■リヴァイアサン大祭『結婚式ごっこ』
雪降るリヴァイアサン大祭の日の事である。幼馴染のシャーネとマキュアは、なにをするとでもなく夜の散歩をしていた。きっかけは、シャーネの誘いからだった。「ちょっと冷えるな」
「うん……」
「足元、大丈夫か?」
「うん、平気」
なんとなくお互いに緊張して、会話が続かない。微妙な緊張感の中、さくさくと道を踏みしめる音だけが耳に響く。しばらくそうしていると、月明かりに照らされて何か見えてきた。それは、森の脇に佇む小さな教会だった。
「休んでいくか?」
「そうだね、ちょっと冷えるし」
そして二人は、教会の中へ。古びた様子の建物の中は、まだ利用されているらしく、きちんと掃除もされているらしい。鮮やかなステンドグラスの光が、月明かりを受けて教会の中を照らしていた。
「わぁ……」
マキュアは目をぱちぱちとしばたたかせて、奥へと向かう。その後ろをついていくシャーネは、ぐるりと中を見回していた。
「結婚式だったのかなぁ」
よく目を凝らしてみれば、何枚かの花びらが床に落ちていた。ふわりと、自分の未来の姿を夢想するマキュア。
「綺麗なウェディングドレスを着て、友達と仲間と家族と皆に祝福されてね。それでヴァージンロードを歩いて、それで愛する人の隣に立って……」
気が付けば、うっとりしながら、シャーネに対して熱弁をふるっていた。いつもと変わらぬ様子のシャーネだが、何かを決意し、真面目な顔で壇上のマキュアを見上げる。
「結婚式、しないか?」
あまりにも、幼馴染の彼女が楽しそうな、嬉しそうな顔をしているから。ぽろりとそんな提案を出してしまう。一瞬、言われた事が理解できずに呆けてしまうマキュア。次に襲ってきたのは混乱だった。
「な、何言ってんですか! 私たちはまだ子供で……」
顔を真っ赤にしたマキュアに対して、シャーネの表情はあくまでも真剣だった。
「じゃあ、結婚式ごっこでもいい」
不意に、視線の端に何か白いものを見つける。それはステンドグラスの明かりに照らされた、ウェディング用のヴェール。一歩踏み出し、マキュアの隣に立つと、飾ってある場所まで手が届いた。
「あうう……」
そのまま、手に取った純白のヴェールを、真っ赤になってうつむいてしまったマキュアにかぶせる。そのままヴェールごと彼女の腕をとり……少しだけ強引に、彼女の唇に自分の唇を重ねた。一瞬たじろいたマキュアも、すぐにおとなしくなる。ほんの一瞬、わずかに触れるだけの口付け。それでも、マキュアの心は温まっていく。目を閉じて、二人はしばらくそのままの格好で……。
気が付けば、シャーネのほうから顔を離していた。ゆるやかにまぶたを上げたマキュアの瞳に写るのは、真っ赤になった彼の顔。
「今は結婚式ごっこ……だけど、本当の結婚式を、ここでやるんだからな」
シャーネははっきりとマキュアに告白する。彼女は、ただ黙って微笑んだ。月明かりに照らされながら。