黎明の空


<オープニング>


 日本の南、鹿児島県。
 桜島を望む街のとある中学校に、新たな力が芽生えていた。

●ケース1 
 佐久間慎司は遅刻問題を解決し、さらに日頃の鬱憤を爆散させてすっきりすることにしたらしい。
 彼は猛スピードでチャリを操ってマイカー通勤の先生をおいぬく。
(「ばーか!」)
 気づいた教師の驚き顔を気持ち良く無視して、教師用の駐車場を縦横無尽に走る。これでは駐車は無理だった。
「やめんか!」
 校舎から走り出て怒鳴る教師もいるが、その顔に何やら御札がぺたりと張り付き、あっという間に眠りこんだ。

●ケース2
 5時限目、女子更衣室。日のあたる窓辺で田代舞亜はショーツと胸を隠すタオル一枚で午前中のマラソン授業の疲れを癒していた。あの子変な性癖が、なんて噂は気にしない。日の光がこんなに気持ちいいなんて以前は知らなかった。
 だが事情も知らずがらりとドアを開けた男教師がいる。
「おい、田代。ここでさぼっているときいたぞ! うわっ」
「見たな〜? 見〜た〜な〜?」
 ぺろんとタオルがおちて、舞亜の拳が炎を宿す。 

●ケース3
 漫画研究部の部長、平重人は最近すばらしいスピードで作品を仕上げているという。それも、眠っている間に書き上げてしまうという専らのうわさである。
 だが彼はげっそり落ち込んでいた。そうやって描いた原稿を片端から賞に応募したものの、全く入賞しないらしい。 
「まただめだ……次こそは……俺は天才のはず……でなきゃ寝ている間に作品ができるはずない……俺は天才、今度こそ最高の作品だ!」
 ぶつぶつとつぶやきながら、今日も彼は部室に一人残り、一心不乱で原稿を仕上げているらしい。ちなみに他の部員は気味悪がってやめてしまった。

●ケース4
 3年の東雲結花が行方不明になっている。お菓子作りが得意なおとなしい子だったようだが……。同時に家庭科準備室が掃除もされずに放置され、物忘れを訴える生徒達がちらほらいるらしい。


「みんな、集まってくれてありがとうございます」
 矢代・美樹(運命予報士・bn0107)はちょこりと挨拶した。
「世界の行く末も漸く少しずつ見えてきたでしょうか……」
 そう前置きして、今日皆に頼みたいのは新たに発見された能力者達の保護だと美樹は話した。
 世界結界がゆらぐ中、芽生えた新しい力を銀誓館学園につれてきて欲しいのだと。
「皆に向かってもらうのは鹿児島市近郊にある中学校です」
 校内への潜入は制服を確保しているので何とかなるだろうと、運命予報士は人数分の服と校内の見取り図をくれた。
「それぞれ現れる場所が違うので、解決方法も個別に考える必要があるでしょう。手分けして解決するなり工夫して全員を確保してください」
 そういって、美樹は一人ひとりについて説明を始めた。

 まだ彼等は互いのことを知らない。
 より面倒な事態が発生する前に、解決が求められていた。

 ケース1の佐久間慎司の場合。
 早朝、彼は自転車で爆走し、職員用駐車場で迷惑走行をするようだ。
 待ち伏せするなりして、適当なタイミングで割り込んで欲しい。
 もちろん銀誓館学園の能力者達が起動して自転車をこげば簡単に追いつけるし、並走も可能だ。
「鬱憤がたまっているようですが結構危険だと思います。何とか話を聞いてくれるといいのですが……」
 その上で、力の使いどころを説明して銀誓館学園に誘って欲しい。

 ケース2の田代舞亜。
「この日、舞亜は昼休みから更衣室で一人でさぼっているようです」
 5時間目になってしばらくすると、教師がサボりに気づいてやってくる。その前に何とかしてあげて下さいと、美樹は言った。
「最悪力技でも仕方ないでしょうが、誰も死なずにすむように、どうか宜しくお願いします」

 ケース3の平重人。
「この人は放課後遅くまで漫画研究部の部室に引きこもって、誰とも口をきかず、作品を仕上げているそうです」
 美樹はうーんと首を捻った。
「とにかく普通にでかけていって、何とかしてあげてください。もしかしたらお腹がすいているかもしれませんよね」
 他の部員は気味悪がって誰もいないそうだから、仕事はしやすいだろう。
「正直俺にもどうしたらいいかわかりません。最悪殴ってでもつれてきてあげてください」

