<リプレイ>
●マリオネットハウス 「うわあ、思っていたよりも広いのね! 色々と転がっていて足場が悪いので、転ばないように気をつけなくっちゃ。お人形さんは可愛くて大好きだけど、夜中に目があったら、やっぱり怖い事もあるし、何だか気が抜けないね」 かつて人形師が住んでいた屋敷を訪れ、姫咲・ルナ(桃色仔猫と三日月の子守歌・b07611)が口を開く。 人形師の屋敷は換気がシッカリとしており、湿気が溜まりづらくなっている。 「……人形か〜。可愛い人形だったらいいんだけど、あんまりリアル過ぎてもちょっとね〜。やっぱり人形はある程度デフォルメが、入ってこそだと思うよ♪ ……とまあ、そんなことはともかくとして、ちゃっちゃとお仕事を済ませちゃいますか♪」 能天気な笑みを浮かべながら、霧生・神楽(気まぐれ悪魔・b36332)が廊下を歩く。 廊下にはショーケースが並んでおり、人形が一体ずつ飾られている。 飾られている人形はどれもリアルに出来ており、いまにも動きだしそうな雰囲気だ。 「……薄気味悪い所だ。来る前に聞いた運命予報士の話からして、その人形師ってのがモデル達を殺して……、まさか」 嫌な予感が脳裏を過り、工藤・カイリ(悠久の枷・b05534)が激しく首を横に振る。 途中まで想像してみたのだが、あまりにも気分が悪かったので、考える事を止めた。 「うわぁ……、何だか嫌な想像しちゃったよ……。想像した通りの事があったのなら……、悲しいな。犠牲になった人達のためにも早くに退治して、解放してあげたいね。もちろん……、地縛霊になった女の人も、ね」 青ざめた表情を浮かべながら、紫倉・夜鶴(銀翼の奏唄・b02553)が溜息を洩らす。 人形師の屋敷周辺で女性が失踪するという事件が起こっていた事があったため、人形のモデルとして屋敷に閉じ込められていた可能性が高い。 「つまり人形師がモデルの女性を殺害し、バラバラの身体をモデルに人形を作成したというわけか。殺された彼女らの残留思念は、地縛霊や断たれた身体を求めるリビングデッドと化した。人生を『操り人形のように』いいようにされて破滅させられた怨念が、操り糸の能力を生み出したというわけか」 納得した表情を浮かべながら、木霊・ヒビキ(音使いの牙道忍者・b42488)がボソリと呟いた。 まったく無関係だと思われていたパズルのピースがハマッていき、次第に全体図が見えてきたため人形師に対して嫌悪感すら覚えている。 「まぁ……、何かを極限まで追求する気持ちは理解出来なくも無いけどね。それで悪事に走っちゃあお終いよねぇ……」 ショーケースを眺めながら、リディア・クライトン(妖艶なる剣士・b20049)が呆れた様子で溜息をつく。 初期の作品はどの人形も似たような顔をしているのだが、ある時を境にして個性的でリアルな人形が増えてきた。 「人形って、精巧であればあるほど……その虚ろさが際だつような。地縛霊になったのも、モデルのひとなのかな? 糸を切る事で、解き放たれれば良いのだけど……」 頭に括りつけたライトを照らしながら、風祭・彩香(閃紅旋禍・b37371)がショーケースに視線を送る。 一瞬……、人形と目が合った。 まるで何かを訴えているかのように見開かれた瞳。 半開きの口から今にも言葉が漏れそうである。 そのせいで美しいという印象よりも、不気味であるという印象の方が勝っており、だんだん気分が悪くなってきた。 「やっぱり隠し部屋とかあるんですかねー。こういう屋敷のお約束としては、どこかに隠してあるスイッチを作動させて、秘密の地下室へと続く階段を出現させたりするんですが……」 警戒した様子で辺りを見回しながら、允雪・守元(蜘蛛に踏み入る刃・b16983)が壁をコンコンと叩く。 だが、まったく手掛かりがない状態で探しているため、それらしき部屋を発見する事は出来なかった。 「それなりに有名な人形師だったようだからな。モデルになりたい奴は山ほどいたはずだ。その中から居なくなっても怪しまれない人物を探せばいいのだから、人形師にとっても最高の環境だったのかも知れないな」 不機嫌な表情を浮かべながら、天風・冬夜(黒キ剣・b11999)が拳を握る。 人形師が有名になり始めたのは、ちょうどこの辺りで行方不明者が増え始めていた頃。 もしかすると人間の身体を理解した事で、リアルな人形を作りだす事が出来るようになったのかも知れない。 「なるほど、優れた人形師だったのですね。生前にお目に掛かりたかったものです。……もっとも、モデルにした女性をどうしたのかによりますが……」 険しい表情を浮かべながら、多々羅・瞳(蹈鞴姫・b05660)がイグニッションをする。 それと同時にショーケースにヒビが入り、リビングデッドと化したモデル達が飛び出した。 「やらなきゃ。……犠牲者を眠らせる為にも」 凄惨な光景を目の辺りにして嘔吐し、セシェム・シストルム(中学生ナイトメア適合者・b17883) がリビングデッド達を睨む。 それに合わせてリビングデッド達が唸り声をあげ、一斉に襲い掛かってくるのであった。
