■リヴァイアサン大祭『寒い日にはココア♪』
エルフヘイムの空を半実体化した星霊リヴァイアサンが翔け、辺りには雪が降り積もる。そんな、リヴァイアサン大祭の日、カイジは一面の雪野原にいた。
「「「できたーーーっ!」」」
わあっと子供たちの歓声が上がる。目の前には、みんなで力を合わせて作り上げた、大きな大きな雪だるま。彼らを手伝っていたカイジも、兜の中で目尻を下げる。
「でも、ちょっと物足りないような……?」
「帽子つけようよ、帽子!」
「ならマフラーもいいんじゃない?」
「じゃあ、ニンジンも持ってきて鼻にしようよ〜」
喜んだ子供たちは元気いっぱいな様子で相談しあうと、くるりとカイジを振り返った。
「お兄ちゃん、取ってくるからここで待っててくれる?」
「ん? いいけど」
カイジの返事に、わあっと声を上げて走り出す子供たち。その背中を「やれやれ、元気だなあ」と微笑ましく思いながらカイジは見送る。
と、その時だった。
「順調そうだね」
すっと差し出されたのは、湯気をあげて甘い香りを漂わせているマグカップ。カイジが驚いて振り返れば、そこには「やあ」と笑うダリアがいた。
「ダリア殿!?」
「ははは。そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
甲冑越しでも全身で驚いている様子が伝わったのだろう。ダリアはカイジを眺めながら屈託なく笑っている。
「いや、そ、そんなつもりは」
対するカイジは驚きと照れから動揺を隠せない。挙動不審なギクシャクとした動きをしつつ、首をぶんぶん振りながら言い訳をするカイジだが、もはやその言い訳の内容すら怪しい有様だ。兜の下の表情なんて、これ以上ないくらいにすっかり真っ赤なのだが、それは幸いにも兜で隠れて誤魔化せている……と思う。多分。
「わかったわかった。ほら、早く飲まないとココアが冷めるぞ?」
そこまで、とやんわり制するようにカップを更に出してくるダリア。カイジは「あ」と呟くと、それに手を伸ばす。
「どうも、ありがとうございます。ダリア殿」
「いえいえ」
そうしてカイジとダリアは並んで、二人一緒にココアをすする。いつの間にか冷たくなっていた体に、広がっていく温かさと甘さ。それはじんわりと、全身に広がっていくような気がする。
(「……ありがとうございます、ダリア殿」)
カイジは胸の中でもう一度つぶやくと、ココアをもう一口すする。
「……おや、戻ってきたみたいだな」
やがて遠くから聞こえてくる賑やかな声。何かを抱えて走ってくるのは子供たちだ。もう戻ってくるだなんて、本当に元気だと、カイジとダリアは顔を見合わせる。
「あの子たちには内緒だよ。ずるいって言われちゃうからね」
しっと指を立てつつ空になったカップを回収して、ダリアはそれを彼らから見えないように隠してしまう。
「お兄ちゃん、もってきたよー!」
「続き続きー!」
「ああ」
頷いて、カイジは駆け寄ってきた彼らの輪に入る。
ほかほかの温かさを胸に抱きながら。