あしながネズミ


   



<オープニング>


 何か音がする。
 耳を澄ませば、壁を削る音だ。
 男性は、大方ねずみでも忍び込んだのだろうと、壁を強く叩いてから、ロープ探しを続けた。
 物置には、農業に使うビニールや網やらが、ごったになっている。
 しばらく止んでいた音が再開すると、男性は異常と言える激しい音に驚いた。
 一匹、二匹が削る音ではない。
 壁が破られると、大きい4匹のねずみが飛び込んできた。
 凶暴な赤い目と、すらりと伸びた細い足が男性に向かう。
 普通のねずみではない。
 ねずみの歯が、男性にくらいついた。


「集まったようですね」
 桂・樹月(高校生運命予報士・bn0130)は、扇越しから集まった能力者達を出迎えた。
「ある農村の物置に、妖獣が現れました。このままにしておくと、妖獣は物置の持ち主である農家の主人を殺してしまいます。その前に、皆さんには妖獣を退治してほしいのです」
 樹月は、開いていた扇を閉じた。

「物置は、ある農家の裏にある小屋です。小屋自体は広いのですが、ビニールやロープ、網などが保管されているため、動ける範囲は狭く、4人ずつ並ぶのが精一杯でしょう。小屋の中は2つの部屋に分かれており、妖獣は地面から入り込んだ奥にある部屋の壁を削って侵入してきます。
 数は4匹。20cmほどのねずみの姿をしており、目は赤く、足は普通のねずみの5倍の長さを持っているため、細々したところも、ある程度の高さも難なく移動することができます。
 攻撃は身体攻撃のみですが、物陰に隠れて奇襲をかけることも可能でしょうから、くれぐれも気をつけてください。特に、ビニールは大変重いため、3人がかりでやっと移動できるほどなので、簡単によけることはできないでしょう。
 時間ですが、朝の10時に農家の主人が小屋に入ってきます。妖獣は、朝の9時30分頃から姿を現すため、主人が来るまでの間に倒すことが望ましいでしょう。
 朝の9時を過ぎれば、農家の人たちは畑に出てしまうため、家周辺は無人になります。そのため、主人以外の一般人を気にする必要はありませんが、戦闘時、小屋や物品に被害を与えることは、極力避けてください。あまりにも被害が大きい場合は、主人が犯人を捕まえようと余計な騒ぎを起こすかもしれません。どんな事件でも、起こさないにこしたことはないですよね」
 樹月は、扇を開いた。

「皆さん、くれぐれも怪我などせず、無事に帰ってくるのですよ」

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参加者
相馬・都(たるとたたん・b30620)
白石・リルカ(の身長が縮みますように・b36401)
皆月・弥生(誰が為にその剣を振るうのか・b43022)
久世・冥臥(ネクロプロファニティ・b43689)
草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)
比良坂・銀夜(闇守の蜘蛛・b46598)
水鏡・彰(復讐者・b46798)
永遠月・光鈴(高校生クルースニク・b47320)
天瀬・煌輝(蒼天の剣・b47328)
南雲・レイジ(高校生魔剣士・b47935)



