冬咲く花精


   



<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 今年は終業式が終わった直後の日曜日がクリスマスイブという事もあり、本当に様々なパーティーが開かれるようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口を聞いた事が無くても、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみよう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。
 掲示板に一枚のチラシが張られていた。
 
『緑樹の迷路』
 クリスマスイブに花壇の迷路と戯れてみませんか?
 今回迷路でご用意しましたのは、ピンク色の可愛らしいエリカ、ヒマラヤ雪の下、紫のプリムラ、真白の水仙、ノースポール他12月の花々。もちろんクリスマスには欠かせない柊も置いております──
 季節は冬。けれど花は寒さに負けず美しく咲いている。
 普段は通り過ぎるだけかもしれない花と少しでも長く触れていただけたらと思っております。
 冬の散歩を楽しんでみませんか?
 迷路の中ほどに毛布と温かい紅茶やココアなど各種取り揃えた休憩所もご用意しておりますので、寒さに凍えそうになったらそこをめがけてくださいませ。
 心より参加をお待ちしております。


 チラシの最後はこう締められていた。

 花壇の花は生きております。寒いからと言って休憩所へ向うのに花壇の中を踏み込んだりしないようにくれぐれもお願いいたします。
 もし、今気になる方がいらっしゃるなら誘ってみてはいかがでしょう……

