ことこと。 暗く、静かな空間から上がる音は、鍋の中の物が十分に熱されている紛れもない証拠であった。 ぱちぱちと、鍋の下で薪が爆ぜる音を聞きながらしばし静かな時間が通り過ぎて行く。 その静寂を高らかに破ったのは、夜の静まり返った空間には不釣り合いなほど通る、ストライダーの狂戦士・サキの一声だった。 「……以上の理由から、この森の正面を突っ切る方法を提案するわ。この道なら最短で行けるはずだから」 得意げな表情……で、おそらく言っているのだろう。炎がレンズに反射し、表情は伺えないがサキの性格からしてそれは間違いない。 「なるほど、つまり万が一グドンの集団に襲われてもいいから突き進もうってわけか?」 やや青白い顔を炎に照らされ、エルフの邪竜導士ルドルフが相槌を打つ。 病人にも間違えられておかしくない彼だが、どうも人の意見に茶々を入れる時だけは元気なような気がする。 「何よ、他にも何か言いたげね?」 「別に?ただ一つだけ言うなら……」 「一つだけ言うなら……何よ?」 「いちいち相手に見つかるルートを選ぶ明確な理由が欲しいところだね?」 そのまま肩を竦めて答えるルドルフ。 これにはサキもカチンときたのだろう。 顔を真っ赤にしたサキは……それは、炎に照らされたのもあるかもしれないが、明らかにそれ以外な理由で真っ赤にしたまま。 「だったらアンタも何か意見はないわけ? 人の意見は否定するヒマあったらアンタも何か言いなさいよ!」 「あいにくだが、サキに上手く説明しようとすると選ぶ言葉が難しくてね」 「なんですってー!」 そう言うがルドルフに掴みかかろうとすると……その、お互いの頭をそっと撫で、ヒトの重騎士・ラインハルトが静かに……それこそ弟や妹に諭すように口を開いた。 「……右の街道を迂回して、こっちの脇道に入ろう。もっともリスクが無いはずだ」 「あー……うん」 「ああ、そうだな」 ラインハルトの出した案に納得したのかお互いに尻すぼみのように大人しくなる二人。 「……意見の交換は重要だが、もっとお互いにしっかり話さないとな……せっかく仲が良いんだしな」 「「誰が!」」 あまりの二人の息の合い方に、ラインハルトは思わず微笑みを浮かべていた。
未だ口論を続ける二人を見つつ、ラインハルトは何処でこの言い合いに区切りをつけるべきか思案しているところだった。
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