<リプレイ>
● 清々しい朝の光が消え、気温が昼へと移り変わろうとする頃、山の中に拓かれた草地に10人が集まって立っていた。 「もう少し待って下さい」 山に登る前に購入してきた大まかな山の地図を開きながら、泉野・終夜(死人だけがお友達・b12019)は時計で時刻を確認し、太陽の高さを参考にして方角を割り出している。 その間、仲間達は陽が暖かくなっているとはいえ、冬の寒さに震えながら、終夜の次の言葉を待った。 事の発端は、柏原・真(ライトブレード・b02453)のさりげない「次、どこへ行くんっすか?」という一言だった。 予報士に言われたとおり、麓にある一軒家を背にしてまっすぐ登り、草地に出た能力者達は、洞穴があるという南の方角が分からなかった。 誰も方位磁石を持っておらず、はっきりとした方角がわからない。太陽の出ている方角が必ずしも南とは限らないため、途方に暮れていると、終夜が特技である理系の能力を使って方角を割り出すことを試みたのだった。 こういうときに、細かな地図があればよかったと、今江・雅鼠(はみょんみょん・b32445)は思った。 地図を肩越しに覗いてみたが、出発点とした麓の民家がどこにあるか分からない。 こうなっては、どうしようもないだろう。 無事、洞穴へ辿り着けるのかと心配するところに、サバイバル知識を活用した隈垣・斗志朗(蒼炎の退魔士・b02197)が、山に描かれている線の間隔を判断して、大体の現在地を終夜に知らせる。 すると、終夜が地図を持って、ある方角へ顔を向けた。 「そ…そっちなのかにゃ?」 かなりの枚数を着込んでいるロキナ・ヴァルキューレ(悪戯好きな白猫・b03820)が、震えた声で尋ねた。 「正確ではありませんが、おそらく近い方角だと思います」 「わたくしが用意しておけば、こんなことにはなりませんでしたわ」 夏目・萌(祈咲ドール・b23622)は責任感の強さから、自分を責めてうつむいた。 しかし、これは誰かが悪いと言うことではない。 幼い姫咲・ルナ(三日月の夢見る桃色しっぽ・b07611)も、そのことを理解して萌の手を取った。 「終夜君が、あっちだって教えてくれたから、大丈夫よ。こういう事は協力してこそ仲間なんだから」 無邪気に笑うルナに手を引かれ、足を踏み出した萌に、クロニカ・エルフォード(昏れる紅・b29198)が「あっ」といって声をかけた。 「そっち、違いますよ」 方向音痴のルナの足が止まった。 そして、振り向くルナにステラ・ハート(歌う御使い・b31399)は笑い声をあげながら、手招きする。 「ちゃんと話は聞かないと駄目ですの。こっちですの」 終夜を先頭に林の中へ入っている仲間の元へ、駆け出すルナにシン・メイフィールド(やわらかな牙・b37067)は「大丈夫かな?」と笑った。
● 林の中へ入り、どれくらい歩いただろうか。 いくつか段差らしき所を見つけたが、洞穴らしい場所は見つからない。 朝早く出発し、陽の暖かい内に片付けるはずだった予定が狂っていく。 誰もが、この方角であっているのかと尋ねたかったが、今は終夜に頼るしかない。 出かかる言葉を飲みながら、周囲の地形に目を凝らしていく。 ある程度まで歩くと、斗志朗が一度草地へ戻ることを勧めた。 これ以上、山の中を歩いても迷う可能性が強く、すでに草地へ戻れるかも危うくなる。 終夜も、もう一度方角を確かめるためにも、草地へ戻ることを承諾した。 他の仲間達に異論を唱える術はない。 仕方なしと、10人は来た道を戻り、眩しい日差し草地へと帰ってきた。 すでに正午を過ぎた太陽は傾き始め、終夜が再び計算へ入る。 その間に寒さに震えていた者達は、日差しの暖かさを借りて体を温めた。 だが、顔つきは冴えなかった。考えたくもない万が一が、頭をよぎる。 しばらく不安な時間が過ぎると、終夜が先程出した方角と、今出した方角を照らし合わせ、より自信が持てる南の方角を割り出した。 今度は、斗志朗が隣でまっすぐに進んでいるかを把握する。 次に見つからなければ、探索は夕方に食い込むだろう。太陽が沈めば、方角を知る術を失う。 10人は、バラバラで進んでいた隊列を、横隊へ変更した。 10人が並んで歩けば、方角の誤差を補って洞穴を見つけることが出来るだろう。 正念場だと、能力者達は林を突き進んだ。
