■リヴァイアサン大祭『待ち合わせ』
星霊リヴァイアサンが空を自由に駆ける夜。雪が優しく舞い落ちる中、大きな木の前に少女が一人、人待ち顔で立っている。
そして、そこへ急ぐ少年が一人。次第に近付く足音を聞き、少女は待ち人の到着を知る。
少年もまた、自分を待つ少女を見つけて明るい笑顔を浮かべた。彼は少女に手を振るように腕を上げ――直後、彼女めがけて雪玉を投げつける。
「――っ!?」
少女――フレスティアナは、完全に不意を打たれて顔面に雪玉を食らってしまった。驚きと痛みで呆然とする彼女に向けて、雪玉を投げた少年――ジャックが小馬鹿にしたように笑う。
「あははは! だっせぇ!」
「あ、あんたねぇ……!」
頭に血が上ったフレスティアナが雪玉を投げ返すが、ジャックはいとも簡単にそれを避けてしまう。
「そんな玉、当たるかよバーカ」
「うう……なんかむかつく……!」
追い討ちのように舌を出すジャックに、完全に怒ったフレスティアナ。売られた喧嘩は買うとばかり、雪を集めて雪玉を作り始める。
通常より二回りほど大きく仕上がったそれを、両腕で重そうに抱えて。
「このっ……当たれ!」
全身の力で雪玉をジャックに投げようとして――足を滑らせた。
雪玉が地に落ちて潰れるのと同時に、転びかけたフレスティアナをジャックがすんでのところで受け止める。
「お前、本当アホだな」
「うるさい! そもそもあんたが……っ」
呆れたような口調のジャックに、フレスティアナが反論しようと口を開く。が、見上げたジャックの顔が、自分からほんの数センチの距離にあるのに気付いて、言葉に詰まってしまった。
ほんのりと頬を赤らめた彼女を見て、ジャックも思わず赤面する。
次の瞬間、彼はフレスティアナから顔を背け、思いきり鼻で笑った。
「はっ! アホ面」
いつもからかいの対象にしているフレスティアナを思わぬところで意識してしまい、そんな自分自身を誤魔化すように、殊更に見下した態度を取る。
フレスティアナが体勢を立て直したのを確認してから、ジャックは彼女から手を離した。
「……もう行くぞ」
突き放したように言い、一人でとっとと歩き出してしまう。
まだ頬が熱い気がするのは、さっき体を動かしたからだ。そうに決まってる――。
「ちょっと……待ちなさいよ!」
慌てて後を追うフレスティアナには、前を行く彼の赤い顔は見えなかった。