イグニス、白塚・絹(爆裂暴走娘・b67544)を切り裂いて、能力者達の後ろへと抜ける。
振り返れば、そこには体長10mを超す巨体が。
「なるほど確かに足止めは難しそうですね……でも!」
「迷子のスフィンクス……在るべき所へ送り返してやるよ!」
レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)と、エルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)が動き出したのを皮切りに、能力者達はそのままの位置で攻撃を続ける。
範囲攻撃の反撃が来ようとも――。
一方、その頃。
残った能力者達は戦闘音が聞こえ始めると共に滝壺への移動を始めていた。
僅かに先行した、三笠・輪音(夕映比翼・b10867)が木々の合間から様子をうかがい、上手くおびき出せていることを確認すると、手早く合図を送る。
同時に能力者達は一気に駆け出した。
次いで開けた視界に飛び込んできたのは仲間達の激しい戦いの姿だ。
「みんな、後は任せたぜ? 必ずファラオをぶん殴ってきてやるからよ」
エールを送り、今は仲間達の奮闘に応えるべく、ピラミッドへの突入を優先する。
「木々さんごめんなさい、なるべく早く進みたいんです……!」
セルシア・マレヴァール(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)が先頭に立ち、道を拓く。
そして、後は一丸となって滝へと突き進んだ。
突入する能力者達を見てスフィンクスが何もしなかった訳ではない。
そして、それを防ぐスフィンクス班の能力者達も、
「お前の相手はうちらや! 余所見すんな!」
スフィンクスの注意が突入していく能力者に向いたところで、絹がインパクトを叩き込む。
更に、凶司が死角から紅蓮撃を打ち込むと、スフィンクスは咆哮とも悲鳴とも取れるような声を出し、円盤のような形になって周囲を薙ぎ払う。
「これだと回復が追いつかないよー」
そんな仲間の傷は、向日葵が必死に癒している。
だが、敵の圧倒的な破壊力の前に、それは焼け石に水でしかなく……。
「誰も倒れさせませんよ」
「もう少しです。もう少し耐えてください!」
ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)と、レイラもヘブンズパッションで、
「あと少し……あと少しですわ」
奏女も優しい歌声で仲間の傷を癒すことに専念する。
時間にすれば、そう長くはない。
だが、十人の能力者と同等の力を持つ、この強敵相手には多過ぎるほどの時間であり……。
「……突入が終わった!」
「準備完了、交戦開始。イグニスさん、さあ見せ場ですよ!」
「気は抜くなよ、ルシア!」
「僕らがここで仕留められなかったら失敗は必至、初めから全力全開!」
これより、その差を跳ね返すべく厳しい戦いに突入する。
●VS侍女 1
長い通路が伸びている。
青白い光が篝火のような形で等間隔に置かれ、まるで黄泉路にでも迷い込んだかのようだ……。
リーゼロッテ・ヴューラー(ブラウニー・b72505)はその中を他勢力のことを危惧して、侵入した跡がないかを確認しながら前に進んでいた。
(「死者の復活かぁ。どんな理由でも神話の時代から否定されてるのに……」)
見回していると、このピラミッド自体がそのための物に思えてくる。
(「理事長先生や調査班の方々……私の義姉もそのひとりでした……が、止めようとしたファラオがこんな形で……。日本の神聖なる地を穢す訳にはいきません!」)
そんな光景に、セルシアは静かに闘志を燃やす。
と、ここで先頭の足が止まった。
前を見れば、遠くに敵の姿が。
長射程攻撃には遠く、おそらく互いに二手詰めて、ようやく届く。
『ここはファラオの蘇る神聖な場所……招かざる者よ、お引き取り願おう』
「悪いがそいつ聞けないな」
二本の雷光剣を構え直し、翔が足に溜めを作る。
