「まったく……アイツは何を考えているんだ……」 そう、ヒトの武人・イオシスが思わず口から漏らすのも仕方のない事だった。
彼は油断なく周囲を見渡し、遺跡の壁を背にし全体が見渡せる位置に陣取ると、先ほどの会話を思い出す。
「いいか、相手はグドンとは言え詳しい数までは分からん。だから……」 「だったらこんな所で考え込まないで、どれだけいるのか見てくればいいじゃん」 イオシスのこの依頼が始まってからの何度目になるか分からない作戦にイラ立つように遮る、エルフの紋章術士・アルカナ。 確かに彼の言い分も分からなくは無い。 だが、彼女が思考深く無い事を除いても彼は慎重すぎる。
「いいよ、ボクが見て来るから!」
そう、アルカナが飛び出したのは遺跡に入ってからほどなく……。 イオシスの、都合数回目に及ぶ提案の後であった。
かさり。
「!」 物音に思考を中断され反射的に物音に対し身構える。
だが、それが風によって舞った葉だと理解するなり再び視線を前に戻す。
こんな喧嘩なんてしている場合ではない。 そんな事は彼にだって分かっていた。 (「戻って来たら謝るか……いや、そもそも俺は間違ってないはずだ……大体相手の戦力が分からない時点で……」) 「ただいまー!」 その思考は、今度はアルカナの……真後ろの壁の上からの一際高い声色に遮られる事となる。
「アルカナ……お前は自分のやってる事がわかっ……」 「えっと、北にこれだけいて…少し北東に行った方にこれだけいたよ」 イオシスの静かな怒気をさらりとかわしつつ、アルカナは指を立て彼に自分の見つけたグドンの数を報告する。 あっけらかんとしたアルカナの態度に彼は溜息を吐きつつも直ぐに表情を引き締め考える。 「そうか……なら……まずはこっちのグループから叩こう。ここから叩けば向こうのグループが来る前に倒せるはずだ」 「そうかな? ボクはこっちの数が多い方を先に倒して後を楽にした方がいいと思うんだけど?」 「いや、それだと挟み撃ちに合う可能性を否定できない。よし、さっきも言ったがこっちから叩こう」 一瞬不愉快そうな顔をしたアルカナだったが、イオシスの言うことの正当性を理解すると、すぐに頷き彼と共に立ち上がる。 「よし……行くぞ、アルカナ」 その足取りに、入ったばかりの時の二人の不一致さは欠片も残っていなかった。
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