≪摩天楼≫友達以上、恋人未満


<オープニング>


「また今日はどうしたんですか?」
「何か不満でもありますの」
「いえ、ありませんよ。マヨイガで息抜きというのも面白いですね」
 と、言って霞谷・氷一(隔離されるべき論外裏商人・b55422)は物珍しい景観に興味を向け、「おお、あれは何でしょう」とまるで新しいおもちゃを与えられた子供のように惹かれていく。
「氷一さん、珍しいのはわかりますが遊園地に行くのですのよ」
 脱線しそうになるのを、綾川・紗耶(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)が軌道修正。
「きっと遊園地にはもっと面白いものがありますわ」
「うーん、それもそうですね。……おっと、話を戻しましょう。急なお誘いでしたが、そんなに遊園地で遊びたかったんですか? 話に聞くと色々あるらしいですからね」
 どうにも、氷一は紗耶が遊園地で遊びたいから連れて来られたのだと思っているようだ。
(「子供扱いされているのですわ」)
 淡い恋心を抱いている、紗耶の気持ちには気づく様子もない。
 彼女が迫る大きな戦いを前にして、二人の時間を作ったことを分かっているのだろうか?
 しかし、飄々としたその振る舞いからは氷一の真意を図ることなんて出来そうもない。
「まあ遊園地に行きたいとか、紗耶も可愛いですね」
 うん、やっぱり子供扱いされている。
 それならば、と紗耶が氷一の腕に自分の腕を絡ませた。
「おっと、どうしたんです?」
「知りませんわ」
「うーん、まあこれはこれでリア充に少し近づけた感があっていいですけどね」
 言われて、紗耶は自分の行動を自覚する。
 困らせようと思ったのだが、これはもしかしてかなり恥ずかしい行為ではないだろうか?
 で、そんなことを考えているうちに紗耶の顔が見る見る赤くなっていく。
「どうしました?」
「な、何でもありませんわ。早く行きましょう」
 意識しないように、紗耶が引っ張る感じで進み出す。
 故に気づかない。
 氷一が身長差を考慮して若干姿勢を低くしていることに。

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参加者
霞谷・氷一(隔離されるべき論外裏商人・b55422)
綾川・紗耶(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)



<リプレイ>

●いつもの二人?
 腕を組んだまま、綾川・紗耶(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)が歩き出した。
 このまま向こうのペースに流されてしまっては、またいつもと同じになってしまう。
 ……これでは何のためにデートに誘ったのか分からない。
 どうにかしなければと思案するも……、
「しかし、リア充撲滅の為の作戦で俺をデートに誘うとは……紗耶は策士ですね!」
「……えっ?」
 やっぱりというか、何というか、思わず問い返したくなるほどに、霞谷・氷一(隔離されるべき論外裏商人・b55422)はずれていた。
「ならば此方も全力で応えましょう……さぁレッツ・エンジョイ・マヨイガ!」
 おまけにそんな紗耶の様子に気づきもしない。
(「駄目元でお誘いしたのですが絶対に湾曲して理解してる模様ですわ」)
 はぁ、と紗耶から溜息が漏れた。
 いつものことながら、どうしてこうなのか。
(「このへたれ男は……もうしょうがないですわね」)
 思ったこととは裏腹に、紗耶の顔に微笑が浮かぶ。
(「でも、この微妙な距離感がわたくしたちらしいといえばわたくしたちらしいのかしら」)
 そして、そのままにこっと花開く。
「おや、どうしました? さっきから表情がころころ変わっていますよ」
「……な、何でもありませんわ。そういえばマヨイガに来たら本気を出すとか聞いた記憶がございますの。エスコートしてくださるのかしら?」
 さすがに掻き回されてばかりではいられないと、紗耶が攻勢に転じる。
「どうなんですの? あれは嘘でしたの?」
「ああ、そうですね。宜しい、ドエスコート……もといエスコートしましょう……」
「ドエスはいりませんわ!」
 もう、何がなんだか。
 気が付けば、やっぱりいつもの距離感だ。
「しょうがないんだから。それにしても氷一さんって背が高いからお話しする時は首が疲れますのよ」
「首が疲れる? 紗耶はちっこいですからね」
 むぅ、と今度は紗耶が不満を浮かべて
(「……あら? そういえば今日はあまり意識しないでいるような気も?」)
 もうかなり話をしたはず。
 何で今日は大丈夫なのだろうと、紗耶はまじまじと氷一を見つめるが、
「どうしました? 何か付いてますか?」
 氷一が不意打で笑いかけてきた。
 思わずドキッとして、紗耶は顔を伏せる。
「(……アイスワンのくせに)」
 故にやっぱり気づかない。
 氷一が身長差を考慮して若干姿勢を低くしていることに。
「さて、今日はどこから回りますか?」
「ふぅ……そうですわね」
 掻き回されてばかりだが、こうしている訳にもいかない。
 深呼吸をして気を落ち着かせると、紗耶が少し遠くに見える観覧車を指さす。
「まずは遊園地ですわ♪」
「では、行くとしますか」