自然と横隊する幅は広がっていった。 仲間の姿を見失わない程度であれば、少しでも離れて段差を探していく。夢中になって探すあまり、離れている仲間がいれば、気づいた仲間が声をかけて呼び戻した。 互いに連携しながら先を進むと、急激な段差のある場所を見つけた。 よく見ると、段差の斜面に穴が開いている。 洞穴を見つけた。 誰もが、胸をなで下ろしたが、安心するにはまだ早い。洞穴があるということは、妖獣がいるということだ。 シンと斗志朗はイグニッションを唱えると、仲間達に目で「任せた」と語り、妖獣が待つ洞穴へと向かう。 固く口を結びながらホイッスルを強く握るシンに、斗志朗は穏やかにほほえみかけた。 「そう固くなるな。俺もできる限りサポートするから。……頑張ろうな!」
● シンと斗志朗が洞穴へ進む間に、8人はイグニッションを済ませ、木の陰を利用して洞穴を囲む位置取りで様子を伺った。 左右と正面に組みを作り、上から妖獣が振ってこないよう、洞穴と距離を保って身を潜める。 妖獣が全員現れるまで攻撃には出ない。 囮となるシンと斗志朗がホイッスルを鳴らすまで、8人は黙ってその時を待つ。 妖獣に気づかれないよう、そっと洞穴を覗いてみると、すでに数匹の妖獣が現れているようだ。 まだか、まだかと武器を持つ手に汗を握っていると、シンのホイッスルが高々に響いた。待機していた8人は木の陰から即座に身を翻して、洞穴へと駆けだした。 洞穴には、ムササビの姿をした4匹の妖獣が、武器で応戦しているシンと斗志朗に体を広げて飛びかかっている。 正面からルナと雅鼠、ステラ。右からはクロニカ、萌。左から真、ロキナ、終夜、そして終夜の使役ゴーストであるスカルサムライが駆けだして、洞穴の入り口を囲むように陣取った。 走りながらステラはヒュプノヴォイス歌い、真はダークハンドを伸ばしたが、移動中の攻撃は思うように当たらない。 再びステラがヒュプノヴォイスを奏でて、一匹の妖獣を眠らすと、軽やかに動きながら身近な能力者へ攻撃をしかけてくる妖獣達に、9人は戦闘の構えをとった。 ヒュプノヴォイスを奏で続けるステラに白燐奏甲をかけるルナの前で、雅鼠は後ろの2人に攻撃が行かないよう、一番攻撃を与えやすい奥義の爆水掌を撃ち込み、両脇では、クロニカがクレセントファングで蹴り上げた妖獣を萌が武器の射撃で追撃し、真と終夜の使役ゴーストが武器で斬りつけたところを、後方からロキナが炎の魔弾を放って、終夜が武器で射撃攻撃する。 小さな体を器用に動かして、全ての攻撃を当たらないようにする妖獣に、洞穴の入り口を塞いでいた斗志朗はフェニックスブロウを放ち、シンは水刃手裏剣を投げた。 妖獣は負けるかといわんばかりに、体を動かして目の前にいる能力者達の足にしがみつく。 膜の下にある針が皮膚に食い込み、妖獣が体を動かすと針が動いて激痛が走る。 思わずクロニカとシンが苦痛に顔を歪めると、攻撃し損なった妖獣は目覚めた妖獣と一緒に次の攻撃へと繰り出そうとする。 「ちょこまかと……うっとうしい!」 萌は魔弾の射手で自己回復するクロニカの背後から武器を構えて撃ち放ち、飛んでくる妖獣の方向をそらした。 すると、一匹の妖獣が木の上に素早く駆け上がり、葉の中に姿をくらました。 雅鼠が水刃手裏剣の構えを上に取ると、正面から真が声を上げた。 「ちょっと待った! 上の妖獣は俺に自分に任せてくれないっすか。ちょっと、やってみたい攻撃があるんっすよね」 頬を高揚させる真に、雅鼠は構えた手を地面の上で動き回る妖獣に投げ放った。 雅鼠にも白燐奏甲をかけ終えていたルナは、シンに白燐奏甲をかけて回復を図る。 「ありがとう」と、ルナに可憐に微笑むシンに、背を預けていた斗志朗がフェニックスブロウを撃ちながら、声をかける。 「無理はするなよ。辛いときは、頼ってくれて構わない」 「ありがとう。でも、誰かが犠牲になるところは見たくないんだ。ここでケリをつけるためにも、騎士の誇りにかけて、滅するよ」 シンは手を合わせて作った水刃手裏剣を放った。 妖獣達は逃げまどいながら、攻撃を続けてくる。 刀を振り上げる使役ゴーストを援護するかのように、終夜は雑霊弾を放った。 「徳四郎じいちゃん、次はゴースト治癒で回復して、あげます」 妖獣の針を受けたスカルサムライは、頷くように前に出て妖獣に刃を向ける。 地面の悪さに足を滑らし、帽子が脱げたロキナは先程と違って好戦的となり、雷の魔弾を掲げ妖獣にどんどん放ちながら、口に冷たい笑みを浮かべる。 「ムササビだがモモンガだが知らんが、自然の理から外れた存在なら、排除するまでだ」 妖獣達は徐々に攻撃をかわす動きが鈍くなり、ダメージを受けて体を転がすことが多くなった。 久しぶりの前衛という位置に、より気を引き締めている雅鼠は後ろの2人の安全を目で確認しながら攻撃を加える。 「姫咲殿とハート殿が集中して攻撃できるよう、余が前を守りきる!」 「いっくよー! 敵さん、私の炎は温泉みたいに気持ちよくないよ!」 ルナが放った炎の魔弾に、妖獣は金切り声を上げる。 一匹が倒れ、続けてもう一匹が倒れた。 残り一匹となった妖獣は、逃げるように木の上に駆け上がって姿を消した。 ステラは、歌うことをやめて、攻撃へと構えを変えた。 上に逃げた妖獣は物音を出さずに潜んでいる。 先程から真がずっと上を見上げているところをみると、先に登った妖獣はまだ木の上から下りていないようだ。 武器やアビリティの構えが上へ向く。 わずかな木の動きに気づいた雅鼠が水刃手裏剣を放つと、妖獣が尖端を下にして飛び降りてきた。 そして、同時に真達の上からも下りてくる。 「こいや! 貴様らが殺した人にはいつくばらせて、土下座させてやらぁ!」 真は、胴をひねり、獣撃拳を振り上げる。 急降下してくる妖獣は膜を利用して体を斜めにして避けるが、次に襲ってくる攻撃は避けきれない。 次々と刃とアビリティが飛んできて、妖獣は針を相手に刺せることなく、地面に落ちる。 もう一匹も、攻撃をくらって、地面に落ちた後、よろめいた体を動かせた。 「悪いことしちゃ駄目ですの!」 ステラは光の槍で刺し貫いた。
● 妖獣が全ていなくなると、攻撃による大きな穴がいくつも開いていた。 斜面にある洞穴の存在など、目に入らないほど派手な戦闘跡だった。 「ムササビって初めて見るから、ちょっと楽しみだったんだけど……結構、素早かったね」 攻撃を回避された名残に、クリニカがのんびりと語ると、萌が微笑んだ。 「一時期はどうなるかと思いましたが、無事に終わってよかったですわ」 「悪いことすると、こういう目に遭うんですの〜」 ステラは消えた妖獣に言い聞かせるように、指をリズムカルに弾ませた。 すると、真がしばらく閉じていた目を開け、合わせていた手を解くと、満足そうに腰に両手を当てた。 「よし、亡くなった人の冥福は終わりっす。仇討ちは完了したから、安心して成仏してくださいっすね」 「成仏してくださいにゃ」 鈴のついた白い猫手袋を合わせて、ロキナが真の隣で祈りを捧げる中、陽が傾き、寒さが下りてきた辺りを、斗志朗は身を震わせて見回した。 「さすがに、冷えるな。そろそろ暗くなってきたし、下山が心配だ」 早く下りるようという斗志朗に、冬の山の中を眺めていた終夜が頷いた。 「また、彷徨うことになっても、陽が消えてしまっては、位置を知ることは出来ませんから」 うそ! と青冷めるステラの後ろで、雅鼠は画材を取り出しながら、一人山の中に残ることを伝えた。 下山を心配する仲間に、雅鼠は筆を画用紙に置きながら微笑んだ。 「この冬の山にある、寂しいながらも美しい風景を見せたい親友がいるんでござる。心配は無用でござるよ。命の大事さはわかってござるから、遭難して死ぬことはないでござろう」 「……それじゃあ、今度、学園で会おうね。絶対だよ」 シンは、親友を思う雅鼠の心を尊重して、下山を促さずに会える約束をする。 後ろ髪をひかれる思いで、仲間達は雅鼠を置いて下山を始めた。 寒い空気に、ルナはポツリと呟いた。 「あったかい春が待ち遠しいな」 濡れた地面が、薄氷を張って音を出す。 草地に辿り着くと、拓けた地から見える空は赤く染まっていた。 「……山を下りたら、温かい物でも食べに行くか? ただし、10人全員でな」 斗志朗の提案に、顔をあげた仲間達は迷うことなく返事を返す。 そして、待っていた仲間達に驚く雅鼠の顔を見るまで、もう少しの時間を要した。
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参加者:10人
作成日:2008/01/31
得票数:カッコいい12
知的1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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