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<リプレイ>

 真冬の寒さを忘れさせるような暖かな陽射しが緑樹の迷路に降り注ぐ。
「ミツル、ちょっとついてきてー!」
「ちょ、ちょっと、どこいくってのよぅーーーっ」
 賑やかな声が響き渡る。八葉に強引に連れ出された蜜琉は途中でその不満を消し、咲き乱れる花々に魅入られた。
 散歩をしながら潤はちらちらと隣の唯奈を見ると彼女は楽しそうに歌を口ずさんでいる。その様子によしと微かな緊張とともに、持っていた包みを差し出した。
「誘ってくれて本当に有難うやよ」
 遊弥のお礼の言葉に秀一は日頃の礼だ、と言いつつ心の中では少し違う思いを抱いていた。
「棉貫君、見るといい」
 思いを秘め、今しがた偶然発見したものを見せようと秀一は指し示す。校舎の影から顔を覗かせた草花はキラキラとした輝きを放っていた。
「朔夜くんはとっても可愛いので、もの凄くお花が似合ってますね」
「あ、ありがとう……」
 まりあーじゅの邪気ない言葉に、本来怒るところを、まりあからと思うと喜ぶべきだろうかと悩む。結局心を酷く落ち込ませながら、それを悟られぬよう朔夜は笑顔を見せた。
 眞司はひー、こと緋香里と手を繋ぎ歩いていた。途中、目を奪われたのは桃色のエリカ。綺麗だなぁ、と見つめていると繋いだ小さな手が離れ、今度は腕に抱きつかれる。
「眞司さん、もっと奥に行きませんか?」
 緋香里はひしーっと腕を抱え込んで引っ張る。二人っきりを満喫したいのだ。そんな緋香里の思いも知らず眞司は微笑ましげに目を細めた。
 蘇芳は「こんな寒い日にわざわざ……」と思いつつ、目に色鮮やかに映る花々をデジカメにも収めようと歩いていた。山茶花を抜け椿に目を留め足も止まる。そこは袋小路。休憩でもするかと思った矢先に知った声。
「出口まで連れてってくださーい!!!」
 迷路を楽しむつもりが本格的に迷った蛍は蘇芳の姿に安堵して泣きついたのだった。
 杜は気楽に散策を楽しんでいた。つと生家にある木と同じ木を見つけ立ち止まる。名前を思い出そうと悩み、そんな自分にふっと笑みを漏らす。
「どちらでもいいわね……」
 久遠は小さく愛らしい花を見つけ、口にしない思いを胸に満たす。追いつく形で後からやってきた絶佳に「一人で先に行くと、迷子になっちゃうわよ?」と軽くからかわれ少し拗ねるが、気を取り直して「おめでとうございます」と伝えた。言われた絶佳は笑みの形を変え微笑んだ。素敵な花に囲まれ仲の良い友に誕生日を祝われ、二度とはない『瞬間』を過ごせることに感謝して。
 雫翠はゆったりとした時を過ごしていた。冬の植物の強い息吹に感じ入り、その美しさと強さが人にもあれば……と物思う。そこへ強く香るのは真白の水仙。きっかけは香りだけれど、気付いたのは何より好んでいるからであろう。
 ガンナーは花屋の店長なのだから、と迷路にやってきた。花壇の花を眺めながら、事典をたぐり12月24日の誕生花を探す。『やどりぎ。花言葉は、征服、困難に打ち勝つ』
「……冬に生きるものはたくましいな」
 マユはお気に入りのコートとマフラー、手袋の三点セットで迷路を歩く。どこか力強さを感じさせる冬の花に惹かれながら、その中一際目を引いたのはノースポール。今度はスケッチブックを持ってこよう。
 セリアはもじもじと花の前に立ち、声をかけていく。自分と同じ色を纏うエリカにははにかんだ微笑で、汚れなき水仙には決意を。そして紫のプリムラの前では……。最後に柊の前に立ちセリアはプレゼントを貰うことより、サンタがゆっくり休めることを願った。
「うーん、なんて大きい迷路なんだろ」
 実はぐるぐると同じ所を迷っているだけのナイアーラトテップは、まるで不思議の国に迷い込んだみたいだな、と思いながら歩く。その角を曲がれば、トランプの兵隊が、反対に曲がればシロウサギが今にも出てきそうで。このまま真っ直ぐ歩いていけばアリスがいるかもしれない。
 海月と秋彦は迷路を巡った後、二人でココアを片手に喋っていた。
 アリアは紅茶を持参して白い薔薇『ホワイトクリスマス』を探す。見つけられたらそれは素晴らしいお茶の時間を過ごせることだろう。
 龍麻は一人ゆっくりとした足取りで花を楽しんでいた。時折見かけるカップルの邪魔にならないようにと進路を変更したりと気遣っていると、「さ、寂しくなんかないです……」と呟く玲を発見する。龍麻はさり気なく声をかけると名美も加わり、何かあったのだろうかと顔を出した月が訪れ、通路がやにわに騒がしくなっていった。一期一会やもしれぬ出会いに皆笑った。
 天は見かける花の花言葉を思い出しつつ独り身の散歩を満喫していた。そこへ迷子になったらしい半泣きの亜梨子が現れる。
「リトルアリス、一緒に散歩はどうかな?」
 案内役も悪くない。
「お、見てみろ、あれは秋桜、そっちは向日葵だ」
 明らかに季節の違う花を口にする涼に花火はマイペースに「見てくださいお花っ、綺麗やのですよ!」とあちこち引っ張り回していた。帰り道のわかっている涼に「はぐれんなよー?」と言われながらも時折撒かれる花火の姿が目撃されたとか。
「はぅ〜、おいしいよぅ♪」
 美琴は上機嫌で貴也作のケーキを食べていた。作ってきたクッキーと比べると劣るのは少し悔しいけれど、その分愛情たっぷり♪ と自負していた。その証拠に彼は凄く美味しいよ、と笑顔なのだから。
「お、蝋梅か!」
 章と千乃は陽の光を透かし輝くその花に魅入られた。花言葉は、先導、優しい心。「なんだか章先輩みたいな花だね〜」と千乃に言われ、章はふわりと微笑んだ。ありがとう、それは二人の言葉だった。
「はぐれたらマズイから……手でも繋ぐか?」
 二人っきりになることなど滅多になくて、歯切れの悪い誠示郎。けれど霊夢にしてみれば舞い上がるような言葉。その思いをこめて詩を吟じてみる。我ながら酷く回りくどい、と反省し、繋いだ手の温もりだけでも伝わればと思った。
「寒い中咲いている花って健気で癒されますよね」
 伊織は微笑んだ。花屋の常連である伊織に博雅は頷き、そういえば店番をいつもサボっていると思われてるのでは、と気付く。今度伊織が来たときには応対しようと密かに決めた。
「二人で巻くなら丁度いい長さよね♪」
 彩音に強制的に連れ出された実篤は、長いマフラーを彩音共々巻かれる。楽しそうな彩音に「ココ楽しいの?」とは聞けなかった。

●憩う者
 逆十字薔薇乙女団の面々は、休憩所で飲み物を手に寛いでいた。えみるや聞き役に回るティルトリットと楽しく談笑しながらも蜂蜜は今日のイベントをうっかり忘れ誘えなかった人のことを思い「次の機会には誘いたいですの」と小さく零す。摂理は市販品なんだけど、と切り出し自分で刺したと思しき薔薇の刺繍とイニシャルの入ったハンカチを贈った。
 点在する小さな休憩所の一つで契と歌織は、お互いのぬくもりを感じるように座っているといつのまにか歌織は寝入ってしまう。気付いた契は毛布を直し、額にキスして寝かせてやる。それから彼女の膝の上にこの日の為に用意したプレゼントを置いたのだった。
 雅姫と那岐は久しぶりの再会を喜びあった。心ゆくまで談笑し、それから二人でプレゼントを交換する。那岐のそれには誕生日プレゼントも含まれていた。
「わぁ♪ あれ綺麗……なんて花?」
「あ、あれスノードロップだ♪ 私あの花言葉好きなんだ♪」
 意味は希望なのだとCafe【月ノ宮】の夢美とさなえが楽しげに喋っている。将弘や海藍が後ろを向いて歩くと危ないと注意したのも束の間、さなえが向かいからやってきた優とぶつかってしまう。夢美が大丈夫? と声をかけ、優が一人であると知り、ゆっくりお茶をしましょうと休憩所に誘う。そこには既に紅茶を楽しんでいた彌春がいたけれど、快く受け入れてもらい輪が広がる。ふわりと花の迷宮から抜け出した早苗を見つけ悠馬は声をかけた。何も楽しむのは結社の仲間だけではなくてもいいのだから。
 ふわふわのファー付コートとブーツを純白で固め、アクセントに黒ストッキングで決める雪の妖精。胡蝶は「皆をひきつける魅力」という花言葉を持つ白い花に目を留め、見る者がいないのが惜しい笑みを浮かべた。
 友梨は紅茶を勇斗は渋く緑茶を持って語らっていた。それは何もかも違いかみ合いそうになかった二人が出会った偶然を語るもの。
「出会えてプラマイゼロというより……ちょいプラスですかねぇ」
 勇斗はぽつりと口にして、用意していた貝殻を模したイヤリングをそっと差し出した。くまさんなので。それは朴念仁な彼からの粋な言葉。
 染み入るような歌声が迷路に広がる。歌っているのは真白と漆黒の対の恋人たちメリルと暁。この日の為に、人々の為に聖なる歌は紡がれていく。
「うわぁ、お兄ちゃん。凄いです。綺麗なお花がたくさんです」
 芽衣ははしゃいで瀞を振り返る。瀞にとっては初めてじっくり見る本物の花。それに感動しながら、二人で過ごせる時間を喜んだ。
 駆は初めてのデートに緊張していた。それは柚穂も同じ。先に行動に出たのは以外にも柚穂の方だった。寒いですね、とまごつきながらそっと手を繋ぐ。駆は手を握り返しつつ、細い肩に視線を下ろしてそろりと視線を外す。その顔は真っ赤だった。
 美紅と鏡次はお互いを意識しながら回っていた。美紅はマフラーと同じようにほんわかな気持ちで過ごせまいかと。鏡次はもう一歩近しい存在になれればと。
 シオンと旋は和気藹々と楽しげに、公と武蔵は普段外で遊ばない分、ここぞとばかりにイチャイチャと腕を組んで歩いていた。といっても二組とも女だったりするのだが。
 普通に歩いていると開いてしまう距離。木霊は先を行くお姉様、嶺を少しばかり必死に追う。その姿を嶺に微笑ましく思われてるなど露とも知らず。追いついた先に木霊は柊を見出し、お姉様に加護がありますように、と呟く。
「……有難う。久坂にも加護のあらんことを祈ろう。この聖なる日に、な」
 嶺は静かに微笑んで、木霊の頭を撫でた。白いポインセチアが揺れていた。
 曼殊沙華は書物でしか知ることのなかった本物の花に触れる。興味惹かれるものにぱたぱた駆け寄る姿は子供のよう。そんな彼女を澪は風邪を引いてしまわないかと終始気をつけながら周っていた。
 みさをは、つと隣の紅星の誕生日であることを思い出す。
「……とりあえずおめでとう、ね」
 とりあえずにひっかかりを覚えつつ、紅星は頭を撫でてやりながら礼を言う。頑張って咲いている冬の花が好きというみさをに、紅星はよぎった過去を口にしたりせず、寒くはないかとマフラーを差し出した。
 恭介と玲奈は手を繋いで周っていた。玲奈は時折花の名前と花言葉を懸命に紹介した。派手さはないけれど、そんな穏やかさに包まれたデートを恭介は楽しんだ。
 熾火は運動会で一緒になった柚木とその友人竜樹とで散策していた。
「椿って……すき、ですわ。ピンク色も、かわいい……」
 そう言って近寄ろうとし転びかけた熾火を二人の少年が支える。
「しほ、手冷たい」
 これ巻いとけと竜樹がマフラーを巻いてやり、柚木は手を繋いで歩いた。

●想う者
 雛乃ははらはら落ちる白い欠片を見つめた。初め雪だと思い見上げたものは冬桜の花びら。それは兄との大事な思い出。桜は冬にも咲くのだと教えてくれたあの人はもう亡い。淋しげな表情のまま飽くことなく見つめ続けた。
 万里は目の前に振ってくるものを掴みかけ、それが思っていたものと違うことに気付き苦笑する。掴んだ花びらにちぇ、付き合いわるいよなぁ、と埒もない言葉を心に浮かべ、迷路の中、ぼうっと空を幾度も見上げた。けれど出口が近くなる頃には、彼女はもう笑っていた。
 美しいとわかるのに枯れた心に花は色褪せて見える。抜け殻の自分をどうして三十郎は連れ出すのかとマコはいつも困惑させられる。三十郎はそんな彼女の心の裡を知ってか知らずか、彼女の後ろを歩く。自分が与えられるものを与えることができたらと願って。
 要は芽李の手をしっかり握って歩いていた。その心はいつだって彼女に向けられているのに彼女は気付いていない。鮮やかに咲き乱れる花の中で要は立ち止まり空いているもう片方の手で小さな箱を取り出した。
「……これ、受け取ってくれる……?」
 少し照れた微笑みを湛え、彼女が箱を受け取り、続きを言える瞬間を待った。
 炎魔の首には暖かい手編みのマフラーが巻かれていた。それは制服だけだった炎魔に「寒いと思ってのぅ」と風夏からプレゼントされた物。だから炎魔はその心に答えようと求めていた赤い菊を見つけ出した。その花言葉の意味は……。
「意外とロマンティックな選択ですね?」
 からかってくる彩音の声を聞きながら界音は、そわそわしていた。告げてしまっていいのだろうか、そして彼女は聞き届けてくれるだろうかと。
「好きだよ……彩音……」
「今即答は出来ないですけれど、良いお返事をしたいと思いますよ」
 彼女の唇からさらりと紡がれた言葉に、焦らせる気はないのだというように界音は頷いた。
「俺は君のことが好きだ」
 紅羽の真正面からの告白とプレゼントに華凛は驚いた。プレゼントを嬉しく感じながら彼女は告げる。
「……私は止めておいたほうが良い」
 今の私に言えるのは、それだけ……と華凛は花見に戻っていく。紅羽はそんな彼女の背に俺は諦めないよ、と言い放ち微笑んだ。
 甲太郎は隣にいる縞を意識して、ずっとポケットの中の手をごそごそさせていた。その中にあるのはクリスマスプレゼントの指輪。「花、綺麗だねー」と語りかけてきても上の空。
「……あのさ、縞ちゃん?」
 意を決して切り出しかけて……生まれたためらいがすぐさま誤魔化しに変えてしまう。結局何も言い出せず、指輪はポケットに突っ込まれたまま終わってしまった。
 火蓮と腕を組み歩いていた一夜は目を留めた花の花言葉を火蓮に教えた。その博識ぶりに素直に感心していると一夜に微笑とともに花束を差し出された。
「白のサイネリア、花言葉は、快活と、喜び。こんな日に、俺と一緒に居てくれて、ありがとう」
 今日こそは告白を、とひっそり決めていた火蓮はその不意打ちに顔を真っ赤にし、それから微笑んだ。彼女は気付いたであろうか、一輪だけ混ぜられた白薔薇を。
 瑠璃は、クリスマスプレゼントを膝に乗せ、ベンチに座って花を見ていた。プレゼントの中身は手編みの手袋。
「来て、下さるでしょうか」
 少しおろおろしながら、けれど穏やかな気持ちで待ち人が現れるのを待った。

●働く者……?
 企画者以外にもこの緑樹の迷路に携わった者がいた。陸王と春である。彼らはなんと迷路の花々の世話にやってきていた。
「うん、綺麗に咲いちょるな」
 楽しそうな春にこういう楽しみ方もあるだろうと納得できるものがある。
「俺も来年は、花束を贈る相手が見つかるかな」
 陸王は呟いた。


マスター:神月椿 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:107人
作成日:2006/12/24
得票数:楽しい2  笑える1  泣ける1  知的1  ハートフル24  ロマンティック12  せつない1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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