「わざわざ日本まで来て貰った所を悪いんだが、さっさとお帰り願うとするか」
そして、一気に飛び出した。
他の能力者も遅れることなく間合いを詰めている。
鷹峰・京護(国護りの影祓い・b04005)は駆けながら抜刀し、旋剣の構えを。他の能力者達も激突前の僅かな時間を使って移動しながら自己強化を施す。
敵もその間に距離を詰めて、瞬く間に交戦範囲へ。
先陣を切ったのは最速を誇る、ファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)。
それに引っ張られる形で、京護、空知・凪(華蝶拳士・b43818)、桐原・真夏(太陽のリズムで踊ろう・b50014)、メイベル・ウェルズ(銀月卿・b54806)の四人が続く。
いずれも敵を射程内に入れるや足を止め、初手から全力の範囲攻撃。
「この一撃で突破口を開かせて貰います!」
「貪り、喰らい尽くせ」
右側のリリスの集団に撃ち込み――あまりの破壊力に壁を壊して爆煙が吹き上がる。
「……来る!」
爆炎を抜けてきたのは二体。加えて、左側の集団の五体だ。
だが、これを迎え撃つのは、黒瀬・和真(黒のレガリス・b24533)と、メイベルの使役するサキュバスのモルガンのみ。
「……ちっ、先制攻撃を優先するあまりフロントが手薄になったか」
ぼやいている間にリリスの短剣が眼前へと。
「くっ……このっ」
黒銀と漆黒の二本の剣を駆使してダメージを最小限に。
ここで倒れれば強力な範囲攻撃を持つ後衛が餌食になる。他の前衛が上がってくるまでは……。
「モルガン……?!」
僅かに視線を逸らせば、敵の巧みな連携の前にサキュバスが消えていく。
先ほどの声はメイベルのものか。
だが、そんなことを考える暇すら与えられない。
短剣がぐさりと腹部に突き刺さり、そこを中心に魔氷が広がる。
「だが、好都合だぜ。俺の処刑の刃は半端な威力じゃない……!」
和真が踏みしめるように前に出て、群がる敵に悪滅スピナーを一閃。
そして、仲間が前衛を構築するのと時を同じくして倒れた……。
「くっ……手の内拝見、なんて余裕はありませんね。私の茨で縛らせていただきます!」
無駄にはしないと、セルシアが茨の世界を展開。
動きを止めたのは一体だけ、だがそれで十分だ。
「皆は今のうちに先へ!」
メイベルの声に後方から足音が響き出す。
ファラオと戦うべく温存された十一名の能力者だ。
「ここはわたしたちに任せてー」
リーゼロッテも敵を押さえながら声を張り上げる。
敵の意識が逸れ、能力者もまた押さえることに専念して生まれた僅かな空白。
通路の奥で、鳳・流羽(門吏の符呪士・b03012)が手を振り、視界の隅にそれを捉えた京護は、
「……先へ向かう者達の為にも、迅速に片付けよう」
剣先を敵に向けたまま、切り込むタイミングを計る。
「ええ、こいつらも1体たりとも残しはしない」
カイロの二の舞にはしないと、メイベルが動いたところで拮抗が崩れた。
●VSスフィンクス 2
戦闘は想定していたものと全く別の形になっていた。
「闇に捉われないで気負わないで。あたし達は勝てる! きっと勝てるよ!」
慈愛の舞を踊る、向日葵を中心に。
「そうですわ。もう少しで!」
奏女や、ルシアといった他者回復ができる者を総動員して回復に当たっている。
それというのも超足止めによる拘束が、能力者の散開を妨げているせいだ。
「くぅ……こんなスフィンクスといよりもまるでスライムみたいな奴に」
自らも白燐奏甲で傷を癒す、命に再度襲い掛かる影の刃。
防ぎきれずに鈍い痛みと、また体内に異物が流れ込む……。
「さすがに限界やろか……」
傍らでは重ねられたダメージに屈しかかっている、絹が、
「そやけど、ファラオ復活阻止の大勝負、何もせんで終われんわ!」
動けぬならと重心を乗せて全力のインパクト。
再び仲間からの支援が飛ぶも、それをあざ笑うように痛撃が襲い掛かる。
「……まだ何もしとらんって言うたやろ?」
絹が気力だけで立ち上がる。
奇しくもそれと時を同じくして、命の超足止めが解け、
