<リプレイ>
● 9時が過ぎ、辺りに誰もいないことを確認すると、10人は家の裏を回って小屋へ向かった。 古い木造の扉が、滑りの悪さにがたつきながら開かれる。 四面の壁に、一つだけくりぬかれた入り口へはいり、壁に阻まれているもう一つの空間へ足を向けると、白石・リルカ(の身長が縮みますように・b36401)はうんざり顔で室内を見渡した。 「普段から片付ける癖をつけておけばいいのに。だから、いろいろと探す羽目になるのよ」 大きなビニールの固まりが積み重なり、土で汚れたホースや細長いビニールが丸まっている。無造作に置いているようだが、これでも農家の主人がわかるように置かれている。 手厳しそうな細い目がより細められる中、南雲・レイジ(高校生魔剣士・b47935)は端から順番に部屋の内部をデジカメで写し始めた。 床に置かれている物を中心に、どんどん映していくと、その後ろから仲間達が物の移動を始めた。 「箸より重たいものなんて、持ちたくないなぁ……」 指をくわえながら、相馬・都(たるとたたん・b30620)は、う〜…。と、不満をもらしたが、依頼なのだから仕方がない。重そうなビニールを持つ天瀬・煌輝(蒼天の剣・b47328)と永遠月・光鈴(高校生クルースニク・b47320)、比良坂・銀夜(闇守の蜘蛛・b46598)の邪魔にならないように迂回をしながら、ホースを手に取った。 「戦いやすいよう、入り口に持っていくか…」 ビニールを運ぶ3人は、煌輝があごをしゃくった方へと進路を変える。そして、かけ声を頼りに、ビニールを部屋の入り口の前にドスンと置いた。想像以上の重さに、息切れがする。それでも、すき間が出来ないように置いたビニールをさらに壁へよせた。 「よし。じゃあ、次だな」 煌輝は、まだある薄汚れたビニールの固まりへ手を伸ばした。 光鈴も、汚れた頬を拭い、ビニール運びを続ける。体力に自信のない草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)は、ビニールを運ぶ邪魔になりそうな物から横へよかし、自分が持てるだけの物を持って移動させる。 写真を撮り終えたレイジも物の移動に加わり、妖獣が現れるギリギリの時間まで、行動は続いた。 「あまり不安定な積み上げは危ないので、気をつけろよ」 銀夜は、戦闘中に物が落ちてこないよう、仲間に注意を促す。 「すき間は、なるべくないようにね。特に、隅を重点に置いた方がいいわ」 皆月・弥生(誰が為にその剣を振るうのか・b43022)は、妖獣が物陰に隠れないよう、配置に気を配る。 水鏡・彰(復讐者・b46798)やリルカは、動かせそうな物や、持てそうな細かい物を手に持って周囲を広げていく。 妖獣が部屋から逃げ出さないよう、入り口を特に念入りに塞いでいた久世・冥臥(ネクロプロファニティ・b43689)は、一歩後ろへ下がった。 「こんなものだろう」 煌輝が入り口全体をふさぐように、銀夜はすき間を埋めるようにブルーシートを覆うと、移動が終わった。 「…これで、こちらに有利な状況になってくれたと思いたいですね」 光鈴は、広くなった室内を見回した。 これなら、妖獣を中央に呼び寄せても、なんとか戦える広さだろう。 「明るい小屋でよかったわ」 弥生は用意したカンテラが必要なかったと見下ろしながら、細かな所まで見える部屋に安堵した。 あとは、妖獣を待つだけだ。 10人は、妖獣が現れる音をひたすら待ち続けた。
● カリカリと、壁を削る音がした。 10人に緊張が走る。 どこから聞こえてきているのかと耳を澄ませば、右側の壁からだった。 レイジは、震えている手に気づくと、口を笑ませながら、拳を握り込んだ。初めての依頼に、胸が高鳴る。決して緊張からきているだけではない。例えのない高揚に導かれるように、壁が破られて、4匹のねずみが現れた。 「イグニッション!」 イグニッションカードが封じていた能力者達の力を解放させる。 輝く赤い目と伸びやかな足が、装備をまとった能力者達に挑んだ。 那由他は、大きく吸った息を吐くと、閉じていた目を開けて武器を構えた。