 ケース4の東雲結花。
「この人は家出したことになっていますが、居場所はわかります。家庭科準備室です」
 テストで問題のある点数をとって、思いつめて篭城していると思われる。他生徒達の症状からして、彼女は成り立てのブロッケンらしい。
「受験生なんですね。元々勉強は好きではないのかもしれません。銀誓館学園に誘ってあげて下さい」

 美樹は続けて話す。
「一般人に被害が及ばないならば、多少の手荒なことは仕方ないかもしれませんね」
 彼等は生まれたての能力者だ。戦闘においては銀誓館学園皆とは勝負にすらならないだろう。戦闘不能にして連れ帰ることも最後の手段として当然有効なのだ。
「ただ、今後の事を考えると、できるだけ友好的に学園に来て貰えるようにお願いします」
 美樹はぺこりと頭を下げる。
「新しい時代を一緒に築くために、新たな仲間を迎えに行ってくれませんか。どうぞ宜しくお願いします」

マスター:水上ケイ 紹介ページ
どうぞ宜しくお願いします。

成功条件は問題を解決し、全員を銀誓館学園につれてくることです。
方法はお任せします。
もし戦闘する場合、彼等はどこの組織にも属さない成り立ての能力者なので、とてもとても弱いです。

リプレイは三部に分けて描写の予定です。
担当の事件に介入するタイミングと説得の方法等をプレイングに書いていただければと思います。

それでは宜しくお願い致します。

参加者
玉名・斎姫(神籠もる国の巫女・b07161)
白山・小菊(懸崖菊花・b26103)
暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・b42300)
静島・茅(紡ぎ手・b45688)
天野・こやね(浅き夢見し・b48985)
御神・深月(破天の戰・b63397)
四紀・更紗(番犬命の真狐・b74691)
桂・雪(ノットロンリー・b75753)



<リプレイ>

●お早う自転車バトル
 緑多き街の一画にその学校は佇んでいた。
 この朝、玉名・斎姫(神籠もる国の巫女・b07161)は配布の制服に身を包み、自転車に乗って、佐久間慎司を待ち伏せしていた。
「故郷での事件と聞けば、私が行かなければ、と思いました。何とか思いが通じればいいのですが」
「うん。火傷しないうちに、ビシっと先輩としての威厳をアピールしとかないとねぃ」
 天野・こやね(浅き夢見し・b48985)もふんふん頷く。同じく制服姿で、まだまだ学生で通じるはずの19歳だ。
 騒がしい一日が始まる。
 二人は起動して通り過ぎたばかりの自転車を追いかけ始めた。周囲の風景が飛ぶように過ぎる。
 こりゃまた、追いつくのが大変だね!
 向かい風の中、こやねがニマリと目を輝かせる。
 まず斎姫が併走しながら声をかけた。
「随分自転車を漕ぐのが速いですね」
 余裕の斎姫。
 対して慎司は非常に驚いたらしい。
「お前誰だよ? 何で俺に追いついてんだよ?」
「おはよう」
 そこにこやねもふいっと涼しげに挨拶する。
「チーッ、何なんだよ!」
 慎司は逃げ出したが、見逃す能力者達ではない。
「そんなに飛ばしてスリルが欲しいのかねぃ?」
「……」
 こやねがぶいぶい追いかけて、慎司はむきになる。彼等は誰かの悲鳴や怒号を背に自転車を駆った。事故にならなかったのは、さりげない仲間のフォローのお陰もあって。
 ついには裏門から校内の駐車場に突入し、教師の一人が「やめんか!」と怒鳴る。
 慎司の指に符が現れて飛ぶ――その一瞬。
「わわー!」
 車止めに自転車を引っ掛けて派手に慎司の傍にすっ飛ぶ、こやね。
「おい、何やってんだよ?」
「やっととまったねぃ?」
 むすっとする彼に、こやねは符をピラピラ出した。
「さっき誰かってきいたよねぇ。こういうモンです」
 こういう風に力は使うもんだよねぇ、とそれで傷を治す。
「……先生の方はうまく対処しておきました」
 斎姫もやってきて報告する。
「……あんたも?」
「はい。貴方と同じ力を持つ者です」
 斎姫の指にするりと病魔根絶符が現れる。
 黙りこんだ慎司の顔を覗き込んで、斎姫は言った。
「大分鬱憤が溜まっているようですね。私達でよければ、話を聞かせて下さいませんか? 体育館裏にでも来て頂きましょうか」
 こうして、一人目の能力者は大人しく斎姫とこやねに従った。
 斎姫はまず慎司の鬱憤を聞いてやろうとしたが、自転車レースで発散したのか、彼は結構落ち着いていた。
「面白い事ねえからよ。親は成績しか興味ねえし、俺ぁ勉強マシンじゃねえし。けど、今朝は割と面白かったぜ」
「失恋じゃないんだねぃ」
「失恋しようがねえ。人付き合いねえし」
「……」
 どん底って顔の彼を見つめ、斎姫は学園の話を切り出した。
「私達は銀誓館学園から来ました」
 学園には、自分達の様な能力者が何千人と通っていること。能力に目覚める人が最近増えていること。そして、本来ゴーストという怪物と戦うための学園であり、彼にも銀誓館に来て欲しい事。
 斎姫はそれらを簡潔に説明した。
「ゴーストって言ったか?」
「いきなりこんな事を言われても、わけがわからないと思いますが」
「そう……だけどよ」
 力を持っている以上、慎司も既に『こちら側』だ。
 こやねが明るく釘を刺す。
「まぁアレだ! 今日みたく力任せにヤンチャしてると、火傷じゃすまないからねぃ」
 符は周りの人を助けるために使うもんさ。人を助けて、周りに必要とされる。
 ちょっとした誇らしさと、やりがいはあるよ。
 先輩符術士としてこやねはそう話す。
 そして斎姫は真面目に語った。
「私は、能力者に生まれた為にゴーストに命を狙われました」
「……狙われた?」
「ですから貴方を放っておきたくはありません。勝手と思われても、これが私の正直な気持ちです」
 ――どうか一緒に来て下さい。
 慎司は頷いた。

