<オープニング>
とある街で一番大きな劇場では、現在、新作の準備が行われていた。大抜擢された新人女優のケイシャは、その初々しい可憐な美貌と好対照となる豊満なスタイルで初舞台から人気急上昇。
異例のスピードで、主役の座を勝ち取ったのだ。
ただ、ケイシャは演技力が不自由であった為、大がかりな舞台装置を利用した見せ場のある演目が選ばれていた。
「うわぁ、倒れるっすー!」
舞台の背景を入れ替える作業中に、大道具係が大声をあげた。
カキワリの背景(お城のバルコニー)が、運悪くケイシャと同じく主演男優のパリットの2人に倒れ込んだのだ。
「ケイシャの顔に傷でもつけたら、俺、座長に殺されるっす!」
大道具係が慌てて駆け寄ると、パリットが埃を払いながら、カキワリから出てきた所だった。
カキワリはとても軽いので、大けがすることは無い。
あとは、ケイシャの顔に傷が付いていなければ。
大道具係とパリットは、えいっと倒れていたカキワリを持ち上げる。
「ほら、ケイシャ、早く出てくるんだ」
だが、ケイシャがそこから出てくる事は無かった。
ケイシャは胸に小道具の剣を突き立てられて死んでいたのだ。
彼女が、舞台で演技をする事は、二度と無いだろう。
この事件の容疑者は……。
(1)大道具係ダンカン
大男だけど手先が器用。器用貧乏の大道具係ダンカン(28才)。
一座の大道具係で、カキワリを倒して事件の発端を作っている。
「絶対おかしいんっす。俺、手順どうりにしたっす、絶対、倒れるはずなんてなかったっす。きっと、誰かがわざと倒したんっすよ。怪しい人影なんて見てないっすけど。絶対そうに違いないっす」
ダンカンは事件直前から死体発見まで、ずっと誰かに目撃されていたので、ケイシャを刺す事はできなかった筈だ。
しかし、大道具係ダンカンは、舞台装置全般の製作をしていたので、装置を利用したなんらかの方法があったのかもしれない。
(2)主演男優パリット
イケメンなので力が無くお金も無い主演男優パリット(23才)。
最近、借金取りに追われているらしいが、事件とは関係無いかもしれない。
「なんで、ケイシャを連れて出てこなかったって? 俺にそんな力は無いよ。わかってるだろ?」
動機は不明だが、ケイシャを刺す事ができる位置にいたので、最有力の容疑者であるのは間違い無い。
(3)年増女優レオノーラ
長年、この劇場の一座の花形であった女優レオノーラ(43才)。
少女から老女まで演じられる演技派であったが、若いだけの新人女優に主役の座を奪われてしまった。
「ケイシャを恨んでたかって? そんな事はありませんよ。若い才能が出てくるのは、一座にとって良い事ですしね。それに、劇は主役だけじゃなりたたない。演技は女優が脇を固めてこその舞台なんですよ」
にっこり笑って答えるレオノーラの言葉に嘘偽りは全く無いように思えた。
演技派女優であるので、それが真実かどうかは判らないけれど。
(4)劇団座長ダッフルトン
劇の脚本から演出、宣伝・交渉・事務仕事まで一人でこなすスーパー座長ダッフルトン(45才)。
天才女優レオノーラと共に歩んで20年、街一番の劇団の座長として、名声を得てきた。
今回の配役は劇場主からの強い要請であったらしく、酒場で酔っ払って、愚痴を言っている姿が見掛けられている。
「そりゃ、あんな素人みたいな女優を主役にしなきゃならないってのは不満だったけどね。でも、この劇団は私の子供のようなもの。いくら気に入らないからって、子供を殺す事なんて私には出来ません」
演出家の立場を利用すれば、殺人事件を演出する事は可能かもしれないが、現時点では、動機が薄いと思われる。
(5)劇場主ガネガネ
客席数120! 街一番の劇場を持つ劇場主のガネガネ(53才)。
美しいケイシャを一目見てファンになり、様々なプレゼントをして言い寄っていた。
主役が決まった後、ケイシャに求婚したらしいが見事玉砕している。
「ケイシャはバカな女だね。この俺の求婚を断るなんてね。そんな悪い娘は、事故で死んでもしょうがないね。ガネガネ」
動機はありそうだが、ガネガネが若い女優に求婚して断られるというのは既に7回目なので、殺人の動機としては少し弱いかもしれない。
さて、この事件の、驚きの真犯人は?