<リプレイ>
● 皆月・弥生(誰が為にその剣を振るうのか・b43022)は、大きな牛の看板を見上げた視線を下ろした。 「あとは、リビングデッドを待つだけね。目標が現れるまで、隠れて待機だけれど、二手に分かれたらどうかしら」 「クク…ッ、オレはいいぜぇ。どうせ、奴の前後を挟むんだ。正面と背後同士の組み合わせで別れようぜ」 ひひひ…と笑う鬼神・羅刹(鬼蜘蛛・b03553)に弥生はうなずいた。 リビングデッドと一般人の男性が脇道から現れる明確な時間がわからない以上、時間のかかる相談は避けたかった。 「じゃあ、ボクは背後チームだね! なんか、緊張してきたよ」 「僕もだよ。でも、がんばろうね!」 鳴神・裁(風の申し子・b45171)の緊張が移った架月・香夜(小さな愛の戦士・b33959)は、子どもらしい笑顔で裁に語りかけた。 初依頼同士ならではの通じる思いがある。 そこに、仲間に入れてくださいといわんばかりに、桜井・龍華(陰陽秘めし者・b42519)の幼い笑顔が飛び込んできた。 「私も、がんばるのです」 裁と香夜は、うん。と答えて笑った。 弥生が体型を隠すパーカーの後ろに手をまわし、フードを被ると、神宮司・永遠(葬蝶・b38921)が口を開いた。 「彼らが通る脇道は、ここから一番近いところだろうから、出来るだけ近いところに隠れた方がいいよ。見たところ、安心して隠れそうな場所もないし、離れると移動が大変だからね」 裁と香夜、龍華は、「わかったわ」と、答えた弥生についていき、十字路となる脇道を通り過ぎた。 4人を見送ると、桜守姫・神楽(揺蕩う細氷に紡ぐ調べ・b38389)は、脇道から一定の距離を保てるところに隠れ場所を探した。 小学生の身長なら、さほど隠れ場所は困らないが、すぐに走り出せる環境も大切だった。 「ひひ…っ、ビルの間に隙間はねぇからなァ。壁の陰にでも隠れるか」 羅刹が笑うと、ラング・レン(中学生ゾンビハンター・b42710)は微笑んだまま、ずり下がった眼鏡を明かりのないビルの玄関へと向けた。
● しばらくして、脇道から若い少女と背広を着た男性が腕を組んで出てきた。 少女は、薄手のカーディガンを着ている。 リビングデッドだと判断した永遠がビルの陰から出てくると、ラングや羅刹も姿を現し、向こう側からは弥生が歩いてきた。 「ヨォ、コッチこいよ、兄ちゃん。じゃねぇと、後悔するぜ?」 下から覗き込んでくる羅刹に、背広を着た男性は少女を後ろにかばった。 「なんだ、お前達は!」 叫んだ男性は、うしろについた弥生の存在に気づいて息を飲む。 男性を囲むように立ち位置を変えた永遠は、普段は真面目な人物とは思えないあくどい顔で、男性が少女を連れて逃げないよう釘を刺した。 「僕達は、あんたに用があるんだ。あんたさえ大人しく俺達についてくれば、お嬢さんは見逃してやってもいいぜ」 男性の顔色が変わった。 きっと、迷っているのだろう。だが、今一息というところで、不安そうにすがりついていた少女がか細い声を出した。 「一人にしないで…」 男性は少女の細い指を握りしめると、絡んできた若者達に声を荒げた。 「お前達、何の用かは知らないが、ふざけるなよ!」 そういうと、男性は少女の手を取り、羅刹とラングの間へ体当たりして活路を開いた。 体格の差に負けた2人の間をリビングデッドが通り過ぎていく。 「行かせねぇ!!」 羅刹がすぐにイグニッションを唱えて、男性の背にフレイムバインディングを放った。 しかし、炎の蔦は男性に絡まることなく、地面の上で跳ね返った。 赤いムチを飛ばしてきたと思った男性は、走る足を速くする。 4人は、男性を追った。 リビングデッドを足止めさせたいが、男性がいるためにイグニッションさえ出来ない。 遠ざかっていくリビングデッドの背中に、羅刹はもう一度フレイムバインディングを放った。 だが、もともと高くなかった命中率と焦った勢いで、蔦が再び男性からそれる。 