● 「敵を中央で囲むぞ!」 煌輝の言葉に、中衛、後衛に位置づいていた6人が、素早く端へと跳ね上がると、前衛の4人は妖獣を迎え撃った。 「南雲レイジ、いざ参る!」 レイジの奥義、黒影剣が出迎え、煌輝が防御で妖獣達を抑え込む。その間に、弥生と光鈴が妖獣を取り囲むように妖獣の背を取った。 そして、都がダッシュで妖獣の現れた穴を塞ぐ。 「まさに、袋のねずみぃーってやつ? ここからは、逃がさないからねー」 「よかったわね…、都が塞いでくれるようだから、穴を塞ぐ必要はないわ。回復にまわって。間違っても、パチパチは、しちゃだめよ」 リルカは、使役ゴーストのモーラットピュアに優しく語りかけると、使役ゴーストは主人の言葉に従って、深く傷を負った者を舐めはじめる。 妖獣は、噛みついたレイジと煌輝から離れると、チチッと小さく鳴きながら赤い目を巡らせた。 そこに、都がバットストームでコウモリに襲いかからせると、妖獣が動き出す前に、レイジと彰も黒い影を現せる。 彰のダークハンドから逃れた妖獣は、レイジへと向かった。 3匹の牙がレイジの身に集中すると、弥生の黒燐奏甲を受けた那由他が、同じ治癒符でも回復力の強い符を投げ飛ばし、銀夜も、すぐに駆け寄って黒燐奏甲をかける。 自己強化を終えた者から攻撃の構えを取った。 妖獣は、4匹バラバラで動き出した。 2匹は、攻撃ばかりしてくるレイジへと、残る2匹は後ろにいる者達へと向かう。 「うわあぁぁ!」 襲いかかる牙に、レイジは声を上げた。 彰は呪いの魔眼の目を向けたが、妖獣は物ともせず、よりレイジの体に足をかける。 弥生はダークハンドを放ち、都がバットストームを飛ばすと、妖獣から解放されたレイジに、那由他と銀夜がすぐに回復をほどこした。 煌輝と光鈴は、妖獣が前衛をすり抜けないよう、体と武器で強固な壁を作る。妖獣は跳びはねてそれぞれに噛みついたが、思ったより深手にはならない。 妖獣が、身を翻して離れると、リルカと冥臥が爆撃を与えた。 リルカは、奥義の雑霊弾を、冥臥も奥義である雷の魔弾を放ち、被害を抑えるように、妖獣が囲む中心へとよった時を狙う。 「足の長いネズミといえば、トビネズミを思い出したが…これは、そんなに可愛いものではないな」 冥臥は、再び雷の魔弾を放つ構えへと動く。 妖獣は、能力者達の包囲を逃れようと、四方に分かれた。 旋剣の構えの構えを取っていた弥生は、息を飲んだ。 防御も攻撃も間に合わない。妖獣は、弥生の横を通り過ぎた。 「しまっ…!」 すぐに、彰のダークハンドが妖獣の体を裂いた。 「気づいておくべきだったな。獅子は、ねずみを狩るにも全力をつくすのだと」 弥生は、すぐに妖獣の前へ立ち回る。 煌輝も横をすり抜けた妖獣に、ダークハンドを伸ばした。 妖獣によって、人々の生活が脅かされないためにも、今ここで倒さなくてはいけない。 煌輝は、床を蹴って妖獣の前へと向かった。 レイジと光鈴の剣先を逃れた2匹の妖獣は、端に寄せた物の上に飛び上がり、チチチとあざ笑いながらリルカへ振り向いていた。 「可愛いと倒しづらかったけど、憎たらしいから倒しやすいわね」 リルカは、狙いを定めるように武器先を向けて雑霊弾が放つと、妖獣は二手に分かれて駆けだした。 壁の端を走る長い足が、隠れることはない。妖獣が物陰に隠れないよう、大きなすき間は全て埋めたのだ。 冥臥は、妖獣が走る先に駆け上ると、膝をついて行く手を阻んだ。 妖獣は、邪魔だと歯をむき出す。 「…くっ!」 冥臥は噛まれた妖獣を、空いている部屋の中央へ投げ飛ばすように払った。 妖獣は床に落ちると、すぐに起き上がって、長い足を曲げる。 壁に沿って走るもう一匹が、積み上げたビニールなどの上から、跳び上がった。 鋭く細い爪と一緒に妖獣が下りてくる。床の上にいる3匹も、跳びはねた。 「ヒトの世にあらざるモノ。在るべき所へ、還そう」 光鈴が武器を払うと、まるで透き通るように美しい刀身が輝きながら、妖獣を後衛から遠ざけた。 「蟲達よ、癒しの力を与えてくれ」 銀夜と那由他の回復は、わずかな傷も癒し続けて、仲間の窮地を何度も救う。 特に、負傷者の側に行かなくてはいけない銀夜は、周囲の状況を把握しながら、仲間達の動きを邪魔しないルートを手繰っていく。 2匹の妖獣が、高い声を上げて姿を消した。 「もう、ちょっとよ。頑張りましょう」 那由他が、目の前にいるレイジに治癒符を投げると、レイジは黒影剣を振りかざした。 妖獣は、2匹まとまって動き出す。 「ちょろまかと…。