<リプレイ>
●曳く、惹く 「夏と言えば、なんといってもお祭りですよね」 貰ったばかりのうちわで首元を扇ぎながら、軍平は満足そうに目を細めた。まだ昼だというのに途絶えない人波は熱気に溢れ、祭りの序章を紡ぎ始める。 それにしても暑い、とキャップを目深に被り直した壱球は眞風とともにお仮屋を参拝。財布へ突っ込んだ指先が幾枚かの硬貨を探り当てる。 「そりゃ、毎日グラウンドで焼かれてっけどさ。それとこれとは別っつーか」 「なんかこう、太陽に喧嘩売られてるよね」 眞風の手から小銭が離れ、賽銭箱へと吸い込まれていった。願い事はただ一つ「頼りになる男になれますように」。先輩は、と尋ねれば何故か54円を見せつけてくる壱球である。 「『甲子園!』なんつって」 「はは、さすが先輩!」 互いの祭り参加経験を語り合いながら、2人はカキ氷屋を探して歩き出す。真っ白な氷を彩るのは目の覚めるような青と、涼やかな青緑色。 「すごい、遠くまで聞こえるんですね」 紗雫の手にあるうちわもまた、鮮やかな青色をしていた。口元をうちわで覆い、紗雫は和楽器の音色に耳を澄ませる。だんだんと近づいてくるお囃子の旋律にどきどきと胸が高鳴った。 「カリュアとずっと一緒にいれます様に……」 隣から聞こえてきた呟きにカリュアはどきりと胸を弾ませる。何をお願いしたの、と尋ねてくる心はいつも以上に綺麗だった。 「……聞くな」 言うまでもない、という意味で答える。すると心は頬を赤く染めて嬉しそうに笑った。差し出された腕にカリュアはまたしてもうろたえる羽目になる。 「ほら、恋人だし、いいかなぁ〜って……」 手すら繋ぐのが恥ずかしくてここまで袖を掴んでいたのに、いきなり腕と来た。カリュアは散々悩んだ末、けれど……今日くらいは素直になりたかったから。 そっと、心の腕に自分のそれを回す。 「祭りと言えばたこ焼きだよなっ」 ウルと武流の背中には揃いのうちわが帯に挿してある。ウルは武流の言葉を肯定するかのようにこくりと頷いた。相変わらず分かりやすいお〜らがその身から発せられている。多めに買ったたこ焼きは瞬く間に2人の胃袋へと消えた。 「そんじゃ、夜にもっかい待ち合わせな……って、おわっ」 最後の曳っ合わせを一緒に見る約束していた最中、ウルは突然武流に「だきゅ♪」をお見舞いする。 ――銀誓館で出会ったたくさんの大切な人達。その存在にありがとうの意味を込めて。 お仮屋はたくさんの人出で賑わい、あれほど用意されたうちわもすぐに底をつく。ぎりぎりで間に合った透は満足そうな顔でうちわの生み出す風に酔いしれた。 「なんだか得した気分だかねぇ」 後は曳っ合わせの始まる時間まで露店で時間を潰せばいい。目の端にカップルが移る度に複雑な表情を浮かべつつ、透は人波の中へ消えていった。 「おっしゃ、どうせなら参加しねーと損だろ!」 紅蓮の焔を背負った法被に袖を通して、蓮耶は唇の端に笑みを刻む。皆で楽しもうぜ、と引き手を募る蓮耶に応える拳が幾つも上がった。 「合点承知っ!! ここで引かずして何が漢か」 勢いよく拳を突き上げた圭吾はそのままシャツを脱ぎ去り、ねじりハチマキを額に装備。怪我しないようにね、と送り出す人魚の口調は心配というより呆れに近い。 「なんでも手伝いますよ! 宜しくお願いします」 礼儀正しい龍麻達の申し出に地元の人は笑顔で綱を渡してくれた。けれど、さすがにお囃子への飛び入りは難しい。レイジは残念そうにしつつ、太鼓を叩く代わりに綱を握った。 「おっし。武流、準備はいいか?」 「おうっ!!」 途中で武流を引っ張って来た友輝は元気良く綱を取る。何しろ関東最強の祇園祭、参加しないではいられない。 「いくぞーー!」 周りに合わせて翔梧は思い切り綱を引いた。最初はじりじりと、次第にかかる重さが軽くなって行く。曲がり角ではどちらに行くべきか分からず戸惑う事もあった。まるで行く先を定め切れない自分を示唆されたかのようで、翔梧は思わず足を止めてしまう。 「ぬぁっ、ちょっ、足踏んでますよおっさんってば……!」 山車の引き手と言えば屈強な男連中が主戦力。お世辞にもガタイがいいとは言えない圭吾は呆気なく人の群れに沈んだ。 「蓮耶ー!! あたしの分まで気合い入れろー!!」 エルはぶんぶんと手を振りながらカメラを構える。蓮耶の派手な法被はすぐに見つかった。笑顔で山車を引く蓮耶を写真に収めてやりながら、悔しさに地団太を踏む。熱狂するエルの隣で、けれど人魚は逆に温度を下げていった。 「……埋もれるほど、好きなのかしら」 荒々しい男達に揉まれるのが、……そう、浴衣を着た女の子よりも? 脳裏を過ぎった疑問にひどく微妙な気持ちになる。 「おつかれさま」 「ひゃっ!!」 置いていかれた仕返しにもならないけれど、とため息ひとつ。顔に足型をつけて帰ってきた圭吾の頬へと、人魚は冷たいラムネを押し付けた。
