■リヴァイアサン大祭『あたたかさはそこにあるから』
吐く息が白い。それもそのはず。目の前に広がる視界は一面の銀世界。
そんな銀世界の真ん中を、ネフェルティティは嬉しそうに走り回っていた。
「ジャンゴくん、すごいですよ! 真っ白です! ステキです!」
全てが真っ白に染まった世界が余程嬉しいのか、ネフィルは顔を崩して微笑みながら、走り続ける。
銀世界にあるのはネフィルの足跡だけ。
彼女が進むたびに新しい足跡が一つ一つとできていく。
ジャンゴは、目を細めて後ろからその光景を見ていた。
「おい、あんまり走るとこけ……るよな、やっぱりな」
ドサッ。
ジャンゴが言うが早いか、ネフィルは雪に足を取られ、見事に顔から雪にめり込んでいる。
その様子を見て、思わず苦笑するジャンゴ。だが、その苦笑はどことなくただの苦笑とは違う感情――嬉しさを含んでいるような笑みだった。
「えへへ、ちょっとテンションあがっちゃいました!」
がばっと雪から上半身を起こすと、ネフィルは雪まみれになったまま振り返って、ジャンゴに微笑みかける。
それに応えるようにジャンゴもその苦笑を緩め、笑顔を浮かべるとネフィルのそばへと歩いていった。
二人で銀世界の真ん中で座りながら空を見上げる。
ランタンの明かりがほのかに反射して、銀世界は先とは違う幻想的な姿を二人に見せていた。
「ちょっと寒いですねぇ」
ほぅっと白い息を吐くネフィル。その白い息は直ぐにほどけて空へ消えていく。
「ホラ、身体冷えちまうぞ」
それを見たジャンゴは手を差し伸べ、ネフィルを自分の方へと引っ張った。
「え?」
驚いたのもつかの間、あっという間にネフィルはジャンゴの膝の上に乗せられていた。さらに、ジャンゴはマフラーをネフィルにも一緒に巻いて身体を寄せる。
「わわ?!」
あまりに突然のことに、ネフィルはただただ驚くことしかできなかった。けれども、ジャンゴの心遣いが凄く嬉しい。
「……まあ、たまにはこういうのも、良いだろう? 駄目か?」
「はい、温かいです。えへへ」
「そりゃ良かった」
頬を赤くしながら微笑むネフィルに、少し照れくさそうなジャンゴ。
お互いがお互いの体温や鼓動を感じながら、寒さの中で温まる。
「すてきなリヴァ祭りです。ずっと続くといいのに、ですよ」
ポツリと呟くネフィル。しかし、ジャンゴは何も答えない。
しばしの沈黙。
それを破ったのはジャンゴ。
「ずっと続いちまったら、楽しみじゃなくなっちまうだろ? 来年はもっと良い日になると良いな、って笑えるから良いんだよこういうのは」
――俺は、お前が隣に居れば毎日が良い日になるけどな。
そう思いながら、ジャンゴはネフィルを抱きしめ直す。
「あは、それもそうですね」
それに応えるように、ネフィルも軽く笑ってジャンゴに身を寄せる。
二人の夜は、銀世界の中、静かに、そして、ほんのり暖かく時間を刻んでいった。