「二人とも今のうちに!」
だが、その場から離れるように動いたのは命だけであった。
「行くんなら、うちを倒してからやろ」
それに無慈悲にも応えて、スフィンクスが絹を刈り取る。
「よくも!」
「爆ぜろ、デカブツ!」
幻影兵を通して、ルシアと、イグニスの連携攻撃。
(「まったく、日本にスフィンクスやらファラオやらなんて……カオス過ぎるのよ!」)
更には、エルレイの光の槍、そして他の能力者からも攻撃が降り注ぐが一向に堪えた様子はない。
「さすがに十人の能力者と互角なだけはありますね……」
再びクレセントファングを繰り出すため、水無月が幻影兵を進ませる。
だが、スフィンクスが見ているのは、
「次はこっちってわけだね」
まだ、ダメージの深い命だ。
滑るように走り出した怪物に、凶司が横から紅蓮撃を叩き込むも、止まらない。
スピードの乗った一撃に耐えるべく、命は腰を落とし、
「どうせよけられないなら耐えてみせる!」
体ごとぶつかってきたスフィンクスの一撃を文字通りに耐えてみせた。
「みんな、今のうちだよ。しばらくは持たせてみせるから……!」
命の周りを飛び交う白燐蟲。
「輝け、光の槍!」
応えるようにリフレクトコアを通して強化された、ルシアの攻撃が飛び、後を追って更なる攻撃と、命への支援が飛ぶ。だが、単体攻撃に切り替えたスフィンクスの火力にはそれでも足りない。
致命的な一撃が、命の生命力を一気に削り取る。
それでも耐え、三度耐え――四度目の攻撃に意識は途切れる。
「……よくも!」
もう、この時になると能力者達も理解していた。
これから先にあるものが死闘であることを。
●VSファラオ 1
多くの仲間の奮闘によって、ファラオに挑む十一人の能力者は万全の状態を保っていた。
(「詠唱銀溢れる場所、そこに惹かれる強者か。情勢を考えればきりがないが……有事の備えをしつつ今は戦に集中した方が良いかもしれん」)
浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)は併走する、梶原・沙紀(破暁の先駆・b21488)の姿を確認し、
(「今回は共に戦い慣れた沙紀もいるが相手も強者、いつも以上に気を引き締めて臨まなければな」)
決意を固めれば、向こうもまたこちらを見ていて、
「いよいよだね。仲間を信じボク達の仕事に専念だね」
「ああ、仲間を信じるも戦、任務の達成にて報いよう」
二人は互いに前に向き直って走るスピードを少しだけ速める。
他の仲間達も同じように速度を上げながら、それぞれの獲物を手に。
もう既に流れる空気の感触が違う。
(「ファラオ、消えたと思ったら、よりによって日本に居るとはね……。でも、ある意味これは決着をつけるいい機会。呪いなんかに負けてあげる必要もないわよね」)
三笠・輪音(夕映比翼・b10867)はどうか守ってね、とお守りに触れてから深く息を吸い込む。
そして、能力者達は通路を抜け、王の間へとたどり着いた。
広い部屋ではあるが、中央にただ玉座があり、そこにミイラとなったファラオが座るのみ。
「ほお、実に強そうだ! 呪いを扱うと言うその力、生命使いの銀誓館が砕いてやろう!」
平良・虎信(荒野走駆・b15409)を先頭に能力者達はゆっくりと歩み寄る。
(「ファラオというのは古き時代の王、そして能力者らしいな。強者であれば一対一で相手取りたいものだが……生と死を分かつ者、そして異形勢力の一員になるのであればそのようなことは言っておれん。全力で斬らせてもらおう」)
足に溜めを作りながら、山田・太郎(閃旋・b01914)はファラオの動きに注視している。
まだ距離があるとはいえ、油断はできない。
『――何の用だ? 誰の許しを得てここにいる?』
「「……」」
思わず立ち止まる。
ファラオは立ち上がり、包帯の隙間から紅い魔眼をのぞかせる。
「まあ、遠い所からようこそ今すぐ帰れ。てか、人の地元で何してくれとんじゃ。久々の里帰りの理由が故郷の危機回避の為とか、ふざけんな!」