●昼休みの邂逅
「いや、今朝は上手くいったみたいだね」
「次は僕達の番ですよ」
 昼休み、体育館辺りに姿を現したのは静島・茅(紡ぎ手・b45688)と白山・小菊(懸崖菊花・b26103)だ。スーツの小菊は荷物を手に来客風だし、茅は制服姿だった。父兄と学生コンビは機嫌よく穏やかに、お陰で疑われもせずに校内を歩き、無事に女子更衣室にたどり着いた。
 トントントン。
 小菊がごく普通にドアをノックする。
「あの、田代さんいらっしゃいますか?」
「誰?」
 舞亜は顔だけ出して胡散臭そうに言った。しかし小菊は飄々としたもので、
「こんにちは、僕は白山と申します。鎌倉の銀誓館学園から来ました」
「はぁ、鎌倉? ……っていうか、よく見たら男の人?」
「はい僕は男です」
 小菊は小さく微笑み、続けた。
「ですからあの……ここでは難しいお話なので、更衣室から出ませんか? ――太陽の光、浴びたいでしょうし……」
「えーっとお……」
 舞亜は二人を値踏みする様な目で見たが、茅が直球を食らわせた。
「つまりね。最近、君の身に起きた不思議な現象について話したい事があるから、少し付き合ってもらえないかな」
「えっ!」
「太陽の光が心地よかったり、手から炎が出たり、そういう事がないかね? その話だよ」
 舞亜には身に覚えがあり、三人は屋上で向かい合うことになった。ちなみに、舞亜はちゃんと制服を着て更衣室から出てきたのである。
 能力者3人は、茅持参のメロンパンとサンドイッチでお昼にした。秋の日を浴びてちょっとした屋上ピクニックであるが、和んだ所で小菊がそつなく切り出した。
「それでは……手短に。僕達は今回、田代さん達を銀誓館学園へ誘いに来ました。能力者を迎えに」
「能力者? あたしの事?」
「ああ。舞亜のような力を持つ子は沢山いるよ。ちなみに炎なら私も扱える」
 百聞は一見にしかず。赤手にたゆたう炎に、舞亜はただ納得するしかなかった。今まで考えもしなかった現実。そして自分だけが特別なのではないという現実に。
 茅は話を続けた。
「それに最近、能力に覚醒する人が増えているんだ。目覚めたからには、使い方を覚えないといけない」
 この力は、使い方を誤ると危険だ。誤って一般人を殴りでもしたら、ひとたまりもないと。
 舞亜は神妙な顔をして頷いた。
「そうか。拳が凶器になっちゃったんだ。あたしはお日様が好きで、もう一般人じゃなくなったんだ」
「そう……ですね」
 小菊は楽しげに微笑んでみせた。実際、こんなに平穏に能力に目覚められるなんて、微笑ましいと思うのだ。
 彼は持参した銀誓館学園のパンフを渡し、巧みに彼女を誘う。
「銀誓館なら肌を晒して日光を浴びる事を奇異の目で見る人はいません。先生方も事情を知っている方が大勢いますから、協力してくれます」
「ほ、本当?」
 舞亜は彼が話す能力者達の学園の話に目を丸くする。
「戦う相手もいますが早々危ない目にはあわせません……」
「戦う……この力を使って?」
 小菊は頷いた。
「大丈夫。僕達が護ります」
 5時限目の予鈴が鳴る。
「わかってもらえたら、とりあえず、5時限目の授業はちゃんと受けておいでね」
 舞亜は学園のパンフを手に、大きく頷いて立ち上がった。
 放課後の再会を約束して。

●家庭科準備室の魔物
 午後の授業が始まった頃、御神・深月(破天の戰・b63397)と暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・b42300)は、家庭科準備室の前にいた。この時間はこの辺りの教室は使用されておらず、学校関係者は見当たらない。接触のチャンスだった。
 まずは深月がノックして声をかける。
「……誰かいるか?」
 返事はない。
「無視するつもりみたいだな」
 しかし、魎夜にとっては家屋潜入はお手の物。二人はするりと家庭科準備室に入り込んだ。
 東雲結花はそこにいて、動じる風もなく二人を睨む。だが能力者にとっては、ブロッケンの魔物は意味をなさなかった。
「なぜ? 何で逃げないの? っていうか、誰!?」
「怖がらなくていいぜ。俺達は同じような能力を持つ仲間だぜ!」
「ああ、そうだ。まずは落ち着いて話を聞いてくれないだろうか?」
 魎夜は得意のナンパを活かし、深月は礼儀正しく頼んでみた。うん、と結花は頷いたがこれは二人がいわゆるカッコいい男の子だったっていうのもきっとある。
「いいよ。実は暇すぎって感じだったんだ……」
 とりあえずその辺の椅子に腰掛けて、彼等は話を始める。
 深月がまず、自分達にブロッケンの魔物が通じない理由を語る。魎夜も更に自分達の素性を説明し、『仲間』の保護の為にやってきた事を話すと、結花は目を丸くした。
 能力者とゴースト、世界結界の話などもしてみたが、結花にとっては余りにも意外だった様だ。
 そこで一転、深月達はもっと身近な話題に切り替えた。
「ともあれ、能力を制御する事は重要だ」
「そうよね……気をつけないと物が壊れるね。あなた達も本当にそうなの?」
 結花はおどおど上目遣いで様子を伺う。
 それならと、魎夜はプロミネンスパンチの炎を拳に纏わせた。
「きゃっ」
「こんな感じだぜ。他のはまたの機会にな。下手に使うと危険なのが多いし」
 視線を受けて、深月も起動してみせる。
 突如漆黒の衣装に包まれ、武器を手にする姿に、結花は息を呑んだ。
「……二人ともすっごい」
 咳払いと共に二人は起動を解き、魎夜がついに本題に入った。
 銀誓館学園のパンフレットを渡して言ったのだ。
「受験生なんだろ? 今だったら、能力者は推薦で入れるぜ!」
「私でも?」
「そうだぜ!」
 推薦というのか、ともかく彼女は資格を満たしている。
「失敗して落ち込むのは誰でも有る事だ」
 深月がなだめる様に言う。
「……知ってるのね、私の事」
 点数が悪くて両親に叱られたのだと結花は弱音を吐いた。しかし、進学の悩みは、解決したも同然である。深月はアドバイスして元気付けた。
「環境を変えて取り組めば、調子が上向くかもしれないぞ」
 こくんと結花が頷く。
「勉強以外に好きなこと、あるんじゃないのか? 『勉めて強いる』勉強が全てじゃない、『学んで習う』学習だってあるんだぜ!」
「そうだよね。本当はパティシェとか興味あるんだ……」
 魎夜の言葉にちょっとだけ、彼女の瞳が輝く。
「それと、わかってるだろうが親御さんは心配しているんじゃないのか?」
 そういう深月にも、結花は頷いた。
「うん。喧嘩して飛び出したけどもう帰らないとね。進学の心配もなくなったし、良かった! ありがとう」
 結花は素直に嬉しそうで、勧誘は大成功した。
 ついでに魎夜が話す。
「この学校にもあんたの他に何人か能力者がいるんだぜ?」
「えっ?」
 傍ら深月は携帯で仲間に連絡していた。彼等は直に相見ることになる。

