鴉胡蝶
お題ショートストーリー(2010/08/16執筆)
  作品の参考として、「お題イラスト」と「プレイング」を元にしたショートストーリーを執筆しています。ログインすれば、人気投票にも参加できます!

【執筆者:鴉胡蝶
【得票数:8】

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プレイング
 それはホームルームが終わったばかりの教室でのこと。
「今夜ちょっとだけ俺に付き合わないか?」
「もちろん喜んで」
 戦いを知らぬ少年少女ならば、まるでデートの約束を交わすかのようなやりとり。
 けれども能力者の彼等にとっては全く違う意味を持つ約束に、二人は視線を合わせると、力強く頷く。
  そうして二人は『ゴーストタウン』……時に命の危険を伴う場所へと、今宵も足を踏み入れた。

 亀裂の入った石壁に割れた窓ガラス、穴の開いた天井から覗くのは煌々とした月。
 『日常』から隔絶されたその場所に人の気配などは無く、吹いた生暖かな風すらも纏わりつくようで心地が悪い。
(「さながら『ゴーストの街』、侵入者は生きてる俺達か」) 
 そんなことを考えていた少年、デニー・ウィルソンが眼前へと掲げていた掌で中空を薙いだ。
 まるで空間を裂くかのような彼の動作に呼応したのは自由な風。ぶわり、と吹いた上昇気流が澱んだ空気を祓い、リビングデッドの一体を足止めする。
 その一瞬の隙をデニーは見逃さない。すかさず間合いに入り蹴りを放てば、伴う衝撃波が膝を突いた何体かを吹き飛ばした。
(「さすがデニー君。私も頑張らないと」)
 東雲蘭はそんな同い年の少年の姿を視界の端に捉えると、ゆるりと腕を持ち上げる。
 か細い少女の指先が黒の魔弾を放つと立て続けに爆音が鳴り――その中に一際派手な、瓦礫を崩すような壊落音が混じった。
 「な、――蘭っ!」
 「きゃぁ……っ!」
 青年が突如鳴り響いた物音に振り向いたのと、少女が悲鳴をあげ石畳に身を打ちつけたのは同時。
 現れたのは幼獣化し巨大化した野犬。どうやら蘭はその野犬に手酷い体当たりを食らったらしい。
 少女が身を横たえたままに動かないのを見れば、デニーが咄嗟に近寄ろうと足を踏み出すも、ゴースト達がその行く手を阻む。
 「ぁ――っ、……っ!」
 悲鳴を耐えるかのような蘭の声が、彼女が絶えず攻撃を受けていることをデニーに知らせる。
 「どけよ、邪魔だ!」
 ゴーストを文字通り蹴散らして漸く少女の元へと辿りついたデニーが、そっと少女の身体を抱き上げる。
 指先から伝わる鼓動はまだ少女が息をしていることを告げていた。
 倒れても可笑しくはない攻撃を受け続けた身体を、少女の魂の輝きが、凌駕する。
 「大丈夫か? 無理すんなよ」
 「ん……大丈夫」
 弱弱しく笑う蘭が立ち上がろうとするも、ふらり、と傾いたその身体をデニーが支える。
 ありがとう。少女が礼の言葉と共に白燐奏甲を発動させると、続けざまにナイトメアを呼び出した。
 「こ、これしきのことで……負けられません、っ……! 」
 残る力で振り上げた少女の小さな掌、それを少年の手が支え、重なる。
 たとえ血に塗れても、状況が不利であろうとも折れない心は、仲間がいるからこそ。

 そうして静寂が戻ったその場所に立つ二人の少年少女の姿を、その笑顔を、ただ月だけが見ていた。
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