流羽が怒声を浴びせるもその姿勢は変わらず、
「詠唱銀が溢れる日本に惹かれるのは解るけど、わざわざ蘇ってまで来るとはご苦労だね。その苦労に敬意を表して全力以上で潰してやろう」
「かの地で起こした惨劇をここで起こすわけにはいかねぇ。とっとと強制送還させてもらうとすっか」
沙紀と、秀都、更に他の能力者から向けられる殺気にようやくファラオは思い至る。
『なるほど、表を騒がせている刺客の仲間か。あまりに堂々としているので来客かと思うたぞ』
「……そいつはどうも」
言うが早いか、能力者達は右と左の二手に分かれてファラオを取り囲もうと動き出す。
むろん、その間に自己強化を施すことも忘れない。
「平和は乱すが正義は守るものっ、敷島九十九式・秀都参上! てめぇの日本観光もここまでだっ!」
『――そうか』
啖呵を切った、秀都にファラオが急接近。
包帯の隙間から文様のようになって溢れ出す呪い……。
「おっと!」
そこに割り込んだのはクルセイドモードを取りながら様子をうかがっていた、花子。
「仮初にも王を名乗るならば、命を賭した戦をお見せなさい!」
「その通りだ!」
次いで後ろから、悠が黒影剣で斬りつける。
が、これもまた包帯から溢れ出した呪いが受け止めてガード。
「……なるほど、攻防一体というわけか」
「腕が鳴るというものだ」
「ええ、全てはここから始まります……行きますよ、相愛満月・絢爛!」
若菜が、花子と自分を強化したのが本格的な戦いの合図。
遂に能力者はすべて死闘へと突入した。
●VS侍女 2
剣と剣が切り結ぶ。
「……随分と移動が早い様だが、どんな手段を使ったんだ?」
京護の問いに答えることこともなく、リリスはバックステップ。
そこに別のリリスが走り込んで短剣を突き刺すと、京護は石へと姿を変えた。
「ちっ、よりにもよって厄介なものに」
急ぎ、翔が浄化サイクロン。
その間、前衛を受け持つことになった凪と、リーゼロッテは獅子奮迅の活躍を見せている。
「我が龍の技、味わうがいい!」
龍顎拳で迫る敵を打ち払い。
死角から忍び寄った二体のリリスは、リーゼロッテのヤドリギの祝福もあって凌ぎきった。
(「敵は手強く、別勢力も出現の可能性あり……か。燃える戦いじゃな」)
だが、次いだアヌビスフェイクの混乱射撃が、凪の意識を朦朧とさせ、更に投擲された二本の短剣がその生命力を奪い取る。
「また……でも全力で撃ち抜きます! いっけぇー!」
その姿を視界に入れながら、ファルチェの召喚した隕石が落ちる。
リリス達は慌てて回避行動に移るが、一体の足を何かが掴んだ。
「……さすがに何もせずにはいけんじゃろう」
凪が手を伸ばし掴んでいる。
「ふふー、つっかまえた♪」
更には、リーゼロッテが動きを止めるために体を掴む。
「売れっ子真夏先生の作品センス、貴方たちにわかるかなっ?」
「逆十字よ、喰らいつけ!」
隙を逃さず、真夏のブラックヒストリー、メイベルのヴァンパイアクロスがリリスを襲う。
立て続けに撃ち込まれた範囲攻撃の火力の前にまた二体のリリスが倒れるも、返す刃で凪は今度こそ戦闘不能に。リーゼロッテは超魅了と猛毒の危険な状態に……。
「……一進一退か」
代わりに今度は、京護がひとりで前衛を受け持つ。
時間を稼ごうと、セルシアが茨の世界を行使するもまた一体を縛るのみだ。
(「やはり……敵も強敵となれば効いてはくれませんね」)
幸運度回避を持つアビリティの難点であろう。
効果が薄いとみて、セルシアは攻撃を切り替え、
「この私がいる限り、銀誓館に負けはないよっ!」
今度は、真夏の黒歴史が戦場を覆うと、能力者達は負けじと攻勢に転じる。
(「もうあちらこちらで大変な事ばっか起きて嫌になります……でもエジプトで逃したファラオ達を放置なんてできないし、何より日本で好き勝手なんかされたくないのです」)
仲間とタイミングを合わせて、ファルチェが再び隕石の魔弾を。
だが、今度は敵の反撃だ。
トップスピードから繰り出されるリリスの三連続攻撃が、京護の生命力をあっという間に削り取る。