おまえたちの苦しみ、ここで終わらせてやる」 煌輝の黒影剣が昼間の空間に浮かぶと、光鈴も同じ暗いオーラを武器と一体化させる。 光鈴を癒した弥生の黒燐奏甲の横を、彰のダークハンドと都のバットストームが妖獣へ追撃した。 「ネズミの血なんて、病気になりそうで、ちょっと嫌だけどー。もう、はじっこへは逃がさないよぉ!」 冥臥やリルカも、妖獣に狙いを定めて砲撃すると、攻撃をまともにうけた一匹が、体を伸ばして姿を消した。 「還れ、その想いの在るべきところに!!」 弥生は武器を高らかに上げる。 光鈴は、愛刀を奮い、レイジは姿勢を低くしたまま、黒影剣をのばして、煌輝も黒影剣の剣先を突きさした。 妖獣は、構えた冥臥やリルカの技をくらうことなく、声を上げながら、その身を無へ変えた。
● 那由他がまだ、傷の癒えていない者へ治癒符を与えようとすると、光鈴がその手を止めた。 「気持ちは嬉しいですが、那由他さん達のおかげで、片付けをするくらいの力は残っています。出来れば、片付けの方を手伝ってもらえたら嬉しいのですが」 見れば、レイジのデジカメに数人が集まって写真を覗き込んでいる。 何か焦っている声音に、聞き耳を立てると、写真は一枚ずつしか表示できないため、一気にビニールなどを元に戻すことが出来ないらしい。 つまり、分担して広範囲の行動が出来ないということだ。 都が腕時計に目を落とすと、農家の主が来るまで、わずかな時間しか残されていない。 「急がなきゃ、あと15分しかないよ。うー重い…! ゴースト退治より、こっちの方が大変かも」 「俺も持つから、無理するな。これは、そっちだな」 煌輝は、都とともに、ビニールを持ち上げた。 イグニッションをしている状態であれば、通常より重い物が運べる。 レイジの写真と指示によって、出来る限り元の位置へ戻していく。 「人に知られずに行う裏方作業も、大変ですね。えっと、これは…」 光鈴がロープを持つと、冥臥がおされた時間に、重いビニールを引きずり出した。 「目立つ大きい物から、片付けていこう。55分までには、おおかた片付けておかないと、間に合わない」 「次は、これだな」 彰もビニールを動かすと、弥生が片付けていた手を止めて出口へと駆けだした。 「外で、人が戻ってこないか見張りをするわ。姿が見えたら、壁を強く3回叩くから、すぐに小屋を去って」 「待って、私も一緒に出るわ…。変身することも出来ないし、早めに外にでておくわ。…手伝えなくて、ごめんなさい」 そういうと、リルカはモーラットを腕に呼び寄せて、ぎゅっと抱きしめるとイグニッションを解いた。 「俺も、ここで外の見張りへ回らせてもらう。大変な仕事を押しつけてすまない…な」 銀夜も手を止めて、すまなそうに言葉を詰まらせた。 「主人にばれたら大変だからな。気にするな」 レイジは、片付けを手伝いながら笑った。 光鈴も下がらせてもらうと、仲間に頭を下げると、3人は弥生と共に小屋へ出た。 弥生には闇纏いがあるため、主人の目にとまることはないが、他の3人は姿を消す術を持っていない。 3人は小屋の入り口とは裏側にある影へと身を潜めて、様子を伺う。 しばらくして、室内で片付けをしている6人の耳に、壁を叩く3回の音が聞こえた。 「仕方ない。これで終わりだ」 冥臥は、手を止めて体を縮めると、猫の姿へと身を変えた。 続けて、都と那由他も猫変身し、他の者は闇纏いを使って、小屋の中で主人を出迎えた。 「な…なんだ、これは。お前らかぁ!!」 入ってきた農家の主人は、散乱したロープやホースに激怒した。 3匹の猫は、ビニールの上を歩き、ひっかき、細いロープを加えて放り投げる。 ますます、怒りの声を荒げる主人の後ろを、闇纏いを使った彰、レイジ、煌輝が、そっと通り過ぎると、猫たちも主人の横を通り過ぎて、逃げ出した。 小屋の中では、主人の落胆する声がこだまする。 申し訳ないと思うが、これもゴーストの存在を一般人から隠すためだ。 猫と闇纏いを使った6人が小屋から出てくると、4人が出迎えてくれた。 10人は、無事に終えた依頼に、ねぎらいの言葉を胸で語った。
|
|
参加者:10人
作成日:2008/08/06
得票数:楽しい11
カッコいい5
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |