≪銀誓館学園天文部≫ワカメと涙と身長差


<オープニング>


 関東某所、その海岸は砂浜も無く岩だらけの海岸だった。
「おかしいのぅ」
 満潮時はその岩肌を隠すほどに水面が上がり、干潮時はゴツゴツとした磯の岩が剣山のごとく一般人の侵入を拒む。そんな海岸に1つポッカリと開いた横穴、響くのは龍宮寺・命(竜宮の小姫・b00182)の訝しげな声だ。
「ここが……魔物の口かえ?」
 蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)の口にした名で地元の住人に呼ばれる洞窟は、満潮時には水面に隠れその姿を見せず、干潮となり波がひいた時だけ姿を現す。天井までの高さは約130cm。足元には波に運ばれて置き去りにされた海草群。普通の大人ならしゃがむか夜つんばになりたくなるような高さの洞窟、のはずだった。
「そんなに天井低くないみたいなの」
 姫咲・ルナ(桃色仔猫と三日月の子守歌・b07611)が見上げる岩の天井は随分高い。
「おかしいな、入り口くぐった時はこんなに高くなかったよね?」
「妾達の計画が〜」
「智成さん、随分頭ぶつけてましたし」
 首を傾げた乾・舞夢(肉じゃが悪魔・b18048)の言葉にいかにも残念そうな声が続き、更に続く北脇・千里(ゆめのまもりて・b41171)が洞窟に入ったばかりの光景を思い出し、正面の天井にぶら下がる海藻まみれの大きな影を見つけ、確信する。
「ああやっぱり。気のせいですね、ほら天井がせり出して……」
 気のせいだったと能力者達の何人かが思った。が、残念ながらそれは障害物では無かったのだ。
「ワカメですにゅう!」
 苦心して入り口をくぐっていたせいで最後尾になっていた笹木・智成(桜夜風・b00626)の方を振り向き、リューン・クリコット(天然無害のわんこ・b22495)が叫ぶ。
「それはいつものこ……」
 仲間の声に首を回らせた島宮・火蓮(ブラッドカバー・b01973)もふざけようとして言葉を失った。イグニッション状態の智成が天井の一部だと思われたものの伸ばした海藻触手に絡み捕られていたのだから。
「まさか地縛霊の特殊空間?」
「うぅ……」
 そう言えばさっきから妙な感覚を感じていたようなと数人の能力者が思い返す暇を与えず、苦しげなうめき声と共に何かが地に擦れる音が聞こえてくる。
「じ、地縛霊なのじゃ!」
 水を吸って醜く膨れあがった複数の人型は言わずとも分かる鎖を身体から生やし、能力者達へ向けて迫ってきた。避けられないワカメだらけの戦いが、始まる。

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参加者
龍宮寺・命(竜宮の小姫・b00182)
笹木・智成(桜夜風・b00626)
島宮・火蓮(ブラッドカバー・b01973)
姫咲・ルナ(桃色仔猫と三日月の子守歌・b07611)
乾・舞夢(肉じゃが悪魔・b18048)
リューン・クリコット(天然無害のわんこ・b22495)
蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)
北脇・千里(ゆめのまもりて・b41171)