「……だが、この程度」
耐えたところで更に一撃。
それでも紅葛を手に仁王立ち。そして、更に一撃を受けて京護は倒れ伏した。
だが、もう能力者達は手を止めない。
これは最後にどちらが立っているか――そういう戦いなのだ。
●VSファラオ 2
「芥子粒みたいなボクらだけど、背負ってる物は剣山にも負けちゃいない」
まずは、茂理が龍尾脚で猛追。
タイミングを僅かにずらして今度は、
「ここは日の本じゃ、主らのような『ふぁらお』などの好きにはさせん!」
朝霞の背から伸びた蜘蛛の足が襲い掛かる。
むろん、周囲を取り囲んだ能力者達の攻撃がそれで終わるはずもなく。
「さあ手始めですよ……この渾身の一撃受けられますか!」
「オーッホッホッホ! 脆弱千万! 一瞬千撃! 粉砕☆玉砕☆大殺界ですわぁッ!」
今度は若菜の紅蓮撃と、花子のクロストリガーが同時に打ち込まれ、
「権謀詐術と言うのは正直良く解らんがな! はァン、頭脳で来るのならば力で押し切ってやる!」
正面からは、虎信の龍顎拳。
能力者達の攻撃はいずれも奥義まで高められている。
だが、四方八方を取り囲んでの猛攻も、二割はガードされた。
『ふむ、これは全力で当たらねばまずいか……』
言葉と共に呪いの文様がムチのようにしなり、虎信を高速で切り裂く。
追撃に次ぐ追撃……。
防具は瞬く間にずたずたに、体中のあちらこちらに深い傷ができて、ゆっくりと膝が崩れる。
『まずはひとりか……』
「いや、まだだ!」
満身創痍なれど目にはまだ闘志が燃え滾っている。
膝立ちになったところへ、流羽と、輪音の癒しの力が傷を癒す。
「悪いけど余所見してる暇はないよ。変幻自在の白き風が蹴技、見切れるものならやってみなよ」
「此処まで導いた仲間の想いと我が信念を剣に賭し貴様を斬る」
悠と、沙紀の挟撃。
「もらった!」
更に、秀都が闇の手を伸ばして畳み掛ける。
飽和攻撃といってもいいほどの連携。
だが、ファラオは動じもぜず、紅い魔眼をもって能力者達を一望するのみ。
「一瞬にして無数の打撃、業深き無数の魂を滅す連撃の神髄……ッ!」
不気味なそれを振り払おうと、花子は攻撃を続行。
引っ張られる形で他の能力者達も続き、その間に深手を負った虎信は一旦引いて態勢を整える。
「今度は俺の相手をしてもらおう」
正面には、太郎が立ち。
一気に踏み込んで黒影剣を一閃。
流れ込む生命力は手傷を与えた確かな証。だが、それよりも視界のほとんどを覆う、闇の塊に能力者としての勘が警報を上げる。
咄嗟のガードも間に合わず、闇に呑まれると同時に全身が痛みを訴え、感じることが出来るのは周りの戦闘音と、全身に流れ込んでくる癒しの力――それが輪音の慈愛の舞であることが分かったのと同時に、光が戻り、身体の自由が戻ってきた。
が、奇しくも今度は、朝霞が闇に捕らわれた姿が目に飛び込み、
「それ以上やらせるか」
太郎は再び懐に飛び込んで黒影剣で斬りつけると、すぐさまバックステップ。
「ミイラに相応しい柩をくれてやるよ、これで眠ったらどうだい」
「柩に入り永久に眠れとは言わない……消えろ、塵芥も残さずにな」
そこに、沙紀と、悠の聖葬メイデンがファラオを挟み込む。
『……ほう、そうでなくては面白くない』
されど、それを受けてファラオはまだ余裕を見せる。
と、同時に芽生える微かな違和感。
それが何か? 考える時間もなく戦いは続いていく。
●VSスフィンクス 3
戦いは長期戦になっていた
スフィンクスに狙われた者を、他者回復を持った者が癒し、他の能力者が長射程攻撃を仕掛ける。
その形も回復アビリティの減少と共に変貌し、
「こうなれば全力で一気に片付ける!」
イグニスが自己回復から、攻撃へとシフト。
「ぐねぐねと不気味なんですよ。さっさと討滅されてください」
長く回復に回っていた、ルシアも光の槍を放ってそれに続く。
それは他の能力者達も同様。
「これで」
「――どうですか」
奏女の月煌絶零が突き刺ささると、水無月の幻影兵が同じ場所に三日月の軌跡を描き出す。