<リプレイ>


 9時が過ぎ、辺りに誰もいないことを確認すると、10人は家の裏を回って小屋へ向かった。
 古い木造の扉が、滑りの悪さにがたつきながら開かれる。
 四面の壁に、一つだけくりぬかれた入り口へはいり、壁に阻まれているもう一つの空間へ足を向けると、白石・リルカ(の身長が縮みますように・b36401)はうんざり顔で室内を見渡した。
「普段から片付ける癖をつけておけばいいのに。だから、いろいろと探す羽目になるのよ」
 大きなビニールの固まりが積み重なり、土で汚れたホースや細長いビニールが丸まっている。無造作に置いているようだが、これでも農家の主人がわかるように置かれている。
 手厳しそうな細い目がより細められる中、南雲・レイジ(高校生魔剣士・b47935)は端から順番に部屋の内部をデジカメで写し始めた。
 床に置かれている物を中心に、どんどん映していくと、その後ろから仲間達が物の移動を始めた。
「箸より重たいものなんて、持ちたくないなぁ……」
 指をくわえながら、相馬・都(たるとたたん・b30620)は、う〜…。と、不満をもらしたが、依頼なのだから仕方がない。重そうなビニールを持つ天瀬・煌輝(蒼天の剣・b47328)と永遠月・光鈴(高校生クルースニク・b47320)、比良坂・銀夜(闇守の蜘蛛・b46598)の邪魔にならないように迂回をしながら、ホースを手に取った。
「戦いやすいよう、入り口に持っていくか…」
 ビニールを運ぶ3人は、煌輝があごをしゃくった方へと進路を変える。そして、かけ声を頼りに、ビニールを部屋の入り口の前にドスンと置いた。想像以上の重さに、息切れがする。それでも、すき間が出来ないように置いたビニールをさらに壁へよせた。
「よし。じゃあ、次だな」
 煌輝は、まだある薄汚れたビニールの固まりへ手を伸ばした。
 光鈴も、汚れた頬を拭い、ビニール運びを続ける。体力に自信のない草壁・那由他(闇と光の魔弾術士・b46072)は、ビニールを運ぶ邪魔になりそうな物から横へよかし、自分が持てるだけの物を持って移動させる。
 写真を撮り終えたレイジも物の移動に加わり、妖獣が現れるギリギリの時間まで、行動は続いた。
「あまり不安定な積み上げは危ないので、気をつけろよ」
 銀夜は、戦闘中に物が落ちてこないよう、仲間に注意を促す。
「すき間は、なるべくないようにね。特に、隅を重点に置いた方がいいわ」
 皆月・弥生(誰が為にその剣を振るうのか・b43022)は、妖獣が物陰に隠れないよう、配置に気を配る。
 水鏡・彰(復讐者・b46798)やリルカは、動かせそうな物や、持てそうな細かい物を手に持って周囲を広げていく。
 妖獣が部屋から逃げ出さないよう、入り口を特に念入りに塞いでいた久世・冥臥(ネクロプロファニティ・b43689)は、一歩後ろへ下がった。
「こんなものだろう」
 煌輝が入り口全体をふさぐように、銀夜はすき間を埋めるようにブルーシートを覆うと、移動が終わった。
「…これで、こちらに有利な状況になってくれたと思いたいですね」
 光鈴は、広くなった室内を見回した。
 これなら、妖獣を中央に呼び寄せても、なんとか戦える広さだろう。
「明るい小屋でよかったわ」
 弥生は用意したカンテラが必要なかったと見下ろしながら、細かな所まで見える部屋に安堵した。
 あとは、妖獣を待つだけだ。
 10人は、妖獣が現れる音をひたすら待ち続けた。


 カリカリと、壁を削る音がした。
 10人に緊張が走る。
 どこから聞こえてきているのかと耳を澄ませば、右側の壁からだった。
 レイジは、震えている手に気づくと、口を笑ませながら、拳を握り込んだ。初めての依頼に、胸が高鳴る。決して緊張からきているだけではない。例えのない高揚に導かれるように、壁が破られて、4匹のねずみが現れた。
「イグニッション!」
 イグニッションカードが封じていた能力者達の力を解放させる。
 輝く赤い目と伸びやかな足が、装備をまとった能力者達に挑んだ。
 那由他は、大きく吸った息を吐くと、閉じていた目を開けて武器を構えた。