<リプレイ>

●ワ カ メ
(「ま た ワ カ メ か !」)
 笹木・智成(桜夜風・b00626)は怒りに身を震わせる。もちろん震えるだけで済ませるつもりはなかったが、身体をワカメのような触手に拘束されていては身動きがとれない以上、仕方がないのだ。
「いいワカメが悪いワカメにつかまっちゃったんだよー!」
(「やはり智成の髪の毛はワカメなのじゃろうか、でも口に出したら怒るしのぅ」)
 乾・舞夢(肉じゃが悪魔・b18048)が簡潔に間違ったあらすじを披露していたりしたとしても。
「大丈夫、智成捕まってるから、ワカメって言ってもグリグリされぬのじゃ♪」
 あらすじを聞きつつ横で考え込んでいた龍宮寺・命(竜宮の小姫・b00182)が何かに気づいて弾かれたように顔を上げ、得意げに楽しそうにその言葉を口にしたとしても。
「智成お兄ちゃんを助けるのですにゅー!」
「ワカメを倒してワカメ殿……ではなく、智成殿を救うとは、なんとも不思議な気分じゃの」
 リューン・クリコット(天然無害のわんこ・b22495)の後に続く蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)が発した言葉にさえ今は耐えるしかない。そう、今は。
「わかめに好かれるってすっごいことですよね。きっと宝くじに当たるよりも難しいくらい」
(「後で蹴る」)
 決意を心に秘め、フォローなのかフォローでないのか分からない北脇・千里(ゆめのまもりて・b41171)の言葉にこめかみの当たりを引きつらせつつもただ耐える。
「ワカメも昆布も好きだけど、なんだか今回は雰囲気が違うのね」
 多分妖獣の方を指してのものだと思われる姫咲・ルナ(桃色仔猫と三日月の子守歌・b07611)の言葉にさえちょっと反応してしまうほどに苦難の時を。
「わあ、私の身長が2番目に高いですって! こんなの普通の依頼だったらありえないわね!」
 一方、島宮・火蓮(ブラッドカバー・b01973)は目を閉じて自身の言葉を思い出していた。
「あ。でも2番目に身長が高かったら、笹木くんの次は私が狙われちゃうのかしら? うふふ、身長が高くて困っちゃうわね」
 目を開けて嬉しそうに微笑むあたり、既にゴーストが現れていることを失念してるのではと突っ込みたくなる気もするが、きっと気のせいなのだろう。
「ワカ……智成殿の為にも、一刻も早く智な……ワカメを退治せねば!」
 二度咳払いを交えて何かを誤魔化してはいたが、ゴースト達を倒すべく決意を声にする能力者が居て。
「うわ出た、きもいー!」
「いやー! ぶよぶよさんがこっちに来るよ!?」 
 ゆっくりと這い寄ってくる地縛霊達に悲鳴をあげる能力達が居るのだから……あれ?

●誤字? きっと仕様です
「とにかく、ここはお姉さんらしく、しっかりしたところを見せてやろうじゃないの!」
「フィールドを張ります、頑張って下さいっ」
 火蓮の速さに翻弄された地縛霊が三日月型の後を胸に刻まれて仰け反るのと、千里の展開したバリアが仲間達を包み込んだのはほぼ同時。
「皆、頑張ってですにゅー」
 更に、リューンが踊る舞がワカメ触手による拘束を緩めさせ、智成は命のお株を奪いつつワカメ触手の中から「ぬ毛出」した。
「ワカ……ともなり先輩ー。頑張って耐えてー。もしくは語りかけて改心させるとか! ある意味同じ仲間的に!」
「……智成せんぱい、ふぁいとです。その運と能力を生かして宝くじ買って下さい」
「すぐに助けるから、同化するでないのじゃ!」
 何だかフリーダムな仲間達の声怨を受け、素早いフットワークを発揮して智成が肉薄すれば、貝妖獣は思い知ることになる。哀と怒りと悲しみを。
「ワカメみてーなもんくっつけんじゃねーよ! 嫌がらせか!」
 三日月の軌跡に沿って殻が砕け、内部にあった肉を裂き、ほとんど両断された妖獣は特殊空間の地面に落ちると二度ほど蠢いた後、力尽きて消えて行く。
「命ちゃん、あわせるよっ」
「みな用意は良いかぇ? せぇ〜のっ・雑霊弾ー!!!」
「ええい、寄るでないーっ!」
 また、妖獣のうち一体が早くも戦線離脱を余儀なくされた前方では醜く膨れあがった地縛霊の身体に気の塊や炎を纏った魔弾が突き刺さっていた。舞い上がる炎を突き破るように弾けるのは黒燐蟲達。
「うぐげぇがががっ」
 地縛霊は意志に関係なく短いダンスを強制的に踊らされ、連携からの集中攻撃に先頭にいた地縛霊の接近が一時的に停止し、迦葉が放った暴走黒燐弾の余波を受けた二体目の速度も若干鈍る。
「教授、やっちゃってーやっちゃってー!」
 畳み掛けるべく肉薄した教授の振るう死神の大鎌が、ふやけた腐肉のような地縛霊の体躯を連続で斬りつけ傷を増やす。それでも地縛霊が倒れなかったのはぶよぶよの巨体故に耐久力が高いからなのか。
「がっぐぐぅぁぁ……」
 何にせよ、攻撃を耐えきった地縛霊達は生者に向けての匍匐前進を再開する。
「いやー! 恐いのー!」
「こ、怖くなんて無いのじゃ!」
 意味不明の声をあげつつ這い寄ってくる姿にルナが悲鳴をあげた。後衛故に直接の攻撃に晒されるとは考えにくい位置取りだったが、恐いものは恐い。能力者の悲鳴やら叫び声やらが響く特殊空間でゴースト達の反撃が始まった。