●めぐりめぐる遊園地
 遊園地に入ると、途端に賑やかな喧騒に包まれた。
 様々なアトラクションからこぼれ落ちる音、どこかから聞こえるパレードの行進曲、そして楽しむ者たちの明るい声が一緒くたになって響いてくる。
 そんな中を二人は感想やら疑問やらを話しながら歩いて、やってきたのはジェットコースター。
「どうします? 引き返すなら今のうちですよ」
 ちょっと意地悪な顔になって、氷一が尋ねる。
「大丈夫ですわ。割と得意ですのよ♪」
 対して、紗耶は満面の笑み。
『じゃあ、次の方どうぞ』
 話しているうちにもう二人の番。
 案内されるままに座席に座れば、安全バーが降りてくる。
 そして、準備が整うとジェットコースターが走り出した。坂をのぼり、頂点部からスピードを加速させて曲がりくねったレーンを一気に駆け抜けていく。
「おぉぉぉぉお!! 爽快! 驚きの速さ!」
「これはすごいですわ!」
 歓声を上げている間も、目まぐるしく風景が変わる。
 興奮して声も高くなる。
 そんな二人を乗せて、まるで疾風のようにジェットコースターは駆け抜けていった。

 次いで、二人が訪れたのはお化け屋敷だ。
 入って直ぐにおどろおどろしい気配が二人を襲う。
「ゴーストの経営なだけあって中々……詠唱銀投げたい雰囲気ですね〜」
 氷一の言っていることも案外、的を射ているかもしれない。
 そう、ゴーストタウンだ。
 あそこで醸し出されている雰囲気にどこか似ている。あのドアを開ければ、その先には……、
『グワァァ』
「……リビングデッドが三体ですわね」
 言って、「あっ」と紗耶が口を押さえた。
「確かにそうですね」
 応える、氷一の顔には苦笑が浮かんでいる。
「もう職業病みたいなものですわ。氷一さんだってそうなんでしょう?」
「さあ、どうですかね〜」
 お化け役を放置して、話が続く。
 その間に、お化け役の方々は「ごゆっくりどうぞ」と、すごすご引き返していくのであった。

 それからコーヒーカップやら射的が並んだゲームコーナーを回っていると、気が付けばお昼になっていた。お腹も空いてきたことだし、中心部のレストランに入って、二人は昼食をとることに。
「お勧めはなんでしょう?」
 メニューを持ってきたウエイトレスに、紗耶が尋ねれば分かりやすい説明が返ってきた。
 挙げてくれたもの中から、
「わたくしは蟹クリームのオムライスで」
「では俺も紗耶と同じで」
 二人が注文すると、さほど時間をかけずにふんわりと本格的なオムライスが二人の前に並ぶ。
「これは美味しそうですわね。でも、火傷しそうな料理ですから注意しないと」
「火傷など生温い……俺ほどならば冷まさずとも」
 注意されたそばから、氷一がひと口目をぱくり。
 咀嚼……する間もなく、
「……あっつい! 水……!」
「きゃー氷一さん、お水お水!」
 と、大変なことになった。
「(………しかし、これでフラグは回収)」
「何を言っていますの! 早くお水を!」