されど、スフィンクスは未だ弱りさえしない。
(「あれだけ受けてまだ倒れないなんて」)
向日葵はそれを表に出すことなく仲間の傷を癒し続ける。
対照的にスフィンクスは執拗なまでに狙った獲物に襲い、その執拗さの前に、
(「……これは番犬というよりも猟犬だな」)
イグニスまでも倒れた。
「お前らの時代は既に終わった。死んだ者は大人しく、生と死を分かつ境界の向こうの闇へと帰れ」
エルレイの放った光の槍が爆ぜる。
と、そこにスフィンクスの顔が生まれ次の目標へと真っ直ぐ視線を向ける。
「もしかして、あたし?」
後退った、向日葵を追うようにスフィンクスが動く。
レイラが咄嗟に進路上に割って入るも、スフィンクスは体の結合を緩めて通り過ぎ、
(「くぅ……私は勇者でもなければ英雄でもない、物語の主人公じゃない……だから、私一人で出来ることは少ないけれど……それでも私には銀誓館の仲間がいるから……」)
振り返って、闇の手を伸ばす。
「……運命の糸で結ばれた皆に私の思いを託すためにも……私は私が出来る事を……っ!」
成してみせると、レイラは気勢を上げる。
「そうです」
「まだ負けたわけじゃない!」
●VS侍女 3
「よーし、もらった♪」
リーゼロッテのレゾナンスナックルがリリスを捉えると、倒した証にその体が薄らいでゆく。
だが、撃破の喜びを感じる間もなく、死角から襲いかかったリリスの一撃にリーゼロッテも倒れた。
(「……どうやら、俺の出番もこの辺か」)
翔の前には既に二体のリリスが。
ある意味、この展開は彼の予想していた展開ではあるが……。
(「集中攻撃で落とされれば……とは思っていたが、ここまでその通りだとはな」)
先手を取ったアドバンテージで敵を僅かに押しているが、まだ逆転の芽が無いわけではない。
「その呪い、私がここで断ち切ってあげる――!」
と、ここで真夏が前に出た。
迫っていたリリスの一体と刃を交えて下がらせると、翔の横に並ぶ。
「逆十字よ、喰らいつけ! 一滴も残さずに!」
「メイベル先輩、お手伝いします……月の加護を!」
後方からすかさず、メイベルと、セルシアの攻撃が降り注ぎ。
弱った敵を狙ってファルチェの隕石の魔弾がまた敵を打ち倒す。
だが、それで敵の戦意が衰えるわけもなく、リリスの連携によって今度は翔が戦闘不能に。
すると今度はファルチェが前に出る。
「奇しくもナイフ使い同士の戦いになったってわけね」
「そうみたいですね。行きましょう!」
真夏と、ファルチェは背を合わせて、じりじりと間合いを詰めてくるリリスへと向かい合う。
●VSファラオ 3
戦いは能力者達に優勢に見えた。
周囲を取り囲んでの飽和攻撃にファラオは確実にダメージを受けている。
このまま行けば、後はこちらの攻撃アビリティが持つか、同時にどれだけ能力者が倒されずにいられるかの勝負になるだろう。
「外すわけには行きません。参りますよ……この一撃に、私の全てを賭ける!」
若菜が上段に振り上げた蓬莱の玉の木の幹に紅蓮の炎が灯る。
それで注意が逸れたところに、
「開かせない。ボクらがいる限り、冥界の門など開かせないよ。絶対にね」
茂理が龍尾脚でラッシュを。
「俺達の正義が真っ白に燃えるっ、真の強さを見せろと無駄に吠えるっ。くらえっ、必殺! これが俺達の想いの強さだっ」
更に横合いから、秀都の一撃。
そして、若菜が本命の紅蓮撃を振り下ろす。
が、ほぼ同時に悪寒を感じ――次の瞬間には、若菜は呪いによって編まれた闇に飲み込まれた。
「……?!」
もっとも、それも僅か数秒。
解放された瞬間に、若菜は地に倒れる。
「……ここで相打ち狙いだと」
先ほどの捨て身とも取れるファラオの意表を突いた一撃。
能力者達は攻撃の手を止め、僅かに間合いを取った。
「策謀があるとは言っていなかったが、このファラオは言われた性格とは思えん戦い方だ」
いくら対策をしているとはいえ、ここまで魔眼を一度も使用していない。
太郎を含め、能力者達が最も違和感を覚えた部分はそこ。
やはり何かある……!
