牛のような頭に人型の身体――敵は二体のバルバだった。バルバの頭部からは左右三本ずつの立派な角が生えており、手には頭部の側面が尖ったハンマーが握られている。巨大な身体からくりだされる一撃は相当なダメージを生み出すだろう。 「おい、相棒。背中はまかせたぜ」 そう呟くジェットの周りに、人影はない。ジェットは背後にそびえ立つ壁に寄りかかり、その表面を軽く撫でる。次の瞬間、バルバの一撃がジェットめがけて振り下ろされた。ジェットは敵の攻撃を見事に見極め、反れた攻撃は背後の壁にめり込んだ。ジェットはその隙を突く――つもりだった。 背後の壁が崩れ落ち、バランスを崩しさえしなければ。左足が『ぼちゃん』と何かに沈み込みさえしなければ。 「えっ!?」 左足が温かい温度を感じるよりも早く、目が景色を認識するよりも早く、ジェットの耳は風を切り裂くような悲鳴を拾い上げた。 「きゃあああああーーーーーーっ!」 誰かを戦いに巻き込んでしまったかとジェットは勢いよく悲鳴の聞こえた方向を振り返る。 「げええっ!?」 ジェットの目に飛び込んできたのはバルバの姿に恐怖する女の子――ではなく、自分に怪訝な視線を向ける全裸の女の子たちだった。 「お、女湯……!?」 「チカンーーっ!」 「いや〜っ、変態〜っ。たすけて〜っ!」 「ち、ちがうっ!ほら、あれ!!」 動揺したジェットは女の子たちに必死にバルバの姿を指し示してみせる。が、湯煙のせいで女の子たちはバルバの姿に気づく様子はない。それどころか、必死に自分たちに迫ってくるようにみえるジェットに、さらなる悲鳴をあげて逃げ惑う。 「だからバル……っておまえらは来るなよなっ」 穴の空いた壁からは、バルバがジェットを追ってくるところだった。 ジェットの混乱をよそに、バルバは迷いなくジェットめがけてむかってくる。 「ちっ」 湯に足をとられながらも、ジェットは一体ずつ確実に仕留めることにする。 湯煙と岩陰にまぎれながら、敵の後ろに回りこむ。ジェットの闇をまとった剣が敵の首筋を十字に切り裂く。まずは一体。と、少し離れた場所から女の子たちの声が聞こえてくる。 「チカンよ!チカンがでたの!!」 「やだコワ〜イ。もしかして私たちの内緒話聞いてたりして?」 「わ、グラマラス」 「ちょ、ちょっと!もうっ早く着なさいよ!」 色々と気になる会話に動揺しながらも、ジェットはもう一体のバルバめがけて剣を乱れ打つ。バルバは断末魔をあげて女湯に沈んだ。 「おまえだな痴漢は!!」 一仕事終えた達成感に浸りきる間もなく、ジェットは後ろからがっしりと肩をつかまれる。振り返ると、そこに城塞騎士がいた。 「いやだから、誤解なんですっ!」 湯に沈んだバルバの死体を指差しながらジェットは必死に弁明する。 「はいはい。みんな初めはそういうんだ」 城塞騎士がバルバの死体に目を向けてくれたのは、それからしばらくたってからのことだった。
※人気投票をする場合は、投票するキャラクターでログインしてください。
|