<オープニング>
広場の大時計が昼の12時を告げた時、時計塔の上からボールのような何かが落ちてきた。それだけならば、ただのいたずらで済んだかもしれないが、落ちてきたものが問題であった。
その落下物は、この時計塔の持ち主である資産家、スミソニアン氏の生首であったのだ。
広場は、大騒ぎとなり、すぐにやってきた捜査官によって広場は完全に封鎖されてしまった。
さっそく調査を開始した捜査官は、時計塔の文字盤にある清掃用の小窓から頭を出した状態で縛られたスミソニアン氏の胴体を発見する事となった。
スミソニアン氏は、丁度、12時の時を告げる時に、時計の針に首を切断されてしまったのだ。
その後、捜査官の懸命な捜査によって容疑者は5人に絞られた。
容疑者達は、捜査官の、
「この時計塔の鍵をもっているのは誰ですか?」
「スミソニアン氏を最後に見たのはいつですか?」
「昨日の夜の12時から昼の12時までの間、あなたは何をしていましたか?」
という3つの問いに、以下のように答えたらしい。
この事件の容疑者は……。
(1)煙突掃除夫ロミーオ
貧困街の住人で煙突掃除夫をしていたロミーオ(12才)。
スミソニアン氏に雇われて、時計塔の清掃も行っていた。
「スミソニアンさんと、管理人のゴールンさんは持ってました。他は知りません。僕は、ゴールンさんに鍵を借りて入ったんです」
「1週間くらい前かな、遠くからちらっと見ました。僕達みたいな下働きは、ご主人と顔を合わせる事なんて無いですから」
「路地でゴミ漁りをして働いてました。証明できる人は……いませんね」
果たして、彼は犯人なのだろうか。
(2)時計塔の管理人ゴールン
代々時計塔を管理してきた一族の青年ゴールン(18才)。
若さ故かスミソニアン氏からは信頼されていなかったが、腕は確かのようだ。
「私の一族が管理するマスターキーと、私が普段使っている鍵、他にはスミソニアン氏と奥様が1本づつ持っています」
「昨日は、昼食の時間の少し前に、広場を散歩しているスミソニアン氏に会いましたよ」
「家で仕事をしていました。証明する者ですか? 家の者ならいましたが、身内の証言じゃダメなんですよね。なら、いません」
果たして、彼は犯人なのだろうか。
(3)スミソニアン夫人ナルターシャ
財産狙いでスミソニアン氏に嫁いだと噂される美女ナルターシャ(18才)。
スミソニアン氏とは27才離れている年の差婚である。
「夫の他に、誰が鍵を持っていたかは存じません。わたくしですか? 夫からもらった鍵があったのですが、あいにく、すぐに紛失してしまいました。
宝石がついているならまだしも、あんな小汚い鍵では、失くしても仕方ないですわよね」
「昨日の朝、館で挨拶をかわしましたわ」
「昨日はバーミン夫人達と観劇に行きましたの。劇が始まったのは夕方からですけれど、昼前から準備に追われてましたわね。その後は夜会に参加して帰って来たのは朝になってからですわ」
果たして、彼女が犯人なのだろうか。
(4)商会副頭取キュイダモン
スミソニアン商会の副頭取であったキュイダモン(42才)。
決して善良では無いスミソニアン商会の暗部を仕切っていたと言われ、裏社会との関係性も指摘されている。
表向きは温和な紳士にみえるところが、逆に凄みがある。
「スミソニアン氏と時計塔の管理人ですね。奥様は鍵を紛失されたと聞いております」
「昨日は、午前10時頃に取引所でお会いしました」
「なんだかんだで夜の8時頃まで仕事をして帰宅しました。帰宅後は、外出していません」
果たして、彼が犯人なのだろうか。
(5)復讐者ベリンジャー
元ベリンジャー商会の三代目会長ベリンジャー(20才)。
ベリンジャー商会とスミソニアン氏のスミソニアン商会とは祖父の代からの付き合いがあり、祖父と父を相次いで失ったベリンジャーは、若年である事から、スミソニアン氏の助言に従って商会を運営していた。
しかし、気づいたときにはベリンジャー商会の資産が全てスミソニアン商会のものになっており、ベリンジャーは無一文で放り出されてしまったらしい。
彼は、事件直後、スミソニアン氏の館のあたりを刃物をもってうろついていたことろを発見されたらしい。
「知らないね!」
「会ってないね!」
「お前らのしったことじゃないね!」
もし彼が犯人なら、わざわざ、刃物をもって館をうろついた理由がわからないが、容疑者からはずす理由は特に無さそうだ。
さて、この事件の、驚きの真犯人は?