●観覧車にて
 ひと波乱も二波乱もあって、二人が遊園地の最後に選んだのは定番の観覧車。
 どう座ったものかと思案しながら、向かい合わせに座ることで落ち着き、今はゆっくりと二人を乗せたゴンドラが高くなっているところ。
 それに伴い見える景色も色合いが変わっていき、
「綺麗な景色ですわね」
 窓から見える景色はもう俯瞰の域。
「いやはや天空の城ほどじゃないですけど中々いい景色で」
 とはいえ、氷一はやっぱりいつも通りだ。
 悲しいが……いい雰囲気にはほど遠い。
「氷一さん知ってます?」
「何をです?」
「観覧車がカップルで乗るといいと言われているのは、高いところに行くドキドキが恋のドキドキと錯覚して距離が縮まりやすいとか?」
「ほほぅ、高くなるほど? 吊り橋効果的なやつですかね〜?」
 なるほどなるほどと感心しながら、氷一の口元が僅かにほころぶ。
「どれどれ……宜しい、ならば実験です」
「ってじ、実験って、きゃ……」
 突然、立ち上がった氷一が、紗耶の隣に座る。
 しかも軽く肩を抱きながら、だ。
「どうです?」
「そういう氷一さんこそ……」
「……俺? まぁそれなりに」
 紗耶は顔を真っ赤にし、それを眺める氷一はドヤ顔。
(「ふぅむ、紗耶って随分可愛くなりましたよね〜」)
 これ以上、からかうのはさすがに止した方が良さそうだ。
 と、氷一が思ったところでゴンドラががくんと揺れる。
 二人がはっと窓の外を見れば、いつの間にか搭乗口の近くまで降りてきていた。
「おおっ、いつの間に?!」
『どうします? このままもう一周しますか?』
 にこやかに笑いながら勧めてくる係員。
「いえ、降りますわ」
 紗耶が顔を真っ赤に染め、慌てて降りると、
「(……まぁ、こんなところですかね)」
 苦笑を漏らしながら、氷一があとに続く。
 足早に歩く紗耶を追いかけて、二人はそのまま遊園地を後にしていくのだった。

●友達以上恋人未満?
 そして、二人がやってきたのは縁結びのご利益があるという神社だ。
 見渡してみれば、確かにカップルが幸せな未来を願った絵馬が吊るされている。他にも細々(こまごま)と縁結びに関係するものが置かれているところを見ると、色々と期待もわいてくる。
「普段ならこういう所に溜まるリア充を爆破しに行くところですが……流石にマヨイガには居ませんね」
 氷一がきょろきょろと見回してみるが、それらしい人影はない。
 それとは対照的に、
(「縁結びですか」)
 隣に並ぶ、紗耶の方は元来の用途が気になって仕方がない。
「わたくしと氷一さんの縁はちゃんと結ばれてるのかしら?」
「縁? 能力者的に言えば運命の糸は結ばれてるんじゃないですかね? 思えば今は無きあの結社クリクラからの縁でしたしね〜」
 ああ、懐かしいと、氷一の声が漏れる。
「今や遙か前の道……これからも歩んで行かねば」
 過去を想う。
 そして、未来へと繋がる道は――たぶん。
「――どれ、紗耶はどう思います?」
 氷一が紗耶を軽く抱き寄せる。
 何の前触れもないその行動に意表を突かれて、なすがままに氷一に寄り添い。問いかけるために向けた唇に、氷一の唇が優しく触れ合う。
 時間がまるで止まってしまったかのように、紗耶は感じた。
 キスした瞬間が幾重にも折り重なって、脳裏に刻み込まれていく。
「……え、えっと……?!」
 何が起こったのか……いや、何が起こったのかは分かっているが、理解が追いつかない。
 紗耶は顔を真っ赤に染めて、応えようと頭を空転させる。
「(あ、あのその……はい……)」
 ようやく搾り出した声はもう消え入りそうで。
 代わりに氷一の手を強く握り締めると、少しだけ言いたいことが分かった。
「馬鹿……大好き……」
 それが、紗耶のささやかな仕返し。
 二人ともお互いを直視できずに顔を背けたまま、手を繋ぎ合って自分の今の気持ちを確かめる。

 悪くない。
 このまま二人で寄り添っていたい。

(「振り返れば沢山あるわたくしたちの思い出」)
 紗耶はゆっくりと氷一との出会いを、過ごしてきた日々を思い返していく。
(いずれも宝石のように煌いてどれも大切なもの)
 そこにまたひとつ大切なものが加わった。
 だからだろうか。
 紗耶の唇から今の気持ちが素直にこぼれだす。

「どんな結果になったとしても、ずっと笑いあえていけたらいいですわね、隣で」

「とはいえ未来は常に不確定ですからね〜」
「もう、氷一さんはどうしてそういうことを言いますの!」
 くわっ、と紗耶が表情を変える。
「はっはっは、まあこんなもんでしょう」
 先ほどまでの雰囲気はどこに行ったのか、気が付けばまたいつも通りだ。
(「でも隣だけは確実に」)
 そんな雰囲気を楽しみつつ、氷一は口にしなかった言葉を心の中で付け足しておく。
「見てないさい!! 次はこうは行きませんわ!」
「それは楽しみですね。期待して待つとしましょう」

 こうして、二人の初デートが幕を閉じる。
 来たときと変わらない。
 いや、来たときのよりも楽しそうに笑いながら――。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2012/07/15
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