●抱擁の恐怖
「気持ち悪いのじゃーっ、離れるのじゃー!」
 瞳に涙を貯めて暴れる迦葉の足を掴んだ地縛霊は、捉えた能力者自身を杖のように使って立ち上がり、組み敷した。ダメージを差し引いても喰らいたくはない攻撃だった。実際の死体でない為か臭いがしないのはせめてもの救いだが、どアップで地縛霊の顔を見てしまった衝撃はいかほどのものだろうか。
(「でも、天井も気になるのね」)
 もちろんこの間に後方でも妖獣達の反撃が再開されているのだが、ワカメは空を貫くばかり。
「今、癒しますにゅー」
 最後の一本が再度拘束に成功するも、赦しの舞と拘束された能力者が十秒を越す拘束を許さず、能力者達は再度反撃に移る。
「消滅しろ!」
「ほ、ホラーは退散して下さいっ」
 リフレクトコアを呼び出し身構える千里の視界で再度突撃した火蓮が地縛霊に蹴撃をたたき込み、他の仲間が続いて攻撃をしかけて行く。
「ルナちゃん、あわせるよっ」
「醜いものは、私の虫さんのキラキラで浄化してあげるっ」
「ほらっ! さっさと成仏しちゃえー!」
 夢幻と夢現、二つのガンナイフをルナの白燐蟲が包み、舞夢の撃ち出した気の塊が地縛霊へと突き刺さり、貫いて大穴を穿つ。
「教授!」
「タマ!」
 主人達の声に進み出た二体の使役ゴーストが瀕死の地縛霊へ肉薄した。死神の大鎌が一閃し、崩れ落ち行く地縛霊を二体目まで巻き添えにする形でパチパチと弾ける火花が灼く。
「ぅ……それにしても、這いずってくる水死体は気持ち悪いのじゃ……」
 迦葉は光の粒と化し霧散する地縛霊を眺めながら顔をしかめてポツリと呟く。地縛霊の数は後二体、火花や呟きと共に放った暴走黒燐弾を突き抜け残りの二体も肉薄しつつあるのだ。
「あ゛ーーーーーー!!!」
 すぐ前の能力者が再び地縛霊に組み付かれ、命は絶叫する。標的がそんなに大きくなかったせいか、肩越しに虚ろな視線とぶつかってしまった。前衛をしっかり配置したせいか、後衛に攻撃が届くことは無さそうだったが。
「やっぱ怖いのじゃ! タマー!!」
「もきゅ!」
 気色悪さ満点の組み付きを解いた地縛霊の顔面に雑霊弾を撃ち込みながら、モーラットを呼ぶ声と主人への返事が特殊空間内に響く。
「てめぇの相手は俺だっての。刻んで焼いて食っちまうぜ?」
「炎で焼けたら、美味しくパリパリに……なりそうもないね」
 後方からは、妖獣を挑発し惹きつける智成の声とと共に鈍い音や何か濡れたものが空を切る音が響き、先頭の継続を他の能力者達に伝えていた。もちろん、多数をほぼ一人で相手にするだけあって疲弊も相当のもののようだったが。リューンだけでなく数人の手が回復やフォローの為に後方へ回ることも多々あり、このフォローがなければおそらく後方のワカメに襲われていただろう。
「こ、こっちこないで下さいっ」
 駆け抜けるナイトメアの馬蹄が背に叩きつけられ地縛霊達は緩慢に仰け反る。考えてみれば匍匐していると言うのは至極踏みやすい。
「ボクの敵じゃないねっ!」
「ぜ、ぜ、ぜ、全然怖くなかったのじゃ! だいっ嫌いなのじゃ!!」
 更に気の塊を連続でぶつけられ、数度弾んで動かなくなった地縛霊へ、二人の霊媒士が言い放つ。一人は得意げに、一人は涙目で。回復に攻撃を裂かれた為、火力の減っていた能力者達が二体目の地縛霊を打ち倒したのは三十秒ほど後のこと。
「笹木くんが気になるし、畳み掛けるわよ?」
「にゅ、ボクも合わせますにゅ。光の一撃ですにゅー」
「海草は海草らしく海に沈んでろ!」
 三日月の軌跡の中央を貫くようにエネルギーの槍が醜悪な体躯を貫き、ほぼ同時に後方で硬い物の砕ける音が響く。二体目の妖獣が力尽きた瞬間だった。
「……しかし、地縛霊が全滅したら特殊空間が消えてしまうんではないのかえ?」
 勢いに乗って、連続攻撃によろめく地縛霊へ追い打ちをかけようとした能力者がふと気づき口に出すと。
「「あっ」」
 他の能力者達の声がハモる。言われてみれば、ここは特殊空間だった。
「ぐげぇぇっ」
 ただ、言葉を口にしつつも胡弓からでた衝撃波に跳ねた最後の地縛霊は倒れ込んだままぴくりともせず。
「ともなり先輩ー、もし当たっちゃったらごめんねー」
 前面の敵を倒し終え、舞夢が後方を振り返ったところでピシッと虚空に亀裂が走った。
「やっぱり不思議なトコなのね」
 予想通り崩れ始めた特殊空間の中首を回らせた一人の能力者は、生き残った妖獣達が特殊空間の崩壊に巻き込まれ消えて行くのを目にする。これでは倒す必要もない。結果オーライと言うことなのだろうか。
「ふぅ、やれやれじゃぜ」
 ともあれ、ゴースト達を倒した能力者達は危機を脱したのだった。

