●『残像です……』『空蝉とかだよね、間違ってるけど!』
一緒に出かけていた灯萌を彼女の部屋まで送り届け、惣七は自室の鍵を開けた。 「ただい……まっ?!」 ドアを押さえた格好のまま、固まる。玄関に、何やら見慣れない物が置かれていた。 それは、真っ白い箱だった。ご丁寧に、ツヤツヤした赤いリボンまでかかっている。だが、プレゼントと言うにはあまりにも大きすぎた。大きく眩しく重くそして大雑把すぎた。何せ、ちょうど人一人納まるくらいのサイズで――。 「っていうか君、絶対中に入ってるよね!?」 返事はない。だけど、こんな事をする者に、心当たりは一人しかない。灯萌だ。間違いない。この箱の中には灯萌が詰まっている。 惣七はおそるおそる箱に近付いていった。 (「さてここで問題です。部屋に多分半裸の幼女がいます。どうしましょう? 社会的に」) 「……。捨てる、か?」 まさか本当にそうする気はないけれど、たくさん浮かんだ選択肢の中からつい一番手っ取り早い物を選んで口にする。 「それを捨てるなんてとんでもない……」 箱から灯萌の声がした。いや、違う! 箱からではなく、背後から! 急に勢いよく抱きつかれ、惣七はつんのめった。 「ちょ?!」 何とか首をひねって肩越しに後を見ると、灯萌が上目づかいで惣七を見つめていた。クリスマスに先輩に会うならこれしかないのです、と言いたげなセクシーサンタ服で。 「やっぱり君だよ、やっぱり! 意外でも何でもねーッ!」 「『やっぱり』……? ……驚いてない?」 「いや、驚いたよ、十分驚きましたけれども! てかこの箱はっ!?」 灯萌が隠れていたのでなければ、何のために置かれていたのだろう? 「残像です……」 「空蝉とかだよね、どうでもいいけど!」 つまりは彼女が背後に回りこむための囮だったらしい。 「どうでもよくない……。プレゼント……」 「あ、中身はあるんだ」 惣七はリボンをほどき、中を覗き込む。 「はい、さらに過激な悩殺用衣装………」 惣七はものすごい速さで箱のフタを閉めた。 「捨てよう!」 「それを捨てるなんてとんでもない……」 「ループした!?」 「無限ループって………。怖くね?」 「僕は君が怖い!」 「……まんじゅう怖い?」 「何でそんなにポジティブなの!?」 「惣七先輩………。優しいから……」 どうやら、強く撥ね付けない惣七が悪いと言いたいらしい。もっとも、むこうも一線を越える程には押し切れないようだけれど。 惣七がそんな事を考えていると、灯萌ががさごそと箱のフタを開け出した。 「中の服……。着てみる」 「だめー!」 聖夜の星空に、惣七の叫びが響き渡った。
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