『なるほどなるほど、千里眼でも居るようだな。ならば下手な誤魔化しは無用というものか』
ファラオは大きく手を広げると朗々と呪文を唱え出す――。
●VSスフィンクス 4
「ごめんね……最後まで傷を癒してあげられなくて」
回復の要である、向日葵も倒れた。
ここに来て能力者達は想定していなかった厳しい選択に迫られた。
「さすがにまずいですね……」
ルシアがさっと振り返り、倒れた仲間達を見る。
既に四名。
回収できる数のことを考えれば、倒れていいのはあと一人。
そして、初めに敵に与えたアドバンテージをどれだけ挽回できたかは未知数だ。
「でも、こいつをファラオの元へは行かせられないよ?」
エルレイが問いかける。
返るのは無言のうなずき。
と、時を同じくしてスフィンクスも動き出した。
次に狙いをつけたのは奏女。
「こいつ初めは傷ついた者を、次は回復役を狙っていたのか」
エルレイが注意を引きつけようと光の槍を放つ。
しかし、今までと同じように敵の狙いが変わることはなく。
「もう、わたしに癒しの力が残っていないことなんて分からないのでしょうね」
お守りをそっと撫でながら、奏女は月煌絶零で敵を迎え撃つ。
だが、スフィンクスは止まることなく、その質量のままにぶつかってきて詠唱防具が悲鳴を上げる。
「……ぅう」
それでもその一撃に耐えて面を上げれば、仲間達の攻撃が見え、
「大きいけど、フェンリルほどじゃない。もう少しで!」
「ファラオの元へ行かせるか!」
ルシアと、エルレイが生み出した二本の光の槍が一点を突く。
「一か八かです」
更に、水無月がその一点を目掛けて致命電光を叩き込む。
「どうです? 内部から焼くのも対巨大生物戦のお約束ですよ……よ?」
まだ、動いている。
「いっけえぇぇっ!!」
そこに、レイラが渾身の力を込めて黒影剣を。
だが、だが、未だに弱る気配はなく、
「……こうなれば致し方ありません。撤退を」
言って、奏女は川へと走る。
追いかけてスフィンクスも駆ける。
再び距離が詰まったのは崖の近くで、奏女はスフィンクスの一撃を受けながら川に落ちた。
「私が助けに行きます」
レイラが駆け出し、他の能力者達は動けなくなった仲間を抱えてその場から離れようとするが、
「追いかけてきてます!」
「しつこい!」
追走するスフィンクスは射程距離に能力者を収めると体を槍のようにして攻撃。
「悪いですけど、それなら当たりませんよ」
能力者達の強運もあって、ひとまずその場は難を逃れ、ほどなくして奏女を回収したレイラも合流。
「けれど、他の皆さんは……」
見上げた先には暗雲が立ち込めていた……。
●VS侍女 4
リリスと切り合って、真夏が倒れ。
そのリリスはセルシアの放った青白い月光によって魔氷に包まれ砕け散った。
こうして残ったのはアヌビスフェイクのみ。
「そんなに裁くのが好きなら、私が裁いてあげます! 浄化の炎で焼き尽くされなさい!」
ファルチェが最後に残った隕石の魔弾を撃ち込むも、反撃を受けて彼女もまた戦闘不能に。
能力者側で残ったのは、メイベルとセルシアの二人。
「こうなったら絶対に負けられないな」
メイベルはガンナイフを構え、
「はい、絶対です……!」
セルシアは残った月煌絶零を撃ち込んでの、距離を置いた射撃戦。
互いに回復アビリティは無く、後はどちらかが倒れるのみ。
そんなシンプルな戦いは、
「……くぅ」
手傷を負ったメイベルが膝を着くと、セルシアが反撃で撃ったホーミングクロスボウがアヌビスフェイクに突き刺ささり――そのまま後ろに倒れていった。
「た、倒しましたよ?」
「……やっと終わった」
二人とも結果を見届けるとそのまま床に座り込む。
次いで仲間の無事を確認したが二人では運ぶに運べず、援軍の到来を待つことに。
●VSファラオ 4
ファラオの呪文と共に床の一部が闇に沈み込む。
次いで、顔をのぞかせるのはピラミッドの番人――漆黒のスフィンクス。
『貴重な情報源ゆえ、なるべく全員捕まえたかったのだが致し方ない』
――半数を捕れば良しとしよう。
「……っ!」
「走れ!」
踵を返して走り出す。
意識を失った若菜は、花子が背負い、一同は一直線に出口へと……いや、
「ちょうどいい。アレとも戦ってみたかったところだ!」
殿を務めるつもりなのか、虎信が少し遅れた位置に。
「俺様ならば問題ない、先に行くと良いぞ! この平良虎信が易々と倒れるわけがないからなァ!」
が、輪音も速度を緩める。
「でも回復役は必要よね?」
「どうなってもしらんぞ!」
「きっと、お役に立つわ」
短い遣り取り。
そして、スフィンクスが迫る。
何とかガードしてこれを堪えたが、超足止めという厄介な特性を考えれば……次は危うい。
「白き風と星紡ぎし黒夜が奏でる終焉……一気にいこうか、悠」
「白き風には闇纏いし白鷺の剣が応えよう……仕留めるぞ、沙紀」
走り込んだの言葉通りの、白と黒。
意表を突いた攻撃でスフィンクスに僅かな隙を作ると、来た時と同じように走り去る。
その頃には、虎信と、輪音も。
『仲間思いなのはいいことだが、それで逃げきれるのか』
が、更に窮地へ。
ファラオもまた能力者達の動きを見て、こちらに向かっている。
スフィンクスとファラオ、この二体を相手に逃げ切るのは容易ではない。
「こっち来んな!」
流羽が振り返って茨の領域を撃ち込むも強運によって回避され、
「そろそろ起きる頃じゃのう」
「ああ、ここで起きなきゃ言われたとおり半壊は間違いないからね」
朝霞と、茂理が何やら確信めいてファラオの様子をうかがう。
そう、最も大事なときに致命的な失敗を犯すという呪いを、このファラオは受けている。
ならば、今この時か?
『何を企んでいるかは知らんが……おおっ』
覚醒したばかりだからか足がもつれ、王の間の傍らにあった柱に触れる。
同時に床から光が溢れ出して、
『しまった! これは強制排除用の――』
能力者達を飲み込んだ。
●エピローグ
気が付けばピラミッド内に居た能力者達は山の麓に飛ばされていた。
ファラオ班とリリス班はほどなくして合流し、連絡を受けてスフィンクス班も無事に合流を果たす。
だが、目的は果たせぬまま……。
「学園にはもう連絡を入れてある。……悔しいがここは一旦引くしかない」
暗雲の立ち込める剣山、これからどうなるのか?
「次は必ず勝ちます……!」
声は山の中へと消えていった……。
マスター:
てぃーつー
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参加者:30人
作成日:2012/03/28
得票数:
笑える46
カッコいい4
せつない15
冒険結果:失敗…
重傷者:
立風・翔
(吹き溜まり・b02208)
鷹峰・京護
(国護りの影祓い・b04005)
鴉羽・凶司
(凶事と死を纏いし罪人・b08812)
白羽・命
(白の妖精・b23300)
黒瀬・和真
(黒のレガリス・b24533)
イグニス・ランフォード
(近接武術師・b42985)
空知・凪
(華蝶拳士・b43818)
愛良・向日葵
(元気二百パーセント・b62143)
四十万・奏女
(月歌鳳蝶・b82478)
死亡者:
なし
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