パチパチと、炎にくべた木が焼け、音を立てて爆ぜる。その上で、鍋の中に入ったシチューが煮だっている。 中には、よく分からない肉。よく分からない肉が、何とも言えない匂いを湯気に乗せて漂わせている。焚き火を囲む三人の冒険者は、まだ誰もシチューに手をつけていない。 この冒険が終わったら、もっといいお肉が食べたいと、ストライダーの狂戦士サキは思う。もっといい肉を食べるにはどうしたらいいか。簡単だ。お宝を見付ければいい。 「明日、日の出と共にこのポイントへ向かいます」 愛用の伊達眼鏡を光らせ、サキが広げた地図の一点を指す。 「情報通りならば、ここには莫大な財宝が眠っているはず。手に入れれば、こんな謎シチューともおさらばですわ!」 「情報通りならな」 意気込むサキに水を差したのは、エルフの邪竜導士ルドルフだ。 「悪いが俺は、そんな胡散臭い地図に付き合うつもりはないぞ。何処でそんな子供の落書きを仕入れてきたんだ?」 「し、失礼な! これは私がちゃーんと裏を取ってきた、確たる情報です!」 バシバシと無意味に地図を叩くサキ。ルドルフの方も頭に血が上ってきたのか勢いよく立ち上がる。 「とにかく、ここへ向かうのは決定事項! ルートは山を越えての直進最短コース! 文句ありませんわね!?」 「おお有りだバカ女! この先の山がどんだけ厳しいと思ってやがる! 迂回だ迂回!」 「直進ですわ!」 「迂回だ!」 激しく唾を飛ばし合いながら、竜虎の如くいがみ合い、犬猿の如く吼え合う二人。 「はいはい、二人とも。言い争いはそこまでだ」 その間に割って入ったのは、今まで成り行きを静かに見守っていたヒトの重騎士ラインハルトだ。 「ラインハルトさん! この逃げ腰のエルフに何とか言ってやって下さい!」 「何だよ……アンタまで山越えするって言うのか?」 「まぁまぁ俺の話を聞け」 ルドルフをなだめ、地図を指差すラインハルト。 「確かに山越えは厳しいが、あまり迂回すると時間を取られる。少々大変ではあるが、その中間のコースを取ろう。どうだ?」 「異議なしですわ!」 「いいのかよ!」 はぁ、と溜め息をついて、ルドルフは再び座り込む。もうどうにでもしてくれ。勢いを削がれ、疲れた顔がそう言っていた。 「決まりだな」 軽い笑みを浮かべて、ラインハルトはシチューに手をつける。それに続いてサキも、遅れてルドルフも器を取る。 明日からの旅も、また賑やかになりそうだ。硬い、よく分からない肉の食感を楽しみながら、ラインハルトはまた一つ、笑みを零すのだった。
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