弥生は意を決し、イグニッションを唱えた。他の2人もイグニッションを唱える。 このままにしておけば、リビングデッドが人混みの中へ逃げてしまう。 それだけは避けなければと、異変をすぐに感じ取った神楽も後ろを追い、隠れていた3人も追いかけた。 息を止めて全速力する弥生は少女と並び、その横を過ぎると、男性を繋いでいた手に割入って引き離した。 すぐに、仲間達がリビングデッドに刃を向ける。 「サヤ!!」 男性は、少女が若者達に切り刻まれる光景に悲痛な声を出した。 「サヤ、サヤ、サヤァァァ!!」 男性はリビングデッドとの間を裂く弥生とラングから身を乗り出す。 少女を襲う若者の服がさっきと違うこと、見たこともない刃物を持っていることなどどうでもいい。 ただ少女を救いたい。 しかし、ラングと弥生の背中がそれを許さなかった。 サヤと呼ばれた少女はゆっくり顔を上げると、伸ばした両腕をねじらせて鎌を作りあげた。 街灯に照らし出された異形に、男性は言葉を失う。 「きさまら…いったい何者か知らないが、邪魔なんだよ……めんどうだ、その男ともども殺してやる!」 鋭い目つきをしたリビングデッドが、能力者達へ鎌を振りおろした。 神楽は、リビングデッドを牽制しようと、ずっと握りしめていた結晶輪、雪華月を飛ばすと、永遠が男性の腕をつかんで、地面へ転ばせた。 男性が見下ろす永遠に気を取られているうちに、羅刹が背後から慎重に狙いを定めてフレイムバインディングを放った。 呆然としていた男性は、体を締めつけた炎の蔦に驚きもしなかった。 「ごめんなさい」 龍華が武器の柄を男性のみぞおちに埋めると、男性は小さなうめき声をあげて気を失った。 「みんな、お願い!」 裁が後ろに控えていたジンク・ネームレス、白石・可奈、カミーユ・ゴールドに気を失った男性の見張りを頼んだ。 3人は男性に危害が及ばないよう、後ろへ引きずっていく。やっと、気兼ねなく戦える状況に、8人はリビングデッドが逃げないように取り囲んだ。 脇道の十字路を離れてしまえば、一直線の道路とビルという巨大な壁しかない。 「あの男は私の物だ! 返せ、返せぇぇ!!」 男性を奪われたリビングデッドは、大声をあげた。
● 「今だ、行け!!」 永遠が叫ぶと、本来、リビングデッドの背後につくはずだった4人が駆けだした。 神楽と羅刹、永遠は足並みを揃えてリビングデッドの動きを封じるために武器を向ける。 一度に襲ってきた刃に、リビングデッドは低いうめき声をあげるが、3人を振り払うように鎌をはぎ払った。鎌は3人を傷つけ、続けて後ろへまわった邪魔者へも矛先を向ける。 隙のある4人の背中が傷つく前に、笑みを消したラングがロケットスマッシュを放った。 ダメージより気を引くことを優先した攻撃は、その目的を果たしたが、4人で太刀打ちできるほどリビングデッドは弱くない。 すぐに神楽は祖霊降臨を踊ったが、一人単位の回復では間に合わなかった。 弱っていた羅刹に鋭い先端が突き刺さると、羅刹は膝が折って道路に崩れ落ちた。 力が入らない。 だが、限界の体を叱咤して立ち上がると、羅刹は、ひひ…と笑った。 「アンタ、愛されたいンだろぉ? 愛が足らねぇよなァ、足りねぇよ! 今すぐ、オレ様の愛で満たしてヤんよ!」 香夜の赦しの舞が、仲間を包み込む。 陣形を整えた弥生がすかさず奥義の黒影剣を、裁が奥義の龍尾脚をリビングデッドに与える。 「犠牲者は出させないんだからね! ボクの本気を見せてあげるよ!」 前後挟み撃ちの陣形を取られ、リビングデッドは悪態をついた。 神楽と永遠、香夜は仲間の回復に専念していく。 自己回復できる者は自ら回復の手を使うが、与えられたダメージの半分も補いきれない。 ヒールの音を鳴らして駆け込んできたリビングデッドに、羅刹は紅蓮撃を叩き込む。しかし、入れ替わるようにリビングデッドの鎌を受けた羅刹は、抗う力もなく倒れた。 