●彩りの小店 この街が一年で最も賑わう日。無論、露店の数も他の祭りとは比較にならないほど多い。はしゃぐに任せて恋人の腕をぐいぐい引っ張っていた歌戀はとある店の前で足を止めた。 「どうした?」 「んー……」 尋ねる直矢に返るのは期待を込めた眼差しと、店先に並ぶ玩具の指輪。仕方ないとうそぶいてピンクに光る指輪を所望した直矢は、それを歌戀の指に――左の薬指にはめてやる。 「……男避けぐらいには、なるかな?」 「えっ……」 偶然でも嬉しいと焦っていた歌戀の耳に飛び込んだ意外な言葉。言った本人すら照れて頭をかいている。 「……楼心さんの、バカ」 けれど一方で、恋人の鈍さに拗ねる少女の姿もある。浴衣の桜、その柄と理由に遅ればせながら気がついた楼心はすぐさま自分の鈍さを詫びた。 「ご、ごめんなさい。機嫌直して〜」 そうして沙羅の華奢な肩をぎゅっと抱き寄せる。いつもはそつのない恋人の慌てぶりと浴衣越しに伝わる体温に、沙羅のいじけはものの数秒しか持たなかった。 「楼心さん」 袖を引き、埋め合わせのようにねだった金魚は今、手首に提げた透明な袋の中で紅の尾ひれを舞わせている。 「夏休み最初のプレゼントよ」 片目をつむってみせる楼心の頬へと、沙羅は微笑みを浮かべた唇を触れさせた。 「やっぱり虎さんの浴衣姿のがかわいいよなぁ」 初っ端からの褒め言葉。美津穂は必死で照れが伝わらないよう努力するのだが、そもそも三虎志がそこまで気づくのかどうか。 (「このにぶちんめ」) 市松模様の浴衣を着た三虎志は贔屓目無しに格好良い。露店を端から巡りながら、人波が激しくなって来たのに乗じて手を握る。少しだけ驚いたように目をみはる三虎志に、美津穂は目を逸らしながら呟いた。 「その、はぐれたら困るだろう?」 「え? ああ」 そうだな、と頷いた三虎志が掌を強く握り返して来る。……顔が熱いのはきっと祭りの熱気に当てられたせい。そう思い込む事にした。 「クロエ先輩ッ、いざ尋常に勝負っす!!」 「ふっ、このこわっぱめ。私を誰だと思っていやがる?」 威勢のいい2人連れの正体は方や、射的銃を構えて浴衣の袖を翻す瀟洒な少女。方や、手首に亀の入った袋を提げた金龍を背負う小柄な坊ちゃん。 2人の勝負は苛烈を極めた。クロエの発したコルク弾がキャラメルの箱を撃ち落とした時――遂に勝負が決する。 「よし、それじゃお好み焼きとりんご飴と綿飴とチョコバナナとじゃがバタ奢ってね! でもってアンタは今後、私の弟分決定!!」 「なっ、なんて強欲なんだ……! あ、でも弟は良いかもしれないっすね」 クロエ所望の屋台物を両手に持ちながら、けれど一葉はまんざらでもない様子。 「そういえば、人狼戦線で傷付いたそれもすっかり元通りだな」 林檎飴をかじりながら真面目な話に耳を傾けていた勇人はエーデルトルートの突然の振りに首を傾げた。 「うん? そりゃ、これは買い換えた新品だし……」 「隠さずとも良いぞ。事情は聞いている」 「事情って、お前アレ冗談じゃなかったのか?」 そう、エーデルトートは勇人のヘルメットが彼自身の外骨格であると信じてやまないのだった。皆まで言うな、と勇人を制したエーデルトートは右手を差し出して言う。 「……高峰、お前も大変なのだな。今日は気晴らしに最後まで付き合うぞ」 「人の話全然聞いてないな、エーデル」 手を握り返しながら否定するのだが、エーデルトートが聞く耳を持つ気配はゼロだ。 「あ……」 不意に手を握られて、レアーナは思わず声を上げてしまった。見上げた先にある亮介の顔は自分と同じくほのかに赤い。 「……その、はぐれたら、大変だからさ……」 浴衣姿を褒めてくれただけで嬉しかったのに、繋ぐ手から伝わる体温が胸の鼓動を早めていく。レアーナは勇気を出して、人ごみに飲まれた瞬間、彼の腕にぎゅっと抱きついた。 「うわっ……」 「ま、迷子の呼び出しは嫌ですからっ!」 驚いた声を上げる亮介にレアーナは一生懸命言い訳をする。 「章、これ」 「エア、これ……」 ――15分の間に綺麗な贈り物を探して来ること。息を切らせて戻ってきたアリアを笑顔の章が迎えて、せーので互いに差し出したのは……まったく同じ、星模様のビー玉で栓をしたラムネの壜だった。 