「敵を中央で囲むぞ!」
 煌輝の言葉に、中衛、後衛に位置づいていた6人が、素早く端へと跳ね上がると、前衛の4人は妖獣を迎え撃った。
「南雲レイジ、いざ参る!」
 レイジの奥義、黒影剣が出迎え、煌輝が防御で妖獣達を抑え込む。その間に、弥生と光鈴が妖獣を取り囲むように妖獣の背を取った。
 そして、都がダッシュで妖獣の現れた穴を塞ぐ。
「まさに、袋のねずみぃーってやつ? ここからは、逃がさないからねー」
「よかったわね…、都が塞いでくれるようだから、穴を塞ぐ必要はないわ。回復にまわって。間違っても、パチパチは、しちゃだめよ」
 リルカは、使役ゴーストのモーラットピュアに優しく語りかけると、使役ゴーストは主人の言葉に従って、深く傷を負った者を舐めはじめる。
 妖獣は、噛みついたレイジと煌輝から離れると、チチッと小さく鳴きながら赤い目を巡らせた。
 そこに、都がバットストームでコウモリに襲いかからせると、妖獣が動き出す前に、レイジと彰も黒い影を現せる。
 彰のダークハンドから逃れた妖獣は、レイジへと向かった。
 3匹の牙がレイジの身に集中すると、弥生の黒燐奏甲を受けた那由他が、同じ治癒符でも回復力の強い符を投げ飛ばし、銀夜も、すぐに駆け寄って黒燐奏甲をかける。
 自己強化を終えた者から攻撃の構えを取った。
 妖獣は、4匹バラバラで動き出した。
 2匹は、攻撃ばかりしてくるレイジへと、残る2匹は後ろにいる者達へと向かう。
「うわあぁぁ!」
 襲いかかる牙に、レイジは声を上げた。
 彰は呪いの魔眼の目を向けたが、妖獣は物ともせず、よりレイジの体に足をかける。
 弥生はダークハンドを放ち、都がバットストームを飛ばすと、妖獣から解放されたレイジに、那由他と銀夜がすぐに回復をほどこした。
 煌輝と光鈴は、妖獣が前衛をすり抜けないよう、体と武器で強固な壁を作る。妖獣は跳びはねてそれぞれに噛みついたが、思ったより深手にはならない。
 妖獣が、身を翻して離れると、リルカと冥臥が爆撃を与えた。
 リルカは、奥義の雑霊弾を、冥臥も奥義である雷の魔弾を放ち、被害を抑えるように、妖獣が囲む中心へとよった時を狙う。
「足の長いネズミといえば、トビネズミを思い出したが…これは、そんなに可愛いものではないな」
 冥臥は、再び雷の魔弾を放つ構えへと動く。
 妖獣は、能力者達の包囲を逃れようと、四方に分かれた。
 旋剣の構えの構えを取っていた弥生は、息を飲んだ。
 防御も攻撃も間に合わない。妖獣は、弥生の横を通り過ぎた。
「しまっ…!」
 すぐに、彰のダークハンドが妖獣の体を裂いた。
「気づいておくべきだったな。獅子は、ねずみを狩るにも全力をつくすのだと」
 弥生は、すぐに妖獣の前へ立ち回る。
 煌輝も横をすり抜けた妖獣に、ダークハンドを伸ばした。
 妖獣によって、人々の生活が脅かされないためにも、今ここで倒さなくてはいけない。
 煌輝は、床を蹴って妖獣の前へと向かった。
 レイジと光鈴の剣先を逃れた2匹の妖獣は、端に寄せた物の上に飛び上がり、チチチとあざ笑いながらリルカへ振り向いていた。
「可愛いと倒しづらかったけど、憎たらしいから倒しやすいわね」
 リルカは、狙いを定めるように武器先を向けて雑霊弾が放つと、妖獣は二手に分かれて駆けだした。
 壁の端を走る長い足が、隠れることはない。妖獣が物陰に隠れないよう、大きなすき間は全て埋めたのだ。
 冥臥は、妖獣が走る先に駆け上ると、膝をついて行く手を阻んだ。
 妖獣は、邪魔だと歯をむき出す。
「…くっ!」
 冥臥は噛まれた妖獣を、空いている部屋の中央へ投げ飛ばすように払った。
 妖獣は床に落ちると、すぐに起き上がって、長い足を曲げる。
 壁に沿って走るもう一匹が、積み上げたビニールなどの上から、跳び上がった。
 鋭く細い爪と一緒に妖獣が下りてくる。床の上にいる3匹も、跳びはねた。
「ヒトの世にあらざるモノ。在るべき所へ、還そう」
 光鈴が武器を払うと、まるで透き通るように美しい刀身が輝きながら、妖獣を後衛から遠ざけた。
「蟲達よ、癒しの力を与えてくれ」
 銀夜と那由他の回復は、わずかな傷も癒し続けて、仲間の窮地を何度も救う。
 特に、負傷者の側に行かなくてはいけない銀夜は、周囲の状況を把握しながら、仲間達の動きを邪魔しないルートを手繰っていく。
 2匹の妖獣が、高い声を上げて姿を消した。
「もう、ちょっとよ。頑張りましょう」
 那由他が、目の前にいるレイジに治癒符を投げると、レイジは黒影剣を振りかざした。
 妖獣は、2匹まとまって動き出す。
「ちょろまかと…。おまえたちの苦しみ、ここで終わらせてやる」
 煌輝の黒影剣が昼間の空間に浮かぶと、光鈴も同じ暗いオーラを武器と一体化させる。
 光鈴を癒した弥生の黒燐奏甲の横を、彰のダークハンドと都のバットストームが妖獣へ追撃した。
「ネズミの血なんて、病気になりそうで、ちょっと嫌だけどー。もう、はじっこへは逃がさないよぉ!」
 冥臥やリルカも、妖獣に狙いを定めて砲撃すると、攻撃をまともにうけた一匹が、体を伸ばして姿を消した。
「還れ、その想いの在るべきところに!!」
 弥生は武器を高らかに上げる。
 光鈴は、愛刀を奮い、レイジは姿勢を低くしたまま、黒影剣をのばして、煌輝も黒影剣の剣先を突きさした。
 妖獣は、構えた冥臥やリルカの技をくらうことなく、声を上げながら、その身を無へ変えた。


