<リプレイ>
●海の平和を守るため 洞窟を抜けた先にある海岸線。 秋を迎えて褪せぬ陽が、白い砂浜を青い海原を艶やかに輝かせている場所に、乾いた銃声が響き渡った。 「そこまで構える必要もなかったが……まあ、喰らいな!!」 スーツ姿の地縛霊が弾丸をかわすために仰け反った隙を見逃さず、マオ・イェンフー(その漢トゥーハンド・b73520)が漆黒のトリガーを引いて行く。 新たな銃声が響く中、龍・月華(月華公主・b81443)が慈悲の名を持つ純白の剣を浮かばせ、発射した。 「ばーべきゅーのためじゃ。大人しく消えるが良い!」 右肩に弾丸が食い込んでいくさなか、左肩には鋭き刃が突き刺さる。勢いに押されたか負けじと繰り出された反撃の拳も勢いなく、前衛へと到達する前に空を切っていた。 「これでも、喰らえ!」 援護から攻撃へと意識を切り替えて、瀬河・苺子(絆に導かれて・b77693) が如雨露を振り回す。影のように同じ動きをとってくれる幻の兵が呼吸をする間もなく地縛霊の懐へと入り込み、朧気な如雨露で頬を張る。 よろめく地縛霊の行く先には、無秩序に暴れる九尾の技。鳳・武曲(日本妖狐・bn0283)の想いに従うまま、その頼りなき体を打ち上げた。 「長引かせる意味もあるまい」 すかさず真月・沙梨花(死門封殺の呪を操る者・b56331)が飛び込んで、飛礫をはめた右腕で殴りかかる。 柊・凍夜(影炎の呪剣使い・b70901)が反対側へと回り込み、体の熱に促されるままに炎纏いし拳を付き出した。 吹き飛ぶでも、よろめくでもなく、ただただ歪み燃える地縛霊。されど存在は失わず、今だ抗う様子を見せている。 「さって、滅多に見せない本気の一撃、受けてもらうぜ!」 その意志ごと刈り取らんと、暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・b42300)が右手の炎を左手に雷を生み出した。同時に打ち出せば地縛霊にて融合し、凄まじき爆発を巻き起こす。 砂埃が視界を隠した。 晴れる頃、もうそこに敵はいない。 「無事終わったようだな、お疲れ様」 戦いには加わらず荷物を守っていた妹出・織泉羅(傾国の陽麗姫・b70426)が労いの言葉を投げかけた。 彼らは互いに笑顔で頷き合い、本来の目的を果たすために動き出す。 ――ここに平和は取り戻された。さあ、バーベキューと洒落込もう!
●バーベキューは海岸で 砂浜に組まれた台の上に、苺子はバーベキューセットを乗せていく。炭を放り込んで火を放ち、うちわで風を送って徐々に熱を高めていく。彼女は額に流れる汗をぬぐいつつ、てきぱきと準備を進めていた。 全てはお世話になっているみんなのため。特に、こういう時にいつも頑張ってくれている凍夜やマオのため。 傍らでは、せめて自分の分だけでも……沙梨花が串の準備を行なっていた。 目の前に広げたのは野菜ばかり。己の好みか肉のない、一風変わった装いだ。しかし串を握る手も野菜を持つ手も震えていて、端から見ていても危なっかしい。ちょくちょく野菜の代わりに手を刺してしまいそうな、そんな予感も頭をよぎった。 「……」 怪我も経験と、別所でホイル焼きや焼きおにぎりを準備する織泉羅は首を横に振る。片手間に作った肉入りの串は苺子へと手渡して、網に乗せて焼き始めた。 肉の焼ける心地良い音に誘われて、月華が網の前へとやってきた。 「まだかの、まだかの?」 かぐわしい匂いを嗅ぎながら瞳をキラキラと輝かせる。ついつい伸びそうになってしまう手を抑え、拳を握りしめていく。 「……うん、そろそろよさそう、ですね」 沙梨花の奮闘、織泉羅の活躍も相成って、料理も最初に必要な分は出揃った。故に後は焼けるのを待つだけだからと、苺子が魎夜を呼んでいく。 砂浜から腰を上げ、魎夜は静かに頷いた。仲間たちを呼び集め、全員にグラスを手渡した。 集う仲間たちを見据える瞳に、込めるは一緒に戦って来た皆への感謝だろう。 「それじゃ、始めるぜ。かんぱーい!」 「かんぱーい!」 軽やかにグラスが打ち鳴らされ、高らかなる音色が鳴り響いた!
