辺りはうっすらと暗く、強い朱の光が建物の壁面を染め上げる。 逢魔ヶ時とはうまく言ったもので、長く伸びた影はどこか恐ろしくも見えた。 「……少し、早く来すぎたか」 目的のゴーストが出現するのは、完全に日が落ちた夜も近い頃。電信柱の上から周囲を見渡しながら、八坂路・繰太(高校生霊媒士・bn0016)は小さく息を吐いた。 すでにイグニッションは済ませており、いつゴーストが現れても応戦できるようにはしてある。 「…………まあ、いいか。現れるのを待とう」 繰太はその場に腰をおろすと、持参した炭酸飲料を口にした。そして何とはなしに、建物の間にゆっくりと沈んでいく太陽へ目を向ける。 「……綺麗な夕焼けだな……」 見事なまでの朱と痛いほどの眩しさに目を細めながら、繰太は感嘆の声を漏らした。傍らに控える相棒のシャーマンゴーストは、ただ静かに時折紡がれる彼の言葉に耳を傾けている。 昼と夜の挟間、黄昏時。その語源は「誰そ彼」だという。相手の顔も判別できない、曖昧な色。死者たるゴーストが現れるには相応しいと言えるだろう。 染め上げる朱は強さを増し、代わりに濃紺へと変わっていく空。日が沈むにつれ、周囲は徐々に闇へと飲み込まれていく。 「暗くなってきたな。そろそろか……」 しばしぼんやりと夕日を眺めていた繰太は、抱えた愛用の武器である「狩猟者の槍」をそっと握りしめた。 繰太はすっかり空になった缶を潰し、夜の静けさに浸った街を見る。 不意にその眼光が鋭くなった。視線の向く方を見やれば、ゆらりと揺れる影。 目的であるゴーストの出現を確認した繰太は、落ちないように気を付けながら立ち上がると、着けた面の位置を正した。 「……行こう、シャーマンズゴースト」 言うが早いか、繰太はすぐさま近くの屋根へと飛び移る。そのまま屋根伝いに地面へと降りると、ゴーストの前へ立ちはだかった。 無言のまま眼前に突きつけられた槍に、ゴーストは怨みがましい視線を送っている。傍らのシャーマンゴーストは、吼えるゴーストへ向かって果敢に突撃し。 「……手間取らせないでくれよ?」 繰太はかすかに笑うと、戦いの中へ身を躍らせたのだった。
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