「さあ、次はどいつだ? いっそのこと、お前達の目の前でこいつの喉を裂いてやろうか」 「そんなこと、させません!」 羅刹の髪を持ち上げてのけぞったのど元に鎌を当てるリビングデッドに、龍華は奥義の光の槍を差し込んだ。 悲鳴をあげたリビングデッドは、羅刹から手を離し、龍華を殺そうと走り出す。 ラングは吹き飛ばしを狙ってロケットスマッシュを撃つが、リビングデッドは揺るがない。 裁と弥生が後衛の2人を守るために構えを取ると、リビングデッドの鎌が、香夜の腕に食い込んで動きを止めた。 「お前にまだ人の心があるなら、大人しく滅びろ!」 「人の心? 人にどんな心があるっていうんだよ。人の心っていうのはどんなものなんだよ、教えろよ!」 弥生の言葉に、リビングデッドは裂けたカーディガンから醜い背中の傷跡を覗かせながら牙をむいた。 「お前らこそ、大人しく滅びな。泣いて、叫んで、そして悔やめ!」 リビングデッドの刃が弥生を突き刺し、裁を裂いた。 攻撃の手が足りない。 永遠は攻撃に切り替えるべきか悩む。しかし、一度でも回復の手を休めれば、仲間の次が保証できないことは、戦況でよくわかっていた。 香夜はみんなが倒れないよう、一生懸命願いながら踊る。 裁が鎌に破れると、リビングデッドはまだ意識のある裁の背中を踏みつけた。 「本当に、こざかしい奴らだ!」 リビングデッドは頬の血を拭った。 確実に弱っているだろうが、それは能力者側も同じだった。 龍華はつきるまで光の槍を撃ち込み、弥生は黒影剣を浴びせ続け、ラングも赤鉄で斬りつけていたが、体力が奪われすぎている。 これで、回復に回っている3人が攻撃を受ければ、敗退も視野に入れなければならないだろう。 それならばと、神楽は回復から攻撃の手に変えた。 「敗れるのなら、一斉に攻撃するまでじゃ」 「奇遇だね。僕も攻撃に集中するべきだと思っていたよ。キミ達、どうせ負けるのならリビングデッドに一矢を報いてみないか」 攻撃の体勢を取った永遠は、仲間に声をかけた。 リビングデッドは、負け犬の遠吠えだと、余裕の笑みを浮かべる。 だが、武器を手にする彼らの目は真剣だった。 「さあ、行くぜ!」 ラングが一番攻撃力の高いロケットスマッシュを放ち、神楽が前に出る。攻撃を避けたリビングデッドに神楽の氷の吐息が吹きかけられ、ひるんだ隙に永遠の奥義の黒影剣が切り裂く。 「ワルイコト、しちゃダメだよ!!」 続けて、香夜が狙いを定めて破魔矢を放つと、龍華が光の槍を飛ばし、弥生の黒影剣が光る。 リビングデッドは苦痛に顔を歪めながら、鎌を振るった。 弥生の体に傷が浮かんだが、足下をふらつかせるリビングデッドに先はない。 能力者達の捨て身の攻撃を再び受けたときは、ただの肉の塊へとなりはてた。
● 気を失っている男性を、近くのビルの階段に横たわらせると、動ける6人はリビングデッドの屍を見下ろした。 男性のことを考えると、少女の屍は見せない方がいいだろう。 まして、目の前で攻撃されているところも見られているのだ。 6人は、少女の遺体を脇道とは離れた暗い路地に置いた。 こうしておけば、男性は少女を探しても見つけられず、少女も何かの事件に巻き込まれたというふうに世間が処理してくれるだろう。 そして、気を失っている羅刹と動くことの出来ない裁を仲間達が協力して支えると、裁は悔しくて泣いていた。 弥生は静かに夜空を見上げる。 香夜は、言葉のない空間に、そっと花を置いた。
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参加者:8人
作成日:2008/07/18
得票数:カッコいい3
せつない18
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冒険結果:成功!
重傷者:鬼神・羅刹(鬼蜘蛛・b03553)
死亡者:なし
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