唇を湿らせた後、魎夜は中寮・琴乃(風花の舞う静謐の乙女・b47782)との談笑に興じていた。武曲は早速といった様子で手を伸ばしたが、狙っていた串を横からかっさらわれて空を掴む。 月華だ。 肉食獣が如く眼を光らせた月華が、一呼吸の間も置かずにかぶりついた。 炭のおかげだろう、火は中までしっかりと通っていて、噛むたびに肉汁が染みだしてくる。振りかけられたスパイスも、肉の味を楽しむための調度良い刺激となっただろう。 「熱いのじゃー!」 だが、ノータイムでの捕食は流石に熱く、舌がひりひりし始める。されど表情から笑顔は消えず、次は少し覚ましてから新たな肉に挑んでいく。 そんな彼女を始めとする面々に遅れる形で、苺子がようやく一本目の、どことなく他のものよりも小さい肉や野菜が使われている串に手を伸ばした。 マオもまた肉、野菜、肉、野菜と串を口に運んでいる。バランスよく食べることが大事だと、ちょくちょく他人の皿に野菜をのせていたりもする。 「……ふっ、こうして怪異を片して食う飯も久しぶりだが、やっぱいいもんだな」 「ええ、本当に……」 一串目を食べ終わり、しみじみと語るマオ。静かに頷き返す苺子。 そんなゆったりとした光景を、凍夜が串をひっくり返しながら眺めていた。 「よしっ」 串の数も減ってきたから、新たな食べ物を並べていく。それは串に限らずホイルや焼きおにぎりなど、織泉羅が用意してくれた者も含んでいた。 新たな香りが立ち上る中、彼は一本の串を拾い上げ武曲の皿にのせていく。 「武曲さんも遠慮なく」 「あ、ああ、ありがとう」 初手を狂わされ、少し手持ち無沙汰だった武曲に食べることを促すため。 感謝の笑顔に、屈託のない笑顔を向けながら……。 「さて……って、あれ、恐ろしく減るのが早いような……?」 彼女を見送り再び網に視線を戻した後、凍夜は串が予想よりも少ないと小首をかしげていく。 顔を上げた彼の瞳に飛び込んできたのは、火花を散らしている月華と魎夜。 「団長、その実力を試させてもらうぞ?」 「俺に勝てると思うなよ、月華!」 「魎夜が負けたら苺子が弟子として仇を討てよ」 「え? 魎夜先輩が負けるなら、わたしが勝てるはずないじゃないですか」 織泉羅の飛ばす冗談に、苺子は顔の前で手を振り苦笑い。 されど織泉羅は気にした様子なく凍夜へと向き直り、事の顛末を伝えていく。 「早食い勝負をするようだ」 「早食い勝負……」 小さく肩を落としたけれど、凍夜の手は止まらない。ならば材料尽きるまで焼き続けると拳を握り、材料に手を突っ込んだ。 「……まったく」 新たな串を並べた頃、織泉羅がため息を吐き出した。 「貴殿は成長期なのだから、しっかり食べておけ。ほれ、あーん」 「え、織泉羅さん? あーん」 無意識のうちに振り返ってきた凍夜にホイル焼きを食べさせて、人心地つけさせていく。 若干気の緩みが伝わったか、はたまたホイル焼きに誘われたか、凍夜のお腹がくぅ、と鳴った。そういえば食べてなかったような……と語る彼を前に、織泉羅はどこか呆れ顔。 「だと思った……ほれ、お前らも食え、交代だ」 「あ、うん、ありがとう……」 傍らでやり取りを聞いていたマオが歩み出て、首尾よく凍夜と交代した。 手際よく串をホイル焼きをおにぎりを並べていき、できたものから順々に食を求めるものに渡していく。 「残すなよ? ほれ。というか魎夜、肉ばっかり食うな、野菜も食え」 もちろん、バランスよく食べさせることも忘れない。あまり食べていない者には残り少ない食品を渡すことも忘れない。 その頃には早食い勝負の決着もついていた。 勝者は熱さを気にせず、熱さすら楽しみ食した月華のもの。からからと屈託のない笑い声を響かせているさまは、見ている者の心を優しい気持ちにさせてくれただろう。 「……あら、そろそろおしまいですね」 そんな折、食べる手を止め材料へと目を向けていた苺子が声を上げた。気づけば、バーベキューの材料が尽きかけていた。 ならば、次はデザートへ。 鎮火の準備を進めつつ、彼らは最後の肉へと取り掛かる。
再び聞こえ始めた波の音。火照った体を癒してくれる浜の風。抱かれし魎夜はクーラーボックスの蓋を開け、アイスを取り出していく。 「脂っこいのも多かったし、締めはアイスだよな。溶けないか冷や冷やもんだったぜ」 残暑の日差し、炭の熱。汗ばむ体に、甘く冷たいデザートは心地よい。魎夜は自分のアイスを取り出した後、武曲に視線を移していく。 「そういや、武曲はアイス好きだったよな。お一つどうぞ」 「あ……うん、ありがとうっ!」 笑顔で受け取り、彼女は口へと運んでいく。 心地良い甘さが、香りが口の中に広がった。 そんな彼女に、迫る影。真ケルベロスオメガの宿儺と戯れていた織泉羅である。 「アイス、いいなぁ。武曲、武曲、わたくしにも一口、な」 「ああ、もちろん!」 「っと、落ち着け織泉羅。みんなの分もちゃんとあるから……」 楽しげに詰め寄る織泉羅に、笑顔でアイスを差し出した武曲。魎夜は苦笑しながらも新たなアイスを取り出して、皆に手渡していく。 楽しく甘く、冷たい時間が過ぎていく。いつまでも、いつまでも……火が消えて、アイスもなくなり、お腹も心も落ち着く、その時まで……。
