東京駅からオレンジ色の電車に乗り、都心を抜け、多摩川を渡り、丘の中を進んでゆく。 丘の上で電車を降り、少し歩くと、緑に包まれた公団住宅群が見えてくる。 今回の目的地は、その中の一棟。誰にも省みられる事のない、ひとつの公団住宅の廃墟である。
昭和40年代、都市に流入する労働人口の増加に対応するため、多くの公団住宅が建設された。 この建物もそうした計画の中で、丘陵地帯の第2次開発における、第46号棟として開発された。 在りし日、人々は親しみを込めてこの建物を「ヨンロク号」と呼んでいたという。
ヨンロク号に入居した世帯主達は、皆同年代。いずれも、働き盛りのサラリーマンだった。 同じ間取りの住宅で、彼らは共に笑い共に泣き、助け合い、そして汗水垂らして働いた。 真面目にやれば給料が入り、暮らしも段々便利になる。見合いで結婚した妻との間に子供が生まれ、家族ができあがってゆく。 決して豊かでは無いが、今日よりも良い明日を信じる事ができた時代。 それは、日本人の心に残る黄金時代であったかもしれない。
だが、やがて時は昭和から平成へ移り、老朽化した施設の多くは取り壊される事となる。 公団住宅に住み、高度経済成長期を駆け抜けた老人達は社会の一線から退き、一人また一人と、櫛の歯が抜けるように減っていった。
そして現在。10年前に最後の住人が去り、再開発からも取り残されたヨンロク号は、いつの間にか省みる者のない廃墟と化した。やがてシルバーレインが降り注ぐと、まるでそれが自然な成り行きであったかのように、ヨンロク号は新たな住人……ゴースト達を迎え入れた。 今や懐かしのヨンロク号は妄執と共に歪み、悲しきゴーストタウンへと成り果てたのだ。 能力者達は廃墟の中に、ゆっくりと歩みを進めるのだった。
シナリオタイプ | :メインシナリオ |
公開日 | :2007年03月15日 |
総制覇数 | :41044 |
| |