●リビングデッド 「まるで操り人形のようなのだ。彼女達を忌まわしい呪縛から解放するためにも頑張るのだ」 旋剣の構えを発動させながら、青樹・辰子(腹ペコおおじゃのかぜ・b27912)が気合を入れる。 リビングデッド達の身体はバラバラにされおり、バランスを取るようにして、別の女性の身体が縫い合わされていた。 そのため、遠くから見ると美しく見えるのだが、縫い合わされた部分が化膿しているせいで、ジュクジュクと嫌な音を立てている。 「術式、起動〜♪」 魔弾の射手を発動させながら、神楽が少しずつ間合いを取っていく。 だが、リビングデッド達がウロついている廊下があまりにも狭いため、うまく連携を取らなければ仲間達同士でぶつかってしまう。 「ここじゃ、戦いづらいから、どこか広い部屋に移動しよう」 リフレクトコアを展開しながら、セシェムが食堂に転がり込む。 食堂には何十人も座って食事が出来そうなテーブルが並んでおり、それぞれの椅子に女性の名前が書かれている。 「まさかと思うけど……、ここにある椅子って犠牲者達の……」 そこまで言って、辰子が気まずい様子で口を噤む。 その間にリビングデッド達が食堂に傾れ込み、テーブルや椅子を倒して能力者達に襲いかかってくる。 「蟲さん、皆を守れる力が欲しいの……」 キラキラと蛍のような光を纏って白燐奏甲を発動させ、ルナがリビングデッド達との間合いを取っていく。 しかし、リビングデッド達は倒れたテーブルを踏み台にして飛び上り、腕が引きちぎれる勢いで殴りかかってくる。 「何だか心が痛みますね。彼女達だって犠牲者なのに……」 険しい表情を浮かべながら、瞳がロケットスマッシュを放つ。 そのため、リビングデッドが派手に吹っ飛び、転がるようにして暖炉に突っ込んだ。 「だからと言って、このまま放っておけば、余計に彼女達を苦しませる事になるわ。辛いかも知れないけど、やらなきゃ駄目なのよ」 仲間達に言い聞かせるようにしながら、彩香がライカンスロープを発動させる。 それに合わせてリビングデッド達が牙を剥き、パラノイアペーパーの餌食になった。 「小さなルナちゃんだって頑張っているのに、年上のオレがびびってどうするのさ!」 一気に気持ちを切り替えながら、セシェムがナイトメアランページを放つ。 次の瞬間、リビングデッド達の関節部分が千切れ、這うようにして能力者達に迫っていく。 「……さよならなのだ」 リビングデッド達に別れを告げながら、辰子が旋剣の構えで強化した黒影剣を叩き込む。 その一撃を喰らってリビングデッドが血反吐を吐き、床に顔を押し付けるようにして動かなくなった。 「……終わったわね。わたし達が来なければ、永遠に覚める事のなかった悪夢の夜が……」 少し寂しそうな表情を浮かべ、彩香が深い溜息を洩らす。 本当ならリビングデッド達の動きを覚え、スケッチに纏めておこうと思っていたが、戦っているうちにそんな気持ちも消え失せた。 「今頃、みんなは特殊空間の中か〜。無事に帰ってくるといいね〜」 仲間達が向かった部屋を眺め、神楽がのほほんと口を開く。 特殊空間にいる間は援護する事が出来ないため、仲間達が無事に帰ってくるまで待つしかない。 それまでのんびりしているわけにもいかないので、犠牲者達の亡骸を集めて手厚く葬る事にした。 「モデルさんに選ばれたくらいだから、美人さんだったんだろうね。皆を元に戻す事は出来ないけど、せめて人間らしく、魂は天国に行けるといいね。ココロのない人形みたいに、ずっと彷徨っているなんて悲しいもん……」 犠牲者達の冥福を祈りながら、ルナがゆっくりと両手を合わす。 ようやく呪縛から解放された事で、彼女達の死に顔はとても安らかであった。 「モデルを殺したのは、人形師なのかそれとも別の誰かだったのか? 今となっては分からないけど……このリビングデッド達の事を……、自分の求める道が時として他人の道をも飲み込んでしまう事を……、忘れてはいけないのでしょうね」 今にも泣きそうな表情を浮かべ、瞳がポツリポツリと語っていく。 少なくとも彼女達の求めていた未来は、こんな姿になる事ではなかったのだから……。
