●『Star of Bethlehem』
一年に一度きりの聖なる夜。 背に担いだ袋の中身が全てなくなると、ジングルは空を見上げた。夢中で気がつかなかったけれど、頭上に瞬いていた星々はとっくに位置を変え、白み始めた地平線の向こうへ消えてしまいそうなくらいになっていた。――もうすぐ夜が明ける。 (「急がなくっちゃ!」) まだシンと静まり返った街中を、ジングルは風を切るように走る。思い浮かぶのは、愛しい恋人の姿。 普段なら私的に使うことなんて許されない天文台。そこを何とかと、職場の先輩に必死で頼み込んだ。先輩は苦笑して、天文台の鍵を渡してくれたっけ。 「マッテテね、チハヤ♪」 今、君の元へ行くから。
「ふぁぁ……」 誰も居ない天文台の床の上に、毛布に包まり大切なぬいぐるみを抱きかかえて、千破屋は何度目かのあくびをする。 「あかん……寝ちゃダメだよ」 自分に言い聞かせるように、千破屋は両腕に抱えたクマのぬいぐるみを抱きしめる。今日のためにおめかしした俺の宝物。俺の大切な人とお揃いのクリスマスカラー。 再びウトウトとしだした千破屋の耳に、けたたましい靴音が聞こえた。途端に眠気は吹っ飛んで、胸が高まる。 「タダイマ、チハヤ……Merry Xmas♪」 扉を開けた瞬間、飛び込んできたのは待ち望んでいた恋人の声。 「オカエリなさい……お疲れサマ、さんたサン!」 疲れを見せないで、笑顔を向けたジングルの体を思い切り抱きしめる。――彼の体は、外気ですっかり冷え切っている。 「こっち。じんぐる」 そんな彼に、先程まで座っていた場所に腰を下ろした千破屋は、自分の膝を指差した。 「エ……ッ!?」 「ひざまくら! はい、じんぐる」 ぽんぽんと膝を叩く千破屋に、ジングルは驚きと嬉しさを滲ませながら彼に従う。 千破屋の膝に頭を預けると、体に毛布がフワリと掛けられた。 「キレイなアサヒだねー」 気がつけば、朝の光がドームの開口部から差し込んでいる。 「チハヤと一緒に見れて……嬉しい♪」 ――最愛のキミに、この朝陽を見せてあげたかったのだから。 千破屋が鼻歌を歌いながら、体をさする。 そのやさしい歌声と、温かい体温に、ジングルは深い眠りへと誘われていった。
静かな朝に、千破屋の鼻歌だけが聞こえる。 (「寝ちゃった? じんぐる」) いつの間にか膝の上で寝息を立てているジングルに微笑みながら、彼の漆黒の黒髪を撫でた。 そして、そっと呟く。 「めりーくりすます、じんぐる」 ――世界で一番すきな貴方が、 「どうか幸せでありますよーに」 ――夢の中でも、目が覚めても、今日も、そしてこれからも……。
俺が、さんたサンのさんたに、なれますように……。
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