 那由他がまだ、傷の癒えていない者へ治癒符を与えようとすると、光鈴がその手を止めた。
「気持ちは嬉しいですが、那由他さん達のおかげで、片付けをするくらいの力は残っています。出来れば、片付けの方を手伝ってもらえたら嬉しいのですが」
 見れば、レイジのデジカメに数人が集まって写真を覗き込んでいる。
 何か焦っている声音に、聞き耳を立てると、写真は一枚ずつしか表示できないため、一気にビニールなどを元に戻すことが出来ないらしい。
 つまり、分担して広範囲の行動が出来ないということだ。
 都が腕時計に目を落とすと、農家の主が来るまで、わずかな時間しか残されていない。
「急がなきゃ、あと15分しかないよ。うー重い…! ゴースト退治より、こっちの方が大変かも」
「俺も持つから、無理するな。これは、そっちだな」
 煌輝は、都とともに、ビニールを持ち上げた。
 イグニッションをしている状態であれば、通常より重い物が運べる。
 レイジの写真と指示によって、出来る限り元の位置へ戻していく。
「人に知られずに行う裏方作業も、大変ですね。えっと、これは…」
 光鈴がロープを持つと、冥臥がおされた時間に、重いビニールを引きずり出した。
「目立つ大きい物から、片付けていこう。55分までには、おおかた片付けておかないと、間に合わない」
「次は、これだな」
 彰もビニールを動かすと、弥生が片付けていた手を止めて出口へと駆けだした。
「外で、人が戻ってこないか見張りをするわ。姿が見えたら、壁を強く3回叩くから、すぐに小屋を去って」
「待って、私も一緒に出るわ…。変身することも出来ないし、早めに外にでておくわ。…手伝えなくて、ごめんなさい」
 そういうと、リルカはモーラットを腕に呼び寄せて、ぎゅっと抱きしめるとイグニッションを解いた。
「俺も、ここで外の見張りへ回らせてもらう。大変な仕事を押しつけてすまない…な」
 銀夜も手を止めて、すまなそうに言葉を詰まらせた。
「主人にばれたら大変だからな。気にするな」
 レイジは、片付けを手伝いながら笑った。
 光鈴も下がらせてもらうと、仲間に頭を下げると、3人は弥生と共に小屋へ出た。
 弥生には闇纏いがあるため、主人の目にとまることはないが、他の3人は姿を消す術を持っていない。
 3人は小屋の入り口とは裏側にある影へと身を潜めて、様子を伺う。
 しばらくして、室内で片付けをしている6人の耳に、壁を叩く3回の音が聞こえた。
「仕方ない。これで終わりだ」
 冥臥は、手を止めて体を縮めると、猫の姿へと身を変えた。
 続けて、都と那由他も猫変身し、他の者は闇纏いを使って、小屋の中で主人を出迎えた。
「な…なんだ、これは。お前らかぁ!!」
 入ってきた農家の主人は、散乱したロープやホースに激怒した。
 3匹の猫は、ビニールの上を歩き、ひっかき、細いロープを加えて放り投げる。
 ますます、怒りの声を荒げる主人の後ろを、闇纏いを使った彰、レイジ、煌輝が、そっと通り過ぎると、猫たちも主人の横を通り過ぎて、逃げ出した。
 小屋の中では、主人の落胆する声がこだまする。
 申し訳ないと思うが、これもゴーストの存在を一般人から隠すためだ。
 猫と闇纏いを使った6人が小屋から出てくると、4人が出迎えてくれた。
 10人は、無事に終えた依頼に、ねぎらいの言葉を胸で語った。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/08/06
得票数:楽しい11  カッコいい5 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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