≪さとるの修羅場部屋≫共に歩む、二人だから


<オープニング>


 思い返せば、もう三年。
 田舎の小さな村で行われたハロウィンイベントに乱入しようとする妖獣退治がきっかけで、栢沼・さとる(コールテンペスト・b53827)と、柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)は出会った。
 それから色んなことがあって。
 本当に色んなことがあって。
「お待たせしました!」
「来たかハニー」
 今では思いを重ねて、恋人同士に二人はなった。
「早いですね。まだ約束の時間まで10分はあるのに」
「ハニーを待つ時間なら苦にもならないさ。むしろ幸せな時間だったな」
 いや、もうこれはバカップルの領域だ。
 見ている方が赤面しそうな言葉が漏れ出しているが、幸いにもここはマヨイガ。
 揶揄する視線もなく、二人は和気藹々と歩き出す。
「そういえば、まずはどこから回るんだった?」
「ええと、どこかのカフェでご飯を食べましょう。せっかくマヨイガに来たんですから視肉さんのお肉を食べてみたいですよね?」
「うん? ……ハニーもしかして視肉を食べるつもりか?」
「いい機会だと思いますよ。……もしかして何かまずかったですか?!」
「……ああ、たぶん難しい気がするな」
 はい、その通り。
「ど、どうしましょう?!」
「まあ、落ち着けハニー。視肉でなくとも腹ごしらえはできる。それに――」
 言って、草楼は肩に掛けた竹刀袋と手にもったギターケースに視線を向ける。
「そうでした。目的はそれだけではありませんでしたね」
 さとるの顔がほころぶ。
 そして、彼女の肩にも竹刀袋が。
「では行こうか、ハニー?」
「はい」
 二人は手を繋ぎ、再び歩き出す。
 さとるはそっと草楼の横顔を眺め、
(「元々は柊先輩の戦闘での純粋な強さと、それをひけらかさないところに触れて、強い憧れを持ったのが始まりでした」)
 初心を思い返す。
 強く惹かれていったあの頃を。
(「でも、今はいつどうなってもおかしくない情勢……だからこそ」)

 ――貴方を追いかけてここまで強くなった私を見てください。

 思いを秘めて、このデートに挑む。
 追いかけた背に届くために。
 これからも隣を歩くために。

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参加者
柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)
栢沼・さとる(コールテンペスト・b53827)



<リプレイ>

●二人のランチ
「それらしいお店が増えてきましたね」
 栢沼・さとる(コールテンペスト・b53827)と、柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)の二人は手を繋いだまま、飲食店の立ち並ぶ一角へとやってきていた。
「そそられるなぁ、特にカレー」
「先輩ったらホントにカレーが好きなんですね」
「もちろん、カレーは別腹……別腹じゃ意味ないのか?」
「えっどうでしょう?」
「どうだろうな。まあ、いい匂いだ。きっとおいしいに違いない」
「そうですね」
「ところでハニーは何を食べる予定だ?」
「視肉さんがダメみたいなので、パンフで見たカフェ【jupiter】2号店に行ってみようかと思っています」
「そうか……なら、あとで落ち合うとしよう」
 幸いなことに、この辺はフードコートにもなっているようだ。
 お互いにテイクアウトしてくれば、それぞれの好みに合わせて一緒に食事をすることができる。
 というわけで、十分後にはテーブルに向かい合う二人の姿があった。
「山盛りですね、先輩」
「トッピングは基本。逆に邪道という人もいるけれどっ。チーズはてんこ盛りにしてもらった」
 草楼の口元はいくぶん緩んでいる。
 カレーとチーズの刺激的な香りに食欲をうながされているのだろう。
「私はオススメのランチセットにしてきました」
「そちらもおいしそうだな」
「あっ食べてみますか?」
 嬉しそうに応え、さとるはフォークでパスタを巻き取る。
「ハニーがそう言うなら、お言葉に甘えよう」
「あーーん」
 と、見ている方が気恥しくなりそうな甘々の展開が広がっていく。
 でも、ここはマヨイガ。周りのテーブルに座った(おそらく)ゴーストと思われる人たちが二人の様子をそっとうかがっているが、まあ大丈夫だろう。
「では、俺のカレーも食べてみるか?」
「いいんですか?!」
 というか、周りの視線に気づいてないよね!

●ちょっと寄り道
 で、食事を済ませた二人は目的地に向かう道すがら、妖獣動物園へと立ち寄っていた。
 草楼の好きなパンダを見て行く予定だったのだが、
「むぅ、真っ白なパンダばかりだ……!」
「どう見てもシロクマの妖獣ですよ。しかも、構ってほしそうです!」
「白クマさんもいーなー。だが、生憎とハニーとデート中なのだ。邪魔するものは死ぬがよい」
 草楼がびしっと竹刀を向ける。
「せ、先輩」
「任せろ、ハニー。このぐらい、どうということはない!」
「い、いえ、横から」
「なっしまった……?!」
 横から、もふっとシロクマがベアハッグ。
 極寒の地に耐えられるだけの保温性を持った毛皮は十分なまでの柔らかさを備えていた。
 というか、ふわふわ♪
「……何という、もふもふ!」
「あっ、いいな……と、こちらにもセイウチさんが? あちからはトドさんが?!」
 ぎゅうぎゅう、もふもふ、ぎゅうぎゅう、もふもふ……。
「もふもふです」
「もふもふだなぁ」

●剣士としての語らい
 さて、そんなこともあって二人はようやく目的地にたどり着いた。
「うわあ、綺麗ですね!」
「カメラでも持ってくればよかったな」
 で、ここは自然公園の外れ。
 風光明媚ではあるが人気はなく、これから二人がやることには最適な場所であった。
 背負った竹刀袋から、互いに竹刀を取り出し、
「さて、始めるか」
「はい、手加減は無用です」
 向かい合った二人の間を涼風がさっと通り抜けていく。
 もう先ほどまでのラブラブとした空気は無い。
 構えた竹刀の先がすうっと弧を描きだす。
 どこから攻めるか、お互いに相手の動きと間合いを図りながら、少しづつ距離を詰めていく。
「もちろん俺は手を抜かない。手を抜けないのが正しい……何せハニーは今や俺より強いからな」
 と、草楼はつぶやくと一瞬の動きで、さとるの竹刀を払い除けた。
 同時にそれが始まりの合図。
 次の瞬間には、草楼が踏み込んで横薙ぎに竹刀を振るう。
 だが、さとるは既にバックステップで十分な距離を取っていた。
「とてもそうは思えませんよ……」
 危ない。
 得物が本来の斬馬刀であったならば、今のを回避できたかどうか……。
(「やっぱり凄いです、柊先輩。でも、負けません!」)
 さとるは正眼に構え直すと、剣先を真っ直ぐ草楼の体の中心に据える。だが、次の瞬間には上段からの気迫の篭った振り下ろしが襲いかかった。
(「くっ……」)
 身を捻って、さとるはこれも回避。
 もう追撃は来ないが、一撃一撃が重い……。
 下手に受ければそのまま力で押し切られる。故にうかつな防御はできない。
 加えて、身長の差から生まれるリーチの差が反撃を難しくする。
 本来ならば小柄なさとるが草楼の懐に飛び込んで、それを殺すのがセオリーなのだが、
(「……けれど、手はあります」)
 さとるは守りに徹する。
 出方をうかがって身を翻す、下がって間合いを外す、回り込んで『反撃』の抜き胴!
「――来たか!」
 草楼もこれを読んでいたのか、剣の軌道を強引に変えて打ち落とす。
 だが、体勢が崩れたところを突いて今度はさとるが攻勢に転じた。
 間合いを詰めながらの横払い。そして防御したところに竹刀を持った手を狙って、必殺の突き!
「ぬおっ……!」
 咄嗟に、草楼は身を投げ出すように横転して難を逃れる。
 されど、間一髪で凌いだところに、更なる追撃が。
(「っべーなー……だが、かっこ悪いとこだけは見せられん」)
 避けながら反撃の糸口を探すも、草楼の動きよりも早く、さとるは対応してくる。
 それを嫌って、草楼は飛び退いた。
(「さすがハニー。仲間だと頼もしいが、戦うとなれば厄介だな」)
 後の先。
 さとるが見出したスタイルなのだろう。
 初めのうちこそ防戦一方だったが、草楼の動きに慣れてきたのか、徐々に隙が無くなっている。
 正直、こうなっては破壊力に重きを置いた草楼の剣筋では打ち崩すのが難しい。
 しかし、これは引けぬ戦いだ。
(「負けるのは平気だけど全力出せないのは嫌いだからな」)
 クールに瀟洒に必死こいてお相手仕る、と草楼は再び攻勢に転じる。
 負けじと、さとるも気勢を強める。
 打ち合った竹刀が大きく音を立てる。
 避けきれなかった竹刀が肩口に鈍い痛みを走らす。
 疲労で息が乱れていく。
 大きく息を吐いて呼吸を整えたいが、そんな時間さえ与えられない。
 悲鳴を上げる肉体に無理を通し、二人の打ち合いは更に激しさを増していく。
(「苦しけど……苦しいはずだけど」)
 さとるはもっと打ち合っていたいと思う。
 攻防の度に濃厚な言葉を交わしているみたいだ。
 見れば、草楼の顔には笑みのようなものが浮かんでいる。自分の顔もそうなっているのだろうか? でも、そんなことよりも今はただ全力で打ち合っていたい。
 互いの繰り出した竹刀が交差して弾き合う。
 距離を取ろうとして、同時に引き技を。
 そして、また激突する――。
 だが、無限にも思えた時間はいつしか過ぎ去り、動きが次第に鈍り始めた。
 そろそろ限界が近い……。
(「守りたいもの……欲しい未来……自分の手で掴んでみせます!」)
 初めて、さとるから動く。
 僅かに反応は遅れたが、草楼もまた必殺の打ち込みでこれに応える。
 竹刀と竹刀がすれ違い、剣での語らいは終わりを告げた。
 草楼は腹部にしっかりと打ち込まれた竹刀を確認すると、大きく息を吐き出す。
 そして、そのまま仰向けに倒れた。
「えっえええ?! 大丈夫ですか?」
 のぞき込む、さとるの顔には不安の色が浮かんでいる。
「………負けたか。ハニーは強いなぁ」
「よかったぁ。倒れるものだからびっくりしましたよ」
 不思議と、草楼に悔しいという気持ちは無い。
 隣にへたり込んだ、さとるを見ているとむしろ綻んでしまいそうだ。
「ああ、幸せだなぁ」
「……はい!」

●共に歩む、二人だから
「さて、ひと息ついたところで誘ってくれたハニーに俺から贈り物だ。まぁ、薄っぺらいかもだけどな」
 そう言って、草楼が取り出したのはギターだ。
 草むらに座り込むと、弦を鳴らしてチューニングを始める。
 慣れた手つきで一音一音確かめると、一気に加速させた。
 軽快に流れ始めたのは、お決まりのラブソング。
(「ハニーのために恋を歌うのも愛を語るのも、息を吸うのと同じくらい自然にやって見せよう!」)
 思いを音に乗せ、旋律のひとつひとつで想いを紡ぐ。
 淀みなく生まれるメロディに耳を傾けながら、さとるは演奏する草楼に見惚れていた。
 指の動きに目を向ければ、一時も止まることなく、時には荒々しくも、心地よい音楽を生み出している。
(「気に入ってくれたようだな。でも、もう少し……」)
 いい音楽を届けられないかと、草楼は思い馳せる。
 周りを見渡せば、豊かな自然が。
 そして、そこに住む生き物たちが。
(「そうだな、薄くとも『重ねれば』届くこともある。新聞紙も26回折り返すと富士山の高さになるっていうし、『重ねて合わせて』みるか」)
 と、ここで草楼は低音をゆっくりと響かせ始める。
 長めに間を取り、時には無音ですらあった。
(「えっ……?」)
 先ほどまでの音楽とかけ離れたものに、さとるは戸惑う。
 だが、耳を澄ませばギターの他にも音が溢れている。吹き抜ける風の音が、小川のせせらぎが、小鳥のさえずりが、自然の生み出す音が、ハーモニーとなって音楽を届けてくれる。
 演奏が終わった時には、さとるは拍手するのも忘れるぐらい余韻に引き込まれていた。
「どうだった、ハニー?」
「あっ……えっと、素晴らしい演奏でした。本当ですよ!」
 言葉以上に、その顔が雄弁に語っている。
「それは良かった。俺のギターもまだまだ捨てたもんじゃないな」
 と、草楼は笑ってみせるが、さとるは急に顔を曇らせる。
「先輩、私、まだ生きてたいです」
 急な言葉に、理解が追いつかない。
「二人一緒の、……。未来を。だから、……いきなり居なくなったりしないで下さいね」
 嗚呼、今日一日が幸せだったから。
 幸せ過ぎたから。
 だから、これから先に不安を覚えたのか。
「……しかしなんていうかなー。やっぱうちのハニーは可愛いな。宇宙一って感じ」
「えっ……」
「安心しろ、そんなハニーを放って一人で居なくなったりしないさ」
 草楼が立ち上がって手を差し出す。
「約束ですよ」
「ああっ」

 来た時と同じように手を繋いで、二人は歩き出す。
 これから先にどのような試練が待ち構えているのかは分からない。
 だが、きっと乗り越えていける。
 二人ならば、きっと――。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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いまいち
参加者:2人
作成日:2012/05/13
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