<オープニング>
「そっちにいったぞ、追え!」「お前はそっちに回り込め、そうすれば袋の鼠だ」
「やっと、その面を拝めるな、覆面怪盗ダブルエックス!」
捜査官達は、意気揚々と袋の鼠となった覆面怪盗をおいつめた。
おいつめたのだが。
「何故、5人もいるのだ!」
捜査官はうめいた。
ほとんど人通りの無い筈の裏通りに、偶然居合わせた5人の男女。
この中の1人が覆面怪盗ダブルエックスなのは間違い無い。
「一番怪しく無いのが、犯人……ダブルエックスに違いない!」
捜査官は、そう宣言すると、5人の男女の取り調べを始めた。
この事件の容疑者は……。
(1)物乞いの男ベゴンバン
物乞いで生計をたてている中年男のベゴンバン(39才)。
もともとは真面目な商人だったらしいが、勤め先で横領を起こして解雇され、物乞いに身を落としていた。
「あっしが怪盗? 怪盗なんてやってたら、物乞いなんてしませんぜ旦那」
ベゴンバンの言う事は尤もだが、怪しく無いのが逆に怪しい。
有力な容疑者の一人と考えて間違い無い。
(2)街角娼婦ドーネリー
昔は美人であったドーネリーさん(42才)。
濃い化粧と派手な服装で若く作っているが、お肌の張りはごまかせない。
「いつもの場所で客が取れなかったからね。新しい狩場を探そうとふらふらしてたんだよ。ここに来たのはただの偶然さ。というか、怪盗は男なんだろ? さっさと帰してくれよ。それとも、坊やが私の客になってくれるっていうのかい」
お客になる事はできないが、返す事も出来はしない。
怪盗は男だと思われていたが、誰も顔を見たことが無いのだ、もしかしたら女かもしれないでは無いか?
この女も有力な容疑者と考えて間違い無いだろう。
(3)流離いの釣り人エドフィッシャー
流離いの釣り人エドフィッシャー(32才)は、都市国家のちょっとした水路で魚釣りをする風流人。
本業は手堅い商売人のようだが、釣り人の中ではカリスマと呼ばれる名釣り師でもある。
「今日はね、このあたりで釣れそうな予感がしたのよ。わかる? こう、気配というかね。あぁ、ここで何か大物が釣れるって。あれ、もしかしたら、それが怪盗の事だったのかね。こりゃ、今年一番の大物だっちゅーの」
怪しいと思えばとても怪しいが、怪しいということは逆に怪しく無いのかもしれない。
いや、逆に怪しく無いからこそ怪しいと考える事もできる。
とりあえず、有力な容疑者の一人である。
(4)家出少女ファンファン
家出少女を名乗るボーイッシュな少女ファンファン(16才)。
「家族と喧嘩して家を出てきたんだよ! 男の子のカッコウをしているのは何故かって、そりゃ、夜の街は女の格好じゃ危険だろ? 家に連絡する……かんべんしてよ。ま、親は喧嘩したなんて事は認めないと思うけどね。外面だけは良いんだから。それが腹がたつんだけどね!」
その後、家族への不満をながながとしゃべり続けたファンファンだが、その饒舌さが、逆に怪しさをかもしだしている。
覆面怪盗ダブルエックスの活躍時期が3年前からである事を考えると、年齢的に計算があわないのが気になるが、とりあえず有力な容疑者としておこう。
(5)非番捜査官ジーダッシュ
今日は非番だった捜査官のジーダッシュ(19才)。
詰め所でいつも昼寝をしているので、あだ名は『昼寝』。
「いやだな、先輩。僕も容疑者なんですか? 非番であっても捜査官ですよ、事件が起きれば駆けつけますってば。何か気づいたことは無いかですか。そうですね、うーん。ありませんね。すいません、役に立たなくて」
仲間の捜査官を疑いたくは無いが、覆面怪盗が捜査官の情報を得る為に潜り込んでいる可能性は否定できない。
まさか、こいつが怪盗ダブルエックスなのだろうか。
さて、この事件の、驚きの真犯人は?