●地縛霊 「どうやら、ここが人形師の部屋のようですね。さて、行きましょうか。……葛城さんはくれぐれも前に出ないように」 ……数分前。 守元達は人形師の部屋を辿りつき、ゆっくりと足を踏み入れていた。 人形師の部屋には沢山の人形が山積みにされており、すべての窓が閉められているせいで月明かりすら入ってこない。 しかし、どこかに地縛霊が潜んでいる事は間違いないので、葛城・未織(高校生土蜘蛛の巫女・bn0081)に対して警告しておいた……はずだった。 「ま、まさか!?」 ハッとした表情を浮かべた瞬間、守元はわけも分からず吹っ飛ばされた。 その場所にいたのは、未織のみ。 つまり未織の拳から放たれたパンチによって、守元が吹っ飛ばされたというわけである。 もちろん、それは未織の意思ではない。 目には見えない糸が両手両足に絡まり、未織を操り人形にしていたのだから……。 「そうやって、また操り人形を増やすつもりかよ! そいつもあんた達と同じに、悲しむ家族や友人が大勢いるんだぞ!」 不機嫌な表情を浮かべながら、ヒビキが地縛霊を叱りつける。 しかし、地縛霊の心に彼の言葉は届いておらず、まるでピアノを弾くようにして未織達の身体を操った。 「……説得しても無駄なようだね」 霧影分身術を発動させながら、夜鶴が未織の攻撃を避けていく。 地縛霊の操る糸は目で見る事は出来ないが、凄まじい殺気を放っているため気配で分かる。 そのおかげである程度の場所を特定する事が出来るため、ナイフを構えて見えない糸を切り裂いた。 「俺は……、少なからずてめぇに同情していたんだ。それなのにてめぇはその手を払いのけた。二度とこんな悲惨な事件が起こらないようにしなきゃならねぇのに……。被害者であるはずのてめぇが、加害者側に回ってどうするんだよっ! それじゃ、人形師と変わらねぇよ」 すべての怒りを歌に込め、ヒビキがブラストヴォイスを放つ。 その一撃を喰らって地縛霊が表情を強張らせ、ほんの一瞬だが攻撃の手を休めた。 「……狙い撃つわよ」 仲間達に合図を送りながら、リディアがクロストリガーを放つ。 それに合わせて皇・紫苑(常世乃姫・b21018)が光の十字架を放ち、蜘蛛の巣状に張り巡らされていた糸を切断した。 それに合わせて地縛霊が再び糸を出現させようとしたが、マイナ・レインドール(銀月蒼華・b38041)の放った炎の魔弾を喰らい、操り糸ごと全身を魔炎に包まれる。 「未織を助けるのなら、いましかないな」 旋剣の構えを発動させながら、冬夜が地縛霊の気を引いた。 その間に仲間達が次々と糸を切断し、操り人形と化した未織の救出にむかう。 「……ごめん。痛いだろうけど、我慢しろよな……!」 未織に詫びを入れながら、守元が装備した赤手で糸を切っていく。 そのたび未織の悲鳴が響いたが、気にせず絡みついた糸を切り裂いた。 「あんたの気を頂くよ……!」 地縛霊の懐に潜り込み、カイリが生気吸収を炸裂させる。 それと同時に地縛霊の悲鳴が辺りに響き、みるみるうちにやつれ果てていく。 「我が一撃は漆黒―漆黒の旋風―」 見えない糸を切り裂くようにしながら間合いを詰め、冬夜が捨て身の覚悟で地縛霊に攻撃を仕掛けていく。 そのため、地縛霊は能力者達を操る事が出来ず、悔しそうに唇をグッと噛む。 「うおぉぉ!」 雄叫びをあげて地縛霊に迫り、カイリが紅蓮撃を炸裂させる。 次の瞬間、地縛霊の身体が魔炎に包まれ、断末魔を上げて特殊空間もろとも消滅した。 「どうか、どうか……、人形と一緒に静かに眠ってくれればいいな」 祈るような表情を浮かべながら、夜鶴が山積みにされた人形の山に視線を送る。 そこには追い潰されるような形で人形師が倒れており、何かを訴えるかのようにアングリと口を開けていた。 しかし、その口から言葉が漏れる事はなく、人形師の両目は焦点が定まっていない。 「でもなんか物足りないわ……。ちょっと悪戯しちゃおうかしら」 含みのある笑みを浮かべながら、リディアが未織の背後に回る。 そのため、未織が『きゃっ』と小さく悲鳴を上げたが、気にせずマッサージをし始めた。 「うふふ♪ 直ぐに気持ち良くな……あら? ……なんだか眠く……」 狼の如く瞳をギラギラと輝かせ、リディアが舌なめずりをする。 それと同時に強烈な睡魔が彼女を襲い、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。 「……お騒がせしました」 ヒュプノヴォイスを使ってリディアを眠らせ、紫苑が未織にペコリと頭を下げる。 そのため、未織がキョトンとした表情を浮かべ、思わず『はい、ご苦労様です』と答えを返す。 「それじゃ、リディアさん。帰るよ……」 呆れた様子で溜息をつきながら、マイナがリディアをズルズルと引きずっていく。 そして、能力者達は疲れ果てた様子で、廃墟と化した人形師の屋敷を後にするのであった。
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参加者:12人
作成日:2008/06/03
得票数:楽しい8
カッコいい2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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