●勝利と新たな危機
「いぇーい♪」
「勝利のポーズなのじゃ!」
 舞夢とハイタッチで勝利を喜んだ後、命達は打ち合わせておいたらしいポーズを決める。
「にゅぅ、水死体さんが気持ち悪かったですにゅぅ……」
「ぶよぶよ死体の組み付きは……やです」
「伝説には、ロマンチックなものも多いのに。ワカメだらけに、ぶくぶくのゴーストさんなんて!」
 何処か沈んだ調子で言葉を口にしたリューンと千里の隣でルナも憮然としていた。寄せては返す波の音が何処かもの悲しい。
「ああ、ワカメだらけの依頼だったわ……でもこれで退治完了ね」 
 小さく頷いた火蓮はふと顔を上げて微笑み、何気なく振り返る。
「って、あら。まだ残ってた?」
 そこにいたのは今回最大の受難者。後頭部を押さえ蹲っていたのは頭でも打ったのだろう。特殊空間でなくなった洞窟は天井が低かったのだ。おかげで天井にこびりついたワカメ髪に絡まって凄いことになっていたが。
「恐ろしい敵だったよ……」
「しかしまた、第二第三のワカメ妖獣が出るとも限らぬ」
 そんなことなど気にも留めず、むしろ当人のつっこみがないのを良いことに言いたい放題の迦葉達。
「ともなり先輩がいる限り、第二、第三の悪のワカメが……」
「いつか智成殿のワカ……髪が脅威となる日も、来るともしれぬのぅ……」
 潮風の吹き込んでくる出口を眺めながら、何やら勝手に締めくくり始める。
「にゅぅ、せっかく海まで来たので少し遊んでいくですにゅー」
 楽しげなリューンの声は、どうやら気を取り直したと言うことなのだろう。
「よしっ、それじゃー遊び終わったらみんな、お食事にでもいこー♪ 今日は面白かったから、ボクがおごっちゃうよー♪」
 舞夢も頷きの後に一つ提案してにっこり微笑む。
「もちろん、締めはワカメスープでっ」
「……て、め、ぇ、等ぁぁぁ!!」
 ようやく後頭部強だから立ち直った智成が吼え、戦闘開始時の決意を実行に移すべくターゲットへ向けて駆け出した。
「ワカメが怒ったのじゃ」
「きゃー」
 楽しげな笑い声と共に追いかけっこが始まる。終わるのは、目的が果たされた時か追う方がバテた時だろう。
「それにしても、智君てばワカメさん……もとい妖獣にまで好かれるなんて。人気者だね♪」
「……髪パーマかけんのやめっかな……」
 追跡者へにっこり笑ってかけられた声に脱力した時という想定外の選択肢も用意されては居たようだが。
「……お風呂入りたいです。それから、帰ったら牛乳を」
 千里は呟くと洞窟の出口に向け駆けて行く仲間達に続いた。遊ぶにせよ汗を流すにせよここから抜け出す必要がある。
「ワカメに足を取られたのじゃー」
「濡れてるし、落ちてる海藻で滑るから要注意だよ」
 前方の方では相変わらず追いかけっこが続いているらしい。追いかけっこの決着がどうなるのか、それは当人達でさえまだ知らなかった。
 


マスター:聖山葵 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/07/25
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冒険結果:成功!
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