●柔らかな木漏れ陽の差す場所で 落ち着いた後は、飲み物片手に談笑を。木陰で涼みながら楽しげな声音を響かせていたならば、いつしか話題は戦争のことへと移りゆく。 最初に口を開いたのは、表情の読めない織泉羅。 「関ヶ原の武者が硬かったな。初めて攻撃力上昇のエンチャントが欲しいと思った」 当時のバイトは鋏角衆とも続けられた、ある種の冗談とも取れる内容に、彼らの肩から余計な力が抜けていく。 だからだろう。自然と魎夜が語り始めていた。 よく生きて来られたと。何度も死にそうな目にあったし、どれが印象的な戦争だったとか、そういうことはなかったと。 「でも、みんなとまた会って、こうやって過ごすためって思ったから戦えた気がする。本当に感謝してるぜ、みんな本当にありがとう!」 弾ける笑顔が皆の間にも伝播して、爽やかな笑い声が静かな浜に広がっていく。 誘われるように、沙梨花が頷いて、自分の番と口を開いた。 「無駄を楽しむ事や、良くも悪くも大雑把なのが……銀誓館の強さだと思い知らされて来た気がするな」 一つ一つを慈しまないわけではない。だが、細かいことを気にして動けないわけでもない……といったところだろうか。言葉が消えてしまわぬ間に、彼女は次の話題へと切り替える。 「後は……そうだな。柊凍夜の理不尽な不死身ぶり……血の力ならば真月にも欲しい程だ……妙な顔をしてどうした?」 「え、いや……」 驚いたように顔を上げ、凍夜は言葉を探していく。 見つかる前に苺子が頷いて、静かな声を響かせた。 「凍夜先輩が倒れない姿にも勇気をもらいましたね」 目覚めたばかりの頃は、戦いが怖くて仕方がなかった。今でもそれは変わらない。けれど、皆のお陰で最後まで戦うことができた……そんな感謝を前置きとして……。 ……彼女の言葉が風に乗って消える頃、凍夜もようやく落ち着きを取り戻した。 「いやいや、運良く生き残るだけですから。それよりも」 「運がよい、というだけでも相当だ。それだけでも、私より強い、という一面になるからな」 取り繕うように笑いつつ魎夜へと水を向けようとした言の葉も、沙梨花の無表情な称賛に押され消えていく。 「……そうだな」 うつむき押し黙る彼に助け舟を出すように、あるいは感情が満ちたのか、今まで静かに見守っていたマオが発言した。 本当によく生き残れたと。 「ダチってのはいいもんだよな。お前らみたいなダチを護るために、俺は命張ったつもりだしよ」 初めは土蜘蛛も妖狐も仲間ではなかった。だが、学園に来てからはそんな奴ら共笑って過ごせるようになった。 「……そうだな、私も感謝をしている。既にここにいなくとも、おかしくはない身だからな」 応えるような武曲の感謝に、マオは頷き返して続けていく。 この学園に来てよかったと、ここが俺の故郷だと誇りを持って言えると。 「我儘も言えばランドルフがいれば最高だったんだが、あいつも本望だろうしな。あいつの分まで生きようぜ……」 ……小さな反応を最後に、心地良い静寂が訪れた。 波が一つ、二つと寄せては引いて行くたびに、心が安らいでいくように感じられた。 「……さて、それではそろそろ撤収するとしよう。ゴミはきちんと持って帰るのだぞ?」 終止符が打たれたのは、風向きが若干変わった時。木々のざわめきが音色を変え、陽が若干傾いた時。 沈黙を破った沙梨花に従って、彼らはてきぱきとした動作で後片付けを始めていく。 変わらぬ日差しが見守る中。青い、青い空の下。 海での思い出を胸に抱き、新たな明日を紡ぐため。輝ける未来を、皆と一緒に歩むため。 夏の終わりに、絆を更に深めたから……!
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参加者:8人
作成日:2012/09/14
得票数:ハートフル5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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