●デコ弁と原稿と再出発
「そろそろ、やる?」
 漫画研究部とボロい表札を掲げたドアの前。
 四紀・更紗(番犬命の真狐・b74691)はデコ弁やらクッキー種やら知人にもらった原稿やら、様々抱えて桂・雪(ノットロンリー・b75753)を見上げた。
「侵入は更紗に任せるぜ」
 中に平重人がいる事は前もって確認してある。放課後の腹の減る時刻を見計らって、デコ弁を武器に突撃するわけだ。
 侵入ってか、ドアノブは軽くくるりと回る。中にいるのは一人だけ、ドアが開いたのに振り向きもせずカリカリ原稿を描いている様だ。
「こんにちはー」
 無視された更紗。
「ちーす、スカウトでーす」
 平然と雪。
 更紗が、えっ?
「怪しい事は最初に言っとくに限るんだぜ」
「えー」
「やっと来たか……」
「ええっ?!」
 雪と更紗の会話に、ぬーと立ち上がった重人が混じっていた。
「スカウトだろ。俺が天才の平だ」
 んーと。この人何か変だと一般人なら避けそうな。
 だが、そこは銀誓館学園で様々な人種を見ている二人なので、挫けなかった。
 まずは更紗が持ってきた特製デコ弁が威力を発揮した。放課後はただでさえ腹が減るものだ。サンドイッチ中心の食べやすい内容で、重人の気を引く。
「ご馳走様。だがスカウトじゃないなら帰ってくれ。天才の邪魔はするな」
「いやスカウトだ」
「え?」
「但し、お前が思っている様な方面じゃない」
「……余りからかうと、俺はこの頃腕力もメキメキでな」
 重人はバキリとサインペンを軽く折って威嚇する。
「やるのか? いいぜ、試しに殴ってみろよ?」
 そもそも雪には彼の拳が殆ど当たらないので、気の済むまでやらせておく事にする。
 ぶうん。
 スカッ!
 とやっていると、更紗がいつの間にか狐に変身している。何だかケルベロスオメガもいて、重人はぱかんと顎を落として拳を垂らした。
「やっと諦めたかよ……」
「な、何だ? これはどういう事だ?!」
「いやだから。銀誓館で漫画で世界穫って啓蒙目指す有名人作戦に協力しないかと誘いに来たんだが」
「はあ? それはつまり俺が天才」
「違うんだ」
 雪はつらつらと世界の真実を重人に語った。
 自動完成は本業能力で彼が思う天啓とは違う事。けどそれを信じた心意気と、挑戦を続けるのは得難い才能だと思う事。
 脇で元に戻った更紗が「パラノイアペーパーごっこ〜!」と叫びながら、借りてきた原稿で実演をまじえる。ケルベロスオメガがぱったりやられてみせた。
「こーゆー技も使えるようになるしー、おにーさんと語り合える人もたくさんいると思うよ」
「こ、これは夢か? 夢だよな?」
 重人はふっくらした頬を盛んにつねって痛いと喚いた。
 雪がそれじゃあと重人をなだめて語りだす。
「じゃあ設定としてさ。常識を元にした世界結界と異能がジョブと呼ばれる世界。誰も知らないゴーストと戦い続ける少年少女の物語……」
 ぱふん。
 ぽふん。
 ここで狐とケルベロスのダブル肉球ぱんち!
「な、中二満載設定もリアルになるとかなり驚くだろ」
「あたしはねー、友好的なゴーストと仲良くできる世界目指すんだっ。そういう漫画も描いてほしーな!」
「それはどういう設定……じゃないのか?」
「いや現実だ」
「……俺もそこに行く。つれてってくれ!」

 全員をスカウトした後、能力者達は携帯で連絡を取り合って、一番邪魔が入りそうにない漫研部室に再集合し、手早くぷち説明会を開いた。
 雪は懸念事項だった世界結界の記憶改竄効果を話し、両親や友達に転校納得してもらうの忘れずにと伝える。また、銀誓館のこれからの活動と活躍できる可能性を説明したり、学生生活を満喫するだけでも一向に問題ない校風も付け加えておいた。
 魎夜はゴーストの脅威とそれから身を守る必要性を語った。小菊の手で両親説得用にも銀誓館学園のパンフレットが配られ、茅は舞亜と再び話した。
 ついでに持ち寄った軽食をつまんで軽くお茶を飲み、対して結花が今度お礼にお菓子を配ると約束した。

 こうしてこの日、8人の尽力で銀誓館学園は新たに4名の能力者を受け入れた。
 世界が新たな時代の黎明を迎えようとしている、とある日の出来事だった。


マスター:水上ケイ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/11/05
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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