きょとん、と互いに顔を見合わせたのは一瞬の事。すぐさま弾けるように笑い合う。 「凄いな。……いや、そんな気はしてたけど」 「ええ、ほんとうに」 偶然ではなく、奇跡と思える確かな想い。唇を交わしながら互いの贈り物を交換する――まるで、鏡写しのように鮮烈な光景。 夜を迎え、祭りは一層熱を上げてゆく。祭囃子は夜天に轟き、華々しい提灯の煌きが人々の笑顔を彩る。宗は満足げな様子で露店を眺め、成章は両手に食べ物を抱えて歩みを止めない。もったいないですから、とひとりごちて気の向くままに手を伸ばす。 「鉛玉……は、入っていないのですよね?」 「うん。ほら、コルクの弾使うんだ」 初めて射的に挑戦するという美鳥の前で、武流は先に自分が撃ってみせる。美鳥は頷き、見よう見まねで射的銃を構えた。武流はわくわくとそれを見守る。 「いきます」 狙うは、花火せっと――! 飛び出した弾は見事景品を射止め、美鳥は嬉しそうな笑みをこぼした。やった、と武流が拍手を送る。 「武流くん、これをどうぞ」 そこへレオナールがヒーローお面を差し出した。ちょっと変わった、角のついたお面だ。 「わっ、まじで? ありがとっ」 レオナールは穏やかに笑い、山車を見学しやすいように武流を肩車してくれる。見えますか、と聞かれた武流は元気に頷いてみせた。
「いちかちゃん、誘ってくれてどうもありがとう」 可愛らしい柄のうちわを口元に寄せ、ルナは発案者の苺花にお礼を言った。 「ううん。皆と来れてボクの方こそ凄く嬉しいよー。あ、カキ氷。皆はどれにする?」 「う〜ん、悩むなあ」 イシャは既にたこ焼きに焼きそば、ソフトクリームを平らげている。 「あっ、射的だヨ! 勝負アル!!」 赤い浴衣にレッドのお面という完全装備。緑鈴の目当ては小さめのぬいぐるみだ。見事射止めた景品は、そのままルナの手へ。 「え、いいの?」 「うん。ルナちゃんぬいぐるみとか好きだったヨネ!」 ありがとう、と顔をほころばせるルナの手には薄桃色の金魚が入った袋が提げられている。 「じゃあ、ボクからは杏飴。おめでとう」 「わーい、やったアルー」 「ていうか、置いてかないでほしーじゃん。ああっ、もう射的勝負終わってるし〜」 宇治抹茶を手にしたイシャは残念そうにしつつも食べるのを止めない。 彼女達が去った後の射的屋で、再び繰り広げられるバトル。真ん中に立った皓は唇をとがらせて周りを見上げた。全員が浴衣に袖を通し、遠目にも目立つ集団である。 「てゆか、私すでに不利じゃん。谷間んなってるし!」 「まあまあ、そこは気合でカバーだぜ」 毛を逆立てる猫のようにわめく皓の頭をくしゃくしゃに撫でながら、直人は銃を構える皐来の横顔を盗み見る。 「……なに?」 「いんや、別に」 にやにやしている直人が気になって、皐来はいったん顔を上げた。けれどすぐに真剣な面差しで再び狙いをつける。 「1番取れた人が勝者だね。勝利の暁には、僕から綿飴一袋を贈呈しちゃおう」 「……綿飴ですって?」 「うん、綿飴だよ?」 何をくれるのかとわくわくしていた雨禅は思わず聞き返してしまう。久は無論、と言わんばかりに笑んだ。そこへ直人の妙な悲鳴が聞こえてくる。 「皐来っ、耳、耳は反則だぜ!」 「先にやったのはそっちだろ? 直人さんのギャグって微妙過ぎ……あ、雨禅さん頑張って!」 深伽さんは……応援するまでもないよな。皐来の予想通り、余裕で白い貝の小箱を撃ち落とした久は、それを皓の掌にぽんと乗せた。 「邪魔する暇もなかったわ……」 雨禅は悔しそうに唇をとがらせて、自分が取った猫の編みぐるみを皓に投げ渡す。くい、と袖を引かれて礼を言われるのかと思えば。 「……リンゴ飴、買って」 マイシスタの願い、叶えないでいられるか。
祭りはいよいよ最高潮を迎え、高鳴る祭囃子が夜の街を支配する。 熱くたぎる夜もこれでおしまいだ。 最後の音が途切れ……静寂が戻る時、祭りの火も消えて行く。
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参加者:47人
作成日:2008/07/25
得票数:楽しい22
